茜とレナモン、そして三つ子が家に辿り着いてから半日後。 仮眠から目を覚ました竜馬を待ち受けていたのは、テンションの上がりまくった侘助の姿だった。 「あっ竜馬!目ぇ覚めた?じゃあさっそくトライホーンアタック頼むよ!」 「こーら!歳上なんだからちゃんとさん付けで呼びなさい。」 すぐ後ろにいる少女が侘助の頭を抑えて下げさせる。確かエンジュとか言ったか。 「あっすいません竜馬さん。じゃあメシの前に一発お願いします。」 「ごめんなさい三上さん、侘助くんは強い人を見るといつもこうなんだ。」 姉弟かと思ったら、許嫁だという話だそうだ。 二人とも若すぎないかとも思うが、忍者とはそういうものなのかもしれない。 「いいだろう、行くぞ。」竜馬は立ち上がると歩き出す。先に目覚めていたトリケラモンが後に続く。 「ただし、一発じゃなくて14発だ。」 アパート兼事務所の建物の地下一階は広々とした戦闘訓練場になっていた。 そこに来るとエンジュはカメラのセッティングをはじめた。録画してバイト先に提出するのだという。 「あー……念の為にやっとくか。ブシアグモン!」侘助はパートナーのブシアグモンに呼びかける。 「応よ!」ブシアグモンが一歩前に出ると、侘助はディーアークとカードを構える。 「マトリックスエヴォリューション!」 「ブシアグモン進化!ガイオウモン!」侘助とブシアグモンが一体化して究極体のガイオウモンへと進化する。 その巨体でもまだ天井までには余裕がある。これならトリケラモンでも問題なく暴れられそうだ。 『いちばんデカいサイズにしといてよかった……ちょっと待って?』厳つく逞しい巨体から不似合いな少年の声が発せられた。 ガイオウモンは自身の鎧をパージして生身の竜人ボディーが顕となる。 そこにXLサイズのボディーアーマーを取り付ける。 人間用のアーマーではたとえXLサイズと言えど流石にガイオウモンには小さく、なんとか括り付けている状態だ。 『準備完了!それじゃあお願いします!』 「……本当にいいのか?」 「大丈夫ですよ。侘助くんにはちょっとした奥の手があるんです。」 少し不安げに確認する竜馬に対し、エンジュはいたずら小僧のような笑顔で答える。 (まあ究極体だし何かあるんだろう……)竜馬がガイオウモンに向き合う。 「行け、トリケラモン!」 「トライホーンアタック!」見えざる力場が怒涛となってガイオウモンにまっすぐ飛んでいく。 『来い!』ガイオウモンはそれを胸のボディーアーマーで受け止める。 突進の勢いは衰えずにそのままやや横に受け流されて斜め後方に進む。 ボディーアーマーの表面に細かい傷はあるが、大きな損傷はない。 「まだだ!」トリケラモンが方向転換、二発目のトライホーンアタックと共に吶喊する。 ガイオウモンはこれに素早く反応、またもボディーアーマーで受け止める。 今度はやや強引にトリケラモンを横に弾くガイオウモン。 そのボディーアーマーには大きな亀裂が入っているのが見て取れた。 三発目。これにもガイオウモンは反応、しかし借り物の鎧の方ははすでに耐えきれなくなっていた。 『ぐあああっ!』ボディーアーマーが砕け散り、ある程度減衰された攻撃がガイオウモンに届く。 「まだ止めなくていいよ。」流石に止めるか?という竜馬の考えを読んでいたのか、機先を制するようにエンジュが言う。 『うがあああっ!』四発目をまともに喰らい、ガイオウモンが苦しそうな声を上げる。 五発目以降はもはや声も立てずにただ叩きのめされるままになっている。 (……なんだ?何かおかしい。)その様子に竜馬は違和感を感じていた。 それが何なのか、ガイオウモンの目を見た時に気づいた。 (あいつ……喜んでいる?)攻撃を受けるたびに目に力が宿り、歓喜の色が浮かんでくる。 気力は萎えるどころか益々と満ちて張り詰め、戦意が盛り上がっていくのが感じられた。 ついに14連撃全てを受け、全身ズタボロになったガイオウモンが蹲った。 とても無事だとは思えないその有り様をやや離れて竜馬とトリケラモンは見ていた。 『んっ、ぷっはあぁっ!あー、流石にキツイな!死ぬかと思った!』 ガイオウモンは立ち上がり、清々しそうにそう言い放った。 『噂に聞いてた以上だったなあ!すごいな竜馬さん!』 「侘助くんはね、どんな強力な攻撃でも一度だけなら耐えられるんだ。」 マジかよ、という表情の竜馬に対しエンジュがそう説明しつつガイオウモンに近づく。 「お疲れ様。今回復してあげるね。」回復用のプラグインを一通り使用すると、ガイオウモンの傷が消えた。 回復が済むとガイオウモンは進化解除して侘助とブシアグモンに戻った。 「あーやっぱり壊れちゃったかー。まあでもいいデータが取れたに違いないよな!」 そう言いながら侘助は砕けたアーマーを拾い集める。 「じゃあ動画とアーマー持ってヨロズヤグループ本社に行こうか?」 「その前にメシにしようぜ。竜馬さんも腹減ったって顔してるぜ。」 エンジュの言葉に侘助がそう提案する。 「そうだね、そうしよう。三上さんも食堂へ行きましょう?レナモンがなにか作ってるはずだよ。」 「レナモンのごはん!一ヶ月ぶり!」侘助の嬉しそうにはしゃぐ姿は年相応にしか見えない。 こいつが攻撃に転じた時、どれだけの力を発揮するのだろうか…… そう考えながらも空腹には抗えず、竜馬は地上二階の一緒に食堂へと向かった。 提出されたレポートの要旨 トライホーンアタックに一発は耐えたけど二発目でもうだいぶボロボロになってたぜ!三発目で壊れちゃった。 壊れたアーマーと動画を提出するよ!参考にして今度はもっとすごいの作ってくれよな!