シーン26 目の前の光景を未だに信じがたい。 ましてやそれが、自分達が発端になっているなんて…… ロイヤルナイツ含む究極体が入り乱れる死闘を見ながら、プレイリモンは思うのだった。 『オペレーション・アルカディア』と称された、黒曜将軍オブシディアナ・アルケアを救出する作戦が開始されて数刻。 第一目標であるアルケアからアルカディモンの切り離しには成功、しかし予想外の展開になりアルカディモンが究極体に進化、それを抑えるために戦闘が再度勃発、今に至る。 先刻のフェイク・ジョーカーモンの襲撃を思い出して身がすくむ。間一髪で守られなければどうなっていたか、想像もしたくない。 それに、あの渦中に入ったところで自分のようなデジモンでは何もできずに散るのが関の山だろう。 この激戦の中で少しでも安全な場所へ移動しようと意識のない少女に目を向ける。 いくらか傷ついてしまった体を見た瞬間、救出作戦参加者の少女――名張一華に言われたことを思い出した。 (お願いです、アルケアさんを助けてください!) これまでずっと逃げ続け、立ち向かったことなんてほとんど無かった。 でも、アルケアの命が脅かされたと思った時だけは身体が勝手に動いていた。 理由は考えるまでもない、彼女が自分にとって失いがたい光だったから。 その彼女を守るために、他にできることはないのだろうか? (今オマエが迷ってるならアルケアって子のためにもう一度本気で考えろ、そして動いてくれ、まだ間に合うはずなんだ) 同じく救出作戦に参加していたルドモンの言葉を思い出す。 恐れはまだ振り払えないけれど、もう迷いはない。 「今度こそ――僕の番だ」 闘志を灯し、強くなりたいと心を決めた臆病者は、光を纏って―― 剣戟が交錯し、銃撃がかき消される。 オメガモンズワルトを筆頭に救出部隊によるアルカディモンとの交戦が続いていたが、デジコードロードを利用した次々と変化する戦術に後手に回っていた。 「顕現せよ――獣聖騎士の脚よ<ドゥフトレオ・フェムール>!」 アルカディモンの脚部が獣形態を持つ戦略家の聖騎士の形に変化する。 「地に伏す愚かな贄を喰らいつくせ!『ヴォルケンクラッツァー』!」 地表から岩盤が次々と突き上がり、オメガモンを襲おうと殺到する、が。 (元同僚の攻撃なんてそうそう当たるものではない!) 攻撃の性質を完全に見切ったように躱し、ガルルキャノンを構えたのを見てアルカディモンが跳び上がった。 「斬滅せよ――『ブロッカーデ』!」 そのまま脚部からオメガモンと岩盤に向け斬撃を飛ばす。 裂かれた岩盤は礫となりオメガモンが元居た場所の後方、テイマーや治療を行っていたデジモン達の方へ飛翔する。 「チッ!」 右腕の銃口を礫に向け、被害を最小限にする照準を探すが全ては守れない……そう判断したが。 「『ブレイブオーラ』!」 瓦礫が到達する刹那、炎が防壁のように少年達を包み身を守る。 「シュヴァルツさん!大丈夫?!」 「その声……もしかしてプレイリモンか?」 オメガモンのパートナーであるシュヴァルツが聞き覚えのある声に振り返ると、燃える杖を掲げた天使型のデジモンがこちらを見ていた。 「はい、進化できたみたいです!そんなことより頼み事が――」 アルケーエンジェモン! ホーリーエンジェモン、エンジェウーモンと肩を並べる権天使型の完全体デジモン。 戦闘のスタイルは守備に特化しており、知略にも長けているぞ。 必殺技は聖なる杖「ホーリーロッド」に宿した炎を増幅させ敵を灼き尽くす『ヘブンズフレイム』、ホーリーロッドから放つ炎で味方を包み込み、敵の攻撃から守る支援技『ブレイブオーラ』。そして―― アルカディモンは戦況を冷静に見定める。 攻撃の余波を利用したテイマーへの牽制失敗、さらにデータのないデジモンの出現。 取るに足りない変数が増えただけ/行動に支障無しと判断/まずは弱者を薙ぎ払い対応パターンの絞り込みを目標に設定。 自身の最短経路<ダイクストラ>に基づき、体内に取り込んだディーテクターから勝利に必要なデータを検索する。 選択したのは―― 「顕現せよ――竜騎将軍の腕よ<ドラグーンヤンマ・カシヴァルス>!」 木竜将軍の腕部を読み込み、範囲殲滅を行おうとする。 対するアルケーエンジェモンは、内心から吹き出しそうになる恐れを抑える。 ここまで来るために誰かの懸けた命に生かされて戦っているなら、逃げ出すわけにはいかない。 少年から借り受けたスマートフォンを通して、アルケアの通信機器――ディーテクターとのリンクを感じる。 相対するアルカディモンを見据えて、自分を奮い立たせるように心の中で呟く。 (その歩みは、君だけのものじゃない……僕達のものだ!) ホーリーロッドを掲げ、意を決してその名を呼ぶ。 「来たれ、暴君竜の将軍よ――『フレイムレギオン・オーバーロード』!」 「奔れ迅雷、裁きの雷念――『ライトニングオーケストラ』!」 掲げた杖の炎が竜人の姿を模る/膨大な雷撃の弾幕が奔る/炎で模られた竜人が迫る雷撃を打ち払う。 雷撃を霧散させた陽炎が役目を終えて霧散する。 「ぐっ……」 ディーテクターから無理やりデータをロードしたこと、自身の世代以上のデジモンを使役したことによる負荷に全身が軋む。 (それでも……!) 例え命を燃やすことになろうとも、これまでに手に入れた全部を背負って立ち向かう。 そんな覚悟に呼応するように炎の中から戦うための力を顕現させる。 今まで出会った何よりも誰よりも輝く、失いがたい『友達』を抱え、立ちはだかる強敵を前に叫ぶ。 「黒曜将軍の隣に並び立つのは――僕だ!」 *** 『セイントレギオン・オーバーロード』 元々アルケーエンジェモンが持つ複数の使い魔を召喚する必殺技『セイントレギオン』を、ダークネスディーテクターからデータを読み込む『デジコードロード』と併用することによってディーテクター内のデジモンデータを使い魔として召喚する。 無理な使い方をしているのでアルケーエンジェモン自身への負担が重く、短時間しか召喚できないが、これまでの歩み全てが味方となる強力な必殺技だ!