21/03/25(木)22:13:08No.786790872 ふんにゃかハッピー!ほんにゃかラッキー!さあアナタもご一緒に!! 運は大事!大切ですよ!開運してますか?困ってなくても神頼んでますか? たかが運頼みと侮ってはいけません!だって私は集めた開運グッズたちにいつも助けられてますから! むむむ…?その顔、信じてないですねぇいけませんよ!信じるウマは救われる!ありがたやありがたや〜 …まぁ、勿論運頼みだけではダメですけどね?頑張って頑張って努力して…やれることは全部やって その最後の最後に頼れるレースにおいて1番重要な要素!それが運です! だから私は、あの子がレースで事故に遭ったと聞いた時、本当にうれしかった 奇跡が起きたんだと思って心からシラオキ様に感謝した え?ウマ娘が事故にあった不幸を神様の奇跡だなんて、ですかぁ? ああ、何か、勘違いしてるんですね ハッピーって言うのは新人のあの子がいなくなったことじゃないんです だって、あのレースで偶然事故が起きなくても、私があの子を事故にあわせてたはずだったんですから トレーナーさんが新人のあの子に入れ込むようになってから、私の運勢は最悪でした。大殺界もよりもどん底です どれだけ開運グッズを集めても、シラオキ様に願っても変わらなかった。よくないことばかり起こりました そこで初めて気づいたんです 運とか占いとかに頼るのは、あとはもう運を天に任せるしかないくらい頑張って頑張って努力して…やれることは全部やって その最後の最後に頼らないといけないことだったんだって だから頑張りましたよ。計画を練って、襲撃の時間も凶器も方法も全部吟味して、今夜決行だというところで…本当に事故が起きました だから奇跡って言うのは、結果的に私が手を汚さずに済んだことを言ってるんですよ んっふふー!……これ、本当にナイショですからね? あなただから特別に話したんですよ? だからお願い 私からあの人を盗らないで下さいね? 21/03/28(日)10:02:26No.787514835 トウカイテイオーが住む街ではヴァンパイア、ウマ娘、ゾンビ3つの種族が共存し暮らしていた。 それなりに平和に共存していた3種族だったが、ある時空を覆うほどの巨大なUFOが街に襲来する。 エイリアンの侵略に集会を開いたウマ娘たちだったが、彼女らは対策よりもヴァンパイアへの不満を爆発させてしまう。 同時にヴァンパイアはウマ娘たちがこの事態を引き起こしたのだと騒ぎ出し、ゾンビもまた暴動を始めていた。 テイオーは種族同士の争いをやめさせ、全員で協力して街を守ろうと奔走する。 そこへヴァンパイアに噛まれたことで吸血ウマ娘となったダイワスカーレットとゾンビになったスペシャルウィークも合流。 エイリアンの目的が街の名産品ニンジンタピオカであることに気づき工場へ向かい、これを渡すとエイリアンは喜んで受け取った。 そしてビリー・ジョエルの曲の歌詞を引用し、上から目線でお礼なのか説教なのか分からない言葉を述べるエイリアンに「うざい」と思わず反論すると逆ギレ。 UFOに戻り核爆弾を発射してくるもテイオーがこれを蹴り返しUFOは爆散。 街には平和が戻るのだった。 21/03/29(月)19:49:39No.787985791 あっ、ねえねえトレーナー!きいてきいて! 昨日ねたいへんだったの、うっかり落としものしちゃってさがしてたらくらくなっちゃって でもねトレーナーさんがたすけてくれたの! ううんトレーナーじゃないよ!知らないトレーナーさん! それでねお礼がしたいけど名前きくのわすれちゃったからこまってるの! とってもピカピカひかってる人だったよ! 外がくらくなってたから目立ってたの! カラダがね、にじ色にどんどんひかってて 目もひかってるからかいちゅうでんとうもいらないの! さよならするときにニコってしたら歯も前からおくに光が流れていくの! すごいよね!トレーナーもひかったりできる? できない?じゃああのトレーナーさんがとくべつなんだー! すごいよね!かっこいいよねー! まぁ総合すると気味が悪いよね 21/03/30(火)00:38:27No.788112304 「サァッ!さぁさぁさぁさぁ、皆さんご一緒に?ハッピーカムカム!!シラオキ様よりフクヨコーイ!!」 「「「「「ハッピーカムカムフクヨコーイ!!!」」」」」 くねくねと不思議な挙動と共にフクキタルが珍奇な鳴き声を上げると、それに答える信者たちの叫びが建物を揺らした。 なにがどうして、こんな事になってしまったのか。 何処で間違えてしまったのか。何がキッカケで全ての歯車が狂いだしてしまったのか。 それはいくつもの伝説的な輝かしい成績を残し、民衆から惜しまれつつもレースを引退したフクキタルを慕うファンたちの行動が始まりだった。 マチカネフクキタルの強さの秘密、原動力、モチベーションといったものは何か。少し調べてみればすぐに分かる。 シラオキ様への信仰だ。 それを知ったウマ娘がひとり、ふたりとフクキタルの元へシラオキ様へ祈りを捧げたいと訪れてきた。 フクキタルは大喜びで歓迎するとその度にシラオキ様の逸話や祈りの作法を語った。 絶対に幸運が訪れるはずだ、と。 やがてシラオキ様に祈りを捧げたウマ娘たちの中からレースに勝つ者が現れると、噂はさらに広まり参拝者は日に日に増えていった。 中でも才能はあったが自己肯定力に欠けるある一人のウマ娘は特に足繁くフクキタルの…正確にはシラオキ様の元へ通い信仰にのめり込んでいった。 今日はこんな良いことがあった。偶然出られることになったレースで勝てた。皆が自分を見る目が変わった。 自分本来の実力が発揮できるようになり、周囲から認められるようになったことまでを全てシラオキ様の御利益と解釈し、シラオキ様を讃えのだ。 やがてレースで活躍するウマ娘たちの間でシラオキ様の話は周知のものとなり、オカルトを信じない者の中にも「なんとなくゲン担ぎで」という空気まで出来上がっていた。 この頃にはフクキタルが現役時代に稼いだ金を使ってシラオキ様信仰のための施設が建てられ、県外からも参拝客が訪れるようになっていた。 ……なぜ俺はこの時、フクキタルを止めなかったのか。まだ、まだこの時なら間に合ったかもしれないのに。 信仰というものは広まれば広まるほど、それに反発する者も現れる。 レースという真剣勝負の場に、運だの信仰だの神様の奇跡を持ちだすなどアホらしい。 実力が全ての世界だ。こんなものは甘えだと、公の場で堂々と否定するウマ娘が現れたのだ。数々のレースで優秀な成績を残していた実力者だった。 そして、彼女のレース中に事故が起きた。 信者たちは次々に噂した。彼女はシラオキ様の怒りに触れた。祟りだ。呪いだ。 エコーチェンバーというものだろうか。信者たちは自分たちでどんどん不安を煽っていった。 マスコミまで面白おかしく便乗し、他人の信仰を公然と侮辱したバチが当たったと書き立てた。 そんな時に限って悪い偶然は続くもので、レースや練習中に怪我をするウマ娘たちが出てしまった。 どの子もシラオキ様を信じていないか、あまり積極的に拝んだりしない子ばかりだった。 シラオキ様の祟り。 どうということはない、単に転んで擦りむいた怪我までがそう噂される、おかしな雰囲気が漂っていた。 「一緒に謳おうハッピーカムカム!」 「「「「「ハッピーカムカム!!!!!」」」」」 「家内安全、交通安全、恋愛成就に無病息災、おまけにモッテケガチャ運向上!!センキューシラオキッ!!!」 「「「「「センキューシラオキ!!!!!!!!!」」」」」 信者たちの叫びは、もはや怒号と区別がつかなくなっていた。 どれだけ耳を塞いで聞かないようにしても、ビリビリと空気を震わせ身体に叩きつけられる。 この空間の異常さを彼女は理解しているのだろうか? フクキタルは答えない。 ニコニコと、本当に本当に幸せそうに笑っていた。 21/03/30(火)17:50:27No.788266004 ふんぎゃろふんぎゃろ、と珍なる鳴き声を上げ 占いの結果に一喜一憂する変な生き物 そんなマチカネフクキタルのトレーナーとなってから気苦労が耐ないことばかりだった 例えば……今隣に佇んでいる半透明なウマ娘の事もそうだ 『…………』 どことなくフクキタルに似た雰囲気の、笑みを浮かべたシラオキ様(?)が見えるようになった時は本気で頭を抱えた フクキタルには見えても聞こえてもいないのが余計に腹立たしい 腹立たしかったのだが……何かのお告げがあってからどうやらフクキタルにも知覚できるようになったらしい 「ふおぉおおおお!!カシコミカシコミ!!ミエマス!聞コエマスシラオキ様!そちらに居られるのですね?」 やっと見えるようになったか……と自分でも珍妙な感慨にふけっていると フクキタルはこちらの隣に立つ半透明のウマ娘にずんずんと向かっていき ……彼女をすり抜けるとあらぬ方向へふんぎゃろフニャフニャと話しかけ始めてしまった ………… フクキタルはそこに居るのであろうシラオキ様と虚空に向って未だ会話中だ …………… 隣を向く。…………半透明に透けた彼女と目が合う 誰………? 『フクキタルのこと、よろしくお願いしますね』 トレーナーのやる気が下がった 21/03/30(火)19:20:09No.788289560 走るのはすっごく楽しい。そう伝えるとトレーナーはいつも困った顔で笑う そして色んなトレーニングを毎日考えたり色んなレースに出してくれる この前は5着だった!5人中の5着! すっごく楽しかった。いつか勝てるように次も頑張るぞー!って気持ちがわいてきた トレーナーも楽しい?って聞くとクシャっとした顔で笑ってくれた それでまたわたしのために特訓を考えてくれた トレーナーはわたしの練習を見たあとは毎日夜遅くまで勉強してるみたいで大変そう 今日なんかはトレーニングの日なのにトレーナーが来なくって どうしたのかなってお部屋に見に行ったら机でぐーぐー寝ちゃってたの きっと毎晩頑張って疲れてたんだね!だから今日はトレーナーのためにお休み! それで何か美味しいものでも食べさせてあげようって買い物に出かけたら 迷子の子がいたりお婆ちゃんが困ってたりして助けてあげてたら外は真っ暗で遅くなっちゃった トレーナーと会ったのはそんな帰り道だったよ 道の真ん中で汗びっしょりの疲れた顔で、そんなトレーナーの顔は初めて見る顔だった 「……何処に行っていた?」 ちょっと怖い声、でもトレーナーの声は震えてた 「……練習が、嫌になったのか?それとも、お前を勝たせてやれない俺のことが、信用できなくなったのか……?  だから……トレーニングをサボって、抜け出したのか……?」 違う、そんなことないよ。走ることもトレーナーも大好き 勝てないのもトレーナーのせいじゃないよ、キライになんてならないよ! 「違うっ!!」 怒られたと思った。こんなに大きな声を出したトレーナーは初めてだったから でもトレーナーは泣いていた。膝を付いて蹲って震えていた 「俺が悪いんだ!才能や努力のせいじゃなくて……俺が悪いんだよ!ウララが勝てないのは俺のせいだ!」 そんなことないよ!それに勝てなくたって楽しいから大丈夫! 泣いてるトレーナーを励ましたくて、わたしが言った言葉に……トレーナーはもっと涙を流してしまった 「違う!それは違う!!そんなのは間違ってる!お前は……遊びで走ってるんじゃない!本気で、頑張って、一生懸命走ってるんだぞ!?  なら勝たなきゃ駄目なんだ!負けても皆が笑顔ならいい?走れるだけで楽しい?  お前はウマ娘なんだ!お前はまだ勝つことの楽しさも1番になる楽しさもまだ知らないだけだ!!俺はお前に、勝利の喜びを一度も教えてやれてないんだ!!」 わたしは、わたしはトレーナーと一緒に泣いていた 抱きついて、涙と鼻水で顔がグシャグシャになって 大きな声で泣いていた ごめんね。ごめんねトレーナー 1番になれなくてごめんね だって、だってだってだって、トレーナーはこんなにわたしを信じてくれてるのに ハルウララは1番になれるウマ娘なんだって信じて特訓してくれてるのに わたしはトレーナーの胸の中でわんわん泣いた その日、生まれてはじめて わたしは負けることが悔しいと思った 21/03/31(水)00:14:34No.788392189 あっ、トレーナー!ねえねえ今日は何の日かわかる? んー…?わかんない?じゃあ教えてあげる 今日はね、エイプリルフールなの!ウソをついてもいい日なんだって! ほら、前にね、商店街の人たちに言われたの! 「ウララちゃんは良い子だね〜今まで嘘なんてついたこともないんじゃないかい?」って その通りなの!だからね、せっかくだからエイプリルフールの今日にウソをついてみようと思ったの! でもみんな悲しくなるような話はかわいそうでしょ?だから皆が喜ぶウソにしたの! トレーナーさんたちは本当はみんなの事が大好きなの。と〜っても愛してるの! でもトレーナーってお仕事をしてるから、みんなのためにも秘密にしてるみたいだよって それでキングちゃんとかテイオーちゃんとかライスちゃんとか、…とにかく色んな子に言ったの!みんな顔がまっ赤になって泣いて喜んでたよ! ……え?今日はまだ3月?ええっ!?ど、どど、どうしよ〜! え、トレーナー…いっしょに謝りに行ってくれるの?ううう〜ごめんねトレーナー、ごめんなさい〜 でも今日は止めた方がいいかも。ほら 学園が爆発した 21/03/31(水)13:01:32No.788490543 あ、ねえねえ!さっきトレーナーのお友達のトレーナーさんと会ったよ! 公園のベンチでね、すっごく真剣に考えてるの! なにか困ってるのかなって思って話しかけたら こう…お風呂の中でね、指を筒状にして振るとね うん、こう!こうシコシコ動かしてると 水圧と腕の筋肉の感覚で脳が勝手にますたぁべーしょん?してるって誤認識するとか何とか言っててね なんだか少しだけ気持ちよくなってくるんだって! このアイデアをマックイーンのトレーニングに活かせないかって、真剣な顔でブツブツ言ってたの! すごいよね!あのトレーナーさんはウマ娘のこといつも真剣に考えてくれてるんだね! 背も高いしカッコいいし気品があって、さすがメジロ家専属のエリートだってみんな噂してるの! でもあの人とは友達やめた方がいいと思うよ 21/03/31(水)23:58:00No.788664293 いつものようにタキオンが差し出した薬品を飲んだ日の夜のことだった 頭が、痛い…。足元から上って来た異様な不快感と痒みが全身に広がり、たまらず床に倒れ込む。 ガリガリと伸ばした手で床を掻き毟った。立ち上がる事ができない。 誰か……助けを。だが、携帯は机の上に置いたままだ。 満足に呼吸もできない状態で、壁にもたれかかるようにしながら震える足で必死に立ち上がる。歪む視界の中、覚束ない足取りで部屋の中を進んだ。 机までほんの数メートルの距離、たったそれだけの距離がとてつもなく長い。 限界は、あと数歩というところで訪れた。 ずるずると壁に背中を預けへたり込む。 自分は死ぬのか……? 唐突に突き付けられた終わりが受け入れられないまま、闇夜に目蓋を閉じる。 そして……目が覚めた。窓からは朝日が差し込んでいた。それまでの不調が嘘のように身体が軽い。今からでも走り出せそうなくらい快調だった。 いったい昨夜のあれは何だったのか?そう思いつつ鏡を覗き込んだ。 そこでようやく気づいた。 ぴくぴくと揺れる尻尾と感情に揺らぐ耳。 鏡にはアグネスタキオンが映っていた。 21/04/01(木)20:45:11No.788868155 今宵もお待ちかねみなさんこんバクシン!!! 今夜もやって参りましたバクシンラジオ!!サクラバクシンオーですよ!! それではバクッとシーンに読み上げて行きます今日のおたより!!! 「バクシンオーさんこんばんわ」はいこんバクシン!! 「実は私はバクシンオーさんのトレーナーさんに片思いしています」ちょわっ!?!? 「思い切って告白したいのですがどう思いますか?」なんと!!!なんと驚きました!! いつの間に恋のモテ街道をバクシンしていたのですかトレーナーさん!!!! これはバクシン開祖として私がラブロードを導かなくては!!!!! それではお答えしましょうバクシ〜〜〜ン!!!! やめたら? そんな自爆テロみたいな告白迷惑なだけですよ? しかし!!!!時には当って砕けた経験もバクシン的成長に繋がるでしょう!!!!派手に散りましょう!!!!! それではまた来週!!!!!次回はどんなお便りが来るか楽しみながらバクシンバクシンバクシーーン!!!!!! 21/04/02(金)20:57:22No.789139909 「なあなあ、ジャスタウェイになる薬とか作れねーの?何に使うのかって?決まってんだろトレーナーに飲ませるんだよ」 突然頼みがあるから何かと聞いてみれば、そんなことか いやあ、無理ではないさ無理では。でも止めた方がいいよ 好きなものと好きなものを合わせたって素晴らしい実験結果になるとは限らない ラーメンとケーキが好きだからってその二つをぶち込むアホはいないだろう? 私も以前モルモット君を薬でカフェにしてみたんだが、どうにもしっくりこなくてねぇ やっぱりモルモット君はモルモット君が一番という結論に至ったという訳さ いやぁー実験前にモルモット君の細胞を保存しておいてよかったよかった そこからクローンを作ってモルモット君は元通りさ おやカフェ?…こんなところで会うとは奇遇だね……今の話、聞いたのかい? 信じられない顔をしているね。嘘だそんなこと信じないって? はははっ!うん、勿論嘘だよ。冗談冗談。え?まさか本気で信じ…って――熱っ、あつーい!やめろコーヒーをかけるなっ…!? や、やめろカフェ!何するつもりだ何するつもりだ!!コーヒーミルで何するつもりだ!?私にいったい何するつもりだ!?!? 21/04/02(金)00:09:38No.788937213 「えええ〜〜〜!!やっぱり止めるってどういうことなのマックイーン!  今日こそトレーナーに『好き』って伝えるんじゃ…むぐ、もごごご!?!?!?」 「しー!シィーですわ!!声が大きいですの!!」 トウカイテイオーの口を押さえて黙らせ、キョロキョロと辺りを見渡す …幸い誰にも聞かれなかったようだ 「だって…今日はエイプリルフールじゃありませんの。もし嘘だと思われたら…」 「それ、前も色々と理由をつけてやめてたよね。本当に告白する気あるの〜?」 ぐぬぬっと喉元まで言葉が出かけたがそのまま押し黙る。テイオーの言葉に何も言い返せなかった じとーっとした目をこちらに向けていたテイオーの顔は、やがて呆れたような表情に変わった 「ふ〜ん。マックイーンがいいならいいけど。そんなんじゃいつか他の娘に盗られちゃうかもね?……ボクみたいに…」 からかうような言葉の最後に、少しだけ影が落ちた そうだ。テイオーもまた自身のトレーナーのことが好きだった 恋の話は年頃の少女たちにとって大好物だ。 マックイーンも興味津々にかつてテイオーから恋バナを聞き出そうとつついていた。無邪気に トウカイテイオーはトレーナー相手に恋心を実らせた。 彼女はそれを大切に大切に育て……その恋は収穫を迎える前に終わってしまった 恋愛に予約も順番待ちもないのだと、無慈悲な現実が突き付けられたのだ 「だから気持ちを伝えたいなら今すぐ!さあ早く!行こうよ行こうよ〜」 ぴょんぴょんとマックイーンの周りをぐるぐると飛び跳ねながら無邪気にテイオーが煽ってくる まるで小動物そのものだった 「わ、わかってますわ!わかってます!…はぁ、だからもう少し心の準備を……テイオーの気持ちもわかりますから」 「……ボクの気持ちが、わかる?」 せわしなく動き回っていたテイオーがぴたりと止まる 「今なんて言ったの?ボクの気持ちがわかるって言ったの?何が?何がわかるって?」 笑みを浮かべたまま、いつもと変わらない口調で、しかし纏う雰囲気だけが変わっていた。 「会長がトレーナーに告白して付き合い始めたって聞いて全部嫌になって泣き喚いたその次の日が大事なレース  泣き腫らした目を、ほとんどやったこともない化粧で誤魔化してボクがどんな気持ちで表彰台に立ったかわかる?  さすが帝王だ。天才だ。最強だって讃えられてウイニングライブのセンターから観客席で寄り添うトレーナーと会長をどんな気持ちで見ていたか…そのボクの気持ちがわかる?  ねえ、答えてよマックイーン」 何も、答えられなかった。その威圧感だけで文字通り息すら止められていた。 「…………変な事言ってごめんね、マックイーン。でもほら、やっぱりボクみたいに後悔して欲しくないからさ」 「え、ええ……わたくしの方こそごめんなさい。無神経でしたわ…」 「……ああっ忘れてた!ごめんねボク用事を思い出しちゃった!また後でねー!」 先程までの空気を振り払うように、わざとらしくテイオーが駆けていく。向かう先は、……トレーナー寮だ ああ、そうか。ようやく理解した。恋の戦いに敗れるとはどういうことか トウカイテイオーはトレーナー相手に恋心を実らせた その実は腐ったまま、今も大きく成長を続けているのだ 21/04/03(土)21:36:17No.789480647 もういい加減理解した。このままでは姉貴とトレーナーの中は永遠に進展しない そして二人をくっ付け結婚させようとする私の案も八方ふさがり。ならもはや他に頼るしかない 恥を忍んで頼み込む。知恵を集めるのだ!1人でダメなら2人、それでダメなら3人だ! そうと決まれば善は急げ。さっそくあちこち声をかけ、ついにビワハヤヒデ恋愛成就会議が開幕となった さあ集えウマ娘たちよ!そしてその英知により姉貴にウェディングロードを走らせるのだ!!! 「むっふふふ〜ボクにまっかせてよ!このテイオーさまにいいアイデアがあるぞよ〜!ナンチャッテ!」 ワチャワチャとはしゃぐトウカイテイオー 「ふぉおおおおお!!!来てます来てますこのシラオキ様のお告げがあれば家内安全交通安全無病息災恋愛成就間違いナッシングです!!」 水晶玉に向かってむにゃむにゃと怪しい呪文を唱える珍獣 「んー、よくわかんないけど困ってるならウララにまかせて!がんばるぞー!」 白いメモ用紙とえんぴつを握りしめ気合十分なハルウララ 「「「おー!」」」 ……終わった。この会議は失敗だ。 「え゛ぇー、なんで始まる前から頭抱えてんのさ!」 「……なら一応は聞いておく。どうすればいいと思う?」 「ふふーん!それはね、このテイオウステップを見に付ければいいのさ!そうすれば、きっとこの魅惑の動きにビワハヤヒデさんのトレーナーも夢中に――」 「却下だ」 ナンデー!?と抗議のステップを踏み始めるテイオーをぐいぐいと部屋の外へと押し出した。 ナリタブライアンのやる気が下がった。 「ふむふむ。それでは次はこの私が、」 「却下」 「あー!?!?あ―あーあーあ゛ぁ゛あ゛ぁぁーーー!水晶玉ァ゛ア゛ア゛!!!」 得意顔で目の前に置かれた水晶玉をひょいと取り上げ、会議室のドアを開けると廊下の向こう目がけてボウリング お手本のような美しい投球フォームでコロコロと転がっていく玉を追い掛けてフクキタルの叫びが遠ざかっていく これでしばらくは戻っては来まい あとは……とハルウララに目を向ければ、もう飽きたのかメモ用紙で作った紙飛行機で遊んでいた ……終わった。この会議は失敗だ。 「ねーねー。なんでブライアンさんはそんなに急いでビワハヤヒデさんとトレーナーさんをケッコンさせたいの?」 ぐったりと机に伏せっているとハルウララが声をかけてきた。今度は遊びにも飽きたらしい 「結婚させたい訳じゃない…。だが休日お互いの家に行って料理したり買い物や映画を見に行ったり出かけたりしてるくせに手を繋いで「ぎゅーー」ってして終わりだぞ!?  この前なんかお泊り旅行で部屋を別々に取っていたんだぞ!?駄目だろうそれは!駄目だろう!?」 「うーん……わたしよくわかんない。ダメなの?」 駄目だ駄目だ絶っっっ対に駄目だ。このヤキモキした気持ちがなぜわからない? 三冠だからか?この思いは三冠にしか理解できない高度なものなのか? 「ふん……。子供には分からない世界というやつだ」 「むー、ビワハヤヒデさんとトレーナーさんは今のままだとイヤだと思ってるの?」 思っていないから問題なんだ。恐らくあの二人は今の状態で満足している。してしまっている。 あの様子ではそこから進むのにどれだけ時間がかかるというのか …これだけ言葉にして説明すればハルウララの賢さでも私のイライラが理解できるだろう ハルウララはメモ用紙を持ち、うんうんと頭を傾げて唸ってから答えた 「うん!やっぱりそのままでいいんじゃないかな!!」 おい、私の話を聞いてなかったのか。 「えー!?だってそうでしょ!?ビワハヤヒデさんとトレーナーさんは今のままでとっても幸せなんだよね!じゃあそれでいいよ」 良くない!ちっとも良くない!姉貴のあのじれったい恋愛を見て応援しようとなぜ思わない! 「それってブライアンさんの都合でビワハヤヒデさんには関係ないよね?ビワハヤヒデさんとトレーナーさんがお互いに好きかどうか。 そして好きだったなら、二人はどんな関係を続けて、コミュニケーションを取りたいか。結局それって二人が決めることなんじゃない? それはブライアンさんが決めることじゃないよ。ビワハヤヒデさんと、そのトレーナーさんで考えること。 一緒に居たいって気持ちが共有できたなら、自然と、あの二人にとって一番らしい姿で、一番いい距離感と過ごし方を見つけられるんじゃないの? ブライアンさんがするべきなのは二人が先に進みたいって思ったときに背中を押してあげることで、無理矢理進ませることじゃないよ? ね?」 「…………」 「…………」 「返事は?」 ……はい。 結論から言おう。会議は、失敗しました。 21/04/04(日)23:12:49No.789888453 ふうっ……ああ、タマか 『ずいぶんと機嫌がよさそう』か、分かるのか? その腹を見ればわかる?ああ確かに今はお腹がいっぱいだ それはそうとトレーナーを見なかったか?探しているんだが… 知らない?そうか… 実はさっきまでトレーナーと秘密の特訓をしていてな 催眠術で前を走るウマ娘が美味しいニンジンに見えるようにすればもっとやる気が出るんじゃないかという試みで まずトレーナーが美味しい料理に見えるよう実験をしていたんだが気が付いたらトレーナーが消えていた だからこうしてあちこち探し回っているんだが……そうか、知らないか 時間を取らせてしまってすまないタマ それにしても…タマは、美味しそうだな。一口かじらせてくれないか? ふっ……冗談だ。そう本気にするな 冗談だからな、冗談だから……一口、だけだから…… 21/04/05(月)21:41:38No.790135160 第二回『ビワハヤヒデ恋愛成就会議』 議長兼司会進行はこの私三冠ウマ娘ナリタブライアン 次に賑やかしのトウカイテイオー そしてウマ娘相手でも容赦なくアームロックを食らわせる男女平等主義者な理解あるトレーナーがいるフクキタル この三人だ ……今回も無事開催することができたのは喜ばしいが相変わらず碌なメンツが集まらないのはどういう訳だ? 三冠なんだが?私は三冠ウマ娘なんだが?これでもまだネームバリューが足りないのか。…三冠だぞ? 「ひどくない?テイオーなのに?テイオーなのにこの扱いはひどくない?ボクテイオーナノニ!」 「というかウララさんいないから前回より人数減ってます…はぁあ〜なんだか凶の予感がしますぅ」 うるさい黙れ。ハルウララ…さんは温泉旅行で欠席だ 「さん!?」「ナンデ!?」 「文句があるなら私を納得させられる案を出してからにしてもらおうか!さあ出せ!今出せ!」 我が敬愛する姉貴と義兄がもっとイチャイチャラブラブする案を! 自然と今より接近しつつお互い自発的に仲を進展させようとする内容であればなお良しだ! 「かぐや姫並みに無理難題言ってない?」 「鼻からおみくじ出す芸やれって言われた方がまだ現実性ありますよそれ」 ぬぐっ……突き付けられた現実の厳しさに心が折れそうになる。自然と八つ当たりにフクキタルにプロレス技をかけてしまいそうになるほどに 自然とは厳しく、時に理不尽な運命が襲いくる。それでも生きゆくその姿、そこに我々現代人が忘れた物が見えてきます。 「ああああっ、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいーーーー!ちょっ、ストップ!ストォォップ!!案ならあります大吉どころか激吉!いえもはや車だん吉レベルのやつが!!!」 私の腕からするりと抜け出し、会議室の扉を開けるとパンパンっと手を叩き何かを呼ぶフクキタル 「カモォーーン、ドトウ!!」 「ひぃっ…ひぃいっ……はあ、はあ……す、救いはないのですかぁ〜〜」 一体何をやるつもりかと廊下に出れば、ズシンズシンという足音と共に超巨大な特大招き猫を背負ったメイショウドトウ ふらふらと覚束ない足取りを見るに本気で重そうだ。 いったい何キロあるんだ。 どこで売ってるんだこんな珍品 「どうです!どうですこのありがたーい開運アイテ〜ム!これを見に付ければたちまち恋愛運どころかあらゆる運が急上昇間違いナッシング↑!!でッすッ!!!」 「却下」 ぽんっと軽く胸を押してやる。それだけでドトウはバランスを崩し、得意気に招き猫を撫でていたフクキタルを押しつぶす形で後ろに転倒した 「ええー!?!?」とか「あ゛ぁ゛あ゛ぁぁーーー!」みたいな声を無視して会議室に戻る 『マチカネフクキタルがまたやらかしました』と彼女のトレーナーにLINEを入れておくのも勿論忘れなかった 会議室に戻る。見ればテイオーは席に着きカチャカチャと知恵の輪を弄んでいた 「うーん。ボク一つ思いついたんだけどさ、桐生院トレーナーとビワハヤヒデのトレーナーさんをデートさせるとかはどう?」 何が『どう?』なんだ。それはどういう感情の『どう?』なんだ。これは姉貴の恋愛成就のための会議だって聞いてたのか?NTR性癖を語る場ではないんだが? いくら三冠ウマ娘でも怒るぞ。そう凄んで見せたがテイオーの態度は変わらない。「ダカラサー、ワザト嫉妬サセルンダヨー」と軽い口調だ 真面目にやれ。そう言うとテイオーは一度動きを止めて、こちらに目線を向けた 「よくさ、『恋が実る』なんて言うでしょ?ボクはあれって本当だと思うんだ。  恋の果実を実らせて……でも実らせるだけじゃダメなんだ。  その実がちゃんと成長するには二人が栄養を与えないといけない。  うん。愛を育むって言うし、ね?多分ビワハヤヒデさんとトレーナーはゆっくり実を育ててる途中なんだよ」 ガチャガチャと、知恵の輪を弄ぶ音 「でもさ……ダメなんだ。育てただけじゃダメなんだ。その実が病気でダメになっちゃったり、悪い虫が付いたりすることもあるかもしれない。  大きく大きく大切に育てて、いざ収穫だって前に誰かがその実を盗んじゃうこともだってあるかもしれない」 ギチギチと、知恵の輪が大きく軋みを上げた 「その時になって気づくんだ。その実はボクだけのモノじゃなかったってことに。他にも狙う人はいっぱいいて、収穫のその瞬間まで気を抜いちゃいけなかったって。  トレーナーが告白されて他の娘と付き合い始めたって聞いて、全部嫌になって泣き喚いたその次の日が大事なレース。……それで表彰台に立てばビワハヤヒデさんもきっとわかるよ。  皆から讃えられて祝福されて、夢を叶えた舞台でウイニングライブのセンターから観客席で寄り添うトレーナーと会長を見る惨めさを知ったらビワハヤヒデさんもきっとわかるよ。  もっと積極的になればよかった、もっと早く動いていたらよかったって」 いつの間にか、知恵の輪は机の上に置かれていた。 鋼鉄製のそれはぐにゃぐにゃにへし曲げられ、無理矢理外されている。もう二度と元には戻らない 第二回会議は、失敗した。 21/04/06(火)00:39:48No.790191254 「本日の第三回『ビワハヤヒデ恋愛成就会議』は中止とする」 「って、えぇえええええ!な、なんでですか!?わたし今日、会議のために占いの店閉めてまで来たんですよぉ!!」 会議室に入った途端に出迎えたのは怪しげな開運オカルトグッズの数々 三冠ウマ娘たる賢い私はくるりとUターン 扉に向かってスタスタと歩き出すが脱出よりも早くフクキタルがしがみ付いてくる。チッ…意外と力が強い!振りほどけない 三冠にここまで食い下がるとは、パワーもスタミナも鍛えているじゃないか 「さささあっブライアンさん!座って座って!本日の運勢は南南東を向くのが吉!シラオキ様にカシコミ〜!」 そのまま両手を合わせて明後日の方角へ拝みだす珍獣を黙らせるべく拝むフリしてチョップの体勢を取る 黙らせた そもそも今日はテイオーはレース、ハルウララ…さんはファン感謝イベントで遠征 二人しかいないなら向き合って座る事になる。吉凶の方角など占っても意味がない そう言うと「ふんぎゃろ、ふんぎゃろおおー!」と ショックを受けた様子でリセットリセットとスマホを取り出しくねくねと身体を揺らし始めた おい、その不思議な踊りをすぐ辞めろ。イライラする 「うううう…そこまで辛辣な態度を取らなくてもいいじゃありませんかぁ!運は大事!大切なんです!  レースだって受験だって、イベント前にはみんな神様女神様にお祈りするじゃありませんか!  開運グッズたちのおかげで今の私があるように、ビワハヤヒデさんの恋を応援するならラッキーを軽んじるべきではありません!!」 いつになく食い下がり力説するな…。それほどフクキタルにとって運だのオカルトだのといった物は重要なのだろう しかし、そうか……神に願掛けか 今まで散々議論して無駄だったのだ、なら偶には方向性を変えてオカルトに頼ってみるのも悪くない 「そのシラオキ様とやらが縁結びの神なのか?」 「縁結びだけではありまっせんっ!」「合格祈願に交通安全!」「恋愛成就に無病息災!!」 「信じるウマは救われる!ハッピーカムカムお願いセンきゅっ!?ふぎゃっ!?あ痛っ!?」 悪い。壊れたテレビと間違えた。 それで?お願いすれば姉貴と義兄はもっとイチャイチャラブラブハネムーンになるんだな? 「いやぁ……それはですね、ちょっと難しいんじゃないかと思います……ううう」 おい。そろそろ三冠ウマ娘でも怒るぞ?どっちなんだ!? 「むむむ…それはですね、シラオキ様は運命の人の元に導いて下さったりします。ラッキーが貰えます。ですが、……それだけです」 恋愛運のおかげで良い出会いはあっても、そこからどう成就させるかは本人次第…という訳か ぐぬぬ。姉貴には義兄という運命の相手はもはやいる。デートもしている!問題はどう進展させるかの方だ なら縁結びで良い出会いなど願っても意味はない。前に進むには本人が動かねば意味がない。そう言いたいのか? 「はい!そうです!モチロンたかが運頼みと侮ってはいけません!そして、運頼みだけではダメなのです!!  チャンスを掴むには、頑張って頑張って努力して…やれることは全部やり  その最後の最後に頼れる恋愛というレースにおいて1番重要な要素!それが運です!  運を掴むにはまず動かなければダメ!ノーなのです!」 ……おいおい。なんだ、結局最初の振り出しに戻ったじゃないか。 「だから私は、あの子がレースで事故に遭ったと聞いた時、本当にうれしかった。奇跡が起きたんだって、そのラッキーに、シラオキ様に感謝しました」 唖然としてフクキタルを見た。聞き間違いであって欲しいと 「え?ウマ娘が事故にあう不幸を神様の奇跡だなんて、ですか?  いえ、…ラッキーって言うのは新人のあの子が学園からいなくなったことじゃないんです  だって、もしあのレースで偶然事故が起きなくても、私があの子を事故にあわせてたはずだったんです。  トレーナーさんが私以外の子を担当することが決まって、新人のあの子に入れ込むようになってからの運勢は最悪でした。大殺界もよりもどん底です  どれだけ開運グッズを集めても、シラオキ様に願っても変わらなかった。よくないことばかり起こりました  そこで初めて、気づいたんです。  運とか占いとかに頼るのは、あとはもう運を天に任せるしかないくらい…やれることを全部やって  その最後に頼らないといけないことだったんです  だから頑張りました。計画を練って、襲撃の時間も方法も全部吟味して、このレースが終わったら、ここで待ち伏せて決行だってところで…本当に事故が起きました。  だから奇跡って言うのは……結果的に私が手を汚さずに済んだことを言ってるんです」 フクキタルはニコニコと笑っている 「いいですかブライアンさん。これ、本当にナイショですからね?本当に特別にお話したんですよ?」 フクキタルはニコニコと笑っている 「だから、私はもう迷いません。私のトレーナーさんは、運命の人は絶対に渡しません。渡す隙なんてみせません」 そうして、すっと音もなくこちらに近づくと、私の手に開運グッズを握らせた 「ふんにゃかハッピー!ほんにゃかラッキー!さあさあブライアンさんもご一緒に!!」 ……ふんにゃか。ふんにゃか、ハッピー…… フクキタルは目を輝かせて笑っている 第三回会議は、失敗した。 21/04/06(火)22:49:29No.790440736+ 23:52頃消えます 「それじゃあ今日は、第四回『ハヤヒデちゃんの恋愛成就を見守る会』をはじめまーす!」 ばーん!とホワイトボードに書かれた文字の前、右手を突き出したハルウララ…さんが声を上げる。 会議室に響くその声に、「イエー!!」だの「カシコミカシコミ〜」だのと言った統一感のない掛け声が応えた。 トウカイテイオー、マチカネフクキタル、そして無言の私ナリタブライアンである。 最初に私が書いた『ビワハヤヒデ恋愛成就会議』という議名は二重線で消されていた。 おかしい…勝手に会議の名前が勝手に変えられている…。 おかしい。なぜ私がこんなに軽んじられなければならない。三冠だぞ? ムスっとしながらフクキタルに貰った開運人形に小声で愚痴る。 不気味かつ怪しげな人形は風もないのにカタカタと動いて答えてくれた。…サンキューシラオキ。 「じゃあまずわたしからね!この前の温泉旅行でこんなのもらったの!じゃじゃーん!!」 「エーッ、ナニナニー『またお越しくださいキャンペーン』? 2万円分の宿泊割引券…?」 「おおっクーポン券までついてます!?今のご時世、どこもお客様を呼び込もうと大変なんですねぇ」 「うん!これを二人にわたして温泉に誘ってみるとかどうかなって!  とーっても良いところだったの!普通に観光するだけで楽しかったよ」 なぜだ…私は三冠なんだが?自慢の姉貴を持つ三冠ウマ娘だぞ? どうなっている。どうなっているんだ? ムスっとしながらフクキタルに開運人形をつつき回す。 不気味かつ怪しげな人形は私の不満をわかってくれたのかケタケタと動いて頷いてくれた。……サンキューシラオキ。 「ではでは、私からはパワースポット巡りをオススメさせて頂きます!」 「おー、フクちゃんイイネソレー!」「パワースポット?」 「イエス!!運気を上げるにはパワースポットが一番!ついでにおみくじに細工して、  【隣にいる人となら幸福あり】とか【ためらわず告白せよ】みたいな大吉を引かせばバッチグー間違いなし!くっはぁ〜!!」 「うーん……、やりすぎはよくないと思うけど、おみくじで凶を引いて嫌な思いをするより…いいかも!」 ぐりぐりと開運人形を弄り回す。スイッチも電池のフタもどこにもない。 動力源など存在しない、何の変哲もないただただ不気味かつ怪しげな人形だった。 じっと人形を見つめる。動かない。 私が無言で頭を抱えると、クスクスという笑い声が人形から聞こえた気がした。 …………サンキューシラオキ。 そのまま意識を失い、第四回会議は無事に終了した。 21/04/07(水)12:31:20No.790554486 トレセン学園生徒会緊急会議議事録 出席者 シンボリルドルフ エアグルーヴ ナリタブライアン バンブーメモリー ヒシアマゾン フジキセキ ハルウララ 議題『ハルウララ有マ記念優勝に伴う加熱報道問題』 ハルウララの有マ記念優勝をマスメディアが大々的に報道したことで一部過激な記者が学園に押しかける被害が発生。 無許可で学園敷地内へ侵入し生徒へ強引な取材を行おうとする者や近隣住民への報道被害。 また金銭を受け取った生徒が学園内の情報を記者へ流す事件も確認されたため早急な対応が必要であると判断。 その後理事長より警備員を増員するとの通達があり、それまでの期間トレーナーが警備を行うことが決定。 現在ミホノブルボンとアグネスタキオンのトレーナーが警備に立ち過激な取材は急速に減少したが、 生徒たちには許可なき取材には答えないよう生徒会で周知させることで合意した。 なお「ハルウララとトレーナーの熱愛報道」について、ハルウララが流したデマであると判明。 問い詰めたところ、生徒それぞれに意図的に違った情報を流しており、 報道された内容から誰が記者に情報を流したか判別可能であるとのことであった。 今回は注意に留め、生徒会にその生徒の情報を提供させることで不問とする。 またヒシアマゾンより「そばの出前を頼む際、盛りそば大盛りと大盛りそばで注文が混在し誤った商品が届く」問題については今後は電話注文ではなくFAXを使用することで全員が賛成、合意した。 賛成:シンボリルドルフ、エアグルーヴ、ナリタブライアン、バンブーメモリー、ヒシアマゾン、フジキセキ 合計六名 反対:無し 今後はFAXを使用すること。 「ニンジンそばが食べたいなぁ」ハルウララ 以上。 21/04/07(水)23:00:57No.790718535 「本日の第五回『ビワハヤヒデ恋愛成就会議』を始める前に、お前たちに言っておくことがある」 ハルウララ、トウカイテイオー、マチカネフクキタルを前に私は宣言した。 「思えば私はあまり自分の思いを素直に打ち明けたことがなかった…」 一向に関係が進まない姉貴とトレーナーもとい義兄貴。 失敗しつづける会議。 そして三冠ウマ娘でありながら軽んじられる私。 「間違っていたのだ。この問題を解決するにはまず根本から正さなければならない」 なぜ私がここまで姉貴の為に奔走しているにも関わらず空回りしてしまうのか。 なぜ私の周りの奴らはこのもどかしさを理解してくれないのか! ダンッ!と机に右拳を叩きつけ、そしてゆっくりと人差し指を突き付ける。 ウララ…さんに!テイオーに!フクキタルに!怪しげな開運人形に! お前も!お前も!!お前も…! 「お前たちは……どいつもこいつも、姉貴の素晴らしさを正しく理解していないッ!!!」 「えー」「エエーー」「えぇ……」『カタカタカタカタ』 「ビワハヤヒデ…葦毛の雄大な容姿、レースでなびく銀髪とその肢体は美しいという言葉すら陳腐にする。  愛されるから強いのか、あるいはその逆か……。  5馬身差の余裕、ビワハヤヒデ。真の強さは、スリルすら拒む。  思えば私の人生において常に姉貴は私の前を走っていた。だがそれを疎ましく思ったことなどない。  なぜか?姉貴は私にとって常に自慢の姉貴であり続けたからだ!むしろそれが誇らしくもあった」 「何か語り始めチャッタヨー」「あのーこの話長くなります?」 うるさい黙れこれでも巻きでいっている。 「その姉貴が、いつも冷静沈着でクールな姉貴がレースで栄光を掴みつつ今まさにトレーナーという良き理解者の伴侶も得ようとしている!  あの男は、いや義兄貴と呼ぼう!義兄貴もまさに理想的な自慢の兄貴だ!  きっと姉貴を支え、より強く生まれ変わらせてくれる人だろう。  ここトレセン学園で姉貴が速くなったというなら、まさしくそれは義兄貴の献身によるものだ!」 私は…気が付かないうちに激情のまま目から涙を零していた。 「このまま順調に二人が結ばれ結婚すればまさに理想的だ。だが!  あの隔靴掻痒な二人は未だ一線を超えることもなく進展する様子もない!  だから今もこうして私は悩んでいるんじゃないか!?全ては姉貴のためだ!!  なにも一時の感情で無神経な干渉をしようとしてるわけじゃない!!!  私はよりはるか高みから、姉貴の人生の遠くまでを展望している!!  これから姉貴が歩むであろう道を、ナリタブライアン流未来の方程式で考えている!  万が一にも自慢の姉貴と義兄貴が若さゆえの未熟さや一時の迷いで別れ、間違った道へ進むことがないように…!  だからこうして、憎まれることも承知でやってるんだ!!  姉貴がどうでもいいと思っているならこんなことしない!  どこぞの変な男とでも勝手に寝て結婚すればいい、独り身がいいならそれでいろと放っておいている!!!  自慢の姉貴に、ずっと自慢の姉貴のまま幸せになって欲しいという妹の真剣な想いを……  お前たちも、ほんのわずかでも、理解してはくれないのか……?」 そのまま泣き崩れるように、机に伏せる。 私の涙と想いが通じたのか、テイオーたちが戸惑ったのがわかった。 「ブライアンさん……」 やがて、三人の中からハルウララがひとり歩み出た。 「ウララわかったよ。ハヤヒデちゃんが、ブライアンさんがどうすれば幸せになれるか」 やはり彼女は優しい。こうして思いの丈をぶちまけた私に共感して………いない? 「しよっか、姉離れ?」 第五回会議は、失敗した。 トレセン学園「みんなの掲示板」掲載 【恋はダービー・恋愛相談会】 日時:平日放課後18時〜20時予定 場所:学園校舎第二会議室・寮応接室(要予約) 人には言えない複雑な恋愛、片思い、失恋など恋愛に関するお悩み相談をお受けします。 三人の相談員がいるので多角的な視点でアドバイスすることも可能です(ハルウララ) 「好きな人に恋人がいた」「浮気されているかもしれない」「告白したけど振られた」こんな経験はありませんか? 苦しい思いがあれば一人で抱え込まずボクに打ち明けて下さい(トウカイテイオー) 悩みがあるけど踏み出せない。背中を押す言葉が欲しい。良い出会いがない。そんな神にも頼りたい人大歓迎! 普通のお悩み相談もお受けしますよ!(マチカネフクキタル) 問い合わせ:上記三名、もしくは生徒会ナリタブライアンまで(※秘密厳守を固くお約束します) 21/04/09(金)21:28:27No.791254935+ 22:28頃消えます 第一回『ナリタブライアン恋愛成就会議』。 突然だが私はそんな珍妙な会議に強制参加させられている。 メンバーはもはやお馴染みの三名、ハルウララ、トウカイテイオー、マチカネフクキタル。 目の前には男の写真やらデータやらの書類がそこそこの山となって積まれ、 それを「ふんにゃか〜はんにゃか〜。かしこみかしこみ〜」と 手をワキワキさせながらフクキタルが選別作業中である。 いったいどうしてこんなことに……。 今日は第六回『ビワハヤヒデ恋愛成就会議』だったはず。 ああ、最初の言い出しっぺは誰だったか。 姉貴の恋愛を応援しても上手くいかないのはまず私に恋愛経験がないからだ、という話になり、 あれよあれよと私の好みの男を見繕う今の流れになってしまった。 当然反論はした。…誰も聞いてはくれなかったが。 今もこうしてそっぽを向き怪しげな開運人形を小突き回し不満を表明するが、それで止まる奴らではない。 「むむむ!ビビっと来ました!シラオキ様よりお告げアリ!サアサア来なさい理解のあるSSR彼くん!!」 ピェェっとした動きでフクキタルが山の中から一つの写真を取り出す。 写真の男は男気に溢れ、大人の落ち着きと貫禄を兼ね備えているであろう人物だった。しかし―― 「ヤクザはちょっと……」 ものすごく見覚えのあるトレーナーだった。 「そうですか……ではでは、リセットしてかしこみ〜!フンギャロ!!!」 「背も高い。気品と教養も感じる。さすがメジロ家のエリート、マックイーンのトレーナー……だが、」 ゴールドシップとの奇行が目立つのが玉に瑕だな。問題はそのキズが致命傷レベルなことだ。 その後も出された写真はどれもどこかで見覚えのある男たち。 「どうです!?」「確かに陰気な男より明るい奴が好きだが、物理的に発光してるのはちょっとな…」 「ではコレ!!」「すまんが赤ちゃんプレイしてる男は理解できそうもない…」 「フンギャロ!」「……女じゃないか。私にそっちの趣味はない」 おい。いい加減私も疲れてきたぞ。 「むむううぅ!!次こそ引き当てます!オイデマセ〜!ラッキークッキーモンジャヤキー!! ……、…………。」 いつも以上の変な鳴き声で写真を引き抜いたフクキタルの動きが止まる。 そのままジっと、写真を見つめたまま動かない。 「フクキタル?」 いったいどうした?そう思った瞬間、首元をぬるりと生温い風がそよいだ気がした 「あ、すみません。次でしたね。……さあ、どうぞ」 さっきまでの騒がしさが嘘みたいに落ち着いた様子で、フクキタルはニコニコとその写真を差し出した。 マチカネフクキタルの、トレーナーの写真を。 「…………」 身体に何かが入り込んでくるような悪寒がした。 写真から視線を外し、顔を上げる。フクキタルはニコニコと笑っている 「どうですブライアンさん?」 「いや、……まぁ、その……」 全身を何かが這い回るような不快感を感じ、満面の笑みを浮かべるフクキタルから思わず目を逸らす。 ……目を逸らした先、怪しげな開運人形が両手でバッテンポーズを決めていた。……サンキューシラオキ。 「…い、いまいちピンと来ないな。私にとっての運命の人ではない、ようだ…」 絞り出すような返答だった。 フクキタルの表情も、態度も、いつもと何も変わらない。 輝くような笑顔のままじっとこちらを見つめている。 やがてその表情がシュンとしたものに変化する。 「そうですかぁ。今日はなんだか調子が悪いです、はっ!?もしや邪気が溜まっているのでは!?!?」 落ち込んだと思ったら、お祓いをしなくては!とまた騒ぎ出す。いつもの彼女だ。 …………もし、私がこの男を選んでいたら何が起こったのだろうか。あまり想像したくない。 ふと怪しげな開運人形を見るとぐったりとした姿勢で倒れていた。サンキューシラオキ……。 「ハイハーイ!!んじゃ次はボクね!ボ・ク!!ぴったりの人がいるからさ!」 「まだやるのか…」 もう今日は帰って寝たい。そんな私の気持ちもおかまいなしと、テイオーが次の写真を見せてくる。 その人物は………え? 「ね?どう?この人は?このテイオー様が自信を持って紹介するよー!」 そこに写っていたのはトウカイテイオーの、トレーナー。 テイオーが恋した男で、生徒会長シンボリルドルフと付き合っているはずの男。 ……いや、その…駄目だろ。これは。駄目だろ。 「いいじゃん」「やろうよ」「オススメするよ」「応援するから」「信頼できる人ダカラサー」 ぴょんぴょんと飛び跳ねるようにテイオーが私の周りを回る。 笑っているはずなのに、声は弾んでいるのに、表情だけが見えない。 「ね?なんで駄目なの」 やがて唐突にステップをやめ、テイオーが真正面でピタリと停止した。 思わず後ずさりそうになるも気合で耐える。 「だ、駄目なものは駄目だ…!」 この空気に飲まれぬよう、強い口調で断固として跳ね除ける。 そうだ、駄目なものはダメ。それだけだ。そう私は三冠ウマ娘。自分を強く持て! 姉貴と義兄貴の関係を邪魔することなど許されないように、横恋慕など恥知らずな真似が私がするものか! 「ふーん、そっか」 返答を聞いたテイオーはそっけない素振りを見せた後、ニヤニヤとした笑みを浮かべていた。 「嬉しいなぁ…そうだよね。駄目なものはダメだよね。ボク嬉しいよ。ブライアンがそう言ってくれて」 耳から耳まで届くようなニヤニヤとしたテイオーの笑顔。 ……私の答えは、正しかったはずだ。 それからしばらく、私はやっと二人から解放され、ぐったりと椅子にもたれかかっていた。 どんなレースを走るよりも遥かに疲れた一日だった。 会議室を掃除するハルウララ…さんの背中を見ながら、私はぼうっと天井を見つめる。 そうしてポツリと、呟いた。 「人の恋愛に口出しするものじゃないな」 「そうだね」 第六回会議は、失敗した。 21/04/10(土)23:19:15No.791619137 結婚式場の大階段に豪華絢爛なウェディングドレス姿のウマ娘とトレーナーが登場した 大きな歓声、祝福の言葉に包まれた二人は笑顔で手を振りながら声援に応える 数多くのレースで華々しい勝利を掴み、その威光を示し続けた無敗の皇帝と そのウマ娘を公私共に支え続けた担当トレーナー 誰もが憧れるような理想的なカップルだった やがて花嫁であるウマ娘が観衆に向けてブーケを空高く放り投げた 宙を舞うブーケに多くのウマ娘たちが殺到し、飛び掛かり、掴もうとする しかしブーケは風に導かれるように少し離れた場所に佇んでいた私、トウカイテイオーの手に落ちた 残念そうな周囲の声と、少し遅れて聞こえてくる拍手 今、ブーケを掲げて見せている私はちゃんと笑えているだろうか 私の姿を見ているシンボリルドルフは何を考えているのだろうか 私はウマ娘、トウカイテイオー そして、かつて事故により『テイオー』と精神が入れ替わってしまった元シンボリルドルフだ 21/04/11(日)00:04:58No.791635833 こんばんわ ウマ娘、トレーナー、そしてファンの皆さん。だんだんと春の陽気が心地よい季節になってきましたね 土曜の深夜は毎週お馴染み恋のダービーサイレンスチャンネル ナビゲーターは私、サイレンススズカがお送りします さて、この放送をお聞きの皆さん、休日はどうお過ごしですか? 春は入学式、歓迎会、お花見、レースとイベント盛りだくさん…私は今日トレーニングに海まで走りに行きました 夏の海も賑やかで元気がみなぎっているけれど、春の海は静かで穏やか、また違った良さが発見できます 防波堤ではナリタブライアンさんが海を眺めて黄昏ていました 何かあったのかと声をかけてみるといつもの如く姉とトレーナーの仲を憂い、気ぶっていたようです 自慢のお姉さんの話を誇らしさと苛立たしさが混じる表情で語る姿は真剣そのもの 恐らくその実直さが三冠の秘訣なのでしょう 突然の強風と高波でブライアンさんが海に投げ出されたのでもうそれ以上話を聞かずに済みましたが この経験はトレーニングに活かせるかもしれません さあ、次はどんな出会いが待っているのでしょう お相手は私、サイレンススズカでした 21/04/11(日)00:47:53No.791651559 ――汝、皇帝の神威を見よ それは私にとってある種のおまじないのようなもの レースにおける必勝の型 逃げるウマ娘を、先行集団を行くウマ娘を、中盤以降から加速して追い抜く立ち回り 汝らに問う、汝らの敵は誰か それを終盤に見せつける。一人…、二人…、三人目を抜いた瞬間にラストスパート 汝らに問う、汝らは我が敵となりうるものか? 皇帝の力。王者の暴力とは破壊ではない。全てを圧倒する走りで屈服させる絶対の力 さすれば、汝らは我が敵ではない。汝らは我が障害とはなりえない 汝、皇帝の神威を見よ 汝、今何時?