あたいの名はラブリーデビモン。三代目日竜将軍に抜擢されたネオデスジェネラルの一人さ。 先代様も先々代様もどこぞの馬の骨相手に不覚を取ってやられたみたいだけど、あたいなら戦う相手の技量を見誤って返り討ちに遭うなんてそんなヘマはやらかさないね。 とは言ったものの、新生日竜軍はまだ出来たばかりで戦力的には心許ない…そこで戦力の増強を図って遺跡に眠るという財宝の採掘にやって来たというわけさ。 ……ちょいと待ちなよ。あそこに居るのは先代様に仕えていた奴らじゃないか。って事はあの料理の仕込みか何かやってる女が先代様を倒した奴だってのかい。 今ここで事を構える気はないが、幸い奴らはあたい達の存在に気付いていない。あたいのラブリープワゾンなら当たれば一撃で葬れる。不意討ちで一発殴って倒す事が出来れば儲けもん…駄目なら即撤退。これで行こうじゃないか。そうと決まれば善は急げだ。 …………女が居ない。一体どこへ行った? 「もし?」 背後から突然声を掛けられた。あたいが振り返ってみればそこにはその女が居た。 …いつの間に移動した?転移能力でも使ったのか? 「殺気の様なものを感じたから来てみれば…………お客様なら歓迎致しますが、そうではないみたいですわね」 ああ、そうだよ!だが一手遅かったな! あたいのラブリープワゾンが決まった。この戦い、あたいの勝ちだ! …だけど何かおかしい。あたいのラブリープワゾンを纏った拳は確かにこの女を捉えて………いや、捉えてなんかいなかった。まるで蜃気楼でも掠めたかの様にあたいの拳は空を切っていた… 理解が追い付かず隙を作っちまったあたいは飛んで来たヤクザキックを躱し切れず諸に食らってしまう 。 クソッ!こんなのありかよ…何度試みてもあたいの攻撃は文字通り暖簾に腕押すが如く効果が無いってのに奴の攻撃は当然の様にあたいにヒットしやがる…… あたいの身を案じた部下達が加勢しようとやって来る。来るんじゃないよ!見てただろ、こいつの理不尽な戦い方を…あんたらでどうにかなる様な相手じゃない。 分が悪いし一旦退く事も考えた。でも突然消えては現れてなんて事をやってのけるこの女から上手く逃げおおせるのか?部下を守りながら?ならここで背を向ける行為はむしろ悪手って奴だろうさ。 こんなところで使いたくはなかったけど、イレイザー様から授かったアレを使うしか無さそうだね、これは… 実体があるのか無いのかよくわからん相手には実体があるのか無いのかよくわからん奴で殴る!あたいはイレイザー様から与えられたダークネスローダーとムーンミレニアモンを手元に召喚した。 「デジクロス!!」 あたいの両手がムーンミレニアモンの頭部を模した手甲に覆われる。 これならどうだ!?あたいは渾身のパンチを女に放った。 女は姿を消す。躱された!?…だがこれは好機だ。今まであたいの攻撃に微動だにしなかったあの女が明確に回避という行動を取った。 あたいの行動は当たる!そして当たりさえするなら倒せる。 女が背後に出現、あたいはすかさず拳を放つ。女はこれを躱すだろう。だがそれで良い。今あたいの放ったパンチはフェイントだ。次に奴が現れたところにラブリープワゾンを纏った拳をあのムカつく顔面に叩き込んでやる!それで決着だ。 ______________________________ ……と、この方が考えているのはわかっていますわ。ここは敢えて術中に嵌ったと見せかけて… ______________________________ 両者の戦いは拍子抜けするほどに呆気ない幕引きとなった。 冥梨栖が姿を消した次の瞬間、ラブリーデビモンは拳を自らの体に突き立て、そして事切れた。 まさに必殺とも言える技は己をも蝕み、命を奪ったのだ。 倒れたラブリーデビモンの体から青紫色の靄の様なものが吹き出した。靄はやがて人の形を為していき冥梨栖へと姿を変える。 「甘いですわよ」 さっきまでラブリーデビモンだったものを見下ろす冥梨栖が乱雑に蹴りを入れた。 それを見ていた現・日竜軍のデジモン達は暫し唖然としていたが、すぐに怒りの感情を冥梨栖へと向ける。 今回の将軍様は随分と部下から慕われてますのね。前任者とは大違いですわ。などと思いながら冥梨栖はラブリーデビモンの配下達に背を向け歩き出した。 「敬愛する将軍様から直々に手を下していただけるんですもの。本望ですわよね…」 冥梨栖が呟くと同時に倒れていたラブリーデビモンがムクリと起き上がる。将軍が生きていた事に現・日竜軍の面々が歓喜したのも束の間、突如ラブリーデビモンは必殺技の『ダークネスハザード』を自身の配下達に向かって放ち、手近な場所に居た者数名を跡形も無く吹き飛ばした。 驚きを隠せない日竜軍団に向かってフラフラと歩みを進める日竜将軍。その顔が何やら歪み始める。 ラブリーデビモンの顔は次第に形を変え、魔獣型デジモン…ギュウキモンのものへと完全に変化した。 少女の霊の傀儡に成り下がってしまったかつての日竜将軍がけたたましい咆哮を上げる。 その後、採掘場内では悲痛な叫びが幾重にも木霊したという……