先程まで街路樹を観察しては地図に書き込みを繰り返していたのは、漢方に使われる樹木を探すためだった。
「街路樹というのは、海外から輸入されて広まったものも多いし、実を食用にしたり薬にしたりが主目的な事も多々ある」
「わかったけど、トレセンの周りをしらみ潰しに探すほどの事なのかな」
「買うと高いんだなぁ、これが！」
そう言って見せてきた通販サイト、街路樹にもなっているカイカという漢方薬は500グラムで7020マニーもした、高いというか、量が多いなぁ。

出入り口横の雨具コーナーでしばし立ち止まる、その場を凌ぐならビニール傘2本で十分だが、タキオンがフィールドワークを続けるつもりなら雨合羽を買ったほうが良いだろう、スイーツを買わせたのは意識を逸らすためでもあったのだが……タキオンの考えに付き合う時は、最悪を想定しなければならない。散々考えた結果、雨合羽とビニール傘をひとつずつ買った、私が雨合羽を着てフィールドワークをし、タキオンは後ろで指示を出す形になるだろう。

タキオンはショーケースの前で顎に手をあて、２つのスイーツをじっくりと見比べていた、他にお客さんがいなくて良かった。
「桜餅、葉の成分を溶出してクロマトグラフィーにかけてみたい……だがこのイチゴのクレープはビタミンと糖類を効率よく摂取できそうだ……」
「タキオン」
「うお、なんだ君か、どちらにしようか」
「じゃあ私は、桜餅にしようかな」
「その手が有ったか」
タキオンは左右の手で2種類のスイーツを取り、私の買い物カゴに突っ込んだ。桜餅の葉っぱは好きなのだけど、今回は食べられないんだろうな。

「やけに降ってるね、む、こっちの方が動きやすそうだな」
タキオンはレジ袋から雨合羽を取り出すと、それを広げてばさりと1度はためかせた。
「私が着るつもりだったんだけど」
「街路樹は私が見たほうが早い、君は記録を頼むよ」
私にとって楽な案を提示されて拍子抜けしたが、雨合羽に袖を通すタキオンを見ると小学校の遠足のような、妙な高揚感が湧いてきた。

買った雨合羽はビニール製でフリーサイズの安物だが、ウマ娘の耳を通すカバーと、尻尾が地面に付かないようにするための返しもちゃんと付いていた。
「へぇ、これで480マニーかい、企業努力を感じるねぇ」
ぱたぱたとそこそこの勢いで降る雨の中に、タキオンは両手を軽く広げて歩み出した。急いで傘を開いて後を追う。
「A区域の植樹傾向は概ね掴めたし、大回りにC区域を経由しつつB区域を調査して、そのままトレセンに戻ろうか、ティータイムには間に合うだろう」
腕組みをして私の前を歩くタキオンは、尻尾が収められている分こじんまりと、普通の女の子のように見えた。雨合羽はすっかりぐしゃぐしゃに──

「帰ろっか」
「……え？」
きびすをかえしてトレセンの方面に向かう、
「おい！どうしたんだい、機嫌を損ねる事でもあったのか！」
「なんでも無いよ、風邪ひいちゃいけないし」
「これもあるし、大丈夫だよ！何を心配しているんだ」
雨合羽の胸のあたりを摘んで持ち上げたタキオンの、ボディラインが露わになる。これを誰かに見られたら。
「明日付き合うから、ね？」
子供を宥めるようなトーンに勤める。
「はぁ、君も我儘を言うようになったね……スイーツもあるし、晴れてる方が都合が良いのも確かだ……だがこんなのは、これっきりにしておくれよ」
どっちが子供かわからないまま、タキオンは私の横をすり抜けて歩き出した。こっそり写真を撮りたいのを必死で抑えながら、着いていく。

「晴れてればね」
音が漏れ出た、既に数歩先にいるタキオンには聞こえないような。

以上です

独占欲★★★

綺麗すぎてこんなとこに貼って良いのかって思っちゃう

いい…

いい…

男女どちらとも読める名文

いい…

>男女どちらとも読める名文
一応女性トレーナー想定だけどどちらでも通用するようにはしてるね