「デジタルさん、それは恋よ」
「コイ？……恋！？」
「そう。貴方トレーナーのことが好きなのよ」
指摘されて慌てふためくデジタルさん。この子、他人の惚れた腫れたは嬉々としてネタにするのに自分自身となるとこんなに打たれ弱いのね。
「なななな何を仰いますか！？わ、私とトレーナーさんは同士ではありますがそのような関係ではははっ！？」
「でもトレーナーのこと嫌いじゃないでしょう？」
「それは…そうですけどぉ…でもこの好きはそういう好きじゃなくてぇ…」
「じゃあトレーナーが『むちウマ居酒屋』行ってもいいわね？」
「……それは嫌です」
「なら、恋よ。嫉妬よそれ。妬いてるのよ貴方」
「うう…ウマ娘ちゃん達にそんな感情向けちゃいけないのにぃ…」
「ふふ…それくらい健全よ。誰だって、好きな人への独占欲は持ち合わせているものだもの」
「そう…ですかねぇ？好きを自覚したのはいいんですけど、この先どうすればいいんでしょう？」
「決まってるじゃない。距離を詰めていって最終的には告白よ」

「こっ…！？こここここっ！？」
「ニワトリかしら？」
「いやいやいや！それは流石に飛躍しすぎですよ！私はその…トレーナーさんと一緒にいられれば満足なのでぇ！」
「あら、じゃあもう一度聞くけど、トレーナーがこれからも『むちウマ居酒屋』に通ってもいいのね？」
「……イヤデス」
「決まりね。まずはトレーナーと距離を詰めることから始めましょうか」
「はい…ところで距離を詰めて告白ってどうすればいいんですか？私これまでオタ活一筋だったのでそういうこと全然分からないんですが」
「決まってるじゃないそれは…………」
「それは？」
しまった。私も告白まではいってないじゃない！でも、今更知ったかぶりしてたなんて言えないしどうしたら……
ｽﾍﾟﾍﾟﾍﾟﾍﾟﾍﾟﾍﾟ
…！これはスペシャルウィークさんの念波！助かったわ！【98ネットワーク】で助けを呼ぶわよ！
「デジタルさん、少し待ってもらってもいいかしら？」
「？いいですよ。あっ、【98ネットワーク】ですか！そういうことならごゆっくり！」

「あ、あれこそは【98ネットワーク】！！」
「知っているのか、デジたんっ！」

【98ネットワーク】とは、キングヘイロー達黄金世代五人によって生み出された情報伝達手段である。ある哲学者は言った。『友情は魂の結び付きである』、と。仲良し五人の魂が結び付いた結果、思考の共有を可能とした。
また、別の哲学者はこう言った。『恋愛は人を強くすると同時に弱くする。友情は強くするばかりである』、と。
黄金世代とてウマ娘。普通の少女である。いかにレースが強くとも、恋することもあればそれが原因で失敗し、羞恥や屈辱に見舞われることもあるだろう。正に弱り目、そんな時こそ支えてくれる友がいる。五人の繋がりこそ、黄金世代の強さの秘密の一つではないかと筆者は考える。
尊みが強くなるばかりなのは言うまでもない…

サークル 勇者の観察簿 『友情論 デジタルエディション』より

「そうなのかデジたん…」
「デジたん…？」
「おいっ、デジたん！？しっかりしろ！」

「【98ネットワーク】、機動よー！」ｵﾎﾎﾎﾎﾎﾎ
私の放った念波が拡散され、皆に届く！
（スペシャルウィークさん、ナイスタイミングよ！助けてちょうだい！）
（うん！キングちゃんが困ってる念波を拾ったからね！最初からそのつもりだよ！）
（で、何に困ってたのかなぁ、キングは？）
（実はデジタルさんのことなのだけれど…）
（デジタルさんってアグネスデジタルさんのことですか？）
（キングが最近仲良くしてる子デース）
（そうよ。あの子ったら自分のトレーナーが好きで悩んでるらしくて…）
（なるほど…つまりキングは恋愛について教えてあげようとしたけど自分も進展なんてしてないから知ったかぶりになっちゃったんだねぇ）
（う……その通り、よ。彼女のためにも力を貸して）
（もちろんいいですけど、どうしましょう？私達もほら…）
（スペちゃん以外役に立たないねぇ…）
（スペちゃんも進展しすぎてて恋愛初心者には猛毒デース！）
（ひどい！）

（困ったわね…いえ、五人もいるんだもの。三人寄れば文殊の知恵、五人寄れば一流の知恵よ！五人全員でデジタルさんを教え導くの！）
（そうだね。私達五人が協力すればきっといい案も出せるよ！）
（そうと決まればそっちに向かいますデース）
（でも、五人揃うの待っていたら昼休みが終わってしまいませんか？）
（なら使うしかないね…改良版【98ハッキング】を）
（【ハッキング】は集中力が要るわ！皆、気合い入れていくわよー！）

「お待たせ、デジタルさん」
「いえっ、とんでもないです！ところで皆さんのご要件はなんでしたかっ！？」
「あなたをこれから私達のネットワークへ招待することになったわ」
「ほえ？」
「【98ハッキング】、機動！」
「ほにゃあああああああああ！！？？」

「あ、あれこそは【98ハッキング】！！」
「知っているのか、デジたんっ！」

【98ハッキング】とは【98ネットワーク】の応用技である。本来、【98ネットワーク】は黄金世代間でしか使えない。しかしこの技、五人分の強烈な念波をまとめてぶつけることによって一時的に黄金世代以外のウマ娘とも強制的に思考をリンクさせる離れ業である。改良前は五人がその場に揃っていないと使えない技であったが、特訓の末に一人に五人分の念波を中継して、全員揃わなくとも対象をハッキングすることを可能にした。
しかし、いくら改良してもこの【98ハッキング】を考案したエアグルーヴ氏が望む人間相手へのハッキングは完成しない。アオハル杯での公正を期すために【98ネットワーク】の存在を樫本理事長代理に認知してほしいという女帝の夢はますます遠のくばかりである。

先日、やぶれかぶれ気味に理事長代理の前でその辺にいたリトルココン氏をハッキングし、【98ネットワーク】の存在の証明を試みたが、理事長代理視点では教え子が急に痙攣して動かなくなったようにしか見えなく、怯えられたのは言うまでもない…

サークル 勇者の観察簿 『ハッキングは何故完成しなかったのか』より

「そうなのかデジたん…」
「デジたん…？」
「おいっ、デジたん！？しっかりしろ！」

また能力が強化されてる…

私達の念波がデジタルさんの思考をこじ開ける！
（【ハッキング】、成功よ！）
（ほにゃあああ…！？あれ…？も、もしかして私今、【98ネットワーク】に参加してます…？）
（ようこそ、デジタルさん！【98ネットワーク】へ！）
（はじめましてデース）
（ふおおおおおおお！？！？わ、私が【98ネットワーク】に…？キタコレ…！？そんな…嘘…しあわしぇ…）
（面白い人ですねデジタルさん）
（可愛い後輩よ）
（もったいなきお言葉ですっ！）
（恋のお悩みはエル達に任せてくださいデース！完璧に解決してみせましょー！）
（ありゃりゃ、エルったら先輩風吹かして。まあ、大船に乗った気でいてよ。バッチリ解決するからさー）
（キングとその友人達が力を貸すのよ。当然よね）
（か、かっこいいいい！！！わ、わたくしめのためなんかに集まっていただいて！！このアグネスデジタル、幸せ者ですぅ！！！）
（……何か、皆調子乗ってない？）
（自分達より恋愛初心者が出てきて張り切ってるんでしょうね）

（なるほどー、トレーナーさんとの距離を詰めたいんだね？）
（はい、そうなります…で、最終的には告白出来たらなと…告白の言葉ももう考えてあるんです。『私の生涯の推しになってください』って。どうでしょう？）
（……いきなり重くない？）
（そこまで固く考えなくていいんですよ？まずは気軽に、仲良くなることから考えていきましょう）
（そうデース。何事もタイミングデース！まずは機を待ちましょう！）
（しかし、とある哲学者は言いました。『待ってはダメだ。完璧な好機は永遠に来ない』、と）
（それでも普段よりは良いタイミングがあるはずデース）
（そーそー。釣りも恋愛もコツは好機を見つけて仕掛けることにあるんだよー）
（しかし、とある日本の作家はこう言いました。『恋愛はチャンスではないと思う。私はそれを意思だと思う』、と。機を待つよりは固い意思で行動に移す方がいいのではないでしょうか？）

（…いや、まあ意志を強く持つのは大事よね）
（そ、そうだねー。意思が弱いと何か誘おうにも途中で逃げたりしちゃうからねー）
（随分かかり気味デース…恥ずかしかったりしないんデスか？）
（恥ずかしいですね…でも、その作家はこうも言ってるんです。『照れくさくて言えないというのは、つまり自分を大事にしてるからだ』、と。自分を大切にするよりは、好きな人に大切にしてもらえるよう頑張ろうかなって思いまして…）

（もうやめてくださいデェェェス！！！）
（知識で、知識で殴ってくるわこの子！！！）
（耳が痛いですね…）
（んにゃああぁぁぁ…）
（ああっ！セイちゃんが！）
恋愛経験不足ゆえの純粋さと豊富な知識。この子がこんな厄介な相手だったなんて！何か、何かないかしら！？この子のかかり気味なところを抑える手は！頑張りなさい私！元はと言えば可愛い後輩のためと啖呵をきったのは私よ！……そうだ！
（デジタルさん、貴方の言うことはどれも一理あるわ。だから、私もこの言葉を送りましょう。『愛はお互いに見つめ合うことではなく、共に同じ方向を見つめること』）
（それは…！とあるフランスの作家のお言葉…！）
（そうよ。気持ちは一方的にぶつけるものじゃないの。相手にぶつけるだけだと執着や嫉妬が生まれてしまうわ。それが悪いことだとは言わないけど、一度相手と同じ方向を見て、同じものに想いを馳せるのもまた一つの愛の形よ）
（な、なるほどぉ…確かに。しかし、同じものとは具体的にどのようなもので…？）
（簡単よ。一緒に何かに打ち込んだり、楽しめばいいのよ）

（私の場合はお茶会ですね）
（釣りに誘ってるよー）
（プロレス観に行ってますデース）
（こんな感じに楽しいことを共有するの。押しつけ過ぎるのもよくないけど、取り敢えず自分の好きなことを知ってもらおうって勧めてみるのもいいと思うわ）
（楽しいこと…私の場合は、ウマ娘ちゃん…でしょうか？トレーナーさんも重度のウマ娘オタですし…）
（そうなの？じゃあ、今度じっくり話し合ってみたらどう？）
（しかし、あの人何度も推しウマ娘ちゃんを聞いてもデジタルデジタルとはぐらかすばかりなのです…中々私のオタトークに乗ってくれなくて…）
（待って。それかなり脈アリじゃない！？）
（全然ですよ！！！いいですか！？真に信頼し合ったオタクっていうのは自分の推しや性癖、好きなシチュエーションを前面に出せるものなんです！！！それを全く見せてくれない！！！これはまだまだ信頼されてないのと同義なんですよ！！！）
（そ、そう…中々難しいのね…）

（でも、ありがとうございました。私のために時間を割いてくれて）
（いいのよ。一流として当然の務めだから）
（それにしてもキング、よく知ってたねあんな言葉）
（勉強も頑張ってるもの。一流ウマ娘として疎かにするわけにはいかないわ）
（ヒョエエエエェェ…かっこいいです…しゅきぃ…）
（貴方の博識ぶりも中々のものよ、デジタルさん）
（お褒めに預かり光栄ですっ！）
（うーん…何だか耳が痛いよぉ…）
（スペちゃんが頑張ってるのは私は知ってますよ？結果はまだまだですけど…）
（そっちの方が残酷デース…）
（あ、でも勉強苦手なのも悪いことばかりじゃないよ！トレーナーさんが色々教えてくれるし！）
（（（（え？））））

（勉強で分からないことがあるとね、トレーナーさんが教えてくれるの。ここが分からないんですけどーって。でも、量が多くてその場で教えきれない時はね、トレーナーさんのお部屋に招待してもらって勉強会になって。えへへ、好きなことの共有ってわけじゃないけど、苦手なことが甘えるきっかけになるってことかな？）
（ほほう、つまり弱みを見せることも相手との距離を詰める一手になるということですか？）
（そうそう。それでね、勉強頑張って疲れたーって時に何かご褒美くださいって言うの。身体は貼り付けて甘えた声で言うのがコツかな？するとね、トレーナーさんったら私がシテほしいこと察してくれるの。たまに私が何も言わなくてもトレーナーさんの方からご褒美だって言って仕掛けてきてくれ……あれ、皆？）

はぁはぁ…危なかったわ。咄嗟に【98ハッキング】を解除して正解ね…デジタルさんは今はまだ純粋さを失うべきではないもの…
「大丈夫ですか、キングさん？何か息が荒いですが…」
「えぇ、えぇ。大丈夫よ。それより今日のことは参考になったかしら？」

「はい！とっても！キングさんから頂いた言葉と、最後にスペさんから教わったコツを元に頑張ってみます！」
「待ってデジタルさん！？スペシャルウィークさんのコツ！？」
「はい！弱み見せてご褒美くださいって甘えるんですよね？やってみます！」
「ダメよそれはっ…」
しまった！今になってスペシャルウィークさんの惚気のダメージが！このままだとデジタルさんが大人の階段を100万ばりきで登ってしまうわ…！動きなさい私の身体！
「デ、デジタルさん…私達の話はあくまで一意見だから、他の人の話も参考にしてから、行動に移しなさい。他に親しい人とか…いないのかしら？」
「え？うーん……オペラオーさん達でしょうか？」
「そう。じゃあ、次は彼女に聞いてみるといいわ」
「分かりました！何から何までありがとうございます！」
そう言って嬉しそうに駆けていく彼女の後ろ姿を見て安心した私は倒れ込む。これでどうにか、デジタルさんの暴走は止められるはずよ。あとは頼むわね、オペラオーさん…
そんなことを考えながら、私は意識を手放した。

後日、デジタル君に変なこと教えないでくれたまえ、そしてそれを僕の所にけしかけないでくれとオペラオーさんに割と真面目にお説教されたのはまた別の話よ。

以上です
書き出しでまた流行りに乗りました
あと思いの外長くなりました

後輩に自分の性生活を教えようとするんじゃないよスペ！

スペはさぁ…

キングがめちゃくちゃ頑張ってる…

これデジたんも目の前で解説し始めてるとしたらますます意味不明な状況になってるな…

「知ってるのかデジたん！」って言ってる人誰なんだろう…

オペラオー世代も覇王を筆頭に爛れる可能性が大きいからな…

オペラオーに真面目に怒られるのって珍しいぞ！

いや解説してるの誰だよ

デジタルは賢いな…

流れるように惚気けるな

ドトウとかの方に行ったら危なかったな…

自分をあげるといいですぅぅぅぅぅ！

やめたまえ！

オペラオー世代は恋愛強者だな

…こう、と決めたら身も心も捧げるのがいいと思うわ

2人とも
やめたまえ
お願いだから
やめたまえ

ダービーウマ娘はさぁ…

可愛い後輩が恋愛相談するというから聞こうとしたら変なこと口走り始めたオージの気持ちよ

やっぱり覇王世代は爛れてるんだ…筆頭はいちばん凄いんだ…

お互い「「そういうのじゃない」」って言ってるだけのカップルじゃないのー！

デジタルトレーナー本心言ってるだけなのに…

オペラオーさんはその辺どうなんです？

>やっぱり覇王世代は爛れてるんだ…筆頭はいちばん凄いんだ…
は
風

僕を巻き込まないでくれたまえ！

（きっと謙遜なんだ…覇王の余裕なんだわ…）
（いつも愛のオペラとかやってるし夜の公演も凄いのよきっと…）

爛れた会話を腕組みながら冷や汗かいて聞いてそう

デジたんがつい言ってたけど尻尾の毛あげますってウマ娘的にはどんなレベルの衝撃になるんだろうな…

尊敬してるので覇王に関して話が盛り気味になるドトウ
覇王を犠牲にするために話を盛るアヤベさん

むちウマ居酒屋の被害が収まらねえな…

エアグルーブが相変わらずすっとんきょんな事言ってると思ってたら目の前で教え子のココンが痙攣し始めるて困惑する樫本代理がかわいそう

今回一番被害こうむったの全く関係なかった覇王では…

調子に乗り始めるも即正論で撃退されるよわよわ勢が面白すぎる…

偉人たちのありがたいお言葉だからな…

デジたんがその場にいるのに知っているのかの件はバンクだからそのままねじ込まれてだめだった

オージはきっと夜の方も覇王なのよ…とか噂されるタイプだよね

恋するデジたん良い…

恋愛において策を練ってる子は正論パンチに弱い…
見ろスペちゃんの手札を！ストレートパンチだけだ！

>「そうなのかデジたん…」
>「デジたん…？」
>「おいっ、デジたん！？しっかりしろ！」
お前はどこに居るんだよ！

>サークル 勇者の観察簿 『ハッキングは何故完成しなかったのか』より
最終的には未完の技になるの…？

全く関係ないところで代理が酷い目にあってた

でもエアグルーヴが何度も何度も頑張ってもこの反応だから未完のまま終わりそうじゃない？