二次元裏@ふたば

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29080 B21/05/09(日)00:25:49No.800823102+ 01:26頃消えます
「これでいい?」
装置を付け終わった彼が、ヘルメットの下から少しくぐもった声で尋ねてくる。
「ああ、かまわないよ。そのまま座っていてくれたまえ」
ソフトウェアの設定の最終調整を済ませると、彼はもう椅子に座っていた。
「先程も説明したが、特に何かをする必要はないよ。そのまま座っていてくれたまえ。眠くなったなら、寝てしまってもかまわないよ」
このスレは古いので、もうすぐ消えます。
121/05/09(日)00:26:12No.800823268+
「モルモットくん?」
スイッチを入れてからおよそ10分が経った。彼に声をかけてみたが返事がない。
「成功だ…しっかり眠っているね」
寝てもいいと言ったが、これは初めから眠ることを想定して作った装置である。
今回の実験装置は前回の実験で使用したものを改良したものだ。前に使ったものは全身の神経を刺激して脳に任意の感覚情報を入力するというものだったが、今回はその逆。前回取ったデータを利用して、脳の活動状態をコントロールするというものである。
これを使えば、半分「寝ぼけた」ような状態で彼と会話をすることができる。このときの意識の状態と会話の内容から、複雑な思考が脳のどの部位で行われているかを探るのが、今回の実験の目的だった。
「さあ、始めようか。聞こえるかい?モルモットくん」
「…ん、うん…」
221/05/09(日)00:26:43No.800823483+
「次回のトレーニングメニューは?」
「…グラウンドでショットガンタッチ」
「今日の夕食のメニューは?」
「…チキンステーキとシーザーサラダ。あとご飯」
手元の資料を確認して、彼の返答に嘘がないことを確かめる。体調にも大きな変化はなく、実験は概ね予定通りに進んでいた。
「ほう…前頭葉の血流が随分落ちているね」
会話をしているうちに気づいたが、この装置を使っていると彼がいつもより質問に素直に答えてくれるようになっている。もしかすると、命令に従うことをためらうといったような高度な脳の働きが装置の効果で抑制されているためかもしれない。
邪な、しかし魅力的な考えが、ふと頭を過った。
「昔のことを聞かせてくれるかな。君は一体、如何様な青春を過ごしていたんだい?」
321/05/09(日)00:26:53No.800823590+
彼は普段、あまり自分のことを話したがらない。これを機会にいろいろと聞き出してやろう。
「高校を卒業したあとは、〇〇大学に入って…」
実に興味深い。下手な実験のときよりも、私は真剣にメモを取っていた。
「後々の有用な交渉材料になり得るからね…大学での交友関係は?」
このときの私は、きっと稀に見る上機嫌であったろう。彼という人間の奥底に、漸く触れられたと思っていたのだから。
「…付き合ってた人がいた」
その言葉が、耳に入って来るまでは。
421/05/09(日)00:27:14No.800823769+
「…どの程度の間柄だったのかな」
動揺を抑えようとして、却って声が平坦になってしまう。
胃の中に石を詰め込まれたような気分に陥る。彼の言葉を聞きたいのに、その先を聞くのがたまらなく怖い。
「…同じサークルの後輩だったんだ。会ってから1年くらい経った時に、告白されて。
彼女のことは嫌いじゃなかったし、それに、僕のことが好きだって、はっきり言葉にしてくれたのが嬉しくて。
一緒に住んでたこともあった。彼女のことは、今は──」
「──っ──!」

ほぼ衝動的にスイッチを切った。
「…はぁ…くっ」
手に力が入らない。息の仕方を忘れてしまったように、呼吸がうまくできなくなる。
最初は驚いたし、ものすごく腹が立った。予測できないことでは全くないし、私にそんな権利はないというのに。
けれど、彼が彼女のことを話し出すと、怖くなって何も考えられなくなった。聞きたくなかった。
彼が彼女をどう思っていたかを。今、どう思っているかを。
521/05/09(日)00:27:44No.800823969+
彼の膝の上に座って向き合う。まだ、彼は目覚めない。
彼に身体を預けると、整髪料の中に混じった彼の匂いが鼻腔に入ってくる。
彼の匂い。彼のベッドで眠ったときに感じたのと同じ匂い。あのときは彼に優しく包んでもらっているように思えて、ひどく安心した。
もっとほしい。君はちゃんと、彼女じゃなくて私のそばにいるって、確かめさせてほしい。
「…君は私のこと、どう思ってるんだい…?」
つい囁いてしまう、弱い自分がいる。聞こえもしないのに。聞く勇気もないのに。
621/05/09(日)00:27:56No.800824043+
繊細すぎる…
721/05/09(日)00:28:12No.800824188+
「んっ…!モルモットくん…!?」
唐突な出来事に一瞬思考がフリーズする。彼に抱きしめられているということがわかるために、脳のリソースを全て使ってしまったように。
「タキオンは──」
ぞくり、と背筋に寒気が走る。まだ装置の効果が切れていなかったのか。
どうしよう。
もし、嫌いだって言われちゃったら──
821/05/09(日)00:28:36No.800824393+
「走る姿がすごく綺麗。ただ速いだけじゃない。
初めて見たときから、ずっと忘れられない」
さっきとは違う刺激が背筋に走った。
私が彼の膝の上に乗って向かい合うと、ちょうど彼の口が耳のところに来る。
耳の中から、あつくてあまいものを流し込まれる。それが頭を溶かして、背中を落ちていって、お腹の中で蕩けてゆく。
「…実験も、たまにびっくりすることはあるけど、一生懸命なタキオンのことは全力で応援してあげたい。
こないだの結晶の実験、すごく綺麗だった。
くれたやつ、ずっと大切にするから」
921/05/09(日)00:28:46No.800824503+
「…あぁっ…!」
耳が熱い。身体が熱い。耳当てをしている子の気持ちが少しだけ解る気がする。
全身に今まで感じたことのない痺れが走る。
もう、だめ。
もう、私をとかさないで。
「タキオン──」
「…ぁああああぁっ…!」
ああ、忘れていた。
彼も私と同じくらい、壊れているということを。
1021/05/09(日)00:29:06No.800824657+
「ごめんなさい。もう、無理です。
レースが好きなのはわかります。悪いことだとも思っていません。
でも──」
最悪だ。今になって、こんな夢を見るなんて。
何かはっきりとしたきっかけがあったわけではなかった。強いて言うなら、僕がレースにかまけすぎていたことだったろう。
「先輩が私のことちゃんと好きなのか、信じられなくなっちゃったんです。
だって、今まで一度も、面と向かって好きだって言ってくれなかった」
その言葉を、今でもずっと覚えている。愚か者の自分への戒めとして。
自分が一番もらって嬉しかったものを、返してあげることをしなかった。心のどこかで、与えられることが当たり前のことだと甘えていた。
何度も謝った。もう、彼女のことを見れない。
自分にはきっと、過ぎた人だったのだ。
1121/05/09(日)00:29:23No.800824784+
「…君は私のこと、どう思っているんだい…?」
タキオンがいる。今にも泣き出しそうな彼女が、震えた声で尋ねてくる。
ごめん。また間違えた。でも、今度はちゃんとするから。大切な人を、もう悲しませたくないから。
ちゃんと伝えよう。想いのたけを、全部。

ヘルメットが取られる。
目が覚めると、膝の上に乗った彼女と向かい合っていた。
あれは夢ではなかったのか。
彼女にいろいろと恥ずかしいことを言ってしまったことと、そばにいてくれたのが彼女でよかったという気持ちが同居している。
1221/05/09(日)00:29:44No.800824955+
「…ひどいね、君は」
しなだれかかってきた彼女の唇が耳に触れる。声だけでなく、吐息も感じられるような距離に。
「…え?」
「惚けてもだめだよ。これはさっきまで君が私にしていたことじゃないか」
舌が耳に這う。頭の中が、今度は水音で満たされてゆく。
「こうしていると、君の中身が蕩けて、私のことしか考えられなくなってしまうのかな。それとも──」
舌がそのまま、耳から首筋に降りてゆく。
「首輪でもつければいいのかな。
ねえ、どうすれば、君は私のものになってくれるんだい?」

彼女の両手が頬を包む。彼女の瞳の中に、今まで見たことのない昏い光が揺蕩っていた。俄に体温が上がってゆくのがわかった。いけないことのはずなのに、目が離せない。
「君の目は綺麗だね…他は如何にも常識人という風なのに、時折ここは私以上に狂った光を宿すのだから。
物を見るためではなく、心を覗かれるためにあるのかな、それは」
1321/05/09(日)00:31:01No.800825530+
「…こういうこと、最近はよくするよね」
「自分でも不思議なんだ。
あのときからかな。君を見ていると、どうしても自分のものだとはっきり証明したくなってしまう」
子供じみた独占欲というには、余りに湿った感情。
でも、お互い様かな。僕だって──
1421/05/09(日)00:31:11No.800825602+
「でも、これはだめ。
手なら最悪あげてもいいけど、目はだめ」
「…随分と飛んだ答えだね?どうしてだい?」
「まだ見てたいものも、これから見たいものもたくさんあるから」
君のことを考え出すと、どうなってしまうのかわからないんだから。
「君を見れないのはやだ。だったら、死んだほうがまし」

「…モルモットの鑑だね、君は」
ああ、やっぱりだ。
君も立派に狂っているよ。私と同じだ。
──うれしい。
1521/05/09(日)00:31:32No.800825758+
「私も君と一緒に住む」
装置を片付けながらそう告げると、彼はわかっていたような、それでも飲み込めないような顔をしていた。
「…一応聞くけど、なんで?」
「実験やトレーニングの打ち合わせのために一々君を呼びに行くのは面倒だとか、弁当ではなくできたての君の食事を食べられるとか、色々理由を考えてはみたよ。
でも、やはり誤魔化せないね」
彼女がしていたことを私ができないのが嫌なのだ。彼女だけが知っていたであろう彼の姿を私が知らないのが、どうしようもなく妬ましい。
「でも、たまに鍵開けて入ってきたりするよね?」
ああ、本当に君はずるい。どうしても私に、本音を言わせたいのかい?
「君から貰わなくては意味がないことくらい、わかっているだろう?
…私とは嫌かい?」
「わかってるじゃん」
「君の口から聞きたいんだ」
だから、こっちもずるをしてやる。
1621/05/09(日)00:31:55No.800825919+
「──これから、よろしくおねがいします」
「喜んで、我が愛しのモルモットくん」
──先に戻れなくなるのは、どちらだろうね。
1721/05/09(日)00:32:43No.800826266そうだねx11
おわり
タキオンは攻めてるときはつよつよだけど主導権握り返されるとよわよわであってほしい
1821/05/09(日)00:34:09No.800826894そうだねx1
回りくどい表現で話すけど本質的には好きな人の過去と今の気持ちが知りたいだけなんだよね…
1921/05/09(日)00:36:53No.800828185+
似たもの同士…
2021/05/09(日)00:39:21No.800829382そうだねx5
ちなみにモルモットくんの元カノに対する気持ちはほぼ申し訳ないっていう負い目です
よりを戻そうとかは全く考えてません
2121/05/09(日)00:42:05No.800830590+
>どうしよう。
>もし、嫌いだって言われちゃったら──
よわいいきもの…
2221/05/09(日)00:47:45No.800833057+
ショットガンタッチって筋肉番付のアレ?
トレーニングでやるものなのか
2321/05/09(日)00:50:04No.800834049+
それも、今度言ってあげなね…
2421/05/09(日)00:51:39No.800834658そうだねx1
スピードレベル5はショットガンタッチでは
2521/05/09(日)00:52:11No.800834872+
かよわいけど強い生き物すぎる…
ずるい
2621/05/09(日)00:55:20No.800836290+
>かよわいけど強い生き物すぎる…
>ずるい
攻められれば強いんだ
でもモルモット君はタキオンと同じくらいイカれてるんだ
2721/05/09(日)00:59:10No.800837811+
サウザー…
2821/05/09(日)01:00:35No.800838357+
>ショットガンタッチって筋肉番付のアレ?
>トレーニングでやるものなのか
スピードのレベル5がそれでしょ
2921/05/09(日)01:03:01No.800839391+
これでまだ付き合ってないんですか
3021/05/09(日)01:06:14No.800840659+
ルームメイトがいなくなるけどデジたんはいいの?
3121/05/09(日)01:07:41No.800841259そうだねx4
>ルームメイトがいなくなるけどデジたんはいいの?
幸せならOKです😇
3221/05/09(日)01:13:57No.800843595+
モルモット君に起こしてもらう
モルモット君とごはんを食べる
モルモット君と一緒に寝る
しあわせ
3321/05/09(日)01:21:11No.800846273+
そうして生まれたのが君だ
ダイワスカーレット


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