─音糸!貴女また脱走したの!?いい加減にしなさい!貴女将来私の会社を背負うって分かってるの!? 煩い ─速報です、消息を絶っていたWWW−626便の残骸が、消失地点から数千キロ地点で発見されました。 ─音糸ちゃん、ご両親は残念だったね、でも大丈夫、ご両親から私達がキミを保護するように言われているんだ。 ちょっと!何言ってるの!それはウチらでしょ!弱小の子会社は引っ込んでなさい! 何だと!アンタこそ決算でクイーンからせっつかれてだろ! 黙れ ─今日からこのクラスの仲間になる音糸ちゃんです、皆さん一緒に頑張っていきましょう。 邪魔だ 全部消えろ この枷を壊せ ─ネイト …誰? 「ネイト!」 ッ! 「起きたか、…おい、バイタル値が不安定だけど大丈夫か?」 「ん…へーき、ちょっとヤな夢見ただけ」 「そうか…とりあえず水でも飲んで落ち着け、この後は…」 「うん、そろそろ『タルタロス』との約束の時間だ」 『この間の荷物の件でちょっと話せない?』 そんなメッセージが、先日私宛にタルタロスから届いていた。 ─ 「ていうか、本当に場所はデジタルワールドで良いの?メシくらい奢るけど?」 「『タルタロス』って、多分大学生くらいだよね?」 「『ファング』でいいよ、クラッカーとしての名前はそっちだし、でまぁそのくらいの歳だけど?」 「ソレくらいの男が、明らかに血縁関係じゃなさそうな子供連れて歩いて一緒にメシ食ってたらどう思う?」 「それは…」 「ヤバいな」 「ヤバいでしょ」 ─ そんなわけで、待ち合わせ場所にはここ『九狼城』を私から指定した。 城の前の広場に、ルガモンと共に彼が立っている。 「よっす!キツネちゃん!」 また妙なあだ名で呼ばれた、『ファング』が出会う女性片っ端からあだ名で呼ぶとかいう噂、もしかして真実? 「…もう呼び方は良いや、好きにして」 「それで?要件は?」 「前置きとかそういうのナシ?ま、おれもそっちの方がラクでいいけどさ」 「要件は一つ、キツネちゃんが運んでた荷物の中身…『GRB因子』について」 「GRB因子って?」 初めて聞きました、という体をするが一応ファイル名から名前だけは知っている。 「デジモンには、『原種』と『亜種』が居るってのは知ってる?」 デジモンには「原種」と色の違う「亜種」が存在する。 何が原種で何が亜種なのか、それはデジモンによって異なるけど、大抵はデータベースを参照すれば書いてある。 …そういやこのデジモンのデータベースって誰が登録更新しているんだろ、未知のデジモンすらスキャンしたら情報が登録されるとか聞くし。 まぁいいや、今は質問の答えだ。 「うん、知ってる、というかレナモンがそうだし」 「じゃあ、亜種デジモンの中でも「黒い」ヤツだけは他の色違いとちょっと違うって事は知ってる?」 「ううん、初めて聞いた」 これは本当だ 「黒い亜種デジモンだけは、他と違って『ブラックデジトロン』って物質が体内にあって、それで体色が変化している…らしいぜ」 「おれも受け売りなんだけど」 「へぇ…」 まさかそんなウンチクを披露するために私を呼びつけたわけじゃないだろう。 本題はきっとこの後だ 「で、こっからが本題なんだけど」 「最近、デジタルワールドでデジモンの『消滅』事件が発生してる」 「共通点は一つ、デジモンが消滅する前に、そのデジモンが突然『黒く』変色すること」 デジモンの変色、そして直後の消滅。 まさか…アレか?前に見たグラウモン 「普通、色の違う亜種デジモンっていうのは、進化前のレベルのデジモンから分岐して進化するんだ」 「だから進化した後から黒い亜種に変化するなんて、基本起こらない」 「この変化には別の理由があるんだ」 「それで、その別な理由ってヤツが『GRB因子』?」 「そそ、グルス…えぇとなんだっけルガモン」 「Gulus Realm Brust、だ」 いつの間にかレナモンとじゃれついていたルガモンが答える 待って、何してんのこの二人 「……いや、何やってんの二人共」 「あ?見りゃわかるだろ」 「組み手だ」 「組み…」 「組み手?」 思わずファングと共に聞き返してしまう。 どう見てもレナモンのふりふりと揺れる尻尾相手に、ルガモンがじゃれついているようにしか見えないけど。 お次はレナモンが作った火の玉をルガモンに向かって投げ、ルガモンが尻尾で打ち返す。 それをレナモンが受け取って…ようは火の玉でやるキャッチボールだ。 仲良く遊んでいるようにしか見えないけど、本人たちが言うにはこれが組み手らしい。 おっと、話を戻さないと。 「それで、キツネちゃんは見たことある?デジモンが突然黒く変色するところ」 「…あるよ」 まぁ、忘れるわけがない あれは私がクラッカーとして復帰した時だったから。 ─ ・ ・ ・ ・ ・ ─ネイト ネイト、答えてくれ ネイト… 「んぁ…」 もう朝か、いや、すでに昼夜の感覚なんて無いけど。 実際、時刻はもう午後の四時だ。 「…」 何か、寝てる間に誰かの声を聞いたような気がする。 私の名前を呼ぶ声。 最近、いいや、だいぶ前から同じ声を聞くようになった…気がする。 「ハッ…」 まさか、今更くたばった両親でも恋しくなった? 驚いた、まだ自分にそんな感傷があったとは。 「…おなかすいた」 忌々しいことに何もかもどうでも良くなっても、腹は変わらず減るものだ 「まだカロリーメイトあったっけ…」 乱雑に通販の段ボールを突っ込んだ棚を漁る、よし、最後の一箱があった。 また注文しとかないと。 「…」 あの日から オペレーション・タルタロスから一体何日経ったっけ。 ―われわれは今日「深層」を目指す。 ―『祭り』だ。 ―今日、おまえが、この場にいたことを10年後も自慢させてやる。 ─後悔したくなければ、とっておきのデジモンをむかわせろ。 ─戦場はウォールスラムの中心。 ─そこに『門』はある。 SoCのリーダー「タルタロス」のそんな煽り文句に乗せられて、私はあの日『祭り』に加わった。 その結果は 何も無い 何も、出来なかった。 ─オウリュウモン ─ドルゴラモン 西洋竜と東洋龍の姿をしたデジモン、衝撃する2つの究極体。 私は流れ弾にあたったとか、誰かをかばって倒れたとか、そんなものですら無く ただ、彼らが近くを通り過ぎた それだけで、全てが終わった。 オウリュウモンが私の走らせているツール、レナモンの上空を通った、たったそれだけ。 その衝撃でレナモンは吹き飛ばされ壁面に激突、ダメージオーバーで即強制ログアウトだ。 「何が、『天才美少女クラッカー』だよ…」 全くお笑いだ、あのときの私は、「後ろで、誰かが吹き飛んだ」なんて描写されるモブですらない。 存在すら認知されてない、正真正銘のノーマーク。 それが私の、クラッカー『ブラックフォックス』の全てだ。 「アホくさ…」 「もう何もかもどうでもいいや…」 あの日以来、何度繰り返したかわからない言葉をつぶやく。 もう、クラッカーとしての仕事はしていない、デジモン…レナモンも、あの日以来何も世話していない。 今の生活、貯蓄から日銭を切り崩す生活も、今までの貯蓄を崩し終わったら全て終わりだ。 別に、どうでもいいか。 どうせあの時、両親と共に飛行機に乗っていたらどの道私は死んでいたんだし。 ちょっとだけ命が長続きした、その程度の話だ。 ─この時、DCの残高の確認をしていたらもっと早く気付けただろう。 ─私の口座から同じように日銭分を引き落としていたもう一つの存在に。 そんなことを考えながら、食い飽きたカロリーメイトを齧っているとふと、パソコンから通知音がした。 「何…?」 画面を確認する、GriMMの新規メッセージ通知だ。 本当になんだ、今更。 もうとっくの昔に私のSoCラウンジへのパスは切れている。 スパム以外に一体誰が私にメッセージなんて送ってくるんだ。 「なにこれ」 送信先は「AllUser」つまり無差別。 件名は… 『Welcome To The DigitalWorld』 「デジタルワールドへようこそ?」 何なんだこれ デジタルワールド、ダークウェブ上に存在する空間、そこにはデジモンと呼ばれる生命がいて、電脳空間で生活をしている… なんてのは私が使っているツールのフレーバーテキストのハズだ、単なる作成者のお遊び。 操作感を向上させるために「ゲーム」のようにツールの動作を視覚化する。 勿論やっているのはゲームなんかじゃない、ちゃんと現実に存在するサーバーに向けて侵入、つまり明確に犯罪行為をしている。 デジモンだのデジタルワールドだのは、そのツールに書かれた単なるフレーバーテキスト、そのはずだ。 そこにようこそってどういう意味だ? バージョンアップ通知か何か? 気になった私はメッセージを開く。 「…これは」 案の定というかなんというか、内容の『前半』は私が単なる設定だと思っているデジモンとデジタルワールドは実在する異種生命体と異世界である。 とかいう話。 まぁどうでもいいだろう 問題は『後半』 「嘘でしょ、これ…AE社のトップシークレット!」 噂には聞いたことがある。 ツールであるデジモンに人間の精神をリンクし、デジモンを通してデジタルワールドを「体感」する。 その技術「マインドリンク」、SoCの幹部連中はみんなこれを使っているなんて話だ。 そしてマインドリンクの実行に最適化されたデジモンドック「デジモンリンカー」 そのリークデータが添付されていた。 ─ 「さてと、こんなもんかな」 マインドリンクの実行プログラムをとりあえず構築、ザッとコードを眺めたけど、多分本物だ。 そのままメインで使ってるパソコンにデジモンドックを接続。 マインドリンクの実行に必要なメインPCのスペックは、ギリギリで満たせていた、ちょっと設定を落とせばまぁ、動くのに不自由しないだろう。 「よし、行ってみよっか」 くたばる前に、さんざん使い倒した「レナモン」の顔でも拝んでやるとしよう マインドリンクコマンドを実行、接続先はデジモンドック内部。 >mindlink \digidoc 机の上のキーボードからエンターキーを押したら、実行後に意識を失った身体がどこにぶつかるか分かったもんじゃない。 椅子に深く座り込み、代わりに腕のスマートウォッチからコマンドを実行する。 タン、と指先で軽くスマートウォッチの液晶を叩く。 頭の奥から、キィンという音がする。 なんて思った次の瞬間には、私の意識は身体から離れていた。 「ん…」 次に気がついた時、周りには何もなかった。 真っ黒な何も無い空間、そこに、ふわふわと浮かんでいるような感覚…いや 感覚がない。 何も聞こえないし、なにかに触れてる感じもない。 だからこれは、真っ黒な空間ではなく、何も「見えて」いないんだ まさか失敗した? 私の意識だけ、よく解らない場所に放り出されたのか? しかしそんなことは杞憂だったと、最悪の形で知ることになった。 「うぐっ…おえぇぇ」 突如、凄まじいめまいと吐き気に襲われる。 胃袋がひっくり返されたかと思うくらいには酷い。 これはアレか、マインドリンク実行に必要な精神のマッピングデータ生成を待たずに、スマートウォッチの健康管理機能のバイタル値ログで強引に代用したからか。 当たり前だけど人間にデジタルデータを感覚で処理する機能なんてない。 デジコアってやつの内部に格納された私の精神が、デジモンの感覚器官を介してデジタルデータを「感じて」いる。 そのために必要な私側の感覚器官のすり合わせを、今強引にされているんだ。 ようは「目のピントを合わせる」の五感全て版だ。 「ぎ、ぎもぢわるい…」 困ったことにどっちが地面かすら解らないので、膝をつくとか横になるとかも出来ない。 落ち着くまでこのままなのか… ひとしきり、ありもしない胃の中身を絞り出したころ。 ようやく、感覚が戻ってきた。 「ここが、デジモンドックの中?」 決して広いとはいえない、立方体状の空間。 その真ん中あたりに、黒い獣が横たわっている。 ─レナモン ウイルス種 成長期 獣人型  「意外とデカい」 そりゃそうだ、今までモニター越しに見ていたのとはわけが違う。 本当に「目の前」に居るんだから。 しかし顔を拝みに来たのに、ぐったりと横たわっていられたら顔が見えない。 起こせるかな? 「おーい!レナモン!会いに来てやったぞー!」 指先でつんつんと突いてみる。 あっ、動いた 「……よぉ、ネイト…久々に顔見たぜ」 その弱り切った声を聞いた瞬間、全身が凍りついた。 「う、そ…その声…」 ずっと、前から私に呼びかけていた声だ。 あれは夢なんかじゃない、ましてや今更死んだ両親が恋しくなったなんてフザケた感傷でもない。 彼だ、声の主は。 ─ネイト ─ネイト、答えてくれ ─ネイト… ─ネイト、悪いがメシ代はこっちで勝手に使わせてもらうぜ、二人で稼いんだし、勘弁しろよな ─ネイト、栄養食品でメシを済ませるのはほどほどにしとけよ。 ─ネイト、残高がそろそろヤバイぞ、何かしら仕事を探せ ─ネイト… ─ネイト 彼は、この子はずっと、私を呼んでいた。 私はその間どうしていた? 一人でで不貞腐れて引きこもっていただけだ、この子を放ったらかして。 なんて、なんてバカなことをやってたんだ、私は。 ただのツールが、私の名前をずっと呼ぶわけがない。 デジモンは、単なるツールではなく、電脳空間に生きるれっきとした生命体。 それが事実だって、今ようやく理解した。 「レナモン…」 横たわるレナモンを抱き寄せる。 「どうした…ネイト」 「え、うっレナモン…」 自然と抱きしめる腕に力が入る。 「ネイト、どうした…泣いてるのか」 涙が、止まらない、勝手に出てくる。 あの二人がくたばったときだって、いいや、多分こんなに泣いたのは生まれて初めてだ。 「ずっと、ずっと私のそばにいてくれたんだよね、キミは」 「…当たり前だろ、飼い主からわざわざ離れるかよ」 「ごめんね、レナモン…ずっとほったらかして、もっと、もっとと早くに気づいてあげればよかった」 レナモンが、私の頬を撫でる 「それは…そうかもな、流石に腹が減ったぜ」 力なく笑いながら言う、私が放置したせいで、こんなに弱っている。 「レナモン…」 「いでで…ちょっと力入れすぎだぞ」 「ごめん、ごめんねレナモン」 「それはもういいから、いい加減泣き止めよ」 レナモンが、私の頭を撫でる。 そうは言っても、勝手に涙が出てくるんだからどうしようもない そのまま私はレナモンの胸に顔を埋めて、しばらく泣いていた ─ 「落ち着いたか?ネイト」 「うん…ありがと、レナモン」 ひとしきり涙を出し切って、ようやく落ち着いた。 その間ずっと抱きついていたけど、うん、レナモンってモフモフしてて気持ちいいな。 「レナモン、やっぱり暫くこうしてていい?もっとモフりたい」 「…いい加減離れろ」 くっ、引き剥がされてしまった 「落ち着いたところでな、ネイト、よく聞け」 「うん?」 「サイフが、DCの残高が底をつくぞ」 だいぶ長いこと残高の確認なんてしてないけど、もうそこまで? 「そっか、もうそんなに減ってたんだ、意外と速いね」 「それは…悪い、オレも使ってたんだ、メシ代にな」 そういうことか、そりゃあ二人分の日銭毎日引き落としてたら減るのも速い。 「別にいーよ、レナモンをほったらかした私が悪いんだから」 そもそも、レナモンが「生きて」いると言うなら、今までのは私一人の稼ぎじゃない。 私達二人のものだ。 「それより、稼ぎを見つけなきゃね」 部屋で塞ぎ込んでるヒマなんてもうない。 私は「一人」では無いんだから。 「ってことは」 「うん、クラッカー稼業再開だ」 久々に、デジタルワールドに行こうか ─ 「よし」 あの後、一旦マインドリンクを解除して、自分の部屋に戻った。 目的は単純、栄養の補給だ、私とレナモン両方の。 いつものカロリーメイトに加えて、なんとINゼリーまでプラスした豪華メニューだ、両方最後の一個だけど。 ……報酬が出たらマトモなものを食おう。 レナモンの方は私がデジモンドックからエサやりのコマンドを実行、もう食料のニクはすっからかんなので、こっちも補充しないとまずい。 つまり私達は崖っぷち、報酬が出ないともう終わりだ。 「行ってみよっか」 再度マインドリンクコマンドを実行、今度は接続先の指定はなし。 それだけで、デジタルワールドそのものにつながる。 >mindlink スマートウォッチの画面を指先で弾いてエンター。 再び、私の意識は身体から離れた。 「ん…」 目が覚める、といより、感覚が戻ってくる。 今度は吐き気もめまいもしない。 多分これが本来のマインドリンクなんだろう、さっきのは強引にやったし。 それより、周囲を確認しよう。 「うわぁ…」 なるほど、こりゃ確かに「Welcome To The DiditalWorld」だ 今までモニター越しに見ていた画面は、レナモンから送られてくるデータを元に「それっぽく」作った、一世代か二世代前くらいのゲームのような映像だった。 でも今目の前にあるデジタルワールドの光景はまさに「現実」そのものだ、解像度がどうこうという次元じゃない。 にしても、なんか視点がやけに高いぞ? 「ネイト」 何も無いところから、レナモンの声が聞こえる。 「レナモン?どこ?」 「オレがどこ、というよりオマエがオレの中、デジコアの中にいるんだ」 「…あぁ、そういうこと」 マインドリンクは、人間の精神をデジモンの核であるデジコアの中に格納する 格納するって、本当に文字通りの意味でデジコアの中に居るんだ、私。 「じゃあ、私が今見てるのはレナモンの視界ってこと」 「そういうことだ」 そりゃ視点が高い訳だ。 色々と、デジコアの中で操作をしてみる。 とりあえず私の視界に仮想ウインドウを開く、うん、これで一通りの操作は出来そうだ。 まずは「ホロライズ」だ。 「よっ、と」 「ネイトか」 レナモンのデジコアから、ホロライズして外に出る。 ホロライズって本来は空間に映像を投影する、所謂AR技術だけど、デジタルワールドで実行すると「実体化」になるらしい。 よし、これでレナモンと並んで歩ける。 「レナモン」 「なんだ?」 「手、繋ごっか」 「…おう」 ─ レナモンと並んで、ウォールスラムの中心、0番街を目指して歩く。 「デジタルワールドは久々だけど、やっぱマインドリンクすると違って見えるね」 「オレは前と変わらんが、久々に来たのは同じだな」 「しかしまぁ…ここは相変わらずだな」 「ね」 今のは見え方の話ではない、街の雰囲気そのもののことだ。 この雑多な感じは前と変わらない、フィクション作品のサイバーパンク的な外観と、現実の都心の繁華街が混じり合ったような町並み。 そして一歩でも裏路地に入れば、まさに「スラム」が広がっている。 デジタルワールドに入って…「ログイン」した路地裏から、0番街の通りに出た時。 「食い逃げだー!」 そんな声が聞こえてきた。 叫び声が聞こえてきたほうから、ピンク色のネズミのようなデジモン、「チューモン」が走ってくる。 その後方には「メラモン」が…コック帽とエプロンをしている、飲食店の店主ってところか。 「どきな!お嬢ちゃん!」 逃げるチューモンの線上に、ちょうど私達が居る。 「レナモン」 「ん」 こちらを避けようとするチューモンに、レナモンが足払いを仕掛ける。 「ギャッ!?」 レナモンのスピードに、その辺の成長期デジモンがついていけるわけがない。 あっさりとその場に転び、レナモンが首根っこを掴んで持ち上げる、捕縛完了だ。 「お嬢ちゃん!助かったよ!」 メラモンが、私達に追いついてきて言う。 「こいつ、俺の店で食い逃げしやがったんだ、すばしっこくて困ってたんだよ」 「…へぇ〜」 「お嬢ちゃん達のお陰でひっ捕らえられたよ、よければウチで礼をさせてくれ」 ─…ネイト レナモンが、声を出さずにデジコア経由で直接呼びかけてくる、内緒話ってわけだ。 (うん、分かってる) (一応ついて行ってみよう) ─そうか。 和達は、メラモンの後ろに連れて歩き出した。 ─ 「さぁ、好きなとこ座ってくれ」 「うん、ありがと」 私達は適当なテーブル席に座る、店内の雰囲気はまぁ、普通というか、町の定食屋って感じだ。 カウンターの向かい側に調理場があって、メラモンはそっちに立っている。 捕まえたチューモンは路地裏の奥へ連れて行かれた、コイツのその後を今気にしてもしょうがない。 「悪いけど今食材がなくてね、まかないの余りなんだけどぱぱっと作るから、そこで待っててくれ」 「うん」 そう言うとメラモンはカウンターの向こう側で調理を始める。 さて… 世間話のていで揺さぶってみようか 「さっきのチューモン、0番街で堂々と騒ぎ起こすなんて、すごいヤツだね」 ビクリ、とメラモンの動きが一瞬止まる。 「…お嬢ちゃん達、ウォールスラムは初めてじゃないのかい?」 「ううん、ちょっと色々あって、久々に来たんだ」 「そ、そうか…」 さっきからメラモンの視線がチラチラと、私達ではなく店内とバックヤードを区切るカーテンの方に向いている。 それじゃあそこを見られたくないですって言ってるようなもんだ。 「…いっちゃ何だけどさ、お客さん、居ないんだね」 「え!?あぁ、この時間はたまたまね!」 「ふーん」 うん、分かってたけど怪しいなコイツ。 私達が通りがかったタイミングで都合よく起こる捕物。 そしてさっきの反応、多分ウォールスラム「初見」のヤツの方が都合がいいってところか。 店に他の客が居ないのも、人払いは済んでるってことかな あとは、見られたくない「何か」があるバックヤード。 よし、決めた、これは罠と断定して進めよう。 「よし!出来た!」 「さぁ、食べてくれ!」 テーブルの上に、焼いたニク…デジモン用の食品だ、現実世界における肉ではない。 それとデジタルワールドの野菜を炒めた皿が置かれる。 「…」 ─ネイト ─それは食い物じゃねぇ、テクスチャが偽装されてる。 (そっかぁ、あのカーテンの向こうは?) ─それは分からん、俺の「目」は透視は出来ねぇ (わかった、でも確定だ、罠だね、これ) ─だな。 (レナモン、合図したら始めて) ─おう 「どうしたんだい?何か嫌いなものでも入ってたかい?」 「ううん?別に、ところで」 「さっきからチラチラ見てるカーテンの向こう、何があるの?」 メラモンがギョッ、と目を見開く 「ベ、別に何も!?ただのバックヤードだよ」 「へぇ…」 「レナモン!」 私の合図で、レナモンが飛び出す、目指すのは勿論バックヤードと店内を仕切るカーテン。 「やめろ!そっちは立入禁止だ!」 メラモンが慌てて止めようとするけど、レナモンに追いつけるわけがない。 レナモンがカーテンを勢いよく開けると 「ひ、ヒイッ!?」 そこにはさっき捕まえたはずのチューモンと、幼年期のデジモン、「プチメラモン」達が居た。 「さて、と」 「説明してもらえるかな、コレ」 「なんで食い逃げ犯がアンタんとこでくつろいでるわけ?」 「ぐ、ぐえっ…」 レナモンがメラモンの胸ぐらを掴んで持ち上げる、メラモンの全身は名前の通り燃えているけど、同じ炎を操るレナモンには無意味だ。 「な、なんのことだかさっぱり…」 「へー、しらばっくれるんだ」 「えいっ」 皿に盛られた「食い物」らしき何かをバックヤードにいるプチメラモン達に投げる 「やめろチビ共!食うな!」 幼年期のデジモンたちが、そんなにお利口さんな訳が無い。 床にひっくり返った料理に群がって、食べ始める。 食べてから程なくして…全員が眠りに落ちた 睡眠薬、みたいなプログラムってことかな 「『眠剤』入りって訳、よく考えるね」 「で、どういうことなのか、詳しく説明してもらえる?」 レナモンがもう片方の手で火の玉を作り、バックヤードの中にいるチューモンとプチメラモン達に向ける。 『下手なことをしたら殺す』シンプルで分かり易い脅しだ。 「分かった!話す!話すからやめてくれ!」 メラモンの語った手口はこうだ まず共犯者のチューモンと共に、ターゲット…この辺で見かけないヤツを探す。 理由は単純、「初見さん」なんて消えても騒ぎにならないから。 あとはタイミングを見て捕物を開始、助けに入ったヤツをお礼すると言って店に誘い込む。 もしスルーされても、後で合流して終わりだからほぼノーリスクだ。 そうして店内に誘い込んだターゲットを、食べ物に偽装した睡眠薬プログラムを食わせて眠らせる。 あとは無防備になったターゲットを引き渡して終了。 その後についてはコイツらは知らない、というか知る必要もない。 下っ端も下っ端なんだから。 「仕方なかったんだ!最近この辺を荒らし回ってる連中のせいで食材が入ってこなくて!店を閉じるしかなかった!」 「俺はともかくチビ達を食わせないと行けなかったんだ!」 「頼むから見逃してくれ!DCならくれてやるから!」 「だそうだ、どうする」 「うーん」 別にコイツからDCを巻き上げるのは簡単だけど、私達は今復帰直後で、はっきり言って無名も良いところだ なら目先の小銭よりも名前を売り込むべきだろう。 「レナモン、離してあげて」 「おう」 レナモンが持ち上げていたメラモンを地面に立たせる、けど手を離したらその場にへたりこんでしまった。 多分腰が抜けていたんだろう。 「今、この辺を荒らしてるヤツらが居るって言ったよね」 「実は私達、最近復帰したばっかのクラッカーなんだ」 「そいつら、シメて来てあげよっか?」 メラモンは終始、キョトンとした顔をしていた。 ─ ウォールスラム、0番街と1番街の境界線上。 私は視線の先の「デジモンの群れ」を見つめる。 ─ギルモン ウイルス種 成長期 爬虫類型  …あれが今回のターゲットか。 うん、まあ復帰直後の仕事としてはちょうどいい相手だろう。 今回の依頼はこうだ。 あのメラモンは、元はマトモに飲食店をやっていた。 しかし食材を仕入れていたチューモンの卸業者が、この辺に住み着いたギルモン達に襲われるようになり、食材が入ってこなくなった。 そのせいで食うに困った二人は共犯で、人さらいを始め… 不運にも私達をターゲットに選んだ。 その、この辺を荒らしてる連中っていうのが、ギルモン達だ。 目標はシンプル、コイツらをデリートする。 「ねぇ!」 ギルモン達の群れが一斉にこちらを向く 「最近この辺を荒らしてる連中って、あんた達であってる?」 「…だったら何だってんだ、お嬢ちゃん?」 普段は不戦協定のある0番街に身を潜めて、「仕事」の時には1番街に出てくる 境界線上でうまいことのらりくらりとやっていたようだが今日で終わりだ。 私はギルモン達の群れを指差し、告げる 「あんた達うまいことやってたみたいだけどさ、ちょうど今日あんた達に向けて討伐依頼が出た」 「だから…」 ギルモン達を指した人差し指を、親指へと握り変えて下に向ける。 サムズダウン、そのハンドサインの示す意味は 「ここで死ね」 地獄に落ちろ、だ。 ─ 『ロックブレイカー!』 「へっ、トロいんだよ!」 私達を囲むギルモン達の攻撃をするりと躱していく、レナモンの機動力なら当たる攻撃じゃない。 しかし… 私は今、ホロライズを解除してレナモンのデジコアの中に戻っている。 当然視界は私のものから、レナモンの視界に戻っているわけで。 レナモンがあまりにも3次元的な機動を繰り返すせいでちょっと酔う、後で調整しよう。 「レナモン、一匹ずつ潰していこう、まずは右のヤツ」 「おうよ」 レナモンの掌から出た炎が、形を変え爪を覆う。 レナモンの必殺技、炎を纏った爪による爪撃だ。 『狐炎爪!』 「ギャッ!?」 必殺技のロックブレイカーのために、腕を前に突き出した体勢のギルモン。 レナモンはそれを躱して、背後に回る。 そして背中を蹴り飛ばし、転ばせる。 あとは胴体に思いっきり爪を突き刺して、内部から燃やす よし、一匹デリート。 「てめぇ!よくも!」 『『ファイアボール!!』』 残りのギルモン達が一斉に火球を放つ このまま上に飛んだら、二発目で狙い撃ちってところか。 「これ、どうしよっか」 「このまま上に飛んで躱す」 「それじゃあ狙い撃ちじゃない?」 「問題ない…火球ごと蹴り飛ばす」 言葉の通り、レナモンは迫る火球達を、飛び上がって回避する。 「くたばりな!」 『『ファイアボール!!』』 それじゃあたたの的だと言うように、ギルモン達が上空に浮かぶレナモンに向け、再び火球を斉射する。 『狐炎脚!』 レナモンの両手、両脚から炎が吹き出し、脚から出たものはまるごと脚を覆う。 そして両手の掌を後ろに向け、吹き出す炎で下に向け加速。 炎を纏った飛び蹴りだ。 「オラァ!」 宣言通り飛んでくる火球に真正面から突っ込んで、そのまま突き破る。 「何!?」 ギルモンは、ファイアボールを撃ち出すために両足をどっしりと構えた姿勢のままだ。 そのまま身動きできず、レナモンの飛び蹴りが直撃する。 「グギャッ!」 ギルモンは頭を踏み潰され、デリート。 「うし、もう一匹仕留めた」 「あと一匹!」 その時 「お前等…なにやってんだ?」 向こうの方から、一体のデジモンが姿を表した。 ─グラウモン ウイルス種 成熟期 魔竜型  「ボス!」 生き残りのギルモンが、グラウモンに駆け寄る ボスって呼ばれてるし、コイツが親玉か。 「アイツです!あのレナモンの野郎がワンスとツヴァイを!」 君ら名前あったんだ。 「…なんだと?」 「トラ娘、おまえは引っ込んでろ、この野郎は俺がやる」 え?あのギルモンってメスなの? 「ボス!お願いします!二人の仇を!」 ギロり、とグラウモンの目がレナモンに向けられる。 「おい、そこのキツネ野郎、よくも俺様のかわいい子分をやってくれたな」 「おう、中々楽しめたぜ」 「抜かしやがる、てめぇ覚悟は出来てんだろうなぁ!あぁ!?」 『エキゾーストフレイム!!』 激昂したグラウモンが、その勢いで必殺技の火炎を放つ。 「ぐっ…!」 放射される範囲が広い、スピードじゃ躱しきれない。 とりあえず炎から逃れるために後退するけど、背後にはどんどん壁が迫ってくる。 「このまま焼き殺してやる!」 ちょっとまずいな、グラウモンを見ると両肘部分にエネルギーを溜めている。 こちらが回避方向に上を選んだ瞬間に、一気に飛び出してプラズマブレイドで切りかかってくるつもりだろう。 「ネイト」 「ネイト、進化だ」 「進化…?」 「この状況をひっくり返すなら、進化するしか無い」 聞いたことがある、本来は時間をかけて起こるはずのデジモンの進化を、マインドリンクした人間は任意で進化を行える。 とかいう噂。 「そっか、私達もマインドリンクしてるんだ」 私達もマインドリンクしているのだから、当然進化もできるわけだ。 デジコア内部で仮想ウインドウを操作、あった 進化 (DIGIVOLUTION) そう書かれたコマンドが、ウインドウ内にある 「よし、レナモン」 「ん」 「行こっか」 「おう」 コマンドを実行。 「レナモン!」 「進化ー!」 ─この枷を壊せ。 ─在るもの全て焼き尽くせ。 そんな声が、頭の遠くのほうで聞こえる、ような気がした。 両手、両脚から吹き出した黒い炎が、レナモンの全身を覆い尽くす。 その炎が一際大きく膨らんで、炎の中のレナモンのシルエットが、大きく変わる。 そして炎をかき分けて、四ツ足の獣が姿を表す。 ─キュウビモン ウイルス種 成熟期 妖獣型 これが、レナモンの進化した姿か。 仮想ウインドウのデジモンのデータが更新され、表記がレナモンからキュウビモンのものへと変わる。 表記の中に「亜種」とか書いてあるが、レナモンがそもそも黒色の亜種なんだからこっちも当然か。 能力は…うん、基本はレナモンと変わらない、炎の操作。 でも成長期とはスペックの桁が違う。 やれる、間違いなく。 『鬼火玉!』 キュウビモンが、何も無い空間から火の玉を作り出し、迫るエキゾーストフレイムの壁にぶつける。 よし、打ち消せている。 「何!?」 そのままグラウモンに向けて体当たりを仕掛ける、グラウモンは両肘に溜めたエネルギーを発散、腕を組んで防御姿勢を取る。 「ぐおっ!?」 そのままグラウモンを踏み越えて反対に回る、これで位置関係は逆転、グラウモンを壁際に追い詰めた形になる。 「キュウビモン!このまま一気に!」 「…待てネイト、アイツ、様子がおかしい」 「え?」 「ガ、ギギギギギギギギギギギ」 グラウモンが、突如痙攣し始める。 なにあれ、たかが体当たりを腕で防いだくらいでああなるか? 「ガァァァァァァァァァ!!!!」 グラウモンが絶叫し、その全身が「黒く」変色していく 「なに…あれ」 「分からん、オレもあんなものは見たことがない」 レナモンがそうであるように、デジモンには色違いの『亜種』デジモンがいる。 グラウモンにも同様に、ブラックグラウモンという亜種が。 でも解析データの名称は「グラウモン」のまま変化がない。 そもそも、ギルモンからグラウモン、ブラックグラウモンに進化はしても、グラウモンからブラックグラウモンになるなんてあり得ない。 「ウrrrrrrrrrr…アァAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!」 黒く変色したグラウモンが、所構わず両腕を振り回す。 「まさに暴走してますって感じだね」 「あぁ」 「ボス!」 どこかに隠れていたんだろう子分のギルモンが、変色したグラウモンに駆け寄る 「ボス!大丈夫ですか!?アイツになにされたんです!?」 「……」 グラウモンは答えない、代わりに 『プラズマブレイド』 「えっ」 肘部のブレードで、ギルモンを両断した 「アrrrrrrrrrrrrrrrrrr!!!!」 「わーお」 「見境なしか、もう完全に自我はねぇな」 さて ギルモンを切ったグラウモンが、ゆっくりとこちらを向く。 他に獲物が居ないんだから、当然だ 「あとはコイツを始末したら終わりだ」 「コイツは普通じゃねぇ、一発でカタを付ける!」 キュウビモンが、ふわふわと揺れている尻尾9本全てをまっすぐに直す。 その9本の先端全てから、細く絞った炎がバーナーのように吹き出す。 炎の刃だ。 『九重狐炎刀(ここのえこえんとう)!』 レナモンが、グラウモンに飛びかかる。 当然、向こうも動く。 『プラズマブレイド』 さっきギルモンを切ったときとは違い、エネルギーをチャージしてからの斬撃。 「ぐ、がぁっ!?」 プラズマで空気が爆ぜる音とともに、キュウビモンが吹き飛ばされる。 その余波で、周りの建物も崩れ去った 「うそ!何今の!?」 いくらなんでも威力がおかしい。 グラウモンとキュウビモンのスペック値はほぼ同値のはず、こんな一方的に吹き飛ぶなんて 「…なんだこれ」 いまので、解析データが更新された …変色したグラウモンのスペックは、完全体デジモンに相当している。 「ありえないでしょ」 確かに、デジモンは育てかた次第で上のレベルのデジモンに匹敵するスペックを発揮することがある。 でもこんな一瞬で、進化もせずにスペックが跳ね上がるなんて、ありえない。 『エキゾーストフレイム』 再びグラウモンが火炎を吐き出す。 しかし、今度のは範囲と熱量が桁違いで、周辺一帯をまるごと炎で包み込む。 「チッ…!」 「ネイト、流石にマズイ、撤退を考えろ」 「ぐっ…」 こんな状況、完全に想定外だ。 「ウrrrrrr…」 ずしり、と重たい足音を立て、グラウモンが一歩ずつ迫ってくる。 まずい…! 「…ネイト、見ろ」 「なに、アイツ、今ノイズが出なかった?」 迫ってくるグラウモンの全身に、ノイズが走っている。 それは一歩進むごとにひどくなっていって、さらにはその身体が、上の方から溶けるように消え始める。 キュウビモンのそばに来る頃には。 「uuuuuuuuu…」 完全に消滅した。 「…反応消失、デリートだ」 「なんだったの、今の」 「わからん…」 わけがわからないが、いまので一味は全滅、依頼は達成だ。 「帰ろっか」 「…おう」 ─ 「いやぁ!助かったよお嬢ちゃん達!」 あの後、メラモンの店に戻ってきた私達。 討伐の証明に戦闘ログを見せ、依頼の完了処理をして。 そのお礼ということで、今度こそ本物の食事が振る舞われていた。 ─ネイト (なに?) ─分かってると思うが、ここで飲み食いしても現実のオマエは栄養を取れないぞ (あー…そっか、そうだよね) ─オマエが食った分もオレに行くから、ほどほどにしてくれ、オレが太る ぷにぷにレナモンか、悪くないかも ─オイ、妙なこと考えてないだろうな (別にー?何も?) とりあえず口をつけるのは飲み物だけにしておこう 「そういえば…」 「お嬢ちゃん達の名前を聞いてなかったな!」 メラモンが言う 「私は…」 違う、もう「この名前」は私一人のものではない、だって私達は二人で一つだ 「私達は」 「『ブラックフォックス』、仕事の依頼ならいつでも連絡してね」 ─ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ─ 「…ーい!おーい!キツネちゃん、聞いてる?」 『ファング』に呼ばれて我に返る。 「ッ!ごめん、ちょっと余計なことまで思い出してた」 いけないいけない、あの日の出来事丸々全部思い返してた。 「それで、デジモンが黒く変色するとこだっけ、あるよ、私達が見たのはグラウモン」 「戦ってる途中で突然黒く変色して、暴れ始めてさ」 「しばらく暴れまわったら勝手に消滅しちゃった」 「…エイジ」 「あぁ、間違いない」 変色、暴走、消滅 「おれ達が知ってる通りの、GRB因子感染デジモンだ」 「GRB因子、コレに感染したデジモンは、キツネちゃんが見た通り、突然黒くなって暴れ待った後で消滅する」 「そのせいで、かなりの数のデジモンが、ウォールスラムから消えてるんだ」 「…それで、オマエ達の仕事だが」 ルガモンが引き継ぐ。 「オレ達は、このGRB因子に対して対策チームを組んでる」 「オマエ達には、このチームで前線担当をやってもらう、暴走したデジモンへの対処と…」 「黒幕を見つけたら、締め上げる役だ」 「黒幕って、どういうこと?」 「コレは、GRB因子はタダのウイルスじゃねぇ、裏で糸を引いてるヤロウがいる、オレの鼻がそう感じてる」 「ここは、ウォールスラムはオレの縄張りだ、好き勝手しやがるのを見過ごすわけにはいかねぇ」 人の縄張りを荒らす輩をとっちめる。 一言で言えば、そういう話だ。 …縄張りで、自分の居場所で好き勝手されたくない。 そういうことなら、理解も、共感だってできる。 だから 「わかった」 「いーよ、その依頼、受ける」