​エルモ号のメンテナンスルームに、警告音が鳴り響いた。 予備として保管されていた「センタウレイシー」の素体が、予定外の再起動シーケンスを開始したのだ。 ​「……んあ? なんだここは……の地下じゃねえな……」 ​無機質なメンテナンスポッドから、一人の人形が起き上がる。 その姿は、紛れもなくセンタウレイシーだ。しかし、その眼光は鋭く、獲物を引き裂く猛獣のような輝きを放っていた。 ​異変を聞きつけて駆けつけたがポッドの縁に座り、不機嫌そうに自分の胸元を見下ろしている「彼女」を見て足を止めた。 ​「センタウレイシー? メンテナンスはまだ終わっていないはずだが……」 ​「あぁん……? なんだこの格好…フリフリしやがって…それに……」 ​彼女は私の胸をわしづかみにし、不快そうに舌打ちした。 ​「重てえんだよ! 肩が凝って戦いにくいじゃねえか! 制服はどうした!スカジャンはどこだ!」 思わず絶句した。 いつもなら「ご主人様、お召し物のお手入れはいかがいたしますか?」と完璧な礼儀作法で微笑む彼女が、今は足を組み、机に土足で上がり、まるで路地裏の喧嘩屋のような口調で詰め寄ってくるのだ。 ​「……メンタルコアの損傷か? 人格データが致命的に書き換わっているぞ……」 ​「あ? 何ブツブツ言ってやがる。おい、ここはどこだ。敵はどこにいやがる。……チッ、体が重てえが、動かないわけじゃねえ。とりあえず暴れさせろ。イライラしてんだよ!」 ​彼女は傍らにあったG36を乱暴に掴むと、獲物を狙う鷹のような鋭い動きで部屋を飛び出そうとした。 ​「――そこまでです! 私の身体で、なんて破廉恥な真似を……!」 ​重厚な自動ドアが開き、もう一人のセンタウレイシーが立ちはだかった。 本物のメイド服を完璧に着こなし、金髪を美しく整えた「オリジナル」のセンタウレイシーだ。彼女は、自分のスペアボディがガニ股でメンテ室を出ようとしている光景に、顔を真っ赤にして震えていた。 ​「あら、本物が来たか。いい面構えじゃねえか、自分。……でもよ、そのスカしたツラは気に入らねえな。メイドならメイドらしく、拳で語り合おうじゃねえか」 ​「偽物」はニヤリと好戦的な笑みを浮かべ、あろうことかスカートを捲り上げて蹴りの構えをとった。 ​「な、なんて……破廉恥な……! ご主人様、見てはいけません! 目を閉じてください!!」 ​オリジナルは怒りが混じった悲鳴を上げながら、即座にG36のセーフティを解除する。 ​「その身体は私の予備素体なんです! 淑女として、絶対に許せません! いますぐそのメンタルを初期化して差し上げます!」 ​「ハッ! 面白ぇ、やってみろよ! …………最強の力、思い知らせてやる!」 その後エルモ号の廊下は、銃声と怒号、そして「おやめなさい!」「ぶっ飛ばしてやる!」というセンタウレイシー達による阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。 ​ようやく取り押さえられた「センタウレイシー」は、エネルギー切れでメンテナンスポッドに強制収容された。 ​ 「……ご主人様。申し訳ありません。あのような……あのような、はしたない姿を……」 ​オリジナルは涙目で指揮官の袖を掴み、何度も謝罪を繰り返した。 ​「いや、センタウレイシー……君のあんなに力強い(?)一面が見られたのは、ある意味で新鮮だったよ」 ​「新鮮などではありません! 汚点です! 履歴抹消ものですわ!」 ​指揮官は、ポッドの中で眠る「もう一人の彼女」を見た。 暴言は凄まじかったが、その戦闘技術と、仲間を守ろうとする意志の片鱗は、不思議と頼もしくも感じられたのだ。 ​「……さて、あのコアがどこから来たのか…ペルシカに調べてもらわないとな」 ​指揮官の悩みは尽きない。しかし…あのアグレッシブな「メイド」が味方になれば、イエローゾーンでの探索も少しは賑やか(あるいは騒がしすぎるほど)になるかもしれない――そう、密かに思うのだった。