※太線(━━━━━━━━━)は語り手の変わる場面転換、細線(─────────)は語り手の変わらない場面転換を表しています。 「私があなたを作った。あなたはホムンクルスなのよ、ほむら。」 鏡花が語っていた。 「私が…ただの人間じゃないこと…なんとなくわかってた。鏡華さんが…私に何か関係があるのも…なんとなくわかってた。でも…ホムンクルスだったとしても…あなたは私のお母さ「私は殺人者よ!私があなたを錬成するのに殺したあの二人があなたの両親!私は!私は…貴方の母親じゃない…」 やめろ鏡花…!君はほむらのことを愛しているはずだ…! 「そう…ですか…」 「私が憎いでしょう。どちらにせよ…もう戦うことは避けられないの。」 鏡花は杖を打ち鳴らし、周囲の建材を削り取り整形していくつもの弾丸を作った。 「ほむら…どうすんだよ」 「ラウドモン…進化して。」 「進化つったって…」 「進化するの!究極体に!」 ほむらの左腕のデジヴァイスが光りだした。なぜ彼女にデジヴァイスが? 「う…ぁ”…う”ぁ”ぁ”ぁ”!!!ラウドモン!究極進化ぁぁぁ!!!」 鉄が軋むような耳障りな音を響かせ、彼の背中から鋼鉄製のギター状の翼が生えた。 「ヘヴィーメタルドラモン!!!」 咆哮と言葉が入り混じったような声。ダメだ…戦ってはならない…! 「万物は我の手の中にあり、万物は皆我の僕!」 鏡花は呪文を唱え、もう一度杖を強く地面に打ちつけた。 「ブラックサバス!」 二人に飛んで行った弾丸は衝撃波で粉砕された。 どうしてだ…どうしてこうなる…!だがまだ終わってはいない。私は時を進めた。 ───────── 「はぁ…はぁ…鏡華さん…もう終わりです…全部。」 「そうね…私を殺して…研究成果も何もかもそのデジモンの力で焼き払えばいいわ。復讐は果たされる…殺人者に裁きが下る。全部終わりね…」 やめるんだ鏡花…!ほむら…! 「……ヘヴィーメタルドラモン、やって。」 「ブルー…マーダーぁぁ…!フレイムゥ”ゥ”ゥ”ゥ”!!!!」 青白い炎が建物中に広がってゆく。 「…さようなら」 ほむら達はゲートを開きその向こうへと消えた。 「ありがとう…ほむら…私の罪の象徴…私の…いとし──── 燃え盛る炎の中、鏡花は事切れた。 ───────── 私がこの姿になって、まだそれほど時は経っていない。 伝説の十闘士、エンシェントワイズモンの力は、例えその一端だとしても大きすぎるほどに大きかった。まだ全てを理解できていない。 現在の事象から、未来を演算し予測することすら可能だ。 さっきまで私は見ていたのは、今の現在から辿り着く可能性のある、鏡花とほむらの"最も良い未来”だ。 「ワイズモン」 こんな結末はダメだ。もっと良い着地点が必ずあるはず。 私は私の知識によって生まれる結末がどうなるのか見たいだけだった。 「ねえワイズモン」 今は、もっとより良い結末が見たい。彼女は今のままではダメだ。死者蘇生に囚われたままでは。ほむらならきっと…きっともっと良い結末に導いてくれるはず 「ワイズモン!!」 「!?…鏡花か。」 「全く…さっきから何してるの。坐禅なんて君の趣味だったっけ?」 「あ…ああ。」 「さっさと行くわよワイズモン。」 「どこへ?」 「土行のオフィスよ。ジャスティナから助けを求められちゃってね」 ━━━━━━━━━ 「うーん…なんかちょっと馴染まないんだよなぁ…いっそ削っちゃおうかなぁ…」 ほむらは新しく買ったギターを弾きながら、ぶつぶつと呟いていた。 「コロコロ新しいの買うからだよったく…」 「だってかっこよかったんだもーん!」 「俺はずっと昔からこれ一本。マクフィルドの『La Bella Guerra』…最高の一本だぜ!」 俺は愛用のギターを見せびらかす。 「何それスペイン語?」 「かっけーだろうがよぉー!」 言い合う俺達。その会話を遮ったのは、来客を知らせるチャイムだった。 「はーい!…なんか買ったっけなぁ?」 彼女はドアを開けた。 「FE便です。出海さんでよろしいでしょうか?」 「はい」 「こちら受取人確認が必要なお荷物でして…運転免許証とかお持ちでしょうか?」 「あ…はい。これで。」 「はい…拝見いたしました。失礼します」 ほむらはリビングに戻ってきた。 「なんだろう…これ」 ちょうど片手で持てる程度の小包。 「何が入ってんだ?」 「ちょっとまって……なんだろうこれ?」 中に入っていたのは、黒くて四角い片手に収まる程度のサイズの物体。 「あ…手紙も入ってる。」 ━━━━━━━━━ 遅くなったけれど、内定おめでとう。 君が大企業に入社できることをとても嬉しく思う。 今日君に届けたのは、君を守ってくれる物だ。 これからどんな苦難が君を待ち受けているか、私にはわからない。 私にはこうして遠くから君を見守り、何かを贈ることしかできない。 だから、君には自分で自分を助けられるようになってほしい。 さっき君を守ってくれる物と書いたが、それは間違いだ。 それは、ブラックシャウトモンと君に力を与える物だ。 君を直接守ってやれないことを許してほしい。 君は私の喜びの象徴だ。 君が生きていてくれれば、私は幸せだ。 支援者 Invisible Kindness ━━━━━━━━━ 「・・・やけに気取ってんな…なんだよ”見えざる優しさ”って…」 思わず指を曲げながら俺は呟いた。 「そう言わないの〜ここの家賃だってその人が払ってくれてるんだから」 「マジかよ!まあ完全防音の演奏できるマンションなんて学生にゃハードル高えもんなぁ…で、誰なんだ、そいつ。」 「…わかんない。Invisible Kindness…IKって言うのがイニシャルだとしたら…多分片方はIzumi。私と血のつながりがある人だと思う。もしかしたら…」 「もしかしたら?」 「なんでもない。それよりこれ…手首につけろって…どうやって?」 そう言いながら、ほむらは手首にそれを近づけた。 「きゃっ!?……腕時計になった…」 すると側面からバンドが現れ、それは手首に固定された。 そして左手首のそれは、空中にホログラムを映し出した。そこに記されていた文字列… 「デジ…ヴァイス?」 「おい…それって…」 「知ってるの?」 「ああ…俺達デジモンを進化させる聖なるデヴァイス…その支援者…なんでそんなもんを…一体何もんなんだ…?そいつ…」 ━━━━━━━━━ 「ええ…エンシェントボルケーモンに火の闘士のデータを取り込むのは可能でしょうね。ワイズモン、複数属性のスピリットのアーカイブはどんなものがある?」 「少ない。複数属性のスピリットの同時使用には大きな危険が伴う。例えばこの…ネオデスモン。」 私は手のひらからホログラムを投影し、二人に見せる。 「彼は死と影のスピリットを使用しているデジモンだ。彼は影に閉じ込められ、手助けなしではこちらの世界に干渉できない。ジャスティナくん、君がやろうとしていることはこれと同等の危険な事態を招くかもしれない。」 「それでも…私はやらなきゃならないんです。クオンのために。」 彼女の瞳は、覚悟を決めた人間のものだった。 「全く…面白いじゃないのジャスティナ。私、実験は大好きなのよ。あなたは?」 「言うまでもないですよ、鏡華さん。」 「なら決まりね。安定性を高める何かいい案はある?」 鏡花の瞳は輝いていた。 知識を欲し、純粋な好奇心のままに思考する。私が30年前に出会った時の彼女と同じ、輝いた瞳。 いつも死者蘇生の実験をしている時の彼女にはない輝きだ。 やはり君は、そうあるべきだ。 ━━━━━━━━━ デジヴァイスVal(ヴァル) 鏡華がFE社の資金を私的に流用して開発していたデジヴァイス。 デジヴァイスVをベースにしているが、内部機構はほぼ別物と言っていい。 alはalchemyの意。 動力源として、賢者の石の前駆段階の白色の物質が使用されている。 本体部分にバンドを格納しており、手首に当てるだけで装着が可能。 ほむらの手に渡った物には、展開可能な擬似空間のバリエーションにライブステージがデフォルトで追加されている。