どうしてこのような無謀を選んだのかをアマネは自答する、まず格上であり到底太刀打ちできない実力差を持っていると噂で知っている相手に戦いを挑んだ、もしかしたら噂は噂ということを少し考えた、しかしそんな甘い考えはすぐに壊された、自分とバンチョーレオモン、今はローダーレオモンだがともかくパートナーとのコンビネーションもそれなりのものだと思っていたが相手はそれ以上だ、予想はできていたのに突っかかるように戦いを挑んだ、何故そんなことを私はしたのかと冷静な脳内が言っている。しかしと激情が叫ぶ、戦わなければならなかったとそう言っている。それがなぜかと考える、やっと思いつくことがあった、ちっぽけなプライドだ、トキオとカケルと自分とでデジタルワールドで戦いを経たのだと世界を救うほどではなかったかもしれないがそれでも命をかける程の冒険だった、まだ成長期の頃に成熟期相手に逃げたことも、頭を使い作戦勝ちしたことも、得たものも喪失したものもある、そんな冒険を経て自分自身を構築する精神的な何かがただただなれ合うというやり方をひどく嫌がっていたのだ、昔の自分なら竜馬の加入はもろ手を挙げて喜んでいたはずなのに今はどこか拒絶するようなあるいは何か自分に納得を求める様に戦いを求めている、苦笑いが起きそうになった、思っている以上に破天荒なパートナーに影響を受けているのかもしれない、一本木で自身の在り方を疑うようなことのないバンチョーレオモンの生き様が移っていたらしい、一度戦い互いの力を見せ合わなければ相手を受け入れられないと言うのは心が狭いようにも思えるが、しかしアマネにとって重要なことだ、やっとわかった、矜持だ、アマネが冒険の中で作り上げた矜持が立ち向かうことを選択させたのだ。後で謝らなければならないなと思った、大それた口上を生徒会に述べて、あるいは竜馬にももっともらしいことを言って、結局はパートナーに感化された自分が戦い相手を見極めてみたいという極々自分の信条の下に動いているという事実は本来のグループ行動にそぐわない、しかし、だからこそ今この瞬間だけは全力をぶつけねばならない、そうでなければ失礼だろう、既に失礼なことをしている以上。 〇  どうしてこのような戦いを受けたのだろうと竜馬は思う。本来この戦いは避けうるはずだった、あるいは自分が断ればよかっただけのはずなのに戦いのさなかに自分を置いた、デジタルワールドで嫌というほど戦ってきてリアルワールドに戻ってきても結局のところ戦いを行っている。正直に言えば最初に提案された時に面食らった、到底戦いとは無縁そうな相手が自分との戦いを望んできたのだから仕方がない、たとえ他の面子でもきっとそうなっていたと思う。特に慎平だったらきっと冗談はよせと流していたのではないかと思う。そんな中で戦いを自分は受けた、あるいは受けてしまったと言ってもいいだろう、無意味とは言わないがあまり益のある行為ではないと理解しているはずなのに気づけば受けていた、少しばかりこれについて思い当たることがある、戦いが好きではない、必要ならばやるが自分から吹っ掛ける様なことは早々とない、しかし戦いという手段を選ぶ人間になっていたということなのだろう。生きる中に闘争という手段が入り込んでいる。それが気づけば受けさせていたと、そう考える。しかし、と内心で思う。本当にそうなのだろうかと、暴力を肯定する人間になってしまったのだろうか、それは断じてないと考える。  だがどうしようもなく戦えと叫んでいる自分も確かに存在してるのだ。戦いは何時までも自分に取りつている。それが自分そのものであるかのように。それが余計に自らに対しての認識を  どうしてどうなってしまうのか、それを見極めたいと竜馬は思っている。 〇  ローダーレオモンが吠える。魂が己の在り方を見せるように咆哮を上げている。相手ははるか上にいた、同じ完全体だ、怠けていたわけでもない、しかしそれ以上の力の差が相手のトリケラモンと存在している。だからこそ挑みがいがあった、己の戦いは常に劣勢にこそある。立ち向かうことこそが漢の戦いだと信じている。最初の戦いはどうだったか、確か成長期の頃に成熟期に挑んだ時だった、あの頃はまだアマネもいない頃だった、結局のところずっと戦いのさなかに生きていた、レオモンになって初めてアマネと出会った時アマネはどんな人間だったか、ただ身を潜めおどおどするように生きている女だった、そんな人間が自分のパートナーになるなど思ってもいなかった、しかし気づけば今最良の相棒になっている。見た目と持っている内心は別のものだ、アマネはその精神の中に激情を秘めていた、戦いの渦中で何もできないかと思えば体を張り不条理に身を舞いこませていく。その生き方と共にあるうちに認めたのだ、アマネのことを。そして今そのアマネがまた戦う目をしていた、ならば自分に斃れるという選択肢は存在しなかった、生きるとはそうだ、獅子とはそうだ、命が果てるまで常にそうあるべきなのだ。 「ghooooooooooo!!!!」  これがデジタルワールドであれリアルワールドであれば空を揺らす叫び。共に飛ぶ。鬣は少しばかり欠けている。掘削のためのデータの詰まった鬣がトリケラモンの装甲に砕かれていた、これでいいと思った。普通のトリケラモン相手ならば既に決着はついていた、こちらの勝利で、しかし相手がそれを覆すならどれほどの研鑽を積み、そしてそれを今さらに覆えし返すならばどれだけの力を求めねばらないのか、果てを求めればきりがないというのにさらに前へと歩を進める。敵は岩盤、切り出し圧縮した星そのもののような力を持つ相手、目を見る。そこにはただ自信だけが存在している、自らの価値を信じてやまぬその視線、ならば目にモノを見せつけてやらねばならない。 〇 (嗚呼……まだ世界にはこんなにも気持ちいい奴らがいたんだな)  ローダーレオモンを見て思う。かつてはただの成長期だった己が竜馬と共に研鑽を積みトリケラモンになるころに数えるほどにしか敵はいなくなった、究極体に至るころにはすでに敵と呼べるものもほとんどいなくなった、そして挑むものもまたいない、既に戦った相手は竜馬が勝つことを見ただけで知り、挑む根気すらも奪いつくしてしまっていた、寂しく思う。可能性の在り方とはそんなものかよと、百歩譲って野良デジモンならまだわからなくもないがテイマーの居るデジモンは、あるいはそのタッグが挑まないという選択肢を取らなくなっていく毎に、畏怖の視線で見られる毎に何故挑まないのかと可能性を絞り出さないのかと思ってしまう。自らと竜馬に出来たことがなぜ相手にもできないのかとどこかで思っていた心の淀みを今目の前の相手はまさに晴らさんとしている。そうだ、それでいいんだよ、だってそうだろう、人とデジモンには無限の可能性ってものが秘められているのだから、ならばそれを手にしたならば開花させねばならないだろ、トリケラモン自身は何の特別なデジモンではない、むしろ種族で言えば普遍的な存在ですらある、仰々しい伝説のデータを取り込んでいるわけでもなければ世界を滅ぼしかねない力を持っているわけでもない、きわめて普遍的なデジモンでしかない。素質という点で言うのならば今は別のところにいる仲間であるクロウのルドモンのほうがよっぽどその素質は自身より高い。しかし自信を持って言える、まだ彼らより自分は強いのだと。 〇  跳ねるなどと生易しいものではない、掘削機のうねりと共に機械の四肢を爆ぜさせてローダーレオモンが奔る。鈍重さを一切感じさせない動きはそれだけでその馬力をわからせる。しかしデータとして取り込んだ重さはリアルワールドの数十トンクラスに相当する。それがぶつかれば本来ならば岩と言う存在ならば一切の抵抗なく崩れ去っていたはずだった。トリケラモンが受ける、予想通りの状況、これはつい先ほどのぶつかり合いと同じ様相を出している。しかし、と、今のアマネに一切の妥協はない。 「ローダーレオモン……抑え込んで!!」  張り裂けんばかりのアマネの声が響き渡る。迷いのない戦闘指示はかつて戦いに身を置いていたことを誰もが理解した、素早い支持は将に求められる資質の一つだ、不味くとも迷わず常に支持を出し続けられると言うのは頭が冷静で切れるからこそ行える。ローダーレオモンがアマネの指示に応えた、弾き飛ばされた時のようにはいかないとばかりに己の体を重しする。角が腹に当たる、機会のボディには精々かすり傷程度になるはずのトリケラモンの角が当然のように突き刺さってくる。デジコアを介して反応する痛覚がそのありえない状況に痛みを訴えてくる。抑えた、根性でその痛みをねじ伏せた。むしろそれを丁度いい杭の代わりにした、これならばもう弾き飛ばされることはない、この程度の痛みと交換で勝ちを拾いに行く目を作れるのならばそれは一切の躊躇いなど持ちえない、俺の望んだこの喧嘩、たとえ本来はアマネの望んだ喧嘩であったとしてもそれは心を共にする己の喧嘩そのものだ、そうなれば弱いあたりこそ無礼千万そのものと心得る、喰らえ……喰らえよ俺の魂を、戦いという不合理のさなかに生き甲斐を見つけている不条理の塊のような俺の心の内を見てくれよ、お前には取るに足らないものかもしれないが、それでも己の総てをかけてぶつけているのだ。  掘削機が回る。音が響いた、デジコアが危険な状態であることを告げてくる。黙れ、たとえそれが己の命であったとして今は何をもってしてそれを言う。己だと言うのならば己に従い黙っていろ、戦士の魂が闘争に異を唱えるな、たとえデリートの未来であったとして吐き出さねばならないのだ。甲高い音はトリケラモンの甲殻にぶつかりなお削ろうとして削り切れぬその状況、無駄だといっているようだった、ならば越えなければならない。 「ローダーレオモン……舞わせ!!!!」  言葉は不要だった、それは行動によって答えるべきことだから、本来の回転数を超える回転を今ここに生み出す。そうだ、越えるとはこれだ、挑み喰らい上り詰めるのが獅子の闘争、聞け、聞け、お前の硬さ(たましい)が俺より上回ると言うのならば、たとえ今心をくべてもその魂を砕いてみせる。回った、熱を感じた、摩擦熱だ。普通にしていても摩擦熱はあるが、本来重機であるローダーレオモンはそれを感知しえない、しかし今その熱を感じるということは本来の許容量を上回る力で回転を生み出しているという証左に他ならない。音がする、鈍い音だ、それはやっと刃先が甲殻に爪痕を立てる音、ここまでしてやっと爪痕を付ける程度がやっと、なんと言う巌のようなトリケラモンだろうと感じた、いくらぶつかっても足りないその有様に感嘆の声が漏れる。相手は敵ではないが闘争の輩だ、その相手が今受け止めてくれているという事実に感動すら覚えた、本来ならばまだ歯牙にもかけることもない実力の己を今相手としてみて戦いの舞台に立っているというその様はまさに戦士と言うほかがない。礼を言うほかなかった、本来ならば突っぱねることもできただろう、だというのに今この身勝手に付き合っていくれている。 (嗚呼……もう壊れたってかまわんさ)  戦いとはかくあるべし、漢とはかくあるべし、魂を込めてただただ動く。 〇  ただただトリケラモンは受けて立つ。防戦のように見えてそうではなかった、まだトリケラモンには余裕がある。だからこそ驚く、こう言った言葉回しがある。戦いの中で進化しているというその言葉、今眼前のローダーレオモンはそれをしている。戦いの渦中にありながら成長をしてそれを己にぶつけているのだ、かつて自分が通った道だ、竜馬と己、人とデジモン、本来交わるかもわからぬようなか細い存在が交わり生み出すその力こそ奇蹟というそのものなのだろう。眩しさを感じる、なあ竜馬見てくれよ目の前の奴らを、輝いているだろう、俺たちもそうだったはずだ、そうであったはずだ。今はどうだ、力を積みに積みデジモンイレイザーに背負おうとしているというのにどこか熱と言うものが抜けていくじゃないか。  トリケラモンはいつだって思っている。竜馬は世界一のテイマーだ、リアルワールドもデジタルワールドも関係なく最高の相棒なのだと、だからこそ思い出してほしい覚えているだろう、まだ復讐にとらわれる前、純粋に2人で高め合ったその日々を。自信を持ってほしいと思っている。竜馬に必要なのはそれだ、力を持っていることを誇示しないのは謙虚なのかもしれないがそれも過ぎればただの傲慢だ、竜馬には誇っていてほしい自ら積み上げたその力を、だってそうだろう、今その誇りを前に一切ひるまぬ相手が目の前にいるのならばそれに対して向き合う必要がある。竜馬は英雄だ、その精神性は本来そう言うものだ、戦いであれ何であれその渦中にいてこそ磨かれる異形の精神だ、本来ならば戦いなど避けるはずだ、複雑な気持ちを抱いている兄がイレイザーにこん睡させられたから復讐する必用だってないしなんならば仇など打つ必要だって存在しないのに危険な戦いに赴き今も心を戦いに向けている、お前はもう逃げられないんだよ竜馬だから誇ってくれよその有様を。  トリケラモンが叫んだ。 「竜馬ぁ!!!アレやるぞぉっ!!!」 〇  トリケラモンの声に竜馬は息をのむ。本来ならばテイマーの自分の判断でそれを使うのがほとんどだ、竜馬とその相棒のトリケラモンが必殺の領域にまで高めたその至高の一撃の威力は尋常ではない。だからこそそれを使うタイミングは竜馬が見て決める方が多い、どうしても戦闘を行うトリケラモンは近視眼的になることが多くどうでもいい相手にそれを打ち込んでしまう可能性があり消耗の原因となってしまうことがある。だからその宣言こそは竜馬を昂らせるに十分だ。使うのだな、と思う。それほどの相手と今アマネとそのパートナーのローダーレオモンを認めたと言うのであればもはやそこに異論などはない。だからただ一言声に出して言う。 「トリケラモン」  一切の修飾なしで名を呼んだ。それだけで十分だった。  必殺の話しをしよう、多くの場合必殺技と言うのは単に大ダメージを与えるだけの技を差すことが多い、それはテレビゲームなどが与えた印象であろうか漫画の影響であろうか、物語の展開上いくら必殺と冠詞を付けられていたとしても次号の展開のためにそれが覆されたりすることは多々あるし、ゲームのもシステム上必殺が必殺なりえない扱いをされることも多い。  だからこそトリケラモンの必殺は本当の意味で必殺だ。それは14連撃のトライホーンアタックだ、1度のトライホーンアタックでも大打撃を与えられるそれを竜馬のトリケラモンは14度放てるわけだが、しかしただそれだけならば誰でも行える。消耗はあれど14回やればいいだけだ、ある程度のテイマーとデジモンならばそれをできる。ならば何故竜馬の14連撃は必殺と代名詞的に呼ばれるのか。  三段突きと呼ばれる技がある。歴史上においては新選組に置いて有名な沖田総司が使ったとされる魔剣だ、平正眼と呼ばれる突きの一撃に特化させた構えから3度の突きと言う端的な技だ、内実で言えば沖田総司が納めたとされる天然理心流の突き技の修練においては突きは三歩と合わせ三度突くというものだった、その基本の技を魔剣にまで昇華させたのが沖田総司なのだ、曰くにして、三度聞こえるはずの足遣いの音が立て続けて一歩にしか聞こえずそれに合わせて三度の突きが絶え間なく繰り出されるという。それに竜馬は答えを見た。  まず一度のトライホーンアタックの衝撃はぶつかる際に空間を生む。動きそのものだ。そこに合わせて再度絶え間なくトライホーンアタックを打つ。重心移動の技を組み合わせることでその絶技は完成する。最小の動作、最短の移動、そこから繰り出される最効率化された一手が最大の攻撃を生む。  それが竜馬とパートナーのトリケラモンにしか行えぬ1度の動きにしか見えない14連撃のトライホーンアタック、当たれば必殺の魔技と言えた。  ならばまずは今のしかかっているローダーレオモンをどけなければならない。 「押しのけろ!!」  悩むことがある。思うこともある。しかし今戦いを竜馬は選んだ。  英雄がいる。剣がある。神話に彩どられる英雄たちはいつだって華やかな武器を持っていた。しかし考えなければならない、武器に選ばれる強者だからこそ英雄になれたのか、あるいはその武器を手に入れたから英雄は英雄となれたのか。卵が先か鶏が先かの決着のつかない哲学かもしれないが、これに限っては1つだけ強引な答えがある。戦いが先だ。英雄も武器も戦いなくして存在しない、だから今戦いを選んだ竜馬は正しく英雄なのだ。  その英雄の言葉に応えるよう先ほどの軽やかな移動で抜け出したものとは違う俺の自傷すら厭わぬ動きでトリケラモンが抜け出した。重いものから身をよじりいっぱいいっぱいとも言える動作、見れば傷がある。もはやいつつけられたかも忘れた傷がトリケラモンについている。そうか、とアマネを見る、ローダーレオモンを見る。いいだろうと、君たちが望んだ戦争だから、瞬きせずに見ておけと。  今本当の必殺を見せてやるのだから。 〇  来るのか、とローダーレオモンが構えた。アマネが集めた資料に見えた必殺の一撃が来るのかと。  陽炎のようにトリケラモンが動く。ローダーレオモンも重さに対しては軽妙な動きを出来ている方だが、トリケラモンはもはや重さと言うものを失っている動きをしている。それは迅い。意識の埒外から来る。 「トライホーンアタック……」  アマネの声が聞こえた。その瞬間に何がなんだかローダーレオモンは理解できなくなった。気づいたら体が吹き飛ばされている。まず正しく前方からかち合うようにぶつかったはずで、しかしその瞬間に天と地がひっくり返っている。天地無用と言えば聞こえがいいが、しかしそれを食らった側には何の状況も把握しえない。そして痛みが来る。鋼鉄の体を切り裂きえぐり穴が開く。そのザマはくず鉄に近い。ほどだ。これが、これが英雄の一撃なのかと思わずにはいられない。ああ、これが遥か高みって奴なのかよ、負けた……と意識する瞬間に絶叫が来る。 「立てぇっ!!ローダーレオモン!!!!」  アマネの声だ。  ああ、そうだ何を弱気になっている。思ったばかりじゃないか、俺は漢なのだと。ローダーレオモンの魂に闘争心がくべられる。力のない四肢に再度力を込めた。もはや半死半生のよたよたとした動きしかできない自らを笑った。だが、たとえ堕ちるとしても負けを認めて倒れるなどありえてはならない。そうだ、本来は究極体バンチョーレオモン、そんな自分は風穴を開けてでも立つ義務がある。  足取りは千鳥足、掘削機は鈍く回っているのか止まっているのかすらわからない。  しかし、それでいい、今は。ぶつかる。鈍い音は弱弱しく、そこに力がないことを理解しつつも、今ローダーレオモンもアマネも戦いを選び、そして倒れていく。 〇 「……お疲れ様」  戦いの果てにレオルモンまで退化した相棒をアマネは抱きかかえる。傷塗れの勲章を得たレオルモンが苦痛を感じながらも笑みを見せて、 「やってやったぜ」  ああ、とアマネが言う。  そこに来るのは竜馬とトリケラモンだ。 「ナイスファイト」  そう声をかけてくる。勝者のおごりなどではなくそこにはただ賞賛の声がとれた。 「まだまだ」  憎まれ口のようにアマネは答えた。事実まだまだなのは本当だ、一切の手傷らしきものを相手には与えられていない。こちらの一方的な負けとまでは言わなくとも、一度折れかけたことを考えれば力量差という点ではかなりのものがあるのはわかる。鍛えなければと、思いつつも前を見た。のどかな雰囲気青年がいる。三上竜馬、世界を救った英雄。 「でも、強かった」  いい、竜馬が手を差し出してくる。握手と言う事だろう。答えるためにアマネも手を差し出した。そして言う。 「ゴメンなさいね」 「何が」 「喧嘩吹っ掛けちゃったこと……もっともらしい理由もあったけど……結局のところ私があなたと戦いたかっただけよ……あるいは嫉妬」 「嫉妬?」 「私達生徒会のメンバーだって……ああ、恭介と虎子はリアルワールドで活動してたけどトキオとカケルと私はそれなりに冒険もして……うん、だから今回の事件だってって思っていた」 「それで、俺が入ったから?」 「そう……ふふっ…後から組んだなんて言えば恭介も虎子も同じなのに、でも、あなたには特別対抗心、抱いちゃったかもね」 「そっか」 「ええ」  言い、どちらともなく手を離す。そしてアマネは笑って、 「ようこそ生徒会へ」 「うん、よろしく」 「ああ……イレイザーのほうもいいけど」 「わかってる、失踪事件もね」  わかってるならいいわとアマネが笑う。そこに声をかけてきたのはトキオたちだ。 「アマネ、良く戦った。心が震えたぞ」 「竜馬もナイスファイト!すげぇツエーな!噂で聞くよりやべーよ!」 「まさかここまで強いとは思わなかったよ……よろしく」 「まーなんだ、楽になりゃいーよ!」  そんなそれぞれの声に取り囲まれながら竜馬は気づいた。朝に感じていたあの重苦しさがどこかに消えている。 〇 ――4/10 「壱…弐…参……」  朝の清涼な雰囲気が神社に満ちている。この澄んだ世界が神田颯乃は嫌いではない。あらゆる悩み、煩悩、世俗に存在する不純な物から己を切り離してくれるような気がしたからだ。今は剣道部を休んでいる颯乃はこの時が好きで習い性のようにここにきては竹刀を振ることがある。100回ほどの素振りをしてから竹刀を置いた、前に比べてキレが落ちている。それはケガの後遺症ということもあるだろう。後悔はないが、それでも思うことはある。今は試合などに出ても足を引っ張るしかできないのだ。そのことを悔しく思う。  足を都が聞こえた、石階段を歩いてくる音だ。 「あ……楓先輩」 「颯乃ちゃんか……久しぶり」  姿を見て颯乃は顔を綻ばせる。そこにはかつての剣道部の先輩がいた、2つ上だから直接的指導は去年にしかないがそれでも宮本楓からの指導は若いりやすく熱心に師事ししたものだったし、熱意のある後輩の颯乃を楓は可愛がった。実家が剣術道場であることと進学を機に剣道からは離れていると聞いている。ここに来たのはもしかしたら颯乃と同じ事情なのかもしれないと思い、問う。 「先輩もこちらには素ぶりに?」 「ふふっ…それも少し考えたけど……今日は神社のほうにね、神事のためのものを取りに来て」 「そう言った事情でしたか」 「うん、だからそれをとったら早く帰らないといけなくって……本当は折角だし見てあげたいけど」 「いえ、先輩のお手を煩わせるわけには……」 「ありがとう……もしよかったら、今度家に遊びに来てよ……別に剣についてじゃなくても可愛い後輩が来てくれるなら歓迎するからさ」  楓は颯乃のケガのことを知っている。自らのことのように悲しみ泣いてくれたことを思い出す。そしてその時のことを思い出すと失礼だとわかっていてもどこか身震いを止められなかった。勘付かれていないかと笑みを作ってから颯乃は答えた。 「ありがとうございます、折を見て遊びに行かせていただきます」 「硬いな、でもそこが君のいいところなのかもね」  楓が笑ってからそれじゃと声をかけて離れていく。その所作も美しくどこか怖かった、そんな楓に颯乃は少しばかり憧憬を抱いている。  その背を見送ってからもう帰ろうかとしたときに、また声が来た、今度は男のものだった、とっさに身構える。しかし帰ってくるのは笑い声だった。 「カカカ……久しぶりじゃのう…神田嬢」 「……お前…あのヤシャモン…?」  いつの間にかリアライズしていたらしいヤシャモンが颯乃の後ろにいた。デジタルワールドにいたときにかかわりになったヤシャモンだ、仲間として時折共に動いた光の祖父のような態度をとったヤシャモンだがその実際はよくわからない。人がデジモンにと言うのであれば実例もなくはないが、それとはまたどこか別の雰囲気だ。 「……光ならここにいないぞ」 「知っておるわ」  わざわざあくびをするジェスチャーをして見せるヤシャモンに苛立ちを覚える。踵を返し帰ろうとする。 「迷っとるじゃろ」  その声はヤシャモンから来る。聞き捨てならない言葉を聞いた気がし、立ち止まった。 「何を言っている……?」 「若いのぉ……だから、迷っておるじゃろ?」  それはからかうような声色だった。