航空自衛隊、岐阜基地。 そのメインハンガーに面した駐機エリアで、何人もの隊員がへたり込んでいた。 いや、ただ一人だけ立っている人物がいる。 ジャンプスーツに身を包んだまだ若い女性だった。 青みがかった髪色が印象的な彼女は元気いっぱいに声をあげる。 「みんな情けないぞ―!あれぐらいでヘコタレてたらいざって時に役に立たないよ―!」 「やめろ馬鹿、加減しろ馬鹿、お前が異常なんだよこの体力馬鹿!」 後ろから逞しそうな声が聞こえてきた。 しかしその声の主は逞しさとは無縁そうな見た目をしていた。 濃灰色に身を包んだトブキャットモン、自称「大佐」である。 「あー、馬鹿って言ったぁ!三回も馬鹿って言ったぁ!」 抗議の声を上げる彼女は夏井茉莉二尉、航空自衛隊のデジモン運用研究部隊Doadoeのパイロットである。 普段は全国の空自基地を巡って戦技指導をすることが多いが、時々は本拠地であるこの岐阜基地に帰って来る。 その際は新装備の開発・実験に勤しむが、多少時間があるときは他部隊の隊員たちと一緒に訓練をしているのである。 しているのだが……彼女の規格外な体力と膂力にほとんどの隊員が途中落伍してしまうのがお決まりのパターンだった。 「誰もが俺様みたいな天才だったりお前みたいなゴリラ女って訳じゃないんだ。いい加減理解しろこの青髪ゴリラ。」 トブキャットモン大佐の言い様は辛辣である。 「大佐ひどーい!」茉莉はむくれるが大佐はすでに上空に逃げており拳が届かない。 15年近い付き合いの長さ故に、逃げないとどうなるかは重々承知している大佐だった。 その時、スマートフォンの呼び出し音が鳴った。それを聞いて茉莉の表情が一瞬で緩む。 「あっ真弓ちゃんからだー。もしもしー?どしたの真弓ちゃん?」 しかし、その緩んでいた表情が徐々に硬くなっていった。 「……え?鵜戸三佐が?」 夏井 茉莉 なつい まつり 23歳女性。所持デバイスはD-3。 15年前に夏井家と海津家の二家族合同での家族旅行の最中に突如発生したデジタルゲートに乗っていた車が巻き込まれ、デジタルワールドへ転移。 二家族の両親は死亡し、子供たち二人だけが生還した。 その時に何が起こったかや、事故前の家族のことを全く話さないことから、記憶になんらかの障害が発生しているのではと結論付けられた。 これには同時に救出された海津真弓が重大な記憶喪失と診断されたことも影響している。 その後二人は施設で育ち、茉莉は成長して航空自衛隊に入隊。 常人離れしたフィジカルと視力を武器に評価を上げ、パートナーが飛行型デジモンであることを汲んでDoadoeに配属。 優秀ではあるのだが笑顔で周囲を強引に振り回す問題児である。階級は二尉 トブキャットモン大佐 夏井茉莉のパートナー。 彼女がデジタルワールドから連れてきた時からトブキャットモンである。 現在の所属になったときに体色を変更した。 可愛い見た目に反して逞しく男性的な声をしている。(CV中村悠一) 傲慢かつ自信家であり、だいたい上から目線で辛辣な物言いをする。 そのためプテラノモン(X抗体)と諍いになることもしばしば。 Doadoeの空戦技術指導担当であり、自信を裏付けるだけの高い空戦技能を誇る。 Doadoeの問題児第2号であり、階級は二尉扱い。 実験体「スヴァーヴァ」 FE社で行われていた「チェンレジ計画」の実験体の一体。 親のネグレクトに耐えて生き延びていた8歳の女児「初幡藍(はつはばあい)」を買い取って肉体強化処置を施した。 後に人格と記憶の初期化を施してから新たに別人の人格と記憶を移植する実験をする予定だったが、半年前に天沼鉾襲撃事件が発生、その混乱に乗じ逃亡。 現時点でデジタルワールド・リアルワールドの両方で該当個体が活動している痕跡や情報は得られていない。