1 トウカイテイオーのトレーナーになってもう3年ぐらいだろうか、自分で言うのもなんだ がテイオーとの関係は上手くやれている。少なくとも他人には言えない悩み事は話せる仲 である。 そんなことを思い返していると、入学式が終わった。専属のウマ娘を持っているトレーナ ーには関係のないイベントなので大体の専属トレーナーは会場外で待っている。しばらく すると、テイオーが走ってきて目の前で止まった。 「ねーねートレーナー聞いてよ!さっき入学生の中にずっとボクのことを応援してくれて たキタちゃんがいたよ!これはもう無敵のテイオーが指導してあげるしかないね!」 キタサンブラックのことはテイオーからよく聞いている、今のところテイオーが気に入っ ているファンということしかわからないけど。 「テイオーにトレーナーを任せるのはちょっと心配だな」といい、俺は今日のトレーニン グメニューを渡した、彼女は不満そうな顔をしていたが、いつも通りトレーニングをこな してくれた。 後日、朝練をするためにグラウンドへ向かうと、テイオーの横にはもう一人のウマ娘がい た。一部白い黒髪に赤色の髪飾り、そして身長がテイオーより少し大きい、おそらく彼女 がキタサンブラックだろうと考えた。 しばらく観察していると、テイオーが身振り手振りで一生懸命走り方などを教えている、 キタサンブラックは困惑しながらも真面目に聞いている。なぜキタサンブラックが困惑し ているのかというと、テイオーの説明が下手だからである。おそらく今頃キタサンブラッ クの感情は憧れの人に会えたという興奮と、憧れの人に頓珍漢な説明をされている困惑で ぐちゃぐちゃだろう。幸いにも朝練のメニューは毎日ほぼ一緒なので、正直俺はいかなく ていい、行かなくてもテイオーはちゃんと朝練メニューをこなしてくれる子だった。 キタサンブラックとテイオーには申し訳ないが、俺は朝練の時間を大量に残っている業務 に費やすことにした。 その日の夕方、今日は走り込みの日なので俺はタイムを計りながらテイオーが走るのを見 守っていた。 「どうだった?ボクの走りは?すごいでしょ!」 「いいタイムだ、やっぱりすごいな、テイオーは。あともう一本走って今日は終わりにし ようか」そう告げると、彼女は満面の笑みで走りに向かった。俺はスタートの合図を出し、 ストップウォッチを押した、いつも可愛いと思っていたが、笑った時は特段に可愛い。そ う思いながら俺は彼女の走りを見ていた。にしても今日は何やら視線を感じる、しかも俺 に。一瞬俺を賭けた恋の天皇賞(春)が開催されると思った。しかし、気づかれないよう にその視線を確かめると同時に、その甘い考えは砕けた。正体はキタサンブラックだった、 俺に向けられた視線は呪いと殺意そのものだった。しかも目が合った、やばい、俺はすぐ さま走っているテイオーに視線を向けた、まるでよそ見など最初からしていないように。 2 程なくしてテイオーが走り終えて戻ってきた。もう一度キタサンブラックが居た所を横目 で確認すると、彼女はもう居なかった。 「お疲れさま。今日はもう終わりだから片付けて寮に戻ろうか」 「ボク今日はトレーナーの部屋に泊まりたい気分だな〜ダメかな?」 「今日は無理かな。やらないといけないことが山ほどあるんだ、また今度な」 「え〜トレーナーは酷いなぁ、このボクの頼みを断るなんて!」 いつもこの類の頼みは許可しているけど、たまに作業の関係で断ることがある。 トレーニングで使った道具を倉庫へ戻しに行く道中、テイオーが今日の朝練について話し 出した。 「そういえばトレーナー今日の朝練来てなかったでしょ、ボクはキタちゃん紹介したかっ たのに何で来なかったの〜」 「キタサンブラックと楽しそうにしていたからそのままの方がいいと思って、先に業務に 取り掛かったんだ、ごめんな」 「明日は紹介するから、絶対に来てね!」 テイオーの口調的に悪いウマ娘ではなさそうだった、むしろいい方だった。もしかしたら ただ単に目つきが悪いウマ娘で、俺は勘違いをしていたのかもしれない。そんなことを考 えながら眠りについた。 翌朝、約束通りにテイオーの朝練に向かった。グラウンドに着くと、そこには昨日の朝と 同じくキタサンブラックとテイオーが居た。しばらく二人が話しているのを見ていると、 テイオーがこっちに気づいてキタサンブラックと一緒に向かってきた。 「紹介するね!この人がボクのだn…トレーナーだよ!キタちゃんもトレーナーは慎重に 決めた方がいいよ、トレーナー次第でレースの勝敗が決まることもあるからね!あ、ボク のトレーナーはダメだからね!」何だか関係性がワンランク上がったのは気のせいだろう か。 「は、初めまして!キタサンブラックって言います!テイオーさんのトレーナーさんと会 えて嬉しいです!テイオーさんとの関係は…その…聞いています!」 どういう関係性なのか気になるが、ひとまず挨拶をしておこう。 「初めまして、キタサンブラック。君のことはよくテイオーから聞いているよ、これから も仲良くしてやってくれ」そう言った後、二人は朝練に向かった。 キタサンブラックの目はキラキラしていた、昨日の夕方の俺に向けた視線が嘘のように。 やはり勘違いだと自分に言い聞かせて朝練を終えた。 あれから数日が経った、あの視線を感じることはなくなった。そのことには安心したが、 最近テイオーの練習にキタサンブラックを見かけることが多くなった気がする。いくらな んでも被りすぎじゃないかと思って、テイオーに心当たりがないか聞いてみた。 「えへへ…ト、トレーナーが渡してくれた大まかなトレーニングメニュー言っちゃった… で、でもちょっとだけだから安心してね!」 「直近にレースが無いから良いけど、あんまりよくないことだから教えたらだめだぞ」 「ごめんなさい…それよりなんでトレーナーはトレーニング中にボク以外のウマ娘を見て るの?」謎は解決したけど代わりに地雷を踏んでしまったらしい。 3 数週間経ったある日の昼の事、自分のトレーナー室で作業していると廊下から走っている 音がした、いつも通りマックイーンとゴールドシップが鬼ごっこしているのかと思ったが、 2秒後にトレーナー室の扉が開き、予想に反して息を切らしたテイオーが訪れてきた。そし て何故か音をたてないように扉を閉めた。 「ちょっと隠れててもいいかな?お、鬼ごっこしてるんだよね!」 鬼ごっこは合っていたらしい。すると数十秒後に誰かがトレーナー室の前を走り抜ける音 がした。 「ねぇトレーナー、キタちゃんどうだった?」 「どうもこうも、いい子なんじゃないか?テイオーと居る時はいつも目がキラキラしてた ぞ」普段は専属以外のウマ娘との関わりはあまりないので学園内での関係が見えづらい。 「そうだよね!まあボクの後輩だからね、当然だよ!あ、もう時間だから行くね!」 足早にトレーナー室を出て行った、鬼ごっこをしているせいか顔は少し怯えているように 見える。その後は特に何事もなく終わった。 翌朝起きると、テイオーがキッチンに居た。寝坊でもしたのかと思って時計を確認すると、 いつも通りの起きる時間になっている。 「おはよう、トレーナー。今日の朝食はボクに任せてよね!」 「いつも鍵をしていない俺も悪いけど、勝手に入るのはやめてくれない?」 「ボクは合鍵あるからいいじゃん!」 ウマ娘は感情が耳に表れやすく、テイオーは特に表れやすい。耳が垂れ下がっていて無理 に口調を明るくしているのがすぐ分かった。 「できたよ!一緒に食べよ!」そう言われて食事を始める。 「今日の朝練は休みにしない?ボクちょっと疲れちゃったかな〜」 いつもなら疲れていても走るテイオーに少し驚いて、箸が止まった。 「何かあっただろ」少しの間沈黙が続いた。 「…最近視線を感じるんだよね、いつもみんながくれる視線とは違う、怖い感じの。ボク にも熱心なファンがついちゃったみたい、あはは…」 顔か名前が分かるか聞いたが分からないらしい。 レースにおいてメンタルの状態は重要なので少し厄介に感じる。何より危害を加えられな いか心配だった。 「わかった、今日の朝練は無しにしよう、後はなるべく複数人で登校してくれ」 正直話を聞いた時、一人思い浮かんだ。 4 テイオー曰くウマ娘ということは分かるらしい。 しかしウマ娘のストーカーなど存在するのか、ウマ娘が犯人の事件や犯罪などは聞いたこ とがない。ましてやトレセン学園内となると0だろう。 「なあテイオー、最近キタサンブラックとはどうなんだ?」そう言うとテイオーの耳がピ ンと立った。 「キタちゃん凄いんだよ!最近はどんどん速くなってきてるし、レースでの走り方もうま くなってるんだよ!さすがボクの弟子ってところだよね!」自慢げに言っていたがいつの 間にか弟子ができていた。 こうなるとキタサンブラックへの見方は二つになる。演技派のガチサイコパスか、無実の 学園生か。 とりあえず昼休みに同僚に軽く話を振ってみることにした。 「気になったんだけど、ウマ娘のストーカーっていると思うか?」 「いないと思うぞ、見られてるとしてもそれは愛されている証拠だからな、俺は受け入れ ているよ、今も見られてるし」扉の方を見るとマックイーンが居る。 「…そうだな」関西出身の性分で少しふざけたように言ったのは悪かったが、それよりも 学園一のバカップルに聞くんじゃなかった。ほかの同僚にも話を振ってみた、大体分かっ ていたが、全員居ないんじゃないかと答えた。 実際この時はウマ娘が罪を犯すなんて考えられず、学園に報告しても気のせいじゃないか とあしらわれた。 午後のトレーニングではチームスピカとするように指示し、トレーニング中に怪しい人物 はいないか見渡したが、居たのはトレーニング中のウマ娘とそのトレーナーだけだった。 怪しい人物どころかキタサンブラックすらいない。 やっぱり俺の勘違いで、キタサンブラックは無実なのか。こんな不気味な事態を俺は見過 ごすしかないのか。テイオーには申し訳ないが、トレーニング中はそんなことで頭いっぱ いだった。 午後のトレーニングが終わり、片付けを始める。 「ねぇトレーナー、今日はボクの部屋まで送ってくれないかな?」 もちろんすぐに了承した。不安そうな顔を見ると胸が痛む。 トレセン学園からウマ娘の寮まではさほど遠くないので、一緒に歩いてテイオーを無事に 寮まで届けた。ウマ娘の寮からトレーナーの寮までは3qぐらいある、少し遠いが歩けな い距離ではない。 すっかり暗くなった時間なので、帰り道には誰もいない。そう思っていると後ろから足音 がした。 悪寒がする。 ずっと俺を見ている、感じたことのある視線を俺に向けている。 5 振り向かなくても誰なのか分かる。 ウマ娘相手では絶対に逃げられない。中等部1年とはいえ膂力も走力も劣っている。 しかも最悪殺されるかもしれない。 消去法で説得に賭けるしかなかった、一か八か腹を括って立ち止まった。 「こんばんは、トレーナーさん」後ろから聞き覚えのある声がする。 「キタサンブラックか、もう夜遅いけど門限は大丈夫なのか?」 「はい、大丈夫です。すぐそこですから」 心拍数がどんどん上がっていく、趣味でたまにしているポーカーでオールインした時とは 比べ物にならないくらい心臓がうるさい。 しかし、こんな所で自分の命をオールインするとは思わなかったな。 意を決して振り返った瞬間、腹に鈍い痛みが走った。刺されなかっただけましだが、もろ に入ったので呼吸ができず、俺はしばらくその場で蹲ることしか出来ない。 「ゆっくり話したいので、落ち着いたらトレーナーさんの部屋に案内してくれませんか?」 俺が蹲っている間に、蔑んだ目で言われ、分かったと言うしかなかった。 俺の中でのキタサンブラックが容疑者から加害者へと切り替わった。 ひょっとしたら予言の才能があるかも知れない、本当に演技派のガチサイコパスだった。 普段使っている道では他のトレーナーに会う可能性があるので、人目につかない寮の非常 口を使い帰宅した。この寮の非常口にはカメラがないので誰かに見られる心配もないし、 非常時以外に使っても特に怒られない。 殴られた現場から帰宅した今まで一言も喋らず、ずっと俺の方を見て付いてくるのが余計 に怖い。 この子は一体なんなんだ、何故テイオーをストーカーしているのか、何故俺に殺意を向け ているのか…聞きたいことは山ほどあるが、とりあえず落ち着こう。 部屋の電気をつけて、ダイニングテーブルを挟んで対面になるように座って、質問をして みることにした。 「俺に何か用があるのか?」 「…私はあなたが憎いです。最初も私は皆さんのようにテイオーさんの走りに恋をしてい ると思っていました、でもテイオーさんを見ていくうちに気づいちゃったんです、私は走 りじゃなくてトウカイテイオーに恋をしているって。 テイオーさんにもっと近づきたい、もっと深い関係を持ちたい、その一心で頑張ってトレ セン学園に入学しました。…でもテイオーさんの前にはあなたがいました、一歩も二歩も 踏み込んだ関係のあなたが。…許せないです、正直今すぐにでもあなたを殺したいです」 重い愛だった。まさかこんな子がテイオーにグラスワンダー級の重い愛を抱いているとは 思わなかった。まだ幼いキタサンブラックはウマ娘とトレーナーという関係が分からなか った、いや、分かっていてもこうしていたのだろう。 「とはいえ流石に犯罪者にはなりたくないです、だから精神的に追い詰めることにしまし た。一歩も二歩も踏み込んだ関係だからこそ、相手が不安を抱くと自分の心が痛むのも分 かっています。もちろん今の状況をテイオーさんに話した場合は殺しますから。 道連れって所ですかね、あはは」 恐怖で言葉を発したくても発せない、どうすればいいんだ、このままではテイオーが危な い。 「来たばっかりで申し訳ないんですけど、そろそろ門限なので失礼しますね」 「ま、待ってくれ!」かろうじて玄関へ向かうキタサンブラックを呼び止めた。 「頼む!俺を殴ったり蹴ったりしてもいいから、せめて…せめてテイオーを付きまとうの はやめてくれ!」 咄嗟に出た言葉だった、もしかしたらもっと良い方法があったのかもしれない、でも今の 状況ではこれしか思いつかなかった。言い出した以上取り消しはできない。 「あは…あははははははは!」 酷い顔をしていたのか、言い出した条件が変だったのか、はたまた両方なのか、キタサン ブラックは笑い出した。 「ははは…あなた面白いですね、そんなことを言い出すとは予想外でした。 分かりました、その言葉、忘れないでくださいね!」 そしてキタサンブラックは笑みを浮かべながら部屋を出て行った。 6 本当にあの子は条件をのんでテイオーのストーキングを辞めてくれるのかという不安でそ の日はよく眠れなかった。それにしても何故忘れないでくださいと言ったのか…考えても 仕方ないので、とりあえず寝室から出ることにした。 「おはようございます」寝室の扉を開けるとジャージ姿のキタサンブラックが居る。 一気に血の気が引いて目が覚めた。眠気覚ましもいいところだ。 「…なんでいるんだ」 「鍵、空きっぱなしでしたから」 キタサンブラックは昨日俺が鍵を使わず開けたのを覚えていた。 「昨日あなたが言ったこと、覚えてますよね?」体が勝手に後ずさりする。 もちろん鮮明に覚えている、しかしまた恐怖で声が出ない。 「逃げないでくださいよ」そう言われた瞬間、昨日の夜と同じように腹を殴られた。 「ほら、立ってくださいよ。まだ終わってませんから」 蹲っている間に今度は横腹を続けざまに蹴られる。 結論から言うと朝練に向かう直前の時間まで殴られた。腹、背中、肩、太もも、とにかく 普段は服で隠れているところを殴られ、相手が経験者だと悟った時には倒れて天井を見上 げていた。 「そろそろ朝練ですね、また後で会いましょう。あ、鍵は開けっぱなしで大丈夫ですよ」 身体中が痛い、朝ご飯を食べられなかったせいか頭が回らない。 しかしテイオーが心配で休む訳にはいかない、俺は体に鞭を打ってグラウンドへ向かった。 着くとそこには目をキラキラさせているキタサンブラックとテイオーが居る。何事もなく、 いつも通り朝練を始める前のように和気あいあいと談笑していた。 どんな精神をしているのか俺には理解できない、人を殴った後にそんな目ができるのか。 「トレーナー!今日も頑張ろうね…って、どうしたの?顔色悪いよ?」 「あぁ…ちょっと寝不足でな。いつもテイオーに注意してるのにごめんな」 「そっか…気を付けてね!じゃあボクはキタちゃんと朝練してくるよ!」 気を遣われたのか特に何も言われなかった、余程顔色が悪いのだろう。 朝練が終わり、近くのコンビニで朝ご飯代わりのお弁当を買ってトレーナー室に向かう。 トレーナー室に入った瞬間、涙が頬を伝った、拭っても無意識に溢れ出てくる。涙のせい で何か胃の中に入れようと食べ始めた弁当も美味しくないし、業務も集中できない…どう すればいいんだ…そんなことを考えていると食後の睡魔と泣き疲れに負け、いつの間にか 眠ってしまった。 …目が覚めると夕方になっていた、幸いにもトレーニングが始まる前だった。始まる前と いっても10分前なので急いでトレーニング場所に向かう。着くと当たり前だがテイオーが 居た。 「今日は遅かったね、トレーナー。何してたの?」 「ちょっと寝坊しただけだよ。ほかのウマ娘とは会ってない」 険しかった表情が一気に緩んだ。可愛い。 「そういえば視線の話、今日は大丈夫なのか?」 「今日は感じなかったかな…」 まだ一日とはいえ、条件をのんでくれた安心で思わずテイオーを抱きしめてしまった。 こんにちは、半年POMらずにスレを立ち上げ、あろうことか「塩ってどこ」発言をしてし まい見事に新参だということを自白してしまった大馬鹿です。 (読みやすくするから句読点使うの許して…) いやもう本当に猛省しています…完全に私が100:0で悪いです… レスで謝らずにこんな人目につかない場所で謝るという姑息な手を使っているのも申し訳 ないです。 にしても何故私はメイクデビューをふたばに載せようと思ったのでしょうか…未だに意味 が分かりません。渋でもヒでもいいんじゃないかという意見はごもっともです… でも正直目を通してくれただけでもありがたいです。 続き待ってくれている人、面白くないと言う人、内容のコメントする人、半年POMれと言 う人、とりあえず目を通してくれた人は全員もれなく私にとってのファンです。これは自 然の摂理です。 書き始めたからには腹を括って最後まで書き切ろうと思います。せめてもの情けでもいい ので見届けてくれると嬉しいです…