…………
いつものようにカフェに実験の手伝いを頼もうとしていた時、珍しく彼女が狼狽しているのが見えた。
ふぅん…常に冷静なカフェがこれほどまでに精神を乱すとは興味深い。
「どうしたんだいカフェ」
「違う……！違う……！！私の知っている『あの子』の姿じゃない……！」
「カフェ？」
「背中越しでもわかる……！あれはウマ娘でもヒトでもない……！あれは…あれは一体何なんですか…！？」
ブツブツと呟くや否やカフェは何処かへ走り去ってしまった。
いつもの静かで闘志ある走りではなく、まるで何かから逃げるように。

…………
「二着か…まぁ良いデータは取れたかな」
モルモットくんが持ってきたG�Tレースへの出走登録、私としてもプランAの実現のためにデータが欲しかったという事でモルモットくんの意向に従った。
しかし結果は僅差での二着、完璧な結果とは言えないが今後に活かせるデータは収集でき――
ｼﾞﾘﾘﾘﾘﾘﾘﾘﾘﾘﾘﾘﾘﾘﾘ
何処かから聞こえてきたけたたましいベルの音で気が付くと、私はレース場の前に立っていた。
……今のは何だ？
白昼夢？いや、コンディションは考えられる限り最良をキープしてきたはずだ。
「おはようタキオン、今日はレースだな」
いつの間にか隣に立っていたモルモットくんが声を掛けてくる。
「タキオンなら必ず一着が取れるよ」
いつものような笑顔で話すモルモットくんに送り出され、先ほど走り切ったはずのレースのスターティングゲートに立つ。
結果は一着、先ほどの白昼夢で私を差し切ったウマ娘は中盤でバ群に呑まれて抜け出せなくなっていた。
研究の成果が如実に出た最高の結果の筈だが、私の心は何処か曇っていた。

…………
やはりおかしい。
先日の白昼夢から、時々またあのベルの音が聞こえるようになってきたのだ。
ベルが鳴るのは私に良くないことが起こった時…大きなものではトレーニング中に怪我をしたり、レースで一着を逃した時。
小さいものでは商店街の福引でハズレを引いて少し気分が下がった時や、研究が盛り上がって寝不足になった時。
そんな時には決まってベルが鳴り、悪い出来事は全て白昼夢になっていた。
ベルの回数が増えるにつれ、日常で違和感を覚える事が増えてきたように感じる。
三女神の像はこんな姿だっただろうか。
女神と言えばギリシア彫刻に代表されるような美しい姿の彫刻ではないか。
こんな、真っ黒な化け物がお互いを貪り合うような悪趣味な像だっただろうか。

…………
神通力、超能力…そういった類のものは余り信用していないんだがね。
あの悪趣味な三女神像の前を通りがかった時、私の意識に浮かび上がったのは前方を走る二人のウマ娘の影。
その幻影が走り去ると同時に私の肉体はまるで数か月もトレーニングを重ねたように強化されていた。
それだけではない、末脚のキレやコーナーを効率的に走る手法がまるで以前から知っていたかのように体に染みついている。
更に特筆すべきは他のウマ娘の持つ独自の強みをも私が意図せずに手にしてしまっているという事だ。
例えばあの『黒い刺客』ライスシャワーの持つ最終直線での爆発的な加速や、スペシャルウィークの突破力……
私の持つレースプランニング能力と同様に、このような技術は真似できるものではないはずなのに。
そしてこの奇妙な現象を経験したのは私だけではない。
専属トレーナーを持つ有力なウマ娘達は皆、同じ体験をしていた。
彼女たちは皆形容しがたい不安感に塗れている。

…………
私はモルモットくんの自室に侵入してみることにした。
頻発する不可解な現象と様子のおかしいモルモットくんの間には何かしらの因果関係を感じざるを得なかったのだ。
トレーナー寮の前に立ち、外観を眺めると奇妙な感覚に襲われる。
私の知っているトレーナー寮はこんな外観では無かったような気がする。
一部に蔦がへばりつき、一部は風化してボロボロになっている。
かと思えば一部は新築のように綺麗で、一部は明らかに異常な力で無理矢理曲げられている。
常識的に考えてこのような建物はあり得ない。何故私を含めて誰もこの違和感に気付かなかったのか。

モルモットくんの部屋の鍵は掛かっていなかった。いざという時のためにピッキング用の道具も用意していたが杞憂に終わったようだ。
「うっ……！？」
扉を開けた瞬間に鼻を突いたのは腐敗臭。
ワンルームのトレーナー寮のキッチン近くにはすっかり腐り切ったコンビニ弁当の残骸が転がっていた。
こんな空間で生活しているのか…！？
ふと、腐った弁当の日付が目に入る。
「……昨日の日付？」
ラベルに書かれていた賞味期限は昨日だった。常温で放置したとしても一日でここまで腐敗するのは科学的にあり得ない。
何か、何か異常な事がこの部屋の中で起こっている。
思わず後ずさりした私の脚に何かが詰まったゴミ袋が当たる。
ゴミ袋の中には無数の…叩き壊された目覚まし時計の残骸が

「見たのか」
「っ！？」
開け放しにしていた玄関に、いつの間にかモルモットくんが立っていた。
「モルモット、くん？」
マネキンのような無表情でモルモットくんがゴミ袋に新しい残骸を放り込む。
「時間という物は一つの大河のようなものだ。森羅万象は同じ流れの中で存在している」
一杯になったゴミ袋の中身を無理矢理圧縮しながらモルモットくんが語る。
「だがその大いなる流れに逆らって泳ぐとどうなるか…時間を逆行した者には多大なる負荷が掛かり、その周囲にも異常な流れが生まれる。この部屋を基点にしすぎたのか…ここの流れはもう滅茶苦茶だ」
「何を言っているんだい…？」
「疑問に対する回答だよ、タキオン」

何故彼が私の欲するものを事前に察知できるのか、何故私が出走したいレースが分かるのか、何故私に良くないことが起こると決まって白昼夢が起こるのか。
「君は…まさか……時間を遡っているのかい…？」
「はは、半分正解だ」
張り付いたような笑顔で彼が振り返る。
「でも俺だけじゃない。このトレセン学園に在籍する全てのトレーナーが禁忌に触れてるんだよ」
そう言って彼はベットの傍に置かれた目覚まし時計を指さした。
「どうして…こんなことを…」
「俺たちは『トレーナー』だからだ。俺はこの三年間を使って、君を究極のウマ娘にしなくちゃならない」
そう言って取り出したトレーニングノートは、数十年は経過しているであろうと一目でわかるほどにボロボロになっていた。
一体彼は…何度…何年このトゥインクルシリーズを繰り返しているんだ！？

「…止めるんだモルモットくん。私は君と共に果てを目指せるならそれで――」
「駄目なんだタキオン、時計の針は動き始めてしまった。俺が君を究極のアグネスタキオンとして育て上げても…他の誰かが担当の為に大河を遡る」
そう語る彼の眼は悲しそうだった。
「これは消耗戦なんだ。俺以外の全員が切符を失うまで続く……それに」
彼が指さした先にあるのは……一枚の姿見。
「もう手遅れなんだ」
そこに映っていたのは私の知るモルモットくんではなく
肌は真っ黒に変色し
人と識別できるパーツは全て変形し
不気味に脈動を繰り返す異形

「うあ……ぁ……！！」
「大丈夫だタキオン。俺は絶対に諦めない、この体がどうなっても必ず…君を『果て』が見られる究極のウマ娘に育ててみせる」
違うんだ
「怖い思いをさせてごめんな、でもこれも全部ただの悪い夢になる」
私はただ
「さぁ、今日もトレーニングを始めようか」
君と一緒に居たかっただけなんだ

ｼﾞﾘﾘﾘﾘﾘﾘﾘﾘﾘﾘﾘﾘﾘﾘﾘﾘﾘﾘﾘﾘﾘ

あぁ
夢なら覚めてくれ

取り返しがつかないのいいよね

悪い夢だよ…

カフェに憑いてる霊？までおかしくなるのか…

こんなアーティファクトを売るたづなさんって一体…？

超大作だね
また面白いデータが取れたよ

これアイディアロール成功したら駄目なやつじゃない？

タキオンもどうにかしようと研究を重ねてどっちもおかしくなってほしいね

あの子どうなったの…

有マを勝たせたいウララトレーナー
無敵の三冠にしたいテイオートレーナー
無敗の七冠にしたいルドルフトレーナー
長距離で勝たせたいバクシントレーナー
三冠を取らせたいブルボントレーナー
このトレーナー寮で一体幾つの目覚まし時計が叩き割られたのか

制限回数を超えて目覚ましを使い続けたトレーナーの末路か

実装されるウマ娘が増える度に被害者が増えるのか…難儀だな

ああ！ 窓に！窓に！

鋭角からくる猟犬あたりに食い殺されるの、こういうのに比べたら遥かにマシな終わり方だな…

ループもの特有の誰にも知られないその人にしか分からない苦しみが好き

大事なレースに限り3回までと目覚まし時計の使用が制限されてるのはこうなるのを防ぐためだったのか

三冠を目指すウマ娘とダービー取りたいウマ娘が被りまくってる以上マジで全員が目覚まし時計切らすまで延々と誰かが巻き戻し続けない？

>鋭角からくる猟犬あたりに食い殺されるの、こういうのに比べたら遥かにマシな終わり方だな…
変なモノに成り果てずに死ねるからな…

3年を一気に戻せる大目覚ましがあるんだろうな

有マで1着が育成目標になってるウマ娘が同年に複数存在してるから担当が勝っても別のトレーナーに目覚ましで巻き戻されるのか…地獄かよ

>三冠を目指すウマ娘とダービー取りたいウマ娘が被りまくってる以上マジで全員が目覚まし時計切らすまで延々と誰かが巻き戻し続けない？
壊れて動けなくなったトレーナーから淘汰されていくと

全てが終わった頃には大半のトレーナーが廃人なのいいよね

>大事なレースに限り3回までと目覚まし時計の使用が制限されてるのはこうなるのを防ぐためだったのか
だがその3年も果て無くループするうちの1周に過ぎない

ゲリルエはこの目覚まし戦争に勝利したトレーナーだったのかな

消耗するのはトレーナーだけで真実に気付いてもタキオンは無事だからセーフ
ところで3女神がなんかヤバイことになっているのは…？

G1開催されるたびに地獄が始まるのか

>消耗するのはトレーナーだけで真実に気付いてもタキオンは無事だからセーフ
>ところで3女神がなんかヤバイことになっているのは…？
3女神のトレーナーもループしてるのかもしれない

会長にサウジアラビアカップ勝たせてやれなくて何度もやり直すアホトレーナーが俺だ
…どうして俺トレーナーは会長をマイルで走らせようと？

>消耗するのはトレーナーだけで真実に気付いてもタキオンは無事だからセーフ
>ところで3女神がなんかヤバイことになっているのは…？
・目覚ましループの歪みに巻き込まれてトレーナー寮みたいにおかしくなってる
・継承という反則技を何度も何度も同じ3年間で大量のウマ娘にやらされておかしくなった

>会長にサウジアラビアカップ勝たせてやれなくて何度もやり直すアホトレーナーが俺だ
>…どうして俺トレーナーは会長をマイルで走らせようと？
それ以上いけない

>有マを勝たせたいウララトレーナー
>無敵の三冠にしたいテイオートレーナー
>無敗の七冠にしたいルドルフトレーナー
>長距離で勝たせたいバクシントレーナー
>三冠を取らせたいブルボントレーナー
>このトレーナー寮で一体幾つの目覚まし時計が叩き割られたのか
俺のキングは最強なんだ…俺のキングは最強なんだ…(ｶﾞﾁｬｰﾝ

>消耗するのはトレーナーだけで真実に気付いてもタキオンは無事だからセーフ
>ところで3女神がなんかヤバイことになっているのは…？
トレーナー達が担当の為に別トレをお互い潰れきるまで食いつくしあってる現状を表してる可能性

目覚ましで取り戻せない範囲の育成の失敗に気付いてしまったトレーナーは廃人と化した

そういやアニバとかの生放送で今まで割られた時計の数とか出てくるだろうから実態がわかるな

>目覚ましで取り戻せない範囲の育成の失敗に気付いてしまったトレーナーは廃人と化した
そして最大の禁忌である3年のやり直しに手を出すのか

地獄かな？

>このトレーナー寮で一体幾つの目覚まし時計が叩き割られたのか
その全員に時計売りつける死の商人がいるらしいな…

そうかたづなという名前の意味は…

>ゲリルエはこの目覚まし戦争に勝利したトレーナーだったのかな
確かにマトモに喋れなくなってたしな

>>目覚ましで取り戻せない範囲の育成の失敗に気付いてしまったトレーナーは廃人と化した
>そして最大の禁忌である3年のやり直しに手を出すのか
完璧に育成出来てやっとループが終わると思ったら誰かの手によって1年目のスカウトまで戻されるのか…

>消耗するのはトレーナーだけで真実に気付いてもタキオンは無事だからセーフ
>ところで3女神がなんかヤバイことになっているのは…？
各トレーナーの記憶を継承のたびにぶち込まれてるからじゃない？

>目覚ましで取り戻せない範囲の育成の失敗に気付いてしまったトレーナーは廃人と化した
女神像で首掻っ切れば三年戻るんじゃない？目覚ましは夢オチにするし

クトゥルフTRPGみたいだ
最後は探索者が女神像を破壊してクリア

これレースに負けたらめざまし使うトレーナー二人が同じレースに出走登録したらデッドロック起きるよね

根性が足りませんね

>これレースに負けたらめざまし使うトレーナー二人が同じレースに出走登録したらデッドロック起きるよね
片方がいくら目覚ましを使ってもダメってわかったらもっと前に戻るんだろう

世界線無数に分岐させないと…

>これレースに負けたらめざまし使うトレーナー二人が同じレースに出走登録したらデッドロック起きるよね
レース結果が変わるんだしそれぞれちょっと違う世界線に飛ぶんじゃないかな

>これレースに負けたらめざまし使うトレーナー二人が同じレースに出走登録したらデッドロック起きるよね
何回巻き戻されても確実に勝てるように担当を育て上げるしかない
まぁそうしたら3年戻されるんですけど

新築部分は目覚ましなんてインチキ使わなくてもいい強者なんだろうな
でも…そんな結末
納得できない

（トムクルーズっぽい顔のトレーナー）

つぐのひ感

ティッシュ引いたくらいでやり直してんじゃねーよ！

>ティッシュ引いたくらいでやり直してんじゃねーよ！
悲しそうな顔をした！

>ティッシュ引いたくらいでやり直してんじゃねーよ！
ティッシュ引いたらやる気下がる上に20回復が無駄になるんだぞ！？

>こんなアーティファクトを売るたづなさんって一体…？
多分我々の目にはたづなさんとして写ってるけど実体は異形のトレーナーと変わらないのかもしれない

SUN値はとっくになくなってるんだろうな…

>SUN値はとっくになくなってるんだろうな…
明るそう