「はぁ…それを、私にやれと?」 「そうだ。」 「今研究で忙しい、この私にわざわざ現場まで出向けと?」 「そうだ。夭下が言っていた。」 大事な研究中だと言うのに、筆頭のパートナーであるウォーグレイモンが邪魔をしにきた。 「はぁ…じゃあゴーレモンを錬成するからさっさとどっかに行って…」 「ありがとう。夭下も喜ぶ。」 ───────── 「さて…ここが例の座標ね…」 オノゴロ島北部、港湾地区の一角に存在する廃倉庫…ここが偽装された反FE団体のアジトらしい。 なんでも件の団体はオノゴロ島を管轄とする警察の中でも、FE社に対し反感を持つ一派が中心となって形成されたもののようだ。 「さて…どうしてやろうかしらね…」 見たところ、外に警備の男が二人いる。まずはそこからね。 私はゴーレモンの背から降りた。 ───────── 「すみません、ここは関係者以外立ち入り禁止なんです。」 倉庫に近づいていくと、思惑通り二人は近づいてくる。 「関係者っていうのは、私たちに楯突く奴らのかな?」 「お前まさ────── 何か動かれる前に、私は二人の体を一瞬のうちに白骨化させた。 エントモンとリリスモンの能力だ。研究の一環で肉体にデジモンを取り込んでおいてよかったわ。 「囲え。逃げた者は皆殺しにしなさい。」 周りを見張るものがいなくなった倉庫をゴーレモンに包囲させ、私はドアを蹴破った。 「鍵が開いていたから勝手に入ってしまったのだけど…良かったかしら?」 「敵だ!」 「撃て!!!」 わたしの姿を見るなり、銃弾の雨あられ。 日本で銃を持ってるなんて、さすが警察が一枚噛んでるだけあるわね。 「熱烈な歓迎ありがとう。ツノをしまっておくのは窮屈なのよ…これでやっと正体を見せられるわね」 私の体に弾丸は通じないけれど、銃撃でいつもの格好の上に羽織っていた白衣がボロボロになってしまった。着心地よくて気に入っていたのだけれど。 ともあれ私は杖を打ちつけ、彼らの使う銃器を手錠へと再錬成した。 「さて…みんな大人しく降伏してくれるかしら?」 「冗談じゃない!逃げるぞ!」 誰かの一言で、皆は散り散りに逃げ始めた。 最初に建物から出ようとした一人が、私のゴーレモンに握りつぶされる。 「クソ…逃げても無駄なら…やってやる!ジオグレイモン!リアライズ!」 「私も…リロード!グレイモンX!」 オレンジの体に青いシマの入ったグレイモンと、青い体に赤いシマの入ったグレイモンが現れる。 「あら…テイマーもいたのね。」 「喰らえ!「メガバースト!!!」」 二体の力が合わさった、巨大な火の玉が私に向け放たれた。 私はそれを跳躍して避け、青いグレイモンの背中に取り付いた。 「万物は我の僕なり、電脳核もまた、かくありき。」 杖を突き刺してデジコアにコンタクトし、情報を直接書き換え錬成する。 「グレイモン…なの?何…その姿…どうして…わたしの言うこと聞いてよ!」 「もうそれはわたしの傀儡、ゴーレモンだ。」 「そのグレイモンはわたしのパートナーなのに…どうしてあなたが進化させられたの!」 「デジモンという存在はいい加減だ。進化と退化を繰り返せばどのような姿にもなる。錬金術でその過程をスキップしたのよ。さ、やりなさい。」 私の指令で傀儡はテイマーの女とジオグレイモンをまとめて叩き潰した。 「あーあ、勿体ない。おとなしくしていてくれれば、無駄に命を消さずに研究に使えたのに。」 私は腰が抜けている男の方へと近付く。 「た…助けてくれ…!俺には家族が…妻と息子がいるんだ…!」 「……私にはいないわ。家族なんて。」 「み…見逃────── 私は男を土くれに変えた。 「勿体ない。本当に。」 ───────── 人間の処分が終わり、回収した資料類やデータはまとめて部下に丸投げしておいた。 建物の外に出てみると、登り始めた朝日が妙に目に突き刺さるような気がした。 「ほら、みんな撤収よ。」 赤く染まった岩石の体を廃棄し、ゴーレモン達からデジコアだけを回収する。 「じゃあ、後始末は頼んだわよ。」 私は手配しておいた迎えの車に乗り込み、研究室へ帰った。