※太線(━━━━━━━━━)は語り手の変わる場面転換、細線(─────────)は語り手の変わらない場面転換を表しています。 前回までのあらすじ(前回はある) 遺跡内のトラップで分断されるも、再会することに成功した楽音達。 ネオデスモンが彼女らに語った様々な過去、果たしてそこに真実は存在するのか。 彼女らに待ち受ける運命は如何に。 ───────── 一行はひたすらに道を進んでいた。 またいくつかトラップが彼女らを襲ったが、皆すでに一度はトラップに遭遇していたため対処に苦慮するようなことはなかった。 「おかしい。」 無量塔が口を開いた。 「あまりにも順調すぎる。端的に言えばそう…殺意が薄い。」 『私も同意見だ。テレポートも落とし穴もあそこにしかなかった。』 「シャドウそれって…」 「無量塔も愛狼もやっぱり不自然って思ってたか。ねえ楽音、さっきから随分急いでるみたいだね」 有無は一人先行する楽音に呼びかける。 「…もうアイツの術中にハマってることなんてわかってる。でも私はアイツのところに行かなきゃいけない。私がアイツを殺す。」 彼女は振り向かずそう言った。 「どうやったら殺せるのかわかっているのかい?奴にサンドリモンの攻撃は全く通じなかった。」 「オレの攻撃も…刺さりはしても効果があったのかわからなかった…」 「ウチのバッドメッセージ・プラスも…」 「私にはわかる。」 楽音は愛狼達の方を振り向いた。 「解放してる時の私の目は相手の急所を見抜けるの。人間なら心臓、デジモンならコアを。私には見える。ネオデスモンのコアが。」 彼女は左手を見た。 「私の体はアイツに変えられた。だからアイツに干渉することも多少できる。これは…私がやらなきゃいけない。」 「待ってよ」 愛狼が楽音の元へ駆け寄る。 「オレ達楽音を助けるためにここに来たんだ。一緒にネオデスモンを倒すために。だから一緒にやらせてよ!」 「……私…最初に依頼したときはみんなでアイツを殺すつもりだった。殺せれば最後は私じゃなくてもいいって。」 楽音は彼から逃げるようにまた道の先を見た。 「でも…ここでアイツとまた会って…話して…戦って…もう私、自分が抑えられないんだ。だからトドメは私がやる。みんなには私がアイツと戦う邪魔になるやつらと戦ってほしい。」 彼女の心の底では、ただ一つの感情が煮え滾っていた。 ───────── 遺跡深部。 楽音達が最初に踏み入れた場所よりも更に広い部屋。 その中には大きな階段がある。それが繋がる先にあるのは、黒く大きな石の扉。 その扉の前に、一つの影があった。 それは楽音達が部屋に足を踏み入れたところを見て、拍手の真似をしだす。 「よくぞここまで辿り着きましたね皆さん!立ちはだかる多くの苦難!それを見事乗り切った!感動しましたよぉ〜………おっと、拍手してももう音が出ない身体なんでした。」 嬉しそうに語るネオデスモンの目は、変わらず冷たかった。 「オレはもうお前のことを逃さない!!」 彼は愛狼の言葉をやはり無視して話を続けた。 「此処こそ、この迷宮に数多く眠る埋蔵金の一つが隠されている場所です。」 ネオデスモンの身体を目がぐるぐると回り、扉の方を見る。 「この扉、どんな手段を試しても開かなかったんです。スキャンで中身を伺うこともできない。伝承によると…この扉、デジモンと人間の協力によってのみ開くんだそうです。隠された当時はデジモンを使役できる人間は数少なかった。だから安全だと思ったのでしょうね。」 ぐるぐると回っていた目が、今度は楽音達を見る。 「しかし!今ではデジモンと協力する人間は増えた!君たちこそ封印を解ける選ばれし人間なのです!」 「嘘つき野郎!今度こそウチらがアンタのこと倒すんだからね!」 ツカイモンの威勢の良い声。ネオデスモンはそれを聴き笑った。今度はその目も笑っていた。 「嘘つき?そうですか嘘つきですか…では逆に聞きますが…私は何なんですか?」 「は?どういうこと?」 「あなたたちに語った私のこれまでの物語…どれが真実でどれが偽りなのか私にはわからない!どの物語も!私の中では真実の物語として息づいている!」 「なんなんだよお前!本当は誰なんだ!」 「だから…全部本当なんですよ愛狼君。今日の私は正直者、嘘は一つもついていません。そ〜れ〜に。…どうだって良いんですよ…そんなこと。」 小馬鹿にするような口調。ネオデスモンはさらにこう続けた。 「私はただ…これからも物語を啜りたい。あなたたちが苦しみ…楽しみ…生きて…死ぬ。その物語を…さらに素晴らしく刺激的に…!そう私が演出しようと言うのですよ。君たちキャラクターはただ私の台本に従ってさえいれば良い!」 影に浮かぶ眼は皆を舐め回すように動いていた。 「残念ですけど!わたくしたちは貴方の思い通りになんてなりませんのよ〜!お〜っほっほっほ!!」 壁を勢いよく突き破り現れるブラストモン、粉塵から響き渡る高笑い。 「えっと…誰…?」 愛狼の困惑した声。 「わたくし虚空蔵優華子と申しますの。そこの影さんとは因縁がございますことよ。まだパーティーは終わっていなかったようで幸いですわ〜」 「また君か…本当に醒めさせてくれるな…だが今日は帰ってやらんぞ?私の前に二度と現れようと思えなくさせてやる…!」 ネオデスモンの足元の影が部屋一面に広がり始める。 「まずは彼らだ…ゴグマモン!」 ネオデスモンと楽音達を隔てるように、影から黒いゴグマモンが3体現れた。3倍ゴグマモンである。 「これだけでは終わらんぞ…!ダークネスローダー!デジクロス!」 影の中から無数の光がゴグマモン達に融合して行く。 「これぞゴグマモンアポロンモード!自らの光で自らを強化する!まさにベストコンボ…!」 天井にまで広がった影からはボトボトとデジモンが次々出現する。 ハイコマンドラモン、トループモン、アンドロモン。 全て死影軍の忠実なる兵士達だ。 「さて、私のシナリオに従う気になりましたか?楽音。」 「いいや、全然!」 彼女は腕輪を操作する。 「suppression program has been interrupted. Reactivation in 3 minutes.」 無機質な音声と共に、楽音の体は異形へと成って行く。 「オレも全く同意見!スピリット…!エボリューション!」 少年の体とスピリットが一つとなり、もう一つの影が生まれる。 「これぐらいの広さがあれば…アレが使えるだろうな。トリプルヘッドラグナモン!リアライズ!」 彼の持つデジヴァイスの背面レンズから、三ツ首の巨大兵器が実体化する。 「盛り上がってきましたわね〜…行きますわよ〜!」 拳を握り締め、彼女はブラストモンと共に構えをとる。 「ボク達も頑張らないとね!」 その声を聞き、ツカイモンも気合いを入れた。 「はぁ………」 影はつまらなそうにため息を一つ吐いた。 「やれ。」 その一言により、無数の死影軍と楽音達の戦い…否、殺し合いが始まった。 ───────── 「みんなはゴグマモン達の相手をして!私がネオデスモンを殺す!」 「わかった。」「了解!」「かしこまりましてよ〜!」 皆が楽音の指示に同意する中、愛狼だけは頷かなかった。 「オレの刀はネオデスモンにちゃんと刺さってた!オレもあいつと戦える…協力させて!」 「…わかった。じゃあ、付き合ってもらうよ!」 「えっ?うわぁあぁぁあ!!!!??!?」 楽音はシャドウヴォルフモンを左手でがしりと掴み、ネオデスモンに向かって跳躍した。 『ら…楽音…!もう少しアローに優しくしてもらえると助かる…!』 「ちょっと黙ってて!時間ないの!」 もう一飛び。彼女は天井に糸を貼り付け、スイングしてネオデスモンの目の前に着地した。 「行くよ!」 「はぁ…はぁ…お…オッケー…!」 「随分と乱暴ですねぇ〜もう少し優しくしてあげたらいかがですか楽音?」 「はあっ!!」 左腕による薙ぎ払い、下段蹴り、噛みつき。楽音は不規則にネオデスモンの身体の中を移動するコアを追いかけ攻撃を加えるが、 彼はそれらを華麗に避け、一旦影に消えてから楽音の背後に再出現する。 「させるかっ!」 シャッテン・シュべーアトを巧みに操り、愛狼は袈裟斬り、真っ向斬り、逆薙ぎの順で素早い斬撃を影に加えた。 それは一瞬影を切り裂きもしたが、すぐに元の形へと戻ってしまう。 「全く…本当に学習しない子達だ。」 ネオデスモンの頭部を楽音の腕が、脚部を愛狼の刀が狙う。 もはや避けることはできない状況。その時、ネオデスモンは腕を広げた。 「ギガスクリーム。」 彼の両腕から衝撃波が発せられ、二人は吹き飛ばされる。 「うぐっ…!」 「Overload detected. Activating suppression program to prevent damage.」 無慈悲な機械音声と共に、楽音の体は人の形に戻った。 「そんな…まだ時間はあったはずなのに…!」 「今まで私がそうしなかったから気づかなかったのかもしれませんが…私だって君たちに攻撃できるんですよ?触れることは出来ずとも…配下の力を借りればね。」 サウンドバードモンと戯れるような動きをしながら語るネオデスモン。 「まだ…終わってない…!」 楽音は再び腕輪を操作した。 「Risk of dangerous mutations. Continue administration.」 「なんで…⁉︎」 「楽音…英語ぐらい少しはわかるでしょう?それは君の体が危険な変異をする可能性があるから解放を制限しているんです。」 呆れた口調で語るネオデスモン。 「シャッテン・ズィーガー!」 油断している彼の足元から出現したシャドウヴォルフモンは、彼の体を文字通り真っ二つに切り裂いた。 「これでどうだ!!!」 「オオカミくん後ろ!」 「甘いなあ…暗殺者ともあろうものが生死の確認を怠っては…」 二つに分かれていた影は、再び混ざり合い人型の影の形へと戻った。 「サウンドフィニッシュ」 いつの間にか幾億にも無数に増殖していたサウンドバードモンが、一斉に愛狼へ超音波を放った。 「うぉ…ぐ……!ぁ…!い”ぁっ…!!」 たまらず彼は耳を押さえながら地面に倒れる。 「やめて!狙いは私なんでしょ!」 「ええ、そうですよ?」 「じゃあオオカミくんを離してあげて!」 「お断りします。」 楽音の悲痛な叫びは、無碍に切り捨てられた。 「イグニーもミネルちゃんもオオカミくんも…どうして!?どうして私の周りの人まで…!」 「教えてあげますよ楽音。君は私が選んだ登場人物…いわば選ばれし子供!どう足掻こうと君の物語は私の手の中…!そして君の物語は君の苦痛だけでは完成しない…」 影の中からさらにブラックマッハガオガモンが現れる。 「さあ、彼に引導を渡してあげなさい。」 「動いて…!」 「Risk of dangerous mutations. Continue administration.」 ブラックマッハガオガモンがエネルギーのチャージを始める。 「動け…動け動け動け!!」 「Risk of dangerous mutations. Continue administration.」 楽音はもはや腕輪を殴りつけていた。 しかしメッセージは変わらない。その上、チャージは完了してしまった。 「ハウリングキャノン!」「動けぇぇぇぇ!!!!!」 次の瞬間、ブラックマッハガオガモンも、サウンドバードモンも、吹き飛ばされていた。 ───────── 一方その頃階下では─────── 「シャイニングカースリフレクション!!!」 ゴグマモンのクリスタルから光波熱線が照射される。 「ブラストモン!こっちもクリスタルブレスで迎撃ですのよ!」 優華子はアンドロモンに地獄卍固めをかけながら指示を飛ばした。 「無理だ優華子!ここじゃ暗すぎる!うぐぉあっ!!」 モロに光線を受けて吹っ飛ばされたブラストモンを見て、無量塔が二人に声をかける。 「光が足りないというのなら、私が力を貸そうか!」 彼めがけて自爆特攻をかけてきたハイコマンドラモンをサンドリモンが蹴り飛ばし、トリプルヘッドラグナモンが飛んで行った先にサテライトバスターをお見舞いし追い討ちをかけている。 「あら、一体何をするおつもりですのっ!?」 トループモンを48の殺人技No1”宇宙旅行”で二体まとめて投げ飛ばしながら彼女はそう聞いた。 「私のラグナモンのレーザーでブラストモンに光をチャージするんだ。少し時間がかかるが…やってみる価値はあると思うね。」 「いいじゃあねえか…!やってくれ!」 「ラグナモン!彼に向かって3連スペイザーだ!」 無量塔の命令に応じ、トリプルヘッドラグナモンは3つの頭部からそれぞれレーザーをブラストモンに発射した。 「うおぉぉぉ!!!キタキタキタァーー!!!」 彼の体を形作る結晶が、少しづつ輝きを増してゆく。 それを見て危機感を覚えたのか、ゴグマモンたちは地面に手を突っ込み、結晶を発生させて彼らを串刺しにしようとした。 兵士達を突き刺しながら、打ち付ける波のように迫る結晶。 「こういう時はボク達の出番だよね!」 「バッドメッセージ・プラス!」 マイナスエネルギーが押し寄せる結晶に触れ、そこからゴグマモンに伝わった。 たちまち結晶の成長は止まり、彼らは頭を抑えて座り込んだり、崩れ落ちたりしている。 「ナイスっ!タイミングですわ!有無さん!」 48の殺人技No3”風林火山”。四段技を次々に決めながら、優華子は話を続けた。 「まだチャージは終わりませんの⁉︎」 「無理だ!これ以上やるとブラストモンが粉々に砕け散ってもおかしくないぞ!」 「大丈夫だ!もっとやってくれぇ!!」 「はぁ…どうなっても知らないぞ…ラグナロクキャノンだ!」 ラグナモンの胸部からも光線が発射され、ブラストモンがゴグマモン達を圧倒するさらに激しい輝きを放ち始めた。 「いぃぃぃくぜぇぇぇぇ!!!!ラグナロォォォォク…クリスタルブレーェェェス!!!!」 通常は口からのみ発射されるレーザーだが、過剰にエネルギーをチャージしたことにより、ブラストモンの全身から光線が発射されていた。 「みんなラグナモンの影に隠れろ!」 あまりのエネルギーにより制御不能となった光線は、無量塔たちにまで被害を与え始めていた。 数十秒ほどが経ちブラストモンがエネルギー切れで倒れる頃には、3体のゴグマモンどころか、周囲に大勢いた兵士デジモンすらも跡形もなくなっていた。 「これだけのエネルギーに耐えるなんて…この部屋どうなってるんだろうねツーくん…」 有無はあたりを見まわし驚愕している。 「おっと…これではただのラグナモンと変わらないな…」 光線に耐え皆を守ったトリプルヘッドラグナモンは、首が2本と、胸部の発射口も2門破壊されていた。 「おーっほっほっほ!またしてもこの虚空蔵優華子が勝利を納めましたわね〜!…喜んでる場合ではありませんわね、楽音さんを追いかけますわよ!」 3人は階段を登り始めた。 ───────── 楽音は叫んだ。たとえそれに意味がないとしても、目の前で起きていることをただ見ている事に耐えられなかった。 しかし、デジヴァイスバングルは冷徹に同じことを告げるだけ。 それでもネオデスモンを殺したい。ブラックマッハガオガモンを、サウンドバードモンを殺したい。 楽音の中には、確かで、そして大きな殺意があった。 ハウリングキャノンが発射される寸前、その殺意が彼女の心臓と融合したデジコアに力を与えた。 細胞の急激な変異、データが一気に書き換わっていく。それに伴いエネルギーが放出される。 そのエネルギーは地面に倒れていたシャドウヴォルフモンを除き、周囲のもの全てを吹き飛ばした。 「楽音…ちゃん…なの?」 愛狼の目に映ったものは、人間ではなかった。 力を解放した楽音とも違った。 頭部にはまるで王冠のようにツノが8本生え、左腕だけでなく右腕もアルケニモンのものへと変異していた。 それだけではない。彼女にはさらに2対の腕が生えていた。 足と合わせて計8本。その姿は正に蜘蛛だった。 「僨¥ˆç∂ß√≈Ωøæ!!!」 両目を爛々と輝かせ、脳が本能的に理解を拒む叫び声を上げながら、それは一気にサウンドバードモンをコアごと砕き、2秒ほどで全て殲滅した。 「なんと…素晴らしい力だ…さすが私の選んだ…」 さらに衝撃波に吹き飛ばされ、なんとか飛行しダメージを避けていたブラックマッハガオガモンに飛びつき、背中からデジコアを抉り抜き、喰らった。 「µ˜ø˙ˆπ¶£¢£§−≠∑…!」 墜落する死骸から飛び降り地面に着地したそれは、愛狼の方を見た。 「す…すげぇ…!」 それは愛狼へ近づく。 『不味いぞアロー…殺意…それと食欲を感じる!』 「おやおや…やはりある程度好意を抱いている方が美味しそうに見えるのですかねぇ…?」 ネオデスモンはそれを遠巻きに見ていた。 その時、下から飛んできた光線の余波の一つがヒットした。 あまりに突然であったため、それには避けることができなかったのだ。 「∫ˆ¥√ˆ˙•¡©ƒ!…ø∂!?」 「Dangerous mutations detected. Initiating high-dose administration of the emergency refresh program.」 愛狼へ一目散に向かっていたそれは、無機質な音声と共に倒れた。 「ら…楽音!大丈夫?」 「あれ…私…なにを…?」 「ああ…やはり君は特別だぁ…私が君に最初に投与したプログラムは期待以上の効果を示した…つまり一番の見せ場だ!最高だったよ!」 彼女の身体は再び人間の形に戻っていた。 「いやぁ〜…いいものを見ました。ではまた。」 影に消えようとするネオデスモンに刀が飛ぶ。 「逃すか!」 ネオデスモンの両足に刀が突き刺さり、移動を妨害した。 「杭を打たれたか…まあこんなもの抜いてしまえば…」 「ここで終わらせる!シャッテン・シュライ・ウルティマティヴ!」 彼のマントが作り出した影から無数に刀が撃ち出され、ネオデスモンを床に磔にしていく。 「おおっとぉ…まあ、君に私のコアは見えない…君に私は殺せませんよ。」 「オレにはそうかもしれない。でも…」 「私にだったらできる!」 「suppression program has been interrupted. Reactivation in 3 minutes.」 楽音は左腕をネオデスモンの身体たる影に突っ込んだ。 「………掴んだ!」 ネオデスモンにとってはまさに死の一歩手前。しかし、なぜだか彼は掠れた笑い声を上げていた。 「何がおかしいの」 「はっはっはっは…今君が掴んでいるのは確かに私のデジコア…しかしそれは私をこちらの世界に繋ぎ止めておくための擬似的な物ですよ…壊したところでそのうち帰ってきます…」 「あなたが戻ってきたら…私がまたコアを砕く!いつか私が…あなたを殺す!」 「おお怖い怖い…」 ネオデスモンの擬似コアが、ぐしゃりと握りつぶされた。 「うぐぉっ…!はぁ〜…埋蔵金の中身に触れられないのは残念ですが…今回は君たちに花を持たせてあげましょう…それでは────── そう言い残して、ネオデスモンはその瞳ごと影に溶けるように消えていった。 「………ごめんね、オオカミくん。私のせいで…」 「大丈夫!オレ、助けられちゃったし。」 「…アイツはまた戻ってくる…今度こそ…!」 『その時はまた私たちを呼んでくれ。奴の中にある影のスピリットは元はと言えば私の物…私にも責任があるんだ。』 楽音はそれに応えず顔を逸らす。 彼女の頭ではネオデスモンの言葉が渦巻いていた。”君の物語は君の苦痛だけでは完成しない”自分がいる限り、周りの人たちまでも苦しむことになるのかもしれない。 一度生まれてしまったその思いは、彼女の中から消えることはなかった。 ───────── 「楽音さーん!大丈夫ですのー!?」 「楽音〜!愛狼〜!」 階段を駆け上がりながら声をかける二人。 「その様子だと、ネオデスモンは…」 「トドメは…刺せませんでした。」 落ち込み気味に話す楽音。愛狼は彼女をフォローしつつ、今までのことの次第を皆に話した。楽音の暴走のことは隠して。 「なるほど…どこまでも不愉快な奴だな。」 無量塔は呟く。 「そ…それよりさ!この扉の向こうなんだよね!埋蔵金!」 重くなっていく空気に耐えかねてか、ツカイモンが半ば強引に話題を変えた。 先ほどの戦闘にも関わらず、この扉には傷一つついていなかった。 「んーーっ……!!…ダメだ…全然動かない。」 楽音は扉を精一杯引いたが、開く兆候は見られなかった。 「これは…!!わたくしにも無理ですわね…!!!」 優華子もそれに加わったが、やはり扉は開きそうにもない。 「ゴグマモンも手伝ってくださいまし!」 「い…今は無理だ…もう…クタクタだぁ…」 いつの間にか退化していたゴグマモンは、階段の下で倒れたまま動かなかった。 「どうシャドウ?」 『ダメだ、全く見えない。あいつの言った通り、外からのスキャンは全く受け付けないらしい。どうしたら開くのだろうか…』 Dスキャナを扉に向け、愛狼たちは考え込む。 「ネオデスモンは確か人間とデジモンの協力がどうこうって言ってたよねウム?」 「じゃあ…ツーくんやってみる?」 二人はすーっと息を吸った。 「「バッドメッセージ・プラス!」」 マイナスエネルギーの塊が扉にぶつかる。すると扉が輝きだし、振動を始めた。 「まさか…扉が落ち込んだ?」 無量塔が呟く。シャペロモンはそんな彼に生ぬるい視線を送っていた。 扉はジリジリと少しづつ開いていく。楽音は隙間から中身を伺った。 「なんか…トゲトゲして…紫色に光ってる…ウニ?みたいなのが…」 『何だと!?みんな扉から離れろ!』 その声を聞いたエンシェントシャドウガルルモンは、血相を変えて叫んだ。 「何だよシャドウ?」 『アロー、スキャナをそれに向けてくれ。』 彼は疑問に思いながらも、指示に従った。 『間違いない…これは…!”無のスピリット”だ。』 「スピリット…ってことは、オオカミくんが使ってるのと同じ?」 『いや、無のスピリットだけは事情が違う。あれは無の影十闘士、エンシェントグリーモンを封じた物だ。まさか…こんなところにあったとは…』 「そいつはそんなに危険な代物なのかな?」 『ああ、エンシェントグリーモンは無そのもの…全てのデータを無差別に吸収するんだ…だから封印された。』 一同に沈黙が走った。 「えっと…それ、誰が持って帰るんですの…?」 優華子の一言が迷宮に響いた。 ━━━━━━━━━ 後日、楽音はデジタルワールドのとある草原にいた。 ここはかつて彼女がアルケニモンへと変わった場所。そして、楽音が取り返しのつかない、最初の罪を犯した場所でもあった。 5年前の戦いの痕跡はすでに消え、そこには惨劇が起きたことを伺わせるものは何一つなかった。 「イグニートモン。久しぶり…だね。」 もはや自分がどこで彼を殺したのかもわからない。楽音はただ虚空に話しかけていた。 「私がさ…イグニーのことをパートナーにしなければ…イグニーは死ななかったんだよね、きっと。」 楽音は草むらに座り込んだ。 「私が君を選んだから。私がアイツに選ばれたから…だからイグニーは死んだ…」 俯く彼女の目に、涙はなかった。 「選んで…ごめんなさい…!選ばれて…ごめんなさい…!」 彼女の側には誰もいない。彼女はひとりぼっちだ。 苦しみは終わることなく延々と続く。そう、君に美しきエンディングを私が与えるまで。 楽音、私は君の事をずっと見ている。例えこちらからシナリオに手を加える事が出来ずとも、私はずっと君を見ている。 ━━━━━━━━━ 影の中から自分を見ている者がいることに、彼女は気づかなかった。 人の生を自らの玩具とする影。彼女がそれを打ち倒す日は来るのだろうか。 美しきエンディング。影がそれを齎そうとする日は未だ遠い。 彼女が苦しみを乗り越え、真に自分を許せた時。それが影の倒れる日だろう。 しかしそれもまた、遠い日の出来事となるだろう。 少なくとも、今のまま、彼女が一人であり続けたならば。 ━━━━━━━━━ ━━━━━━━━━設定コーナー━━━━━━━━━ 南雲楽音:暴走態<殺> 楽音が強い殺意を抱いたことにより、デジコアに異常な変異が起こった姿。 腕が3対になり、頭部を一周して生えた8本のツノはまるで王冠のよう。両目は赤く輝き常に対峙する相手の急所を狙っている。 楽音としての意識どころかアルケニモンとしての意識すらも殺意に飲み込まれ、目の前の命を無為に奪い自身の回復と強化のためコアを喰らうだけの存在へと成り果てている。 幸い、デジヴァイスバングルに緊急時のため搭載されていたリフレッシュプログラムによって、元の状態に戻ることができた。 しかし全身に渡り変異が及んでいた上、楽音が無理やり動かそうとデジヴァイスバングルに衝撃を与えていたため、リフレッシュプログラムの投与が迅速に開始されなかった。 ラグナロククリスタルブレスの流れ弾によって一瞬ダメージが与えられた事で投与が開始されたが、 仮にそれがなかった場合、彼女はその場のすべてのデジモンを喰らい尽くし、仲間のテイマー達も手にかけていただろう。 彼女の強い殺意に力を与えたのは、アルケニモンのデータに少量混入していた死のスピリットの力らしい。 ━━━━━━━━━ ゴグマモン(オニキス) 体が黒瑪瑙で構成されている、ゴグマモンの黒い亜種。 影のスピリットの影響によって進化時に影響が現れたようだ。 性質は通常の個体とあまり変わらない。 ゴグマモン(オニキス):アポロンモード ゴグマモン+サンフラウモン+大量のサンモンのデジクロスによって生まれるデジモン。 光を取り込みエネルギーを蓄えるゴグマモンの特性を生かし、太陽の力を持つサンフラウモンとサンモンを融合させることにより無尽蔵のエネルギーを与えた。 必殺技は超高出力のレーザーを放つ「シャイニングカースリフレクション」。 この攻撃はいくら放とうとエネルギー切れを起こすことがない。