━━━━━━━━━ 「さて、ハンギョモン。裏切り者の貴様に問おう。自らの行為を恥じ、再びデジモンイレイザー様のために戦う気はないか?」 私は鎖で拘束されたハンギョモンに声をかけた。 「断る…!俺はデジモンイレイザーに仕えてたんじゃない!オキグルモン様にお仕えしていたんだ!貴様に水竜将軍の名は重すぎる!」 「そうか…ならば、裏切り者の辿るべき末路はたった一つ。」 ハンギョモンの首を右手で掴み、持ち上げる。 「やめろっ…放───── 私の腕に近い首筋から、奴の体が凍りついてゆく。 頭が凍り話せなくなっても、足は無様にもがいている。 しかし、それもすぐに凍って不可能になる。 「死だ。」 高熱を帯びた左手による一撃で、ハンギョモンだったものが砕け散る。 ウオォォォ!!!! 我が配下たちの歓声が響きわたる。 「さあ!次は貴様だフロゾモン!貴様もこの痴れ者同様、死を望むか?」 フロゾモンの脚に当たるキャタピラは破壊されていた。捕縛の過程でそうなったのだろう。 「死など怖くはない…!僕は最初から…オキグルモン様のために戦うと決めていたんだ…!」 「そうかそうか…誰か!この私と共に、この裏切り者の始末に協力するものはいないか!?」 手を挙げるものは数多くいる。 「……では、レキスモン!」 「お…俺ですか⁉︎本当に?」 「そうだとも。共に戦おうではないか!ダークネスローダー!デジクロス!」 彼は私の一部となった。 彼の能力を使い、私は氷で作られた矢をつがえ、引き絞る。 「「ペルティアーアロー!!」」 放たれた矢はフロゾモンの体を貫き、コアを砕いた。 私はクロスオープンし、彼に手を挙げるよう促す。 「さあ、皆の者!裏切り者を葬り去ったレキスモンを讃えよ!!」 レキスモンバンザイ!!水龍将軍バンザイ!!!! 割れんばかりの歓声を受けても、満たされることはない。 ───────── 「依頼の完遂ご苦労だった。これは報酬だ。」 「いいのよいいのよ〜裏切りなんて一番重い罪だもんね〜」 このチドリとかいう人間、胡散臭いが役には立ったな。 「後輩によろしく言っておいてほしいデス。」 こっちのデスモンはどうやらあのネオデスモンとかいう外様の将軍の先輩らしい。 ネオデスモン…何を考えているのか、そもそも何者なのかもよくわからない。 七曜外星だかなんだか知らんが、気に入らん奴だ。 二人への支払いを済ませた後、私は拠点に戻った。 公開処刑は水龍軍団の結束を強固なものにするために必要なものだ。 しかし、あれだけの人数を前に美しく処刑を執り行うのは、案外気疲れするものだ。 火竜将軍の下で裏切り者を始末していた頃が懐かしい。 少し眠ろう。 ───────── 翌日。 私は部下を引き連れ街を一つ襲った。支配地域を拡大することもイレイザー様の野望を達成するための足掛かりとなる。 この程度ならば私が出ずとも済む。 燃え盛る街。破壊し全てを抹消した先に、新たな秩序の創造がある。 「住人たちよ!この街は我ら水龍軍団が支配する!デジモンイレイザー様に平伏しろ!」 ───────── 再び拠点に戻ると、そこには見知らぬ人間の少女がいた。 5、6歳ほどだろうか?まだ幼い。どうしてこんなところに… 「誰だ貴様は。」 「わたし……オキグルモン。」 「は?」 耳を疑った。 「…そういう類の冗談は好まない。私が穏やかに接しているうちにさっさと立ち去れ。さもなくば殺す。」 軽く睨みつけると、少女の顔が見るからに曇り出した。 「だって…だってぇ…イレイザーさまがぁ…!」 簡単に泣き出す…これだから子供は苦手だ。 「おやおやおやぁ…いけませんね水龍将軍。子供を泣かせるなんて」 私の背後からニヤついたような薄気味悪い声がした。 「ネオデスモンか。外様の将軍が何の用だ。」 「相変わらずお手厳しい…私はただデジモンイレイザーの指示に従って彼女を連れてきただけですよ…キャッチマメモン、彼女をあやしてあげなさい。」 影から呼び出されたデジモンが、少女を持ち上げ高い高いをしている。 「貴様がアレを連れてきたのか。だったらちゃんと説明してもらおう。」 「ええ。何でもお答えしますよ?ただし、私がわかる範囲で、ですが。」 「アレは何だ?」 「彼女が自己紹介していたでしょう?オキグルモンですよ。」 「しかしオキグルモンは…!」 「デジモンが一人しかいないわけがないでしょう?ましてやオキグルモンはあのお方の人工デジモン。二人目を作ることなど造作もないというわけです。」 つまりアレは…いや、あの子は新たなオキグルモンということか… 「しかし、なぜあんな子供の姿で?」 「デジモンの育成には時間がかかりますからね。彼女はまだ幼年期と言ったところでしょう。」 「なぜ私に彼女を…育てるならもっと適したものが他にいるだろう。」 「それは私に問われても…あのお方なりの考えがあるのでしょう。ちゃんと育ててあげてくださいよ?」 そう言って、あいつは再び影へと消えていった。 あの子の方へ目をやると、怯えたような目つきで私を見ていた。 どこか、オキグルモンと出会った時の、自分の姿と似ている気がした。 「……さっきはすまなかった。デジモンイレイザー様のご意向とあらば私も従おう。ただ…オキグルモンだと呼びづらい…オイナと呼んでもいいか?」 憎むべき裏切り者。そして、私の憧れだった人。 目の前の少女を、彼女と同じ名で呼ぶことはできなかった。