「ん〜…」 カーテンのスキマから差し込む日差しで目が覚める。 「…もう朝かぁ」 うん、スッキリとした目覚めだ、やはりベルフェモンを枕元に置くとよく眠れる。 あとは…勝手に寝床に潜り込んでいる方だ。 「うふふ、おはようマコト」 「…」 寝床に潜り込んで隣で勝手に寝ているのは別に良い、問題なのは私の服が乱れていることだ。 胸元は大きく開かれ、スカートも下着が見えるまでずり下げられている。 「ふふ…良かったわ…」 何が「良かった」のかはあえて聞かないでおく、というか何度行っても止めようとしないな… よし 「リリスモン」 「なぁに?んっ!?」 寝ている間に一方的に身体を弄ばれたままというのも癪なので、反撃としてリリスモンの唇を奪う。 強引に舌をねじ込んで、数回ほど彼女の口内を舐め回す あとはリリスモンが呆けている間に顔を離して 「…おはよう」 それだけ告げて、寝室を後にした。 ─ 「あむ」 バルバモン、リリスモン、あとは未だに眠り続けるベルフェモン 今「表」に出てきているデジモンたちと食卓を囲み、朝食を食べ始める。 「あれ?『暴食』サンは?昨日は居たわよね」 リリスモン、彼女はこうして他の七大魔王達を、その冠する罪の名で呼ぶ癖がある。 あだ名、みたいなものだろうか。 「まだデジヴァイスの中で寝てるよ、遅くまで飲んでたみたいだから」 「ワシも付き合っておったが、まぁ途中で切り上げたよ、彼奴の底なし沼にはかなわんわい」 「バルバモンはみんなの朝ご飯準備してくれてるもんね」 「うむ、老体に夜ふかしはこたえるわい」 バルバモン、彼はデジモン図鑑に記載されているような強欲で残忍な性格はどこへやら、好々爺と言った風だ。 その理由は私のほうで『強欲』の罪は完全に達成されていて、自分にはやることが特に無いから、らしい。 「『傲慢』サンはいつもの朝トレ?」 「ワシが起きた時にはもう出ておったわい、そろそろ帰ってくるころじゃろ」 噂をすればなんとやら、ガチャ、という音と共にドアが開く。 「やぁ、戻ったよ皆」 羽根を畳み、ジャージ姿になったルーチェモンが帰って来た。 彼はこうして毎朝の走り込みを日課としている。 体を動かしていないと鈍るとか、筋肉には毎日のトレーニングが欠かせないとか言う理由らしい。 他のデジモンなら進化に自身のトレーニングが関わるだろうが、別に七大魔王への進化に筋肉は関係ないと思う。 「おはよ、朝ご飯出来てるよ」 「おはようマコト、ボクは先に軽く汗だけ流してくるよ」 「うん、わかった」 まぁ、これらが毎朝の光景と言ったところだ。 ─ さて、とりあえず今デジヴァイスから表に出てきているのはこれで全員かな。 食後のお茶でも飲みながら、今日の予定を確認しよう。 私達がこの町に来ているのは、付近にある古代デジタルワールドのものとされる遺跡の調査のためだ。 遺跡への立ち入り許可はもう貰ってある。 というか、思ったよりもあっさり許可が出て拍子抜けした。 ─あの遺跡?好きに入ってえぇよ ─でもあそこはもう目ぼしいものは残ってないさね ─殆ど掘り尽くされて、奥の方なんて崩れかけさぁ ─危ないからあまり奥の方には行かない方がいいさね この町で取りまとめ役をしているボコモンに話をつけに行ったら、こんな風に二つ返事で許可が降りてしまった。 ─昔はこの町には遺跡の発掘調査のためにたくさんのデジモンや人間で賑わっていたさ ─でもあらかた掘り尽くされてからは人は減る一方、今ではすっかり寂れちまったさね ─今日はもう遅いからここで一晩過ごすといいさ、あそこの空き家を好きに使うといいさね 私達が一晩過ごしたこの家は、ボコモンの好意で用意してもらったものだ。 おかげで私達は久々にまともな屋根のある場所で眠ることができた。 「よし、そろそろ出発しようか、皆」 そう告げると、ルーチェモン以外一斉にデジヴァイスの中へと戻って行った。 …どうやら皆歩きたくないらしい。 ─ 「……ふぅ」 町からだいぶ歩いて、ようやく目的地が見えてきた。 地図上では大した距離ではないが、山道だとやはり時間がかかる。 隣を歩くルーチェモンは普段鍛えてるだけあって全然平気そうだ。 「マコト、はいお水、入る間に休憩してから行こう」 「そうだね、ありがと」 ルーチェモンから受け取った水のボトルに口をつけ、適当な木陰の石に腰掛ける。 「今回の遺跡は『当たり』だといいね」 「うん、この前のは酷かった…」 デジタルワールド各地にあるこういった遺跡には「当たり」と「ハズレ」がある 前者は本当に古代デジタルワールド時代の遺跡だが、後者は現実世界から流入してきた、現実にある遺跡のスキャンデータなんてことがザラにある。 見かけは紀元前くらいでも、デジタルワールドにそれが出来たのは数日前なんてこともあるのだ。 特にこの前行ったところは酷く、住み着いたデジモンたちがあちこち彫り抜いて棲家にしていた。 そうして出来上がったのが全身穴だらけで蜂の巣の様になったピラミッドだ。 当然私の求めるような歴史的資料などなく、無意味に砂漠を歩き回っただけで終わった。 「砂漠はしばらく御免かな…」 「あの時の悲嘆に暮れたマコト、普段見ないような顔してたよ」 「そんな顔してた?」 「うん、ベルフェモンの眉が少し動くくらい」 「…そんなに?」 そんな他愛のない会話をしながら、短い休憩時間は過ぎていった。 ─ 休憩を切り上げて再び歩き出し、しばらくしたところで目的の遺跡へとたどり着いた。 入口は山肌に出来た洞窟と言った風で、入口の各所にあるデジ文字から現実世界からの流入データではないのは解る。 他の箇所と明らかに違う素材で出来た梁や柱は、発掘調査のため後から付けられたものだろう。 「…確かにもう何もなさそうだね」 ざっと見回すが、ボコモンの言う通り目ぼしいものは何も無い。 何かあるとしたらもっと奥の方だろう。 持ってきた懐中電灯で奥の方を照らすが、これでは明るさが足りない。 「ルーチェモン、明かりお願い」 「うん、いいよ」 ルーチェモンが頷き、必殺技の『グランドクロス』…を構成する光球のうち1つを呼び出す、出力を最大限絞って。 光球1つだけで周囲一体が一気に明るくなる、光の色も相まってまるで天井に電灯でもあるみたいだ。 「ありがとルーチェモン、進もっか」 ─ コツ、コツと洞窟に足音が響き渡る。 ルーチェモンは浮いているから音は私一人分だ。 先に進むにつれてある程度整備されていた天井も、徐々に洞窟の岩肌が直に出てくる。 崩落の危険が出てきてからは、皆これ以上先には進んでいないのだろう。 「おっと」 少し前方の天井から小さめの岩、と言うより大きめの石?くらいの石が降ってくる。 「…崩れかけっていうのは本当みたいだね」 「あまり長居はしないほうが良さそうだ」 「そうだね…少し急ごう、ルーチェモン」 急ぎ足で遺跡の最奥へと向かう。 程なくして、行き止まりへとたどり着いた。 「…ここだけ壁が平坦だ」 今までむき出しの洞窟そのものだった壁面が、行き止まり部分で真っ平らになっている。 私の言葉に応じて、隣を歩くルーチェモンが明かりを壁に向ける 「これ…ただの壁じゃない、壁画だ」 壁画に彫り込まれたこの絵、どこかで見覚えがあるような? 「『大罪の門』…」 オグドモン、彼と出会ったときに一緒にデッキに入っていたカード、大罪の門。 それとこの壁画が酷似している。 デッキごとどこかへ消えてしまったから見比べることはできないけれど、はっきりとカードの絵柄は覚えている。 壁一面に描かれた大罪の門を見つめていると、ふとあることを思いついた。 「ねぇルーチェモン、これが『門』だとするならこの奥、まだ続いてそうじゃない?」 「だとしても、この崩れかけの天井でどうやって掘り進める気だい?」 「……そうだね、ちょっとそこまでは考えてなかった」 瞬間、ルーチェモンが満面の笑みになり言う。 「なんて、ね、実はボクにちょっと考えがあるんだ」 「そのためにはまずボクを進化させてよ」 「うん、解った、私は今のとこ何も思いつかないし」 デジヴァイスを白衣のポケットから取り出し、前方に構える。 「ルーチェモン…虚栄進化(プライドエヴォリューション)!」 デジヴァイスに刻まれた七つの紋章の内の一つ、傲慢の紋章が光り輝く。 その光はルーチェモンを包み込み、彼の真の姿を発現させる。 ─ルーチェモン:フォールダウンモード ウイルス種 完全体 魔王型 「フッ!」 『ダブルバイセップス』 光が収まったとき、最初に視界に入ったのは、ボディビルのポージングを決めるルーチェモンだった。 …初めて彼が進化したときにはこの光景には面食らったが、流石に見慣れてきた。 ─フッ!ハッ!見給え!私の一切の虚飾のない鍛え上げられた肉体を! よりによって『傲慢』の罪を冠するルーチェモンが虚飾を否定するなんて意味不明な光景を目の当たりしたあの時は頭を抱えたものだ。 「ハッ!」 『サイドチェスト』 次々とポージングを繰り出すルーチェモンに付き合っていてはいつまで経っても終わらないので、強引に話を進めることにする。 「それで、考えって何?ルーチェモン」 「おっと、私としたことが己が肉体の披露に夢中になっていたよ」 「私の『デッド・オア・アライブ』を使う」 「え?」 ルーチェモンの必殺技『デッド・オア・アライブ』は確か魔法陣内に閉じ込めた敵を完全消去するか大ダメージを負わせるかを二分の一で決める攻撃だったはずだ。 それをどう使うと言うのだろう 「『デッド・オア・アライブ』を使いこの扉を壊す、その衝撃でここが崩落するか、しないかを二分の一で決めるのさ」 拡大解釈というか、それって何かが違わないだろうか 「…それ、そんな効果の攻撃だったっけ?」 「フッ、やろうと思えば何でも出来るものさ」 「…」 「さて、どうする?勿論『ハズレ』の方を引けば私達は生き埋めだ」 とは言え私に特に代案はない、無論引き返すという選択肢も。 「よし、決めた、やっちゃってルーチェモン」 「任せ給え!『デッド・オア・アライブ』!セイヤァァァァァァァ!!!!」 両手に作り出した「聖」と「魔」の光球。 本来であればこれを使い魔法陣を作り出すはずなのだが、ルーチェモンはそれを拳で握ったまま両の拳を叩きつけた。 「チェストォォォォォォォ!!!!」 拳を叩きつけた箇所から壁…いや、扉にヒビが入っていく。 その衝撃で天井からポロポロと大小入り交ざった岩が降ってくるが、ギリギリのところでとどまっているのか完全に崩れることは無い。 「チョアァァァァァァ!!!」 トドメの一押しで、扉に人一人分くらいの穴が開通した。 天井の崩落も同時に収まっている、おそらくは成功、だろうか。 「フフッ…朝飯前と言ったところかな」 ルーチェモンが退化しながら言う、進化状態ではあの隙間は通れない、子供が通れるくらいの大きさだ。 「さぁ先に進もう、マコト」 「うん」 ルーチェモンが差し出した手を取り、私達は「大罪の門」の奥へと向かった。 ─ 「これは…」 「門」を抜けた先には、もう一枚同じくらいの大きさの壁画が描かれていた。 そこに描かれていのは。 「オグドモンだ」 私のデジヴァイスに表示されているデフォルメされた姿ではない、本来の超魔王の姿 その姿が壁面一杯を使い描かれていた。 その周りに書かれているのは…デジ文字だ。 「全ての罪を束ねる超魔王、オグドモン。彼の者ははるか地の底より突如として現れ…」 壁面に書かれたデジ文字を解読しながら読み上げていく。 その内容はこうだ はるか昔のデジタルワールド、そこにオグドモンがダークエリアの奥底より突如として現れ、デジタルワールドで神様として崇められる「イグドラシル」へ攻撃を仕掛けた。 対するイグドラシルは自身の配下「ロイヤルナイツ」でそれを迎え撃ち…死闘の末オグドモンはダークエリア最下層、コキュートスへ送り返され封印された。 オグドモンがイグドラシルへ攻撃を仕掛けた理由は今でも解っていない。 というのが壁画に刻まれた文だ。 「…ねぇ、オグドモン、ここに刻まれた文章って事実?」 デジヴァイスの奥底で眠る「張本人」に聞いてみる。 ─あぁ、そうだ。 「ふぅん…それで、なんでイグドラシルとやらに喧嘩売りに行ったの?」 ─…… 答えはない、そしてデジヴァイスの画面からオグドモンが消える 沈黙が回答、話したくはないと言ったとこか。 ルーチェモンの方を見るが、無言で首を横に振る、知らないらしい。 「マコト、そろそろここを出よう、さっきから天井から岩が降ってくる頻度が上がっている」 今まで「門」に封じられていたこの空間をこじ開けたことで、遺跡内部の空気が一気に入り込んできている。 その刺激で全体の崩落が進んでいるのかもしれない。 「…そうだね、ちょっと急ごうか」 スマートフォンを取り出して壁画の撮影だけ済ませ、足早に脱出を始める。 入ってきた隙間ををくぐり、オグドモンの壁画の間から出る。 そこから少し歩き出したところで、後ろから大きな音がした。 「…壁画が完全に崩れてる」 「危ないところだったね、あれ以上長居したら『オグドモン』と一緒に生き埋めだ」 「それは流石に御免かな、おっと、まだ崩れてきてる」 立ち止まっている余裕はなさそうだ。 二人で駆け出すが、それよりも早く崩落の勢いが増している、これは流石に不味いか…? 「マコト!捕まって!」 ルーチェモンが私を抱え、羽を広げ遺跡内を飛翔する。 『グランドクロス!』 天井から降ってくる岩を破壊しながら、遺跡の入口まで一気に駆け抜ける。 ルーチェモンに抱きかかえられたまま後ろを覗いてみると、後から舗装された部分とそうでない部分の境目で崩落がちょうど止まっていた。 …私達がここに来るのがもう少し遅かったら、あの壁画は見れなかったかもしれない。 まぁ、命を張った価値はあっただろう。 そのまま飛び続け、遺跡のある洞窟の入口まで着いたところで、ルーチェモンが私を下ろす。 「っと、…ありがと、ルーチェモン」 「ふふっ、スリリングな洞窟探検だったね」 「うん、オグドモン本人は何も教えてくれないし、それに…」 オグドモンと共に記述があった、デジタルワールドにおける「神様」らしき存在 「『イグドラシル』か」 デジタルワールド、この世界の根源たる部分に一歩近づけたような、気がする。