前回までのあらすじ(前回はない) 突如ネオデスモンから送られたメール。それを見た彼女は、ネオデスモンを倒すため掲示板で助けを募った。 集まったのは自称デジモンアドバイザー、得体の知れない研究者、そして因縁のある影の力を持つ少年。 果たして楽音は彼らと共にネオデスモンを倒すことができるのか。 ネオデスモンの真意とは。 ───────── 楽音達は口を開けている洞穴に足を踏み入れた。 蒸し暑かった外と違い、ここは非常に涼しい。 最も湿度は高いままなのか、ぴちゃぴちゃと水が滴る音が響き渡っていた。 ネオデスモンから送られてきた情報が正しければ、ここはまだ入り口のはず。ここから先へはどういけばいいのか。彼女らにはわからないことだらけだった。 「えっと…ここからどうすればいいんだろう…」 「っていっても一本道だし…道なりに進むしかないんじゃない?」 「そうだよねオオカミくん…」 しばらく歩くと、洞穴は唐突に行き止まりを迎えた。 そこにあるのは、石でできた扉。それが本体へと繋がっているであろうことは、誰の目にも明らかだった。 「ふむ…どうやって開けたものか…」 無量塔はそれを前に、何か考えているような様子だった。 「ボクにはお手上げかな〜なんとかできない愛狼?」 「えっオレ?…斬ったらなんとかできるかなシャドウ?」 『おそらくそれでは解決にならないと思うぞアロー…』 愛狼に無茶振りをする有無。 「気をつけて…奴が来る。」 楽音は扉にかかりきりな面々と違い、一人何かの気配を感じていた。 「ふーむ…随分お友達が増えましたねぇ楽音。何よりです。」 影に瞳が開き、立ち上がる。楽音にとってはもはや見慣れた光景であった。 「今度こそ…いくぞシャドウ!」 「フフ…シャドウヴォルフモン…いやはや矢張り懐かしい…!」 進化し斬りかかった愛狼の一閃をかわしながらネオデスモンは続ける。 「ですが…登場人物が増えるほどシナリオの制御は難しい…全く困った子ですね楽音…」 『気をつけろアロー!前に対峙した時とは何かが違う!』 「これなら!シャッテン・シュライ!」 シャドウヴォルフモンの作り出す影から刀が撃ち出される。 それは影であるはずのネオデスモンの体に突き刺さり、ダメージを与えたかのように見えた。 「ぬぅ…さすが影のスピリット。しかし、こんな攻撃で私は倒せませんよ。ゴグマモン!」 ネオデスモンが作り出している影からも、黒いゴグマモンが撃ち出される。 鉱石で出来た体を活かした体当たり。不意を突いた一撃は、シャドウヴォルフモンにしっかりとダメージを与え、衝撃で天井を崩落させた。 「オオカミくん!」 洞穴全体を埋めるほどではないにせよ、楽音達と愛狼を分断するには十分な量の岩。 「ははは…この前はこの類の攻撃に悩まされましたのでね…少し真似をしてみました。」 そのままゴグマモンに押さえつけられているシャドウヴォルフモンに、ネオデスモンは近づいていく。 「放せっ!」 もがくシャドウヴォルフモンに向かってネオデスモンは手を伸ばす。すると二者の間に黒い稲妻が走った。 そのエネルギーによって、ゴグマモンは弾き飛ばされる。 「拒絶…いや、相互反応が起きているか…」 「相互…反応…?」 人間の姿に戻った愛狼は、彼が何を言っているのかわからないと言った様子だった。 「まあ…わからずともいいですよ…それよりも、君たちは埋蔵金を探しにきたのではないですか?」 「違う!私たちはネオデスモン!あなたを殺しにきたの!」 そう叫んだのは楽音だった。無量塔のサンドリモンが崩落した岩を吹き飛ばしたのだ。 「私も有名になりすぎてしまったようだ…私は物語を手のひらの上で転がしたかったのであって物語の主役になりたいわけではない…まあ、楽しく埋蔵金をお探しになってください…」 ネオデスモンはそう言うと扉の前へと転移し、今度はハイコマンドラモンを呼び出した。 「……了解。」 ハイコマンドラモンは扉に爆弾を取り付けると、即座に起爆した。 爆風が晴れると、破壊された扉とその先に広がるデジタルゲートに似た何かが見える。 「これこそ埋蔵金の秘められし場所に繋がるゲート…先で待っていますよ。」 そう言い残し、ネオデスモンはその先へ進んで行った。 「やっぱり斬ったらなんとかなったんじゃん…」 『……そうだな。』 ───────── 一行はゲートを抜けた。 その先にあったのは、石畳の敷き詰められた、一種の大広間のような空間だった。 「早くアイツを追いかけよう!」 そう言い愛狼は、幾つもの分岐がある中でも一番太い道の方へと走り出した。 しかし、ここはそんな甘い空間ではない。彼が踏んでいた石畳が光ると、次の瞬間そこに彼の姿はなかった。 「何…今の…」 「イマのはテレポートトラップさ!」 困惑する3人に話しかけたのは、サングラスをかけたプヨモンだった。 「ネオデスモンサマからのデンゴンだ!このダンジョンにはオオくのトラップがある!ジュウブンちゅういするんだナ!」 一方的にそう言い放ち、ツノモンは影へと沈んでいった。 「どうやら迂闊な行動は禁物のようだね」 「ボク流石にこう言うのはわかんないな…」 有無はそう呟きながら半歩ほど足を動かした。すると石畳が急に開き、彼女はそのまま落ちていった。 「そんなぁぁぁーーー!!???」 「ウムちゃーん!!!」 すぐに石畳は閉じ、動くとは思えないような形に戻った。 「…まあ、ツカイモンがなんとかしてくれるだろう」 無量塔は冷静であった。 ────────────────── 「くそー…まさかこんなことになるなんてー…」 ツカイモンに捕まりながら降下していく有無。 穴の底は案外近かったようで、彼女は無事に降り立つことができた。 「ありがとツーくん…はぐれちゃったな…」 彼女が落ちた場所はただの穴の底と言うわけではなく、どこかへ続くと思しき通路が存在していた。 「まあ…行ってみるしかないよね」 歩み出した有無の背後で、影が蠢いていた。 「ウム!後ろ!」 彼女が振り返る頃には影は完全に立ち上がり、目が開いていた。 「さて…デジモンアドバイザー…いえ、末堂有無。あなたはなぜ楽音についてきたのですか?」 「楽音が言ってたでしょ。アンタを倒すためだよ。」 「ふむ…君が楽音を見る目はどうも気になる…困るんですよ…君のような奴が楽音と一緒にいてはね…私のシナリオが狂ってしまう…!」 「ウムに手は出させないぞ!」 ツカイモンは有無とネオデスモンの間に割って入る。 「やるよツーくん!」 「バッドメッセージ・プラス!!」 負のエネルギーはネオデスモンへと向かって行き、彼の頭に当たる部分に命中した。 「………この程度の精神攻撃が私に効くと思わない方がいい。弱いなら弱いなりに弁えろ。さもなくば…私のようになる。」 ネオデスモンは微動だにせず、話を続けた。 「私はかつて、とあるか弱いデジモンでした…君達のようにね。」 それを聞いたツカイモンは少しムッとしたような表情を見せた。 「強さを求めた私は…影と死、2属性のスピリットを手に入れた…私は迷わずそれらを取り入れました…」 ネオデスモンは、大仰に何かを抱きしめるようなジェスチャーを取る。 「しかし、脆弱な体ではそれらのパワーに耐えられなかった。」 それに続いて、ネオデスモンは倒れる真似をしながら目を閉じ影へと消えた。 「死のスピリットによって私は死と生の狭間に閉じ込められ…影のスピリットによって私は外界に干渉できない影そのものとなってしまいました。」 有無の影にネオデスモンは再び目を開いた。 「誰とも交流できず…誰も私の存在に気付かない…気が狂うほどの長い時間、私は世界から拒まれ続けた…」 影の中を、目だけがぐりぐりと蠢く。 「影の中から世界を見るうち、私はあらゆる存在が物語を紡いでいることに気づきました。世界から拒絶された私はもう自分の物語を紡ぐことができない…ならば他者の物語を啜ろうではないか。そう考えたのです。」 ネオデスモンは立ち上がり、手を広げた。 「どんなにつまらない人間でも、一生に一度ぐらいは傑作を紡ぎます。それが喜劇か悲劇か…はたまた惨劇か…いずれにせよ…素晴らしい物語です。」 「長いなぁ…もっと短くまとめらんないの?」 そんな有無の不満を無視し、ネオデスモンは話し続ける。 「死者の蘇生を巡り、醜く争う者達。世界を守るため…誰かの故郷を破壊する者達…鏡写しの世界の悪に落ちた者達…深い絶望に塗れた世界の者達…何も素晴らしいストーリーでした。」 ふよふよとどこを見つめるでもなかったネオデスモンの瞳が、急に有無をじっと見つめだした。 「私は我慢ができなくなった。自分で素晴らしい物語を紡ぎたくなった!君にもわかるでしょう…!他者を掌で転がす快楽が!」 「一緒にしないでくれないかな!」 「同じですよ!君が楽音に近づいた理由もどうせそうだ!君は観客でいればいい!」 叫んだネオデスモンに呼応してか、通路がグラグラと揺れ始める。 「何!?」 「おや…どうやら罠を発動させてしまったようです。」 ネオデスモンは、わざとらしく咳払いを一つした。 「少し感情的になりすぎました……それでは、引き続き楽しい埋蔵金探索をお楽しみください。」 彼が影に消えるのと同時に、有無達の体はふわりと宙に浮き始めた。 「なにこれ!?浮いてる!」 どんどんと二人は高く舞い上がり始めた。 「これ浮いてるんじゃないよツーくん!多分重力が反転してる!」 二人は天井に向かって落ちていった。 ────────────────── 「ひとまず、進んでみねば何もわからないな。」 無量塔は歩みを進めようとする。 「迂闊な行動は禁物…なんじゃないんですか?」 「警戒して何も動けないのでは意味がない。そうでしょう?」 「まあ…そうでしょうけど…」 どんな人物に対してもあまり壁を作らない性格だった楽音だが、無量塔に対してはどうしても敬語が抜けないでいた。 彼の底知れなさ、あるいは狂気を無意識に嗅ぎ取っていたのだろう。 遺跡を進んでいくと、二人は両端に水路のある部屋へと辿り着いた。 「全く君は見る目がないようですね。」 部屋の反対側、松明の影になっているところから、ネオデスモンは二人に話しかけた。 「変態オオカミ少年に闇堕ち大好き少女…そしてそこの狂犬…よくもまあこんなに変人ばかり集めたものです。」 ネオデスモンは一度消え、二人の背後に再び現れる。 「無量塔…まさかあなたに命を狙われるとは…全く予想外ですよ。」 影は手を楽音へと伸ばし、そこに目を開き話続ける。 「楽音、彼を信用しないほうがいい。無量塔は黒曜将軍の一件の際に私たちイレイザー軍に肩入れしていたのですよ?彼は君が思うよりよっぽど”こちら側”です。」 「無量塔さん…本当なの?」 無量塔は何も答えなかった。 「そもそも楽音、君は安易に人を信じすぎる。だから私に”選ばれた”。そのことの意味をよく考えるべきですよ。」 「上位存在気取りもいい加減にしろ。サンドリモン!」 「マリッジストライク!」 楽音に語りかけるため、無量塔から意識が逸れていたネオデスモンを、サンドリモンはガラスの靴で突き刺さんとした。 「はぁ…気取っているのではない。私はそれだけの力を持っている。事実、君の攻撃は私に通じなかった。」 それを避けようもせず、彼はただ空を切る攻撃に対し視線を向けていた。 「プリズムデイトブレイク!」 崩れた岩を吹き飛ばした光条も、ネオデスモンにはなんら有効打とはならない。 「だから通じないと言っているだろう?君達狂犬には首輪が必要らしい。」 無量塔とサンドリモンの影から大量の触手と鎖が伸び、二人を縛り上げた。 「アルゴモン、ミミックモン。彼らをしっかりと押さえておいてください。私は楽音と話がしたい。」 楽音は腕輪へと手を伸ばしていた。 「私をどうしたいの」 「…君は私が選んだヒロインだ。私が描いたシナリオ通りに動けばいい。これまでも、これからもね。」 「あなたの思い通りに私はもうならない!」 「suppression program has been interrupted. Reactivation in 3 minutes.」 左腕の一撃がネオデスモンを襲う。彼は先ほどと違い、上体を逸らしてそれを避けた。 「どうだか。何をしようと君のシナリオは私の掌の上。君には私が創る美しきエンディングが待っている。苦しみと悲哀に満ちた終焉が…!」 「人の終わりを決めるなんてことは何者にも許されない!何者にもだネオデスモン!」 「無量塔…心にもないことを言うのはやめろ。それに…私は何者でもない。」 「どういうこと…なの。」 楽音の攻撃の手が止まる。 「私の中身はただのジャンクデータ。そこにスピリットが偶然融合して自我を持ったにすぎません…」 攻撃の手が止まっているのをいいことに、ネオデスモンは楽音のすぐ側にまで近寄っていく。 「私はあらゆる世界の断片的なデータからできています。だから私の中にはうっすらと存在しているのです。わずかな、しかし様々な記憶が…!」 「ジャンクデータ…記憶…?」 「それらは自分の物語の続きを求めていた…だから私は様々な人間の物語を愉しむことにしたのです。それなのに…見ても見ても満たされない!あんなつまらない劇じゃなく!最高に面白い喜劇、悲劇!惨劇!!私はそれらを求めている!」 「だから…私達に…?」 「ええその通りですとも。ダークネスローダーがあれば、私が物語を監督できる!」 「ふざけるな!何が監督だ!」 いつの間にか拘束を抜け出していた無量塔に続いて何か言おうと楽音が口を開くと、それを遮るように甲高い声が響いた。 「ネオデスモンサマ!じかん来た!」 「おっともうそんな時間でしたかプヨモン…」 「時間?なんのことだ」 「お気付きになられませんでしたか?ここの部屋の仕掛け。」 「仕掛け…?」 「この部屋に長居をするのは禁物なんですよ。水が急に溢れ出し、逃げようとしてもすでに出口は閉じている。水責め…というわけですね。では、頑張ってお逃げください」 プヨモンと共にネオデスモンは影の中に消えた。 水は楽音の膝あたりまで迫っていた。 「まずい、確かに元来た道が閉じている…別の出口を探すか」 無量塔は水をかき分けながらどこかへ向かった。 「この腕なら!」 楽音は左腕を振るって扉を破壊しようとしたが、傷はついても人が通るどころか、水が流れ出ることができるような隙間すら作ることはできなかった。 水はすでに胸の高さを越え始めていた。 彼女は異変に気づいた。体が浮かない。それどころか、左腕は鉄球でも付けられているかのように沈んでゆく。 必死に藻掻いても体は浮き上がることなく、水面は遠のくだけだった。 (息が…もう…!) 視界が暗くなる。彼女の意識はすでになかった。 ───────── 「────ゲホッ、ゲホッ!う…おぇ……」 楽音は泡立った水を吐き出した。 「無事…ではないかもしれないが、とりあえず息を吹き返したようだね。」 「む…無量塔さん?……水…引いてる?」 彼女はあたりを見回した。 「排水の仕掛けがあったんだ。作動させてから戻ってきたら君はすでに溺れていた。死んだかと思って焦ったよ」 「…先を急ぎましょう。」 楽音はふらふらと立ち上がり、歩き出した。 ────────────────── 「あれ?みんな?」 愛狼は辺りを見回した。彼はさっきまで居た大広間ではなく、大きな傾斜のある坂のような通路に居た。 『どうやらトラップを踏んでしまったようだアロー。』 「マジかぁ…どうしようシャドウ…」 途方に暮れる愛狼。そんな彼の背後から声が響く。 「愛狼君…君は自分の使っている力が、自らに害をなすものだったとしても戦えますか?」 『構えろアロー!』 Dスキャナを取り出す愛狼。しかし、彼は進化できなかった。 「どうして!?」 『相互反応とやらのせいか…!』 「自分を犠牲にして敵を撃ち倒す覚悟がありますか?」 背後の松明によって長く伸びた愛狼の影は、音もなく立ち上がった。 「昔話をしましょう。」 「誰が悪者の話なんか…!」 愛狼はDスキャナに手をかざし無理やり進化しようとした。 「やめておいた方がいい。相互反応でスピリットに軽いエラーが起きています。私のようになっても…知りませんよ。」 『今のあいつからは戦う意志を感じられない。スピリットの調子が悪いのも事実だ。ここは従っておこう。』 愛狼は渋々といった様子でDスキャナを下ろした。 「懸命なご判断に感謝いたしますよ、エンシェントシャドウガルルモン。」 『………』 「さて…どこから話しましょうか…そうですね…かつて危機に瀕していたこの世界…それを私は救ったのです!」 「は…?」 まさに信じられないと言った感じの反応。 「私がまだ”広瀬夕真”と言う名の人間であった頃。私は死のスピリットを使い戦っていました…私は選ばれし子供だったのです!」 「待てよ!じゃあなんでそんな姿に!?どうして悪者なんかに!」 「しかし………激化して行く戦いの中、共に戦っていた仲間は皆死んだ!」 愛狼の疑問に答えず、ネオデスモンは演説するように続けた。 「成正…彩女…ルイ…識乃…仲間達の使っていたスピリットを全て取り込み、私は敵に立ち向かった…!私の記録…身体…全てを道連れにし敵を消し去った!…そうして私は死んだ。仲間のところへ行くはずだった…!」 影は愛狼達の目の前から姿を消した。 「だが、この体に馴染みきった死のスピリットがそれを許さなかった…」 背後から聞こえた声に彼は驚き振り返った。 松明の灯の下、陽炎か何かであるかのように揺れるネオデスモンの姿。それはただの影同様、光を当てればすぐに消えてしまいそうでもあった。 「私が次に目覚めた時…私の体はすでに存在しなかった!なのに目覚めてしまった!」 ネオデスモンの目が、震えるように彼の身体中を這い回る。 「スピリットのせいで…!?」 『まさか…そんなはずは…』 「私はなんとか体を取り戻そうと唯一そこに残っていた影のスピリットを再び取り入れた…その結果、異常をきたした影のスピリットは私を純粋な影としてしまった!」 『そんなことが起きるはずがない!Dスキャナを使っていれば人体への影響など…!」 「私たちは全員スピリットを直接体に取り入れ戦っていましたからね…皆何かしら身体に影響が出ていました…それに、話はこれで終わりません。」 ネオデスモンは目を閉じ影へと消えた。しかし、声は相変わらず響いていた。 「影の世界は空虚です。誰にも触れられない…誰にも干渉することのできない…私は世界から拒絶されたのです。しかし…そんな私にデジモンイレイザーが光をくれた…!」 「光…?」 「ダークネスローダーですよ。これがあれば!私は…この世界に再び存在することを許される…」 影の中でダークネスローダーが妖しく光る。 「私は決めたのです。私を拒んだ世界を…私が愉しむための世界にすると!それぐらい許されたっていいでしょう…?」 「それぐらいって…それでお前は楽音ちゃんを…!」 「ええ。彼女の物語はとても美しいでしょう?それより、君は自分のことを気にした方がいい。この先戦っていけば、いずれ私のように全てを捧げて戦わなければならなくなることもあるでしょう…スピリットのせいで体に影響が出るかもしれない…君にまだ戦う気がありますか?」 「………」 『アロー…』 「オレは…オレは戦う…!オレは…ヒーローだから!」 「…英雄という虚像に自らを重ね続けるか…まあ、それもまた…物語の一形態ですね…。では、引き続き宝探しをお楽しみください。」 ネオデスモンはそう言い放って目を閉じ影に紛れた。 「……ダメだ、気配が掴めない…シャドウは?」 『私にも見えない…もうここにはいないようだ。』 その後彼らは二、三会話を交わしたのち、歩き出した。が、 カチリ 「えっ?」 彼の足元の石畳が数ミリ沈み込み、音を立てた。 『まずいぞアロー!後ろだ!』 坂の上からゴロゴロと大岩が転がってきている。 「坂になってたのってこういうことかよ!!」 愛狼は岩から逃げるため走り出した。 「行き止まり!?」 『アロー!進化するんだ!』 「……」 ネオデスモンに対しては啖呵を切ったものの、彼に迷いがないわけではなかった。 『このままだと潰されるぞアロー!』 「…っ!わかってるって!スピリットエボリューション!」 シャドウヴォルフモンは影を伝って岩の後ろへと転移する。 岩が激突した結果壁は崩れ、道ができていた。愛狼は迷わずその先へと進んでいった。 ────────────────── 「…あっ!楽音ちゃん!」 一人遺跡を進んでいた愛狼。彼の目に二つの人影が映った。 「なんで二人ともそんなびしょ濡れなの…」 「えへへ…ちょっと…ね」 再会した彼らの足元の床が、不意に盛り上がり崩れた。 「うわぁぁぁ!?」 「いったぁ…あれ?愛狼に楽音じゃん」 「ウムちゃん…なんで?」 「重力反転のトラップ踏んじゃって…」 「ふむ…全員集まった…偶然だろうか?」 「確かに、この広そうな遺跡で偶然みんなが再会するなんて、不自然かもね。」 無量塔の呟きを、有無は聞き逃さなかった。 「…私たち、ネオデスモンに会った。やっぱりあいつ、私たちには何かさせる気だ。」 「本当に!?オレも会った!」 「ウチらもだよ!」 楽音の発言に、愛狼とツカイモンが驚きを隠せない様子で答えた。 ───────── 「えっとー…つまりオオカミくんはネオデスモンが元々人間でスピリットを使って戦ってて世界を救ったって話をされて、ツーくん達はネオデスモンが元々弱いデジモンでスピリットを使ったせいでああなったって話をされたってこと?」 楽音の発言に二人は頷く。 「それで、楽音はアイツがジャンクデータにスピリットがくっついてできてるって話をされたんだよね?」 「うん…」 今度は有無の言葉に楽音が頷いた。 「共通点は死と影のスピリット程度か。」 「愛狼はどれが本当だと思う?」 「…わからない。でも、オレにあの話をしてる時のアイツの様子…嘘だとは思えなかった。」 「君はネオデスモンの言葉を信用する気か?」 「そうじゃないけど…」 「本人に直接聞けばわかるよ。どれが本当なのか、それとも全部嘘なのか。」 口籠る愛狼を見て、楽音はそう言った。 「ボクもそう思うな。アイツが埋蔵金のあるところに誘導してるのは確かだと思うし、多分そこにアイツもいる。だったら直接聞くのが一番手っ取り早いよ。」 それに有無も同調する。 「行こう、みんな。」 一行は再び、遺跡の中を進み始めた。 ───────── 一方それと同じ頃。 先ほど楽音たちが通ったのと同じゲートの前に人影があった。 「これ…ブラストモンの結晶に似てますわね…」 門前の小競り合い後に残った黒い結晶を拾った彼女は、周囲を見回す。 「にしてもこれ…完全に置いていかれましたわね…」 虚空蔵優華子。彼女もまた、ネオデスモンと因縁を持ちしものである。 「待っていなさいネオデスモン!今度こそわたくしがボッコボコにしてあげますことよ〜!おーっほっほっほ!!」 ━━━━━━━━━おまけ━━━━━━━━━ 以下の情報はネオデスモンが語ったことの詳細であり、事実であるのかは不明。 ━━━━━━━━━ The Selected Five 裏十闘士や影十闘士のスピリットを手に、世界を守るため戦った子供達。 Dスキャナを使用せず、スピリットを直接取り入れることでスピリットエボリューションを行っていた。そのため負荷が大きく、それが原因で死亡したメンバーも存在する。 影 影宮 成正(なりまさ) とある財閥の会長の次男だった。高校生。兄は財閥を引き継ぐ事を周囲から期待される一方、自分は兄と比べて何もかも劣っているという鬱屈した思いを抱えながら育つ。 そんな思いと影のスピリットが共鳴し、選ばれし子供となった。 友真と共に最終決戦まで生き残ったが、その戦いの最中に死亡。自分の持っていたスピリットを全て彼に託し、消滅した。 スピリットの長期使用により、無意識に暗いところを好むようになっていた。 妖 大石 彩女(あやめ) 俗に言う所の厨二病の女子だった。中学生。ぬらりひょんの娘を自称しており、妖のスピリットを手にした際には舞い上がっていた。 しかし、本心では戦いなど望んでおらず、ただ普通に暮らしたかったと思っていた。戦いを重ねてゆく内その気持ちが大きくなり、戦闘を避け、仲間たちの後ろに隠れるようになる。 その結果、仲間たちがダブルスピリットエボリューションに覚醒する中、一人だけ戦力的に取り残されてゆく。 しかしある戦いの際、仲間たち全員が戦闘不能になるという事態が発生する。彼女は覚悟を決め、ついにダブルスピリットエボリューションに覚醒した。 だが、長く戦いを避けスピリットを使用していなかったその体には負荷が過剰であり、最終的に敵と刺し違える形で死亡、消滅した。 この出来事は残された仲間達にも大きな衝撃を与えることとなる。 呪 矢口 ルイ フランス人と日本人のハーフの少年。高校生。幼少期をフランスで過ごし日本とは縁の薄い生活を送っていたが、親が離婚。 彼は父親と共にフランスに残ることを望んだが、母親が無理やり日本へと連れ帰った。 途中から入った小学校では日本語が不自由なこともあり、周りから浮いた学校生活を送る事になった為、実母を怨むようになる。 そんな歪んだ感情が呪のスピリットと共鳴した結果、彼は5人の中で最も強い力を持つ戦士となった。 識乃は彼の従姉妹であり、デジタルワールドで初めて出会った。最初は母方の親戚ということもあって険悪なムードだったが、戦いの中で惹かれ合っていく。 識乃が死んだ際、識のスピリットは彼が引き継いだ。 敵の本拠地に至る戦いの際、友真と成正を先に行かせ、自らは足止めをする事を選んだ。最初から識乃の後を追うつもりだったらしく、4つのスピリットを取り込み敵軍を壊滅させたが、過負荷により死亡。 消滅した後、スピリットは友真と成正の元へと飛んでいった。二人はそれにより、彼の死を察した。 スピリットの長期使用により、憎悪を押さえ込むことが難しくなっていた。 識 矢口 識乃(しの) 平凡な日々を送っており、その平凡な生活に満足していた少女。小学校高学年。 識のスピリットに選ばれた理由もわからず、戦いに身を投じることに対し躊躇しなかった仲間達に軽い恐怖感すら抱いていた。 しかし、ルイとの交流を通じ、だんだんと覚悟を決めていった。 同性ということもあり仲を深めていた彩女が戦いを拒み始めたのとは対照的に、夕真の次にダブルスピリットエボリューションに覚醒する。 彩女が死んだ際彼女は深く動揺し、スピリットを使うことができなくなってしまう。それでも無理やり戦おうとした彼女はスピリットを悪へと変質させてしまい、暴走する。 ルイは暴走を止め彼女を救おうとしたが力及ばず、最終的に夕真が彼女に止めを刺す形になってしまった。 スピリットの長期使用により、図書館のデータベースの内容を夢に見るようになっていた。 死 広瀬 夕真(ゆうま) 自殺未遂を繰り返し入院中の少年。高校生。人生はつまらない日々をただひたすらに繰り返すだけだという考えから学校の屋上から投身自殺を図るが、一命を取り留めてしまう。 しかし、入院中の日々は彼にとってイレギュラーなものであったことから、入院することを目的に自殺未遂を繰り返すようになる。 何度も死に近づいたことで死のスピリットと惹かれ合い、選ばれし子供となる。 デジタルワールドでの戦いの日々は彼にとって非常に刺激的なもので、戦いを純粋に楽しんでいた。 しかし、仲間が一人、また一人と死んでいったことで考えが変わり、つまらない日々を繰り返せることがいかに贅沢であったかを思い知った。 最後には一人生き残ってしまい、危険を十分承知しながらも死、影、妖、識、呪のスピリットを全て使い「カムドモン」へと進化した。 己を全て燃やし尽くすことを代償とし、彼は敵を空間もろとも破壊し尽くし滅ぼした。 しかし長きに渡る使用によってか、魂と深く結びついた死のスピリットは彼を死なせることはなく、幽霊のような状態に変化させてしまう。 その状態をなんとかするために彼は残留していた影のスピリットと融合したが、イレギュラーな状態の体に複数のスピリットを取り込んだことによりエラーを起こした結果、彼は影の中に閉じ込められてしまう。 永遠にも感じられる世界からの拒絶は彼の性格を歪めた。 デジモンイレイザーに与えられたダークネスローダーの力により、彼はこの世界へと帰還し、自らを”死影将軍”嗜劇のネオデスモンと名乗るようになった。 なお、これらの出来事の記録はカムドモンが敵を滅ぼした際に巻き添えとなって世界線ごと消滅してしまい、どこにも残存していないようだ。 また、よく似た広瀬友真という少年の存在がある世界線で確認されているが、Dスキャナを所持しており、仲間に死者が出ていないなどいくつかの差異が存在している。 カムドモン 究極体・神人型・ヴァリアブル 裏十闘士や影十闘士のスピリットを5属性分集めることで顕現するとされるデジモン。 かつて神が怒りのままに振るった剣の名を冠しており、世界すら揺るがす強い力を持つ。 穢れを強く嫌う性格であり、正義も悪も構わずに自分が穢れているとしたものを消し去る。 神のようなその力を完全に引き出すためには、生贄を必要とする。 ━━━━━━━━━ ディープゾーン ガベッジエリアの奥底、ダークエリアに程近い領域に存在する空間。 ここには代謝によってデジモンや人間から排出される断片的な構成データや記憶データなど、デジタルワールドのあらゆる情報が流れ着く。 ダークエリアに近い影響で、並行世界からもそれらのデータが流れ着くことがある。 原初の海の雑多な成分の中から偶然に原始的な生命が生まれたように、ディープゾーンの雑多なデータは無造作に融合していった。 裏十闘士が封印され、影十闘士が市井に紛れ忘れ去られてゆく中、彼らのスピリットもまた散逸していった。 無造作に融合したジャンクデータに流れ着いたスピリットが融合することにより、それらは意思を持ち始めた。 しかし、デジモンでも人間でもない存在に融合したスピリットはエラーを起こし、それらを影の中へと転移させた。 その後、デジモンイレイザーに与えられたダークネスローダーの力によりそれらは世界へと降り立ち、”死影将軍”嗜劇のネオデスモンと名乗るようになった。 なお、ディープゾーンはガベッジエリアの奥底にある影響で到達も脱出も非常に困難と思われ、観測も未だされていない。存在を語ったのはネオデスモンのみである。 ━━━━━━━━━ カラモン 殻で自らの体を守るスライム型デジモン。幼年期。 攻撃能力はなく、殻の中身も柔らかく捕食されやすい。敵を早期に発見して避けるため一つ目が大きく発達している。 身を守るための殻も成熟期デジモンの攻撃で簡単に破壊されてしまう。 発電能力を得たカラモンの一部はプヨモンへと分岐していった。 ネオデスモンによると、カラモン自体は捕食されやすさにより数を減らし、現在では絶滅したらしい。 元から生息数も少なかったようで、現存する記録はない。