「……分かった?」 青石の確認に岩家イチカは元気いっぱいに答えた。 「ふふふふ……ぜんっぜん!無理ですわ!」 青石の部屋はクーラーが効いて過ごしやすいのに、顔は知恵熱で熱中症のように真っ赤で、今にも死にそうだった。 どうしよう、と頬を掻く男子高校生に、傍らで見ていたシュリモンが口を開く。 『もはや設問自体を捨てるべきだろう。イチカに読み取り問題は致命的に相性が悪い』 「いやどうかな、もしかしたら教え方が悪いかも…」 『本当にそう思っているのか?』 「んーー……」 「そ、そこで言葉を濁すくらいならはっきりと言ってくださいまし!私は確かに通知表に『もう少し落ち着いて話を聞いてくれたら…』って書かれ続けて6、7年経ちますけれど!パパからもママからも頑張ればできるはずの子っと言われてて育ちましたので…あの、もうちょっとだけ!」 見捨てられそうな子猫の如く泣きつかんとするイチカの機先を制したのは、部屋の扉が開く音。それと共に流れ込んできた声だった。 「おーい大将、やってるぅ?」 「お邪魔いたしますわ」 いつもの女子高生二人組。この時期は半袖が眩しい彼女らは外の熱気から逃げ込むようにどやどやと靴を脱いで上がり込んでくる。 このようにして男子高校生の部屋が華やぐのはいつものことだった。青春の匂いどころか、青少年の都合の良い妄想とすら感じる男子垂涎もののイベントだが、実際の所二人の目当てはかなり即物的である。 「ゴルカムある?あるよね?」 「私は亜人が読みたいのですけど…」 青石は出迎えもせず、壁の本棚を指さす。勝手に探せということだ。 いえーい。と快哉を上げ、女子高生らはまず冷蔵庫へ群がった。ギラつく夕日に焼かれて出て行った水分を取り戻す為だろう。 『忙しいな』 「いつものことだし」 シュリモンが万年金欠の女学生たちに集られている青石を気遣う視線を向けると、彼は笑ってイチカの教師役に戻った。 「岩家さん?息抜きにスマブラでもしない?」 「勉強中ですわよ私ーー!悪霊退散!悪霊退散!悪しき誘惑には屈しませんわ!しかも昨日同じゲームでボコボコにしてきましたわよね!未だにファルコンパンチがトラウマですわよ!」 「まあまあ、少し休憩は必要ですわ。一戦だけいかが?」 「……もしもし堀さま?今から来られます?お礼は弾みますので霊能探偵をこれから一緒に叩きのめしません?」 「ゲームに鉄華ちゃんは反則でしょ!!じゃあこっちは浮橋さん呼ぶよ!」 「というかこれ以上は流石にこの家キャパないって…」 『忙しい…』