朝、アラームの音で目が覚める
伸びをして隣のベッドを見ると乱雑に放っておかれた布団だけが残っていた
普段なら出かける前に整えていくのに、と思っているとドアが開いた
おはよう、と声をかけながらスリッパに脚を通す。返事はない
足元から、丸めた背中を伸ばして、視線を元に戻す
そうして今日初めて対面した彼女の顔には何の色も無かった
小さな悲鳴が上がってしまう程度には

起きたらまずは顔を洗ってメールとSNSを確認する
トーストが焼ける間に昨日の洗い物を片付け、洗濯機のスイッチを入れる
チン、と小気味よい音が聞こえたらコーヒーとバターでいただく
歯を磨いて、資料とPCを纏め、気分で着替えたら部屋のドアを開ける
休日でも平日と何ら変わりない、朝のルーティンだった
もう一つの自室ともいえるトレーナー室に着き、エアコンを入れる
ピロンと鳴った通知を見れば担当の朝の日課のことだった
"今日も一日頑張ろう！！"
小さなアクセサリーの写真も、添えられた本文も、やけにシンプルだった
そういう日もあるかと納得し仕事を始めようとすると、また通知
メッセージは彼女から
"大丈夫"
それだけだった

部屋に戻ってきたら、アヤベさんが真っ青な顔でこっちを見ていた
どうしたのか心配すると、こっちの台詞よと頭に響く声で言われてしまう
強く肩を掴まれて、ベッドに寝かされて、優しく布団をかけてもらった
少し寝てなさいって言ったまま、スマホを取り出してどこかに連絡
スマホで思い出して、ウマスタを開く
のそりと起き上がって、引き出しから適当なアクセサリーを一つ
ぱちりと撮って、短く本文を載せて、投稿
どうも今日は調子が悪い。気圧のせいにでもしてしまおうか
そういえばお兄ちゃんは大丈夫だろうか
いつの間にかスマホにはトークルームが表示されている
なんで開いたのかも覚えていないが、何か書かなくてはと思い
でも、何を言いたいのか自分でもよく分からなくなった

ほとんど動かない彼女をなんとか着替えさせ、保健室まで負ぶって運んだ
あらかじめ連絡していた養護教務の先生が色々と検査をしてくれた
結果は健康体のようだ。なおさら不気味だった
いつもうっとおしいくらいの彼女が、表情の無い顔で俯いたまま
昨日まで何も変わらなかった。いや、自分が気づかなかっただけなのか
何か励ます言葉をかけたくて口を開こうとして、先生がそれを止めた

「貴女も心配なのは分かるけど、今はそっとしておいた方がいいわ」

体調に問題が無いなら、不調は心因性だと先生は言った
下手な言葉は傷口をえぐるかもしれない。そも心の傷かも定かでない
自分に任せて置いてほしい。貴女まで気に病んでは元も子もない
何もできないことを思い知って、先生に彼女を託した
部屋を出る前に様子を伺った。やはり彼女は動かなかった

養護教員から連絡を受けて保健室に行った
ノックして扉を開けると、先生が静かに口元に指をあてた
パーテーションの裏を指さしたので見ると、そこで彼女が眠っていた
丸椅子に静かに座って、体調に問題が無いことの説明を受けた

「少し心が疲れたのかもしれません。今は休ませてあげてください」

確かにカレンはレース外でも多岐に渡って精力的に活動をしている
歳の割にはとんでもない仕事量だ。トレーナーなんて目ではない
いつも笑顔で、カワイイ自分であることに妥協を見せない
ふとその心構えが折れたって、何の不思議もない生き方をしていた
無防備に、あどけない寝顔を晒す彼女に対して何もできない
自分は、余りにも無力だ

カレンを先生に任せ、トレーナー室で日が傾くまで仕事をしていた
彼女は休めただろうか。心配なのはもちろんだが、祈ることしかできない
それならせめて立ち直った彼女の為になることをしよう
そうでも考えないと何も手に付かない気がした

「……こんな時間か」

休日は校舎が閉まるのも早い
完全に出入りできなくなるわけではないが、巡回員には渋い顔をされるだろう
適当なところで切り上げて、最後に様子だけ見て帰ろうとした時に扉が開く
カレンが、幽霊のような振る舞いでそこに立っていた

真っ白な天井で目を覚ました
隣には保健室の先生がいて、私は制服で寝かされていた
優しく声をかけてくれているようだけど、何を言っているのか聞こえない
適当に相槌を打っていたら、安心したようにどこかへ行ってしまった
スマホを開くとみんなから心配のメッセージが入っている
返信しなきゃとキーボードを呼びだす
指は動かない。何を打つべきかも分からない
自分はどうなってしまったんだろう
なんだか無性に悲しくて、けれど涙は流れなくて
いつの間にか手は冷えていて、なんだかとっても寒かった
白いシーツも、清潔な枕も、どこか寒々しい
あたたかいものがほしい
動かない体をどうにか動かして、それを探しに行った

スマホに連絡が来る
取ると養護教員から、カレンがいつの間にかいなくなっていたとのこと
こちらで保護している、自分も今から帰るのでついでに送る旨を伝えておいた

「……よし、と。カレン、どうかした？」

言葉を投げかけても、ふるふると首を振るだけ
そのまま、ぺたり、ぺたりと歩み寄る姿はある種の不気味さを感じさせる
じっと彼女の同行を見守っていると、すぐ目の前までやってきて
ぼすん、と胸に頭突きをかまされた

「……甘えん坊さんになっちゃった？」

冗談半分で言ってみた
こくり、と彼女はうなずいた

ソファに座ると付いてきて、膝の上に座り首に手を回してホールドしてくる
一言も発さず、目も合わせてくれないが、態度はいつになく正直だ
そっと髪に触れると、尻尾がそわそわと動き出す
拒否はされてないとみて頭を撫でれば、ゆっくりと皮地の上を尻尾が這う

「……こんなのじゃ、カワイくなくなっちゃう」

ぽつり、と彼女が言葉を漏らした
それは現状への困惑と、小さく静かに忍びよる絶望への恐れに聞こえた
大丈夫、大丈夫と声をかけながら疲れた彼女をいたわる
君はむしろ頑張りすぎた。たまにはこうやって、誰かに甘えるのも悪くない
ゆっくり、責めぬよう、慎重に語り掛ける
すん。と彼女が鼻を鳴らした

「それに正直なところ、ちょっとだけ嬉しい気持ちもあるんだ」

這いまわる尻尾の動きが鈍くなり、止まる
続きを言う

「僕から見れば君はちょっとすごすぎた。なんでもそつなくこなすし、志が高い。どこを取っても欠点らしい欠点なんかなくて、別世界の住人なんだってそういう目で見てたこともあるんだ」

失礼なことを言っている自覚はある
信頼している相手から「お前は宇宙人だ」なんて言われたら誰しも動揺するだろう
だけど不調の原因が心の中にあって、昨日まで今まで通りに過ごしていたのなら
もし彼女が背伸びをすることに、無自覚に疲れているんだとしたら

「精神的には無敵だと思ってたんだ。そんなわけないのに。人並みに傷ついて苦しむに決まってたんだ。忘れてた。ごめん」

でなければ、僕たちの出会いはありえなかったじゃないか

「……ひどいよ」
「ごめん」

か細い声が一つ洩れ、抱きしめる力が強くなる
いつの間にか肩に乗り上げるような姿勢に変わっていて、また一回鼻が鳴る
頭を抱え、背中をさすると、嬉しそうに尻尾がはためいた
たまには弱みを見せるときがあってもいい
欲を言えば、自分を頼ってくれたならそれはとても幸せなことなんだろう

「ところでカレン」

こくり。

「……首筋で鼻を鳴らすのは止めてくれない？」

ふるふるふる。

「臭いかがれてるみたいで恥ずかしいんだけど……」

ふすんふすん。

「ねえ……」

ふすん。

カレンにトレーナーの首筋を嗅がせたかっただけなんです

>カレンにトレーナーの首筋を嗅がせたかっただけなんです
ああなんだ
それならよし！

>>カレンにトレーナーの首筋を嗅がせたかっただけなんです
>ああなんだ
>それならよし！
そうかなぁ！？

いいと思いますよ私は

抱きなさい

「おっはよーお兄ちゃん♪」
「……もう大丈夫になったんだ」
「うんっ♪カレン、絶好調！」

ガラガラと元気よく開閉音が聞こえたかと思えば、いつもの彼女がそこにいた
何はともあれ元気になったなら何よりである

「少しでも辛くなったらまだ誰かに頼るんだよ」
「へー、お兄ちゃんじゃなくてもいいんだ？」
「もちろん」

そりゃあ本音を言えば頼ってほしいが、その時の状況にもよるだろう
燻る欲望を踏み消しながら、次の練習予定を伝えようとする

後ろから彼女に抱き着かれ、思い切り首元で呼吸音を聞いた

「すぅ──……」
「……カレン」
「よしっ！お兄ちゃん分補給完了！」
「人の首筋の臭いを嗅ぐんじゃありません！」
「えー……ダメ？」
「やられて嫌なことを人にもするなって親にいわれ」
「お兄ちゃんなら、いいよ……？」
「ｯｽ───────…………そんなことするわけないだろう」
「いつでも待ってるよ♪……あっでも練習後はダメね」

今日も彼女は宇宙一カワイイ

本当に終わり
たまにはよわいカレンチャンが見たかった

メンタル案件じゃない！？大丈夫なの！？

ひとはスーパーマンじゃないから…

トレ吸いはウマ娘のメンタルヘルスに非常に良い効果があることは知っているな？

>トレ吸いはウマ娘のメンタルヘルスに非常に良い効果があることは知っているな？
ああ

>抱きなさい
笑いなさい

お兄ちゃんチャージが毎朝の日課になっちゃうんだ…

>お兄ちゃんチャージが毎朝昼晩の日課になっちゃうんだ…

>>抱きなさい
>笑いなさい
いつの日か　いつの日か　モエを産ませろ

そのうち首筋よりも濃厚なにおいのする場所を嗅ぎたくなるんだ

>「いつでも待ってるよ♪……あっでも練習後はダメね」
練習後不意打ちで思いっきり嗅ぎてぇええええ！！！

カレンチャンがお兄ちゃん吸いの中毒になっちまうー！

アヤベさんも心配かけてごめんね！お詫びに吸い方を教えてあげる！

アヤべさんはとっくに吸って吸われてしてるんじゃないかな…

カレンチャンは
お兄ちゃんに甘えないと
しぬ

カレンさんお兄さんの匂いはどうだった？
いい匂いだったかしら？

トレ吸いされるようになってしばらくは体臭ケアしまくってはカレンチャンに文句言われてたのに
ある日「…これがカレンの為になるなら…」って朝シャワー浴びずに出勤したら
日課のトレ吸いしたカレンチャンに「……ふ〜ん？」って意地悪な笑顔を向けられて理不尽に変態扱いされる

カレンチャンに抱き着かれても動じない鋼の意思

>カレンチャンに抱き着かれても動じない鋼の意思
しかし一部はフルに動じている模様

これはもうウマ吸いも時間の問題ですね…

そういえば、いい香りがする人とは、
遺伝子から相性がいいって、
聞いたことがあるな。

寮長！

不味い寮長だ

出た…ゲノハラだからすぐ分かる…

寮長！（ﾊﾞｼｨ

ゲノム寮長…

朝の三者三様の起き方がいいね…
良くねえ
休め

大丈夫じゃない時は大丈夫じゃないと言おう

>大丈夫じゃない時は大丈夫じゃないと言おう
大丈夫です。

寮長が何したっていうんだ…

>寮長が何したっていうんだ…
仲間を増やそうとしたから…

>>大丈夫じゃない時は大丈夫じゃないと言おう
>大丈夫です。
カレンチャン！（ﾅﾃﾞｪ

>>寮長が何したっていうんだ…
>仲間を増やそうとしたから…
ゾンビか何か？

でも寮長の仲間は間違いなく増えている気がする

>カレンにトレーナーの首筋を嗅がせたかっただけなんです
まあカレンチャンはここまでしないとそんな事しなさそうではある

ホーム画面でカレンチャンやたら寄ってくるからそのうち…

一回タガが外れたら大変だ