トレセン学園春のファン大感謝祭 日々夢を目指して走るウマ娘を応援するファンの人々への感謝をお返しすることを目的としたこの行事。 毎年満員御礼状態が続く大催事なのだが、今年は特に客の入りが凄い。 「皆ー!久しぶりー!会いたかったよー!」 ドリームトロフィーリーグに移籍し、それ以外の露出の場面が減りつつあった衝撃の英雄ディープインパクトと、彼女の同期達が久しぶりにファン感謝祭に参加したからだ。 鏡合わせの怪物 グラストゥーリング 不死身の猛将 トリックトウショウ 世界を巡る勝利の剣 ウイニングカリバー 聖なる雷光 パマルライトニング 無冠のレコードホルダー メジログローリアス ディープ一強と揶揄された世代評価を実力で変えてみせたヒーローたちが一堂に会するとなれば、普段の倍近い観客数を記録したとしても不思議ではないだろう。 そんなこんなで大成功の内にディープ達のスペシャルライブは終了し、トゥインクルレース現役当時の思い出を振り返るトークショーが行われていた。 「そうしたらさー!ディープってばボクの顔見てほんとに誰?って、失礼すぎるよねえ!」 「だってカリバーちゃんほんとにほとんど会わなかったからー!」 微笑ましく和やかに会は進み、観客からの質問コーナーに差し掛かる。 「では、次の質問は…そこの君!そう!上から三列目の青いコートの君です!」 視界を務めるデインスズカが見定めたのは小学生くらいの少年だった。あどけなく照れ臭そうに前に出てきた少年は、恐らく、いや確実に何の悪意もなく、純粋な、年相応の興味と好奇心から、その言葉を口にした。 口にしてしまった。 「ディープインパクトさんとグラストゥーリングさんとトリックトウショウさんとウイニングカリバーさんとパマルライトニングさんとメジログローリアスさんは、仲が良いから実現しないと思うけど、誰が一番早いんですか?」 瞬間 空気が凍った。 否 世界が停止した。 和やかだった空気は一変し、観客は誰一人口を開かず一応に『オイオイオイ言っちまったわアイツ』と言う表情で染まり、ステージ外の雑音だけが空しく木霊していた。 少年は自分が放った言葉の重要さを理解できないまま瞬きを繰り返しているだけ。 では肝心な当人らは、と言うと。 笑っていた。 全員が全員、まったく同じような、『張り付いた笑み』で。 「……誰が一番早いか、かあ…ふっ、我三冠バぞ?凱旋門を制した七冠ウマ娘プイぞ?」 「そんなおめーに俺は一度勝ってんだよなあ」 「クラシックのライバルと言えばアタシだろ?トゥーの奴はマイル戦線だったしな。それにこちとらヨークのレコード持ちだ。前人未踏って意味じゃ負けてねえ」 「はいはーい!ボクちょっと前までディープちゃんとタイの2400のレコードもってましたー!」 「米仏香港のG1を三勝、こっちだって戦績でいえば負けていないと思うけど?」 「私はG1こそ勝てていませんが、一応レコードも持っていますし…それに、トルコでピサちゃんと改めて鍛えなおしてきましたから…もしかしたらもしかするかもしれませんよ?」 本当に強いウマ娘は光って見えるもの、と誰かが言っていたが、ディープ達は周囲に凄まじいオーラを放っている。 並のウマ娘では浴びた瞬間に気絶するだろう闘気、選ばれた本物のみが出せる気迫が、能面のような笑顔と相まって非常に恐ろしい。 「ふ、ふふ、ふふふふふ……お前等全員表出ろプイ!今すぐ府中のコース使えるようにするから戦争プイ!!決着付けてやるプイイイイイイィィィィィィ!!」 『上等だァ!!』 マイクを掲げた英雄の宣言に会場が割れ、関係者の多くは卒倒した。 そしてそのうわさを聞きつけ、リベンジマッチを申し込むためにミドウェルブルーム率いる翌年世代も殴りこんでくるのだが、それはまた別のお話。