二次元裏@ふたば

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28440 B24/06/19(水)17:27:55No.1202041469そうだねx6 19:03頃消えます
 にんじん、大根、こんにゃくを食べやすい長さで細切りにする。九条ねぎと小松菜は乱切りに。
 鍋に水と干し椎茸を入れて火にかけ、沸騰してから具材を投入。煮立ってきたら火を弱め、アクを取る。蓋をして10分ほど煮たら醤油、日本酒、そしてチキンコンソメで調味する。
 れんこんの皮を剥いてすり下ろし、温めたカマンベールチーズとそば粉を加えてよく練る。一口大の大きさにちぎって丸め、鍋に落とし入れる。そのまま弱火で5〜6分ほど煮てから器によそい、三ツ葉を散らす。
「できた、チーズれんこんすいとん! …………って、ちがーーーう!!」
このスレは古いので、もうすぐ消えます。
124/06/19(水)17:28:09No.1202041519+
 記憶の箱舟、生態保存区域。正式オープンをあと一週間に控えたカフェ・ホライゾンの、誰もいない深夜の厨房で、ウンディーネ107は一人もだえていた。
「あーもう、私のバカ……200種類って何よ、なんでそんな数言っちゃったのよ〜……絶対無理だって〜……」
 だんだんだん、と意味もなく流し台を叩く。当たらないとやってられないのだ。カフェ・ホライゾンのパティシエ兼チーフコックである彼女は、先日のオープン予行演習の際、
「200種類ものメニューを用意した」
と、誇らしげに皆へ宣言した。
 が、レシピを200種類などというのは、本職の料理人でもそう簡単には身につかない数である。軍務の余暇に多少特訓を重ねたくらいでどうにかなるものではない。
 実際、今日までに完成したメニューは40たらず。箱舟のライブラリから引き出してきた大量の料理本を大慌てで読み込み、連日キッチンを試作品だらけにしているものの、あと一週間ではとうてい目標数に届く見込みがない。
224/06/19(水)17:28:27No.1202041589+
「やっぱり今からでも、みんなに謝って……いやダメよ、ダメだわ」
 見栄っ張りなのは自分の欠点だと自覚はある。しかし、その見栄を張りとおしてきたからこその自分でもあるのだ。萎えそうな気力を奮い起こし、サラシアに教わった魔法の言葉をとなえる。
「……簡単にはいかないものよね。そう、そうなのよ」
「何が簡単じゃないの?」
「きゃーっ!?」
「わ、すっごいチーズの香り」
 驚きのあまりちょっと浮いたウンディーネの脇をひょいと抜けて、すたすた厨房に入ってきたのはトリアイナだ「ごちそうがいっぱい! これ食べていいやつ?」
「おどかさないでよ! あなた、なんでこんなとこにいるの?」
「帰ってきたら、オルカのキッチンもう閉まっちゃってるんだもの。こっちに来たら何かあるかなって」
「こんな時間まで何してたのよ」
「仕事よ!」トリアイナは頬をふくらませる。「沿岸部の海底地形図作り。大変なんだから」
324/06/19(水)17:28:43No.1202041652+
「ああ……」そういえばそんな作業が進行中であると、拠点化作業計画表で読んだような気がする。よく見ればシャワーを浴びたばかりなのだろう、青い髪もまだ乾いていない。
「で、これ食べていい?」
「いいわよ」ウンディーネは肩をすくめた。「せっかくだから、感想聞かせて」
「わーい」
 闖入者が彼女だったことに、ウンディーネは内心すこし安堵していた。トリアイナとはリオボロスの島やカゴシマで一緒に行動したことがあり、それなりに気心が知れている。実のところ彼女に、そういう相手はほとんどいないのだ。
 ウンディーネだけではなく、ホライゾン隊員は概して隊外に知り合いが少ない。艦隊勤務が多く、他の部隊やオルカの仲間と顔を合わせる機会が少ないうえ、人格もそうした環境に最適化されているため仲間内だけで固まってしまいやすいからだ。古参の107はまだましな方で、龍と一緒に長年眠っていた連合艦隊には、生まれてからホライゾン以外のバイオロイドと会話したことさえないというウンディーネやセイレーンがまだまだいる。
424/06/19(水)17:28:55No.1202041698+
 箱舟にカフェを開こうという、いささか唐突な今回の計画も、実はそうした状況を打開しもっと交流を増やしたいという、ホライゾン隊員たちの切なる願いが背景にあるのだ。
「うーん、おいしい! これ全部ひとりで作ったの? すごいじゃない!」
「まあね」満面の笑顔でチーズパスタを頬張るトリアイナに、ウンディーネはいくらかほろ苦い笑顔になって肩をすくめる。
「でも、ちょっと想像してみてほしいんだけど。ここにあるメニューしかないカフェがあったら、どう思う?」
 トリアイナは続いてチーズ肉まんを頬張りながら、テーブルを埋めつくす試作品の数々を見渡して少し考える。
「……カフェっていうより、チーズ料理専門店?」
「やっぱりそうよね……」がっくりとウンディーネは肩を落とした。
 メニュー数の問題だけでなく、巨大な障害がもう一つある。こちらの方がより深刻かもしれない。ウンディーネはどういうわけか、チーズ料理しか作れないのだ。
524/06/19(水)17:29:08No.1202041754+
 確かにチーズは大好物だが、チーズ料理しか食べないなどということは決してない。しかし作る方になると、何を作るにもチーズを入れないと我慢ができない。そうでない料理を作ろうとしても、
「卵黄を塗ってから、パウダーシュガーを振る……じゃあ、ここに粉チーズを……」
「鶏挽肉をコチュジャンと和えて、生地に練り込む……でも、ピザ用チーズフレークも入れて……」
 ほとんど無意識のうちにアレンジを加えてしまう。何しろチーズがないと作りながらなんとなく不安になる。できあがりの味の想像がつかない。それがチーズを入れると、とたんに味の見通しが立つようになる。食べたことも作ったこともない料理でも、どんな風に味をまとめればいいか、自然に見えてくるのだ。
 己に鞭を打ち歯を食いしばるようにして、完全チーズ抜きの料理もいくつか完成させることはできたが、お客に出すどころか自分で食べるにも忍耐がいるような代物にしかならなかった。そもそも文化的にチーズを使わない地域の料理なら大丈夫では?と、さっきは日本の伝統料理に挑戦してみたものの結果は惨敗。
624/06/19(水)17:29:21No.1202041799+
 以前、龍隊長に聞いたことがある。軍用など特殊な用途に専門化されたバイオロイドは、求められる身体的・知能的特性を実現するために複雑な遺伝子操作が行われた結果、副作用として予想できない才能や性格の偏りが見られることがあるそうだ。まさか自分がそれだとは、過去のウンディーネモデルの誰一人として知らなかったに違いない。
「ね、トリアイナ。あなた、顔広いわよね。友達一杯いるよね? バトルメイドの人たちとかとも遊んでたもんね?」
「ほえ?」クアトロフォルマッジ・ピザを詰め込みながらトリアイナは目を丸くする。「急に褒めるじゃん。なに?」
「お願い。誰か料理が得意な人を連れてきて。困ってるの」ウンディーネはトリアイナの顔を正面から見て、頭を下げた。「一人じゃもう限界で、誰かにちゃんと教わりたい。でも、頼み事ができるような知り合いなんて他にいないのよ」
「そん……」トリアイナは何かを言いかけて、口の中のピザを飲み込み、「わかった。まかせて!」
 一つ胸を叩くと、チーズチュロスを何本かひっつかんで飛び出していった。
724/06/19(水)17:29:49No.1202041912+
 普段はちゃらんぽらんに見えるくらい陽気だが、その実彼女はとても責任感が強い。きっと誰か、料理の専門家を連れてきてくれるだろう。それまでもうひと頑張りと、ウンディーネはキッチンを片付けて何冊目かのレシピ本を開く。
「ふむふむ、鯖のキッシュ……まず鯖を圧力鍋に入れて、その間にパイシートを」

 数十分後、出来上がったチーズ鯖キッシュを前に、ウンディーネはがっくりと肩を落とした。
「味は自信あるんだけどなあ……」
「ほう?」
 背後から白い手が伸びてきて、キッシュを一切れつまむ。
「ちょっと! トリアイ………」
 振り返ったウンディーネは凍りついた。
 切れ長の瞳に銀色の髪、チュニック丈のぴったりしたコックコートと黒いエプロン。そして腰に吊るした二振りのスージョー・ナイフ。そこにいたのはトリアイナではなく、
「……ソワンさん!?」
824/06/19(水)17:30:07No.1202041977+
 まぎれもなくオルカの料理長、ソワンであった。背後でトリアイナが満足げにニコニコしている。
(なっ……ちょっ……なんで!? 他にもいたでしょ!? アウローラさんとか、コンスタンツァさんとか!)
(こんな時間だもの、みんな寝てるに決まってるじゃない。ソワンさんだけは明日の仕込みで起きてるかなと思ったら、案の定会えたから頼んじゃった)
(そっ……それはそうだけど、確かにそうだけど……!)
 視線で雄弁に会話する二人を尻目にソワンはキッシュをゆっくりと、一噛み一噛み検分するように咀嚼している。その視線が何かを考えているように左右に流れるたび、ウンディーネは喉元にカミソリが走ったような気分になる。
 何しろソワンといったらオルカの厨房を支配し、司令官の口に入るもの一切をとりしきる、鬼神の料理長にして超一流の美食家。彼女が来てからオルカの平均体重が増えたとか、セラピアス・アリスを皿洗いに使っているとか、食いしん坊で知られるヴァルハラのアルヴィスが厨房にだけは絶対に盗み食いに入らないとか、恐るべき逸話には事欠かない。
924/06/19(水)17:30:22No.1202042029+
「え、えっと、あのっ、これはほんの……!」
「ほんの?」
 お遊びのようなもので、とつい口をつきそうになった言葉をウンディーネは飲み込んだ。
 目の前のこの人に、お遊びで作ったものを味見させたなどと言ったら、三枚に下ろされて明日の夕食の具にされそうな気がする。いやそれよりも、そんなのは謙虚さではなく、自信のなさを取り繕うただの予防線にすぎない。ホライゾンのウンディーネが口にしていい言葉ではない。
 切れ長の眼が見つめている。ウンディーネは一つ深呼吸をして、覚悟を決めた。
「……見ての通り、私チーズ料理しか作れないんです。でも、カフェのオープンまでに200種類のメニューを揃えないといけなくて!」
 そうして、ウンディーネは自分の事情を洗いざらい話した。仲間に見栄を張ってしまったこと。そのために特訓を始めたこと。自分の才能がどうしようもなく偏っているのに気づいてしまったこと……。
 ソワンは一言も口をきかず、話を最後まで聞いてからしずかに訊ねた。
「それでいま、あなたは何種類くらいの料理を作れるのですか」
「えっと、40……いえ、38種類です」
「38」無造作なその声の冷たさに背筋が凍る。
1024/06/19(水)17:30:35No.1202042087+
「リストはありますか」
「は、はい、これです」
 使い込んでボロボロになったレシピノートを渡す。ソワンはそれをぱらぱらとめくり、キッチンに並んだ料理を見渡した。
「のこり162種類。一週間でそれだけのレシピをものにしたいと?」
「無理があるのはわかってます。何か、アドバイスだけでも!」
「ふむ」
 ソワンはもう一度、今度はもう少し丁寧に、レシピノートを最初から最後まで読んだ。
「アドバイス、というほどのものではありませんが……どうして、チーズパスタが一種類しかないのですか?」
「はい?」
「レシピを見る限り、これはパルミジャーノを使っていますわね。ゴルゴンゾーラを使ったらどうなります?」
「それは……」ウンディーネはゴルゴンゾーラの味を思い出し、頭の中で必死に味付けを組み立てる。「えっと、塩が強くて癖があるから、生クリームを多めにして、具材をブロッコリーかなんかに変えて……」
「マスカルポーネでは?」
「フレッシュな酸味を活かすなら、トマトソースに和えたり……」
「グリュイエール」
「コクがあるからさっぱりめに、明太子を使った和風仕立てで……」
1124/06/19(水)17:30:50No.1202042152+
「これで三皿できました。あと159種類ですわね」
 ソワンがノートをぱたんと閉じる。
「えっ?……あっ……あああああああ!?」
 雷に打たれたように、ウンディーネは硬直してあんぐりと口を開けた。
 どうしてこんな単純なことに思い至らなかったのか。これまでパスタならチーズパスタ、カレーならチーズカレーと、一種類の料理につき一種類のチーズでしかレシピを考えていなかった。
 違うチーズを使えば、当然違う味付けの違う料理になる。オルカに常時備蓄されているチーズだけでも十種類以上ある。今あるすべてのレシピに、チーズごとのバリエーションを作れば、あっという間に200種類が達成できるではないか。
「あ……ありがとうございます! ありがとうございますっ!」ウンディーネはバネ仕掛けのように何度も何度も頭を下げた。
「お礼を言われるほどのことはしていません。それより、どうしても無理なものは自分で作ることにはこだわらず、他から仕入れることもお考えなさい。本職の料理店でも、そういう例はあります。努力ではなく結果に責任を負うのがプロフェッショナルですわ」
「ぐっ……は、はい」
1224/06/19(水)17:31:04No.1202042203+
「それと」ソワンの眼差しがふと柔らかくなった。「しばらく前から、いろいろなチーズがオルカへ入ってくるようになりましたが、あなたの姉妹の手はずなのでしょう? あれは結構助かっておりますわ」
「あ……!」
 確かに外洋艦隊にいる他のウンディーネモデル達に連絡して、新しい寄港地を開拓するたび土地のチーズを送ってくれるよう頼んである。単に自分の趣味でやっていることで、使い切れない分をオルカの食料庫に入れているだけだが、それがこんなところで役に立っていたのだ。
「チーズに関しては、あなたのセンスはなかなかのものです。そうですね、十年……いえ九年ほど修練を積めば、ご主人様に召し上がっていただくに値するチーズケーキを作れるかもしれませんわ」
「……!! 頑張ります!」
 仕込みの続きがあるからとソワンが帰っていった後、ウンディーネはトリアイナに飛びついた。
「トリアイナ! トリアイナもありがとうね! 本当に助かった!」
「え、お、おう」がっくんがっくん揺さぶられながらもトリアイナは笑う。「まあ、私は隊長だからね! 隊長といえば親も同然、隊員といえば子も同然ってやつよ!」
1324/06/19(水)17:31:14No.1202042240+
「私まだあなたの隊員って扱いだったの……? まあいいわ、これからばんばん試作するから、いくらでも食べてって!」
「いや、もう寝るしそんなに入らないよ?」
「いいからいいから!」

 翌週、グランドオープンを迎えたカフェ・ホライゾンの厨房では、
「フレンチトーストセットとパンケーキ、上がったわよ! 持ってって!」
「はーい! それから4番にエメンタールピラフにマスカルポーネカレー、ペコリーノサラダを二つ!」
「任せて! あと誰か、チョコレートケーキもうないから! ハチコのとこに発注しに行って!」
 頬を真っ赤に上気させ、汗をぬぐいながら満面の笑顔で腕を振るうウンディーネの姿があった。
1424/06/19(水)17:31:25No.1202042289+
 また同じ日に、ホライゾンの部隊内イントラネットワーク経由で、連合艦隊の全ウンディーネモデルに宛てて極秘の私信が送られている。
“珍しいチーズの工房や産地があったらこれまでよりもっと最優先で探索すること。収穫はオルカのソワンさんに送ること”
 艦隊指揮官である龍は当然この通信内容を把握していたが、彼女は一つ肩をすくめただけで、何も言わなかった。
 どうやらカフェを開いた目的の、少なくとも一つは着実に達成されつつあることに満足していたのだ。

End
1524/06/19(水)17:36:45No.1202043601+
ありがたい
1624/06/19(水)17:37:18No.1202043750+
急に力作が
1724/06/19(水)17:39:05No.1202044187そうだねx5
まとめ
fu3629887.txt

こないだのオンリーイベに来てくれた方ありがとうございました
ありがたいことにBoothでboost(投げ銭)を追加してくれた方がいて
せめてものお礼にリクくれたら書きます!と返信したやつの第一弾
ウンディーネちゃんの話です可愛いよね
1824/06/19(水)17:55:13No.1202048717+
サラシアに食わせた料理はだいたい美味しそうだったと思う
チーズかき氷以外は
1924/06/19(水)18:15:25No.1202054857+
一芸どんな子にもあるんだなかわいい
2024/06/19(水)18:21:03No.1202056753そうだねx1
ウンディーネかわいい!
2124/06/19(水)18:21:20No.1202056846+
ソワンさん頼りになるな…
2224/06/19(水)18:32:03No.1202060475+
ソワンさんはアクアランドでも経営アドバイザー力がすごかったからな…
2324/06/19(水)18:42:37No.1202064152+
ウンディーネちゃんトリアイナしか友達がいないのか…
2424/06/19(水)18:56:05No.1202068969+
ソワンは料理の腕だけじゃなくて人を使ったり教えたりするのも上手いからな…
普通のソワンタイプは自分一人でいいってやるからオルカソワンの個性なんだろうか


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