「リリ無ちゃ~ん、たまにはお外に出ないと体に悪いのヨ~?」 「わ…わかったわよリリン!外に出ればいいんでしょ!?」 という訳で同居人の要らん心配事のせいで私、色無リリ無はカードショップ「はなぶち」に来ていた。 普段の私はネットショッピングが主流だけど、近所であるこの店にはたまに来ている。 まあデュエルは弱いんだけど。 それに、もう他人とデュエルなんてしたくない――。 まあそんな事より、今日の私の目的はデュエルではない。 リリンの「外に出ろ」のお小言がうるさいからしょうがなくカードを物色に来ただけなのだ。 それに他人と話すのなんて苦手。DCGだったら相手と話さずに済むのに――。 私はショーケースの無色コーナーへとまっすぐに進む。有色カードになんて興味無い。だから見る必要も無い。 まあコーナーと言える程の広さではなくショーケースに隅っこに無色のカードが数十枚ほど並んでいるだけだ。 (ふん、こんな小さなお店に私を満足させるカードなんてあるわけが……) そこで私は目を疑った。え?このカード売ってるの!? 次の瞬間、私はレジへ直行した。 「あ……あの……すぃませぇぇん……その……欲しいカードが……あっちに……」 実家の家族とリリン以外の人と話すのも久しぶりだから声の掛け方がわからない。今の変じゃなかっただろうか? 「は~い。ただいま参りますのでショーケースの前でお待ちくださいね~」 でも若い女の店員さんはそんな私に丁寧に対応してくれた。 ふ……ふうん……まあ結構いい店なんじゃない? 「ぷにゃ~そっちにもっと安いのがあるのにわざわざ高いほうを買うなんて、人間ってバカですね~」 店員さんの側で小さな黒い塊がしゃべった!?何あれ?どこかで見た事あるような……。 と思ったら黒い塊が音も無く弾けて消えた。あれは何だったんだろう? 「こちらの商品、返品はできませんがよろしいでしょうか~?」 「ひゃっ……ひゃいっ!」 私は受け取った商品を大切にバッグへしまうとさっさと店を出る事にした。 (ちょっと高い買い物しちゃったからね……盗まれたり落としたりしたら大変だから早く帰ろっと) 途中、デュエルスペースが目に付いた。赤い髪の男と小学生くらいの子がデュエルしてる。 赤い方は顔に傷があるし不良かしら?火文明入れてるし嫌いなタイプね……。 こっちの子は超次元入れてるわね……。超次元は色付きしか無いから苦手だわ……。 でもなんだか楽しそう……。 あれはもうどれくらい前だったろうか? 町を歩いていた私は突然デル?とか言う変な奴らに無理矢理デュエルをさせられてボコボコにされた。 それだけじゃなくそいつらは私の無色単デッキを紙束だって言って投げ捨てた。 私は悔しくて悔しくて泣いた。そして他人も、そいつらが使ってた文明も、何もかもが嫌いになった。 そして私は他人とうまく付き合えなくなった――。 仕事もせず家に引きこもって実家からの仕送りでかろうじて生きてるだけ。 大好きだったデュエルも一人で回すだけ。虚しい毎日。 そんなある日、クリーチャーのリリンがどこからともなく現れた。最初、私はとうとう幻覚を見るほどおかしくなってしまったんだと思った。 でも幻覚だと思っていたリリンは私の身の回りの世話を焼いてくれた。 ご飯を作ってくれたり部屋の掃除をしてくれたり、まるでお母さんみたいだ。 デュエルもリリンとする時だけは別だ。リリンと遊ぶ時だけ私は大好きな無色単デッキを思いっきりプレイできる。 もう私はリリン無しでは生きていけないだろう。 お気に入りの無色単デッキに今日もリリンを入れて、私達はいつも一緒だ。 ……まあ今日は久しぶりに一人でショップまで来たんだけど。 今頃リリンはご飯を作ってる事だろう。早く帰りたい。 「やめてなのヨ~!放して欲しいのヨ~!」 え?今のリリンの声? 店から出るとどこからか聞きなれたリリンの、苦しそうな声が聞こえた。 「フフフ……見つけたぞ実体化したクリーチャー!」 え?え?何?実体化?それにクリーチャーって……リリンの事!? 「透明妖精リリン…これもまた至高のカードの一つに違いあるまい!至高!至高!シコー!」 そこには半裸の大男がリリンを抱きかかえていた。 大男は体のあちこちに女の子のイラストのカードを身に着けていた。明らかに変態である。 「乱暴はやめるのヨ~!あなたは誰なのヨ~?」 「我が名はD.E.L45号!「至高」のシュミシコウなり!至高!至高!シコー!」 え?デル?それってまさか……私にひどい事をしたあの時の奴ら! 「この辺りで実体化したクリーチャーを見かけたとの報告があって来てみればなんたる僥倖!このまま貰っていくぞ!」 これって誘拐!?リリンが連れてかれちゃう! 「ま……ま……まてぇ……」 こんな時にうまく声が出せない。こわい。今すぐ逃げたい。 「ん?なんだこの至高(シコー)れなさそうな女は?我に何の用だ?」 それでも私は大男に向かって啖呵を切った。リリンを取られたくない! 「わ……私の保護者を連れて行くな!この変態!!!」 自分でも驚くくらい大きな声が出せた。 「リリ無ちゃん!?ごめんなのヨ……さっきニュースでこの辺で誘拐事件がたくさん起きてるって言ってたから心配になって来ちゃったのヨ……そうしたらこの人に捕まって……」 「ほう貴様、このリリンの持ち主か?ならばこやつを賭けて我とデュエルしようぞ!」 デュエル!?他人と?正直やりたくない。逃げたい。でも……。 「い……いいわよ!私が勝ったらリリンを返してもらうから!」 私はリリンを取り戻すために変態に闘いを挑んだ。 「「決闘開始(デュエル・スタート)!!!!」」 「せ……先行は私!無色マナチャージ!ターンエンド!」(リリ無:手札4、マナ1、盾5) 「遅い遅い!我のターン!ドロー!赤マナチャージ!いざ、至高のクリーチャー召喚!凶戦士ブレイズ・クロー召喚!」(シュミシコウ:手札4、マナ1、盾5) はやっ……もしかして赤単速攻?ん? よく見れば召喚されたブレイズ・クローは女の子だった。確かコロコロアニキの付録になった奴? 「我は至高の至高(シコー)デッキを目指す者……故に使うカードはみな至高のカードなのだ!至高!至高!シコー!」 変態だ……。嫌だ……。こんな奴と闘いたくない……。でもリリンを取り返さなくちゃ……。 まあとにかく先行を取られなくてよかった……。ブレイズ・クローならこっちも殴り返せるクリーチャーを出せばいいだけ。 「わ……私のターン!ドロー!無色マナチャージして……策士のシダン ニャハン召喚!」(リリ無:手札3、マナ2、盾5) 「何?このクリーチャーはまさか!?」 「こ……これは最近先行販売されたばかりのデュエパデッキのカードよ!リリンが頑張って買ってきてくれたんだから!ニャハンの能力で手札を1枚裏向きにマナチャージ!でも何のカードかは見せてあげない!た……ターンエンド!」(リリ無:手札2、マナ3、盾5) 相手は最新のカードに戸惑ってるみたい。ヨシ!これならいける! 「なるほど、なかなかの毛並み、なかなかのふわもこ……これもまた至高!至高!シコー!」 え?何言ってるのこの人?ニャハンを見て興奮してる?キモ……。 「ふぅ……だがそれだけでは我に勝てんぞ!我のターン!ドロー!自然マナをチャージして応援妖精エール召喚!」(シュミシコウ:手札3、マナ2、盾5) 自然?まずい!こいつ赤緑逆悪襲かも!? 「能力で2マナアンタップ!まだまだいくぞ!エール2体目召喚!」(シュミシコウ:手札2、マナ2、盾5) よく見たら2体のエールはどっちも神アートver.だ。これがこいつのこだわりなの?きも……。 「再びマナ回復!そしてもう1体至高のブレイズ・クロー召喚!」(シュミシコウ:手札1、マナ2、盾5) え?このカード、なんでこいつが持ってるの?これまだどこにも売ってないよね? 私は自分の目を疑った。変態が召喚したブレイズ・クローは2025年3月発売予定のパックに収録されるはずのサロメver.だった。 「な……なんであんたがそんなの持ってるの!?本物じゃないよね!?カラーコピーしたプロキシ!?」 「これを手に入れるのは我でもなかなか骨が折れたぞ。入手した手段は……言う必要もあるまい?」 もしかして私、やばい奴を敵に回したんじゃああ……? 「我のターンはまだ終わってないぞ!手札が1枚なので至高のこれをタダで召喚!至高!至高!シコー!」 ま……まさか! 「ミリオンブレイブ・カイザーを0マナで召喚!シコーーー!!!」(シュミシコウ:手札0、マナ2、盾5) やっぱり!発売前のSRカードだ!こいつは何らかの方法で発売前のカードを手に入れたんだ! 「いくぞ!至高の一斉攻撃!ブレイズ・クローとミリオンブレイブで3枚ブレイク!」 「と……トリガーぁりまぇん……」(リリ無:手札5、マナ3、盾2) 「ならばターンエンドだ。次のターンで終わりだな。至高至高シコー!!」 場には殴り返しを要求するW・ブレイカー1体と小型が4体……。こっちはパワー2222のニャハン1体だけ。ダメだ……こんなのもう勝てっこない……。悔しい……早く帰りたい……。 「リ……リリ無ちゃん!しっかりしてなのヨ!」 リリン!リリンは未だに変態の片腕と脇腹で抱きかかえられている。小さくてぬいぐるみみたいな体のリリンでは筋肉質な変態のハグから抜け出せないのだ。 「私はリリ無ちゃんはやればできる子だって信じているのヨ……だから最後まで諦めないで欲しいのヨ……」 そうだ。私が頑張らないとリリンが帰って来れない。だから私は最後までこいつと闘わないといけないんだ!! 「私のターン!ドロー!」(リリ無:手札6、マナ3、盾2) 一瞬、私の手が虹色に光った気がした。このカードは……!? 「無色マナチャージ……そして呪文、水晶のセレナーデ超動!これでこのターン、次に召喚するゼニスのコストを4下げるわ!そしてアンタップしてるマナを1枚裏向きにするわ!」(リリ無:手札4、マナ4、盾2) 「ほう、しかしマナが2枚だけでは何もできまい」 「そんなこと無いわ……たった1枚だけ、水晶ソウル3を持つ唯一のコスト10のゼニス・セレス……「怪異」の頂天 クリス=ベルゼ召喚!!」(リリ無:手札3、マナ4、盾2) 「なんだとおぉ!?」 「こいつは出たターン、コストが偶数のクリーチャーを攻撃できる!コスト7のミリオンブレイブを殴る事はできないけどエールなら攻撃できる!そして攻撃する時に……革命チェンジ!蠅の王 クリス=タブラ=ラーサ!!!降臨!」 「シコォ!?」 このカード、タブラ=ラーサはさっきお店で買った物だ。しかもウィン、ニイカ、クリスタの3人が映ってるシークレット版!ネットでしか見た事がなかったけど、まさかこんな近所に売ってるとは思ってもみなかった。すっごく高かったけど。 「まだ終わりじゃないわ!アタック・チャンス、天頂と停滞と水晶の決断、超動!!ゼニスではないミリオンブレイブともう1体のエールを山札送り!」(リリ無:手札2、マナ4、盾2) 「わ……我の至高の至高(シコー)クリーチャーが消えていく!?」 「おっと、タブラ=ラーサの登場時能力でおたがいの手札は裏向きにしてマナ送りよ。そっちは元々0だけど、こっちはマナ2枚追加よ!そしてバトル!エールを破壊!それからニャハンでタップ中のブレイズ・クローに攻撃!破壊!ターンエンド!」(リリ無:手札0、マナ6、盾2) こうして場には私のタブラ=ラーサ1体とニャハンが1体。相手はブレイズ・クロー1体となった。 タブラ=ラーサはワールド・ブレイカーだからトリガーが捲れなければそのままニャハンでとどめを刺せる!それに裏向きマナが4枚あるから相手はコスト3以下の呪文は唱えられない!次のターン、水晶ソウル持ちが引ければそれも召喚もできる!シールドだって2枚もある! ヨシ!勝てる!私は自分の勝利を確信した。だけど…… 「至高……至高……シコーッコッコッコッコッコ!!!敵ながら天晴!我をここまで追い詰めるとはな!」 変態はちっとも諦めていなかった。まるでまだ自分に勝機があるかのように高笑いをしている。 「な……なんなの……?とっとと負けを認めてサレンダしてよ……」 「何故だ?勝てる決闘でどうして降参する必要がある?見るがよい!我の至高のドローを!至高至高至高至高……至高至高(シコーシコー)ドロー!!!」(シュミシコウ:手札1、マナ2、盾5) 変態の右手が気持ち悪い色の光を放った気がした。 「来たか……さあ、処刑シッコーの時間だ。G・G・G発動!今ドローしたミリオンブレイブ・カイザーをタダで召喚!!」(シュミシコウ:手札0、マナ2、盾5) 「う……ウソでしょ!?2枚目!?」 「行くぞ!ミリオンブレイブでシールドを2枚ブレイク!」 「トリガーは……無い……です…………」 嫌だ……ここで私が負けたらリリンは――。 「至高のブレイズ・クローでダイレクトアタックだあああ!!!シコオオオオオ!!!!」 「いやあああああ!!!!」 ダイレクトアタックの瞬間、私は強い衝撃を受けて吹き飛ばされた。まるでクリーチャーに激突したかのように。 「リリ無ちゃん!リリ無ちゃん!」 「ごめん、リリン……私、何もできなかった……」 リリンの呼ぶ声がどんどん遠くになっていき、私の意識は闇に沈んでいった――。 (この後、騒ぎを聞きつけたボル先がシュミシコウを倒してリリンを取り戻し、むしょくのお姉さんは杏子ちゃんに介抱してもらったんだと思います。めでたしめでたし)