埋蔵金イベントの場をお借りしてうちのこの話を進めました。 埋蔵金まったく絡んでなくてごめんなさぁぁぁい!!! うちのこ fu3914961.png fu3914963.png お借りしたよそのこ fu3914966.jpg fu3914969.png 盆の終わり、夏の暮れ。元の世界に帰るための唯一のヒントである鯨を探すため水泳技能を高めに、(それに加えて恋人になったというのに旅に付き合わせてしまってる一華ちゃんと少しでも恋人らしいことをするため、)訪れたマリンパークエーギルでの楽しいひと時ももうそろそろ終わろうとしていた。 「楽しかったね、拝くん!」 「そうだね。黒白兄ちゃんから泳ぎを教わったおかげで今まで以上に泳げるようになったし、一華ちゃんともゆっくり過ごせたし、来てよかったな」 「も~、拝くんったら~! そんなふうに口説いてもマイクロビキニしか出せないよ~?」 「それはいったんしまおうね!何かしらの法律に反してるからね!?」 「イチカっちったらプールから帰るときも楽しそうねぇ」 「……♪」 いつでも無口なライラモンとの二人旅のころと違って、一華ちゃんとゴースモンが一緒にいる今はいつでも賑やかだ。デジタルワールドに来る前はいつもこんな感じだったから、なんだか懐かしい気もする。ライラモンも楽しんでるようだし、肝心の手がかりとなる鯨が見つからないことを除けば旅としては順調だった。 一華ちゃんと一緒に旅するようになる前から鯨の情報自体はいろんな人からの厚意で教えて貰ってたけど、そのどれもが空振りに終わってしまった。来たばかりの頃に護衛しながら一緒に探してくれた幸子姉ちゃん、情報が集まる場所と休む所を教えてくれたゲンキさん、元気に空から探しにいってくれた希理江ちゃん、自分のこともあるはずなのに喜んで請け負ってくれたフリオくん、依頼を取り下げている今でもしばしば情報を送ってくれるカナタ姉ちゃん。本当にいろんな人が探してくれていて、どれだけ感謝してもし足りない。それでもまだ帰還の手がかりがつかめていないし、一華ちゃんからの発破もある。人任せにせず自分の力で鯨を探すための一歩が、黒白兄ちゃんの水泳教室だったのだ ……もしかしたら、一華ちゃんにお願いすればすぐに情報集めてきてくれる可能性はあるけど、それはちょっと男として恥ずかしいというか、ちょっとした見栄もあるので、最終手段にとっておくことにする。俺はあくまで一華ちゃんのまっすぐな想いに応えたいから告白を受けたのであって、彼女のトンデモ能力を当てにして打算で付き合ったわけではないのである。むしろできれば俺の前では不思議な力のない普通の女の子として振る舞ってほしいと思ってはいる。……けど、それが本当に一華ちゃんの望む自然体なのかはわからないので伝えてはいない。というか、一華ちゃんについては規格外過ぎて本当に何もわからない。一般的な小学生の範囲でしか物を知らないので、”特別”な生まれな子に対して自分の常識で推し量っていいのか判断ができないのである。この先もずっと恋人として寄り添うのなら、ここら辺のすり合わせもいつかやっていかないといけないんだろうな。 「……ん?」 そうやって4人で歩いているとき、ふとどこからかにぎやかな音が聞こえてきた気がした。きょろきょろとあたりを見渡してみると、どこかにつながっていそうな小道が目に入る。……見るからに怪しい。行きにはなかった気がする。なんだろう、この胸の高鳴りは。こう、男の子の衝動がうずくというか、そこにあるのが悪いというか、不思議な冒険が始まる予感がするというか……。 「……一華ちゃん、ごめん。ちょっと寄り道してもいいかな……?」 「え?……あ~、拝くんも男の子だもんね……うん、いいよ。一緒に行こう?」 「ありがとう、一華ちゃん!そんなに時間はかけないようにするから!」 「オガムっちもなんだかんだそういうところあるのねぇ。なんだか安心したわさ」 「……~」 なんとでも言ってほしい。男には意味深な小道があるとその先に行ってみたくなるという習性があるんだ。これは仕方がないことなんだ。だからその微笑まし気な顔はやめてほしい。特にライラモン!拝は仕方がないなあって顔したら俺はわかるんだからな! ──── 以前、学校の授業で炭鉱街の画像を見せられたことがあった。昔の日本にはこういう風景があったんだなぁと思いを馳せてもいた。 まさか、この目で見ることがあるとは思ってもみなかった。 「ここは…?」 「採掘場…ぽいね。…あ、もしかして!」 一華ちゃんが慌ただしくスマホをいじる。そういえばそんなものもあったなぁ……しばらく前に電源がつかなくなってから鞄の中にしまいっぱなしだ。デジタルワールドに来た時点でずっと圏外だったから、あってもなくても大して変わらなかったんだよね。……そういえばなんで一華ちゃんスマホ使えてるんだ? 「あったよ、拝くん!これ!」 「ええーっと……埋蔵金……?」 幕府……デジモン……古代の遺跡……。 書いてあることはよくわからないけど、わかったことが一つある。これ、アトラーカブテリモンの森と同じタイプの場所だ。多分埋まってるのは、マイクロビキニとかだ。証拠はないけど確信だけはある。 「……帰ろっか」 「うん、そうだね」 「骨折り損のくたびれもうけってやつねー」 「……;」 いつも陽気なライラモンまで微妙な表情してる……。まあうさん臭いもんね……多分俺も今同じ顔してると思う。 来た道を引き返して今度こそ旅に戻ろうとした矢先、聞きなじみのある声が聞こえた気がした。 「あれ、やっぱり拝くんだ。君もこっちに来てたんだね」 「ゲンキさん?どうしてここに?」 「埋蔵金の採掘を本気でやろうと思ったら結構な日数がかかるだろう?それならお風呂とか寝るところとか、そういう生活の基盤になるところが必要だと思ってね」 ほら、あそこ、といつもゲンキさんが持っている杖で指示した先には、このために建てられたとは思えないほどしっかりした建物があった。建築技術もすごいんだなぁデジタルワールド。 「ところで、ここにいるってことは埋蔵金に興味があってきたんだろうけど、泊っていくかい?それとも疲れて帰ってきた人のマッサージとかしてみる?」 「えーっと、プールの帰り道になんだか賑やかな場所があるなぁと思ってきただけで実はそんなに長居する予定ないんですよね。だから、せっかく誘ってもらって申し訳ないんですけど、今日のところは帰ります」 「おや、そうなのかい?それなら仕方がないね。また今度顔を見せてくれるといいな」 ゲンキさんは相変わらずいい人だ。デジタルワールドに迷い込んだ子供たちを無償で宿に泊めさせているあたりからもよくわかる。かくいう俺も何度か利用させてもらっているし、臨時でバイトをしたこともある。泊まっていたテイマーやデジモンたちはみんな笑顔だったのをよく覚えている。 「ああ、そうだ。この辺りには出店もあるから、帰る前に覗いて行ってもいいんじゃないかな?唐揚げ屋さんとか、ちょっと値は張るけど美味しさも滋養強壮効果も保障するよ」 それじゃあね!とゲンキさんは手を振って宿の方へと歩いていった。せっかくゲンキさんがおすすめしてくれたわけだし、出店でなんか買ってもいいかもしれない。腹が減っては戦は出来ぬとも言うしね。 「待たせてごめんね、一華ちゃん。ゲンキさんが言ってたんだけど、ここは出店とかもあるみたいなんだ。もしよかったら、食べていかない?」 「……あ、うん、いいよ!何があるかな~」 「……一華ちゃん?」 なんか、ちょっと反応が遅れてたような……?もしかしたら何か考え事してたのかもしれない。一華ちゃんは俺よりも頭がいいしいろんなことを知ってるから、もしかしたらこの光景から思うことがいっぱいあるんだろうな。 まさか一華ちゃんがFE社の人員が多数いることに気づきつぶさに観察・警戒しているとは露知らず、俺はのんきにそんなことを考えていたのだった。 ──── 「ツルハシ、ビール、プラグイン、ハンバーガーにクレープ、かき氷、麦茶も売ってるのねぇ」 「結構いろんなものが売ってるね。ハンバーガーとクレープはちょっと不思議だけど」 「で、最後がゲンキさんが言ってた唐揚げか。唐揚げっていうんだから鳥だよ、ね……」 ゲンキさんが言っていたように採掘場の横には出店が立ち並んでいた。発掘道具や食べ物など、いろんなものが立ち並んでいる。こうしてみていると目移りしてしまうなぁ、と思っていた矢先、最後の出店にその文字はあった。 "鯨の唐揚げ" 竜田揚げではなく?と思わなくもなかったが問題はそこじゃない。鯨。そう鯨である。まさしく、俺が探している鯨という文字がでかでかと書かれているのだ。というか、出店の後ろ、あの黒い建物だと思ってたやつ。あれ、鯨だ。たしか名前はホエーモンだってカナタ姉ちゃんに教えてもらった。しかも、おそらくテイマーだと思われる店員の男性の人、この人もどこかで見たことがある気がする。いや、どこかじゃない。こっちの世界に来る直前、トイレの前にあった屋台。その店員さんがまさしくこの人だった……と思う。だめだ、数か月も前のことだとちょっと自信がなくなってきた。 でも間違いなく、明らかに怪しい。オノゴロ市にもデジタルワールドにもいて、俺が向こうの世界からデジタルワールドに落ちた場所であるトイレの前で営業していて、何より鯨。少なくとも、真偽を確かめる必要はあると思う。 「……一華ちゃん、ごめん、あそこの出店でいい?」 「うん。……気を付けてね、拝くん」 「困ったらすぐにアチシたちのことを呼ぶのよー!」 「……👍」 これも、みんなにはバレるか。それでも一人で行かせてくれるのはありがたい。これは、あくまで俺がデジタルワールドに来る前の因縁だから。 ──── 8月某日。デジタルワールドは採掘場前。姓は根緒、名は仙。長らく営業した出店も今日で店じまいだ。 売れ行きは好調。評判も上々。厄介な客も来なかった。これならリアルで売り出しても問題ないだろう。 今日揚げた分はいま並んでる2パックで最後。同時に、これがこの場で売る最後の鯨の唐揚げになる。 「おじさん、唐揚げ1パックください」 「あいよ、1200bitね」 そんなことを考えていれば青い帽子を被った赤髪の少年が買いに来た。後ろにいるのは連れだろうか。同じ帽子を被った白髪の少女に完全体のライラモンと成長期のゴースモン……白個体なんていたか?別にオレはデジモンが専門というわけじゃないからそこらへんはわからん。まあ、同年代のテイマー同士仲良く遊びに来たんだろう。 bitを受け取りパックを渡す。店員としてはすぐに終わる作業で、客もわざわざ店頭にとどまる理由はないからさっさと離れるもんなんだが……なんでか知らんが少年は動きやしない。まあ後ろに客はいないからいいんだが、じーっとこっちを見てくるのが気になる。どうなってるんだ? 「嬢ちゃん、もう商品は渡しただろう。さっさと行きな。連れ待たせてるんだろ」 「俺、男だよ」 「見りゃわかる」 研究資金稼ぎに出店を何回か出してわかったことは、とりあえず客には嬢ちゃんと言っておけば大体のやつが文句を言わずに去ってくれることだ。お客様だのお兄さんだのお姉さんだの使い分けるよりは、こっちのほうがよっぽどスマートだとオレは思う。 「おじさん」 「……なんだ、坊主」 とはいえもう商品の売買契約は済んでるんだ。そのうえでまだここにいるというのであればそれは客じゃない何かだ。クレーマーなのか、それともオレ個人に用があるのかは知らんがね。 「オノゴロ市でも、鯨の竜田揚げ出してたよね」 「ほう……?」 ふむ……なるほど、オノゴロ市、ひいてはFE社絡みでデジタルワールドに来たやつか。FE社には黒い噂はあるし、なんならオレもその当事者側ではあるが、まあ勤め先の印象をわざわざ悪くいう意味はない。しらばっくれよう。 「人違いじゃないか?確かに鯨料理は珍しい出店ではあるがほかにもあるだろう」 「ううん、確かにトイレの前で出店を開いていたよ。間違いない」 凄い自信だ。そして実際のところ当たっている。そこは確かにオレがオノゴロ市で出店を構えてるスペースだ。なかなか記憶力に優れているじゃないか、少年。 しかし、だからといってわざわざ俺に声をかける理由がわからない。FE社の闇を暴くとかそういうのか?こんな子供が?どっちかというともっと即物的な……。 「おじさん。どうやったら俺はもとの世界に帰れる?」 ……まあ、こうなるか。 わけのわからない事態に陥ったとき、その時もっとも近くにいた人に原因を求める。別に、おかしな話ではない。ただ、巻き込まれた側は面倒なだけだ。反論しなければみるみるうちに悪者にされたりするしな。 「知らん。そもそも俺はお前のことを知らないしな。悪いが他を当たってくれ」 「そっか……」 ……思ったより物分かりがいいガキだな。どことなく不気味ですらある。まだなんか隠してることがあるのか、はたまた人の言ってることを信じやすいのか……。まあ、今回に限っては一切嘘は言ってないんだがな。 「……じゃあ、そっちのホエーモンなら知ってる?」 「……いや、流石にオレが知らないことは知らないんじゃないか?」 『──また君か……』 「知ってるのか!?」 なんで知ってるんだこの成熟期。どこから情報仕入れてるんだ。テイマーのオレが知らないうちに何をしてるんだ。いやまあ口から物吐き出す時点でまともな成熟期ではないとは思ってたが本当になんなんだこいつ 『帰還の時はまだ先……赤の鍵と緑の鍵は揃えど青の鍵が未だ揃わず……』 「青の鍵……?それってどういう」 『次また相まみえるころ、帰還への扉は開かれる……さらばだ少年……根緒、自動操縦を……』 「……ッチ、まだパックが余ってるってのに…………じゃあな、坊主。精々、素敵な一日を。そのパックはおまけしてやる。後ろの嬢ちゃんと一緒に食いな」 利益的には損だが誰にも食われずにおいてかれるよりはまだましだ。せっかく作った料理だ誰にも食べられないのはもったいなさすぎるだろうよ。しかし、本当に自分勝手だなこの成熟期! 簡易的なレジスターだけ抱えて懐に忍ばせたオートパイロットを起動する。アリアドネの糸は旅するものにとっては必需品だ。まあ、この世界の世界樹は名前だけのシステムなんだが。 一瞬で光に包まれ、やがて視界が晴れると、見慣れた天沼矛の正面玄関に戻ってくる。後ろを見ればちゃんとホエーモンもついてきていた。一応パートナーとして契約はしているもののあんまりこいつとパートナーという実感がない。というかついさっきオレが知らない情報を平然と持ってやがったからな。どうなってるんだこいつ。 「……望み通りいろいろおきっぱでオートパイロットしてやったぞ。詳しい説明は聞かせてくれるんだろうな、ホエーモン」 『ああ……』 はっきりしてるんだかしてないんだかわからないぼやけた返事で、一応ホエーモンは頷いた。 ──── 「ええ……」 出店の後ろにいた鯨──ホエーモンに話を振った瞬間、怒涛の勢いで話が進んでそのまま消えてしまった。正直上手く話が呑み込めていない。 とりあえず、俺がデジタルワールドに来たのにはあのホエーモンが絡んでいて、帰還のためには赤と緑と青の鍵が必要で、赤の鍵と緑の鍵は揃ってるけど青の鍵が揃ってなくて、んでもって次にまた会う頃には帰還できるようになっていて……? 「……これ、俺やれることなくない?」 「拝くん大丈夫!?なんかオートパイロットの反応してたけど!?」 「うん、俺は大丈夫。それより、いろいろあって鯨の唐揚げ2パックもらえたんだ。食べながらさっきわかったことを話したいな」 「鯨の唐揚げなんて珍しいわ!早く食べさせて!」 「……♪」 ちょっとした寄り道のつもりだったけど、図らずも元の世界に戻るための手掛かりに大きく前進した。多分、これも一種の急がば回れってやつなんだろうか。……なんか違う気もする。 あのホエーモンのいうことを信じる限り、現状相手待ちなんだと思う。青の鍵は揃っていないとは言いつつも、こっちに探せとは言ってなかったし。それなのに次に会うときには帰還できるようになってると断言するなら、それはもうホエーモン側の準備が整ってないとしか思えない。もしかしたら全部が嘘っぱちなのかもしれないけど、信じられそうな情報がこれしかないから信じざるを得ない。相手の準備がどういうものなのか定かではない以上、こっちにできることは待つことだけだ。 ちなみに、早く俺をリアルワールドに返してあげたい一華ちゃんは膨れてる。今のところ相手も俺を帰還させることに前向きではあるから、あまり刺激しないでほしいとはお願いしてある。ホエーモンとそのテイマー──ネオさん、だったか──には、ぜひとも一華ちゃんの堪忍袋が切れる前に事態を前進させてもらいたい。 まさかここにきて待ちの一手になるとは全く思っておらず、つい息が漏れる。父ちゃん、母ちゃん、まだ見ぬ俺の弟、もう少しだけ待っててね。無事に帰ってみせるから。そんな無言の決意とともに、残された鯨の唐揚げを一つ口に放り込む。 「……あ、美味い」 初めて食べる鯨の唐揚げは、ゲンキさんが褒めるだけのことはある美味しさだった。