あらすじ 復活したエルダーワイズモンから、自分の生まれの真実を知らされたほむら。 彼女はショックを受けるが、母親の事をもっと知るため、さらなる真実を求めることを決める。 一方その頃ブラックシャウトモンは、甘酒で酔いつぶれていた。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 「んんぅ…ん…?……俺…いつの間に寝ちまったんだ…?」 「あ、起きた。甘酒一杯でこんなになるなんてね〜。シャウトモン弱すぎ」 彼女の言葉に、俺は黙って頷くことしかできなかった。 「悪ぃほむら…あんなこと言っておきながら全然話聞いてやれなくて…」 「大丈夫だよ。エルダーさんの話より、シャウトモンのお酒の弱さの方にびっくりしたもん。」 「自分でも自分の酒の弱さにびっくりだぜ…」 「あのさ。…私、やっぱりあの話の続き…聞いてみようと思って。」 「平気…なのか?」 「うん。知らないで苦しむよりは…やっぱり知って苦しんだ方がいいなって思って。」 どこか覚悟が決まったような彼女の目に、俺は不安を抱かずにはいられなかった。 ───────── 「あの…エルダーさん。」 ほむらがそうと問いかけると再びPCの画面が光り、エルダーワイズモンが現れた。 「おはようほむら。体は…大丈夫そうだね。…聞きたいんだね、話の続きを。」 「はい。」 ━━━━━━━━━ さて、何から話そうか… …人間の錬成を果たした後の鏡花は、次第に死者蘇生に惹かれ出した。 自分が犯した罪に気付いてしまったからだ。 死者蘇生に成功すれば、その罪は帳消しになる。彼女はそう考えた。 そんな時だった。 「あなたの研究に興味があります。是非とも我が社で働いていただきたい。」 FE社は鏡花をヘッドハンティングした。死者蘇生は比良坂CEOの目的と合致していたからね。 ちょうどその頃、彼女は名前を変えた。 過去の自分と決別し、錬金術師『八重練・H・鏡華』になった。 やがて彼女が金行の次席にまで上り詰めた頃…君に不幸が訪れた。 ほむら、君は…死んだ。 ━━━━━━━━━ 「はぁ?」「え…?」 私たちは素っ頓狂な声をあげる。 「どう言うことだよ…?ほむらはちゃんと…こうして生きて…」 「ほむら、君は…特定の時期の記憶がぼんやりとしているのではないかい?」 「……はい」 確かにそうだ。私は高校3年生から大学1年生までの時期のことをはっきりと思い出せない。 「それは…鏡花が錬金術によって記憶を操作したからだ。死んでから、生き返るまでの記憶を塗りつぶした。」 でもまさかそれが…鏡華さんのせいだったなんて… 「私にはその記憶操作を解除するだけの力がある。苦しみを伴うかも知れないが…するかい?」 知らない方がいいことなのかも知れない。けど…やっぱり気になる。 「…お願いします。」 「わかった。君の記憶を全て復元しよう。」 エルダーさんは私の額に指を伸ばし、軽く力を込めた。 ───────── 「よォほむら…ちょっとこっち来いよ…」 …あの男だ。私が最初に付き合ったあの男。 「待ってたんだよ…お前が来るの…」 そうだ。あの日、あの男の様子はどこかおかしかった。 「ちょっ…やめ…!離して…!」 あの男は私を部屋の中に連れ込むと…首を絞め始めた。 「何か気にさわったなら…あやまるから…はなし…て…!」 あの男の背後に、何かの影が見えた。あれってもしかして…デジモン…? 「ニンゲンってのは…こうすりゃ死ぬのかなぁ…?」 「くるし…!誰か…たすけ…… そうだ…私はこの日…死んだ。 「アッヒャヒャッヒャッヒャッ‼︎死んだ!死んだ!ニンゲンがシンだ!」 男は狂ったようにひとしきり笑った後、急に様子が変わった。 「─────あれ?俺は何を…ほむら?おいほむら!?死んでる…⁉︎…俺がやったのか?……あ…ああ…ウワァァァ!!!?!」 男は叫びながら部屋を出て行った。 ───────── 「そうだ…私殺されたんだ…あの時。」 「…君を殺した男は、デジモンに乗っ取られていた。時々いるんだ。人を喰ってみたり、人を切り刻んでみたり、そういう目的でこちらの世界にやってくるデジモンが。」 エルダーさんは暗い顔をしてそう言った。 「その…2日後だったか。鏡花は警察の遺体安置所から君の体を回収した。その後1年近くかかってしまったが、彼女は君を生き返らせることに成功した。だから、君はこうして今も生きている。」 正直、情報量が多すぎて頭が追いつかない。けど… 「私を助けてくれた…ってことなんですよね、鏡華さんは。」 「そうだね。鏡花は実験だと言ったが…君を助けたい一心だったのは明らかだった。」 「あの…それだけじゃありませんよね。鏡花さんが私を助けてくれたの。」 私はそれと一緒に思い出したことがあった。 卵のデジモンに私が右腕を喰われた時。その時も鏡華さんが私を助けてくれた。 「そちらも思い出したかい。あの時はブラックシャウトモンくんに少し乱暴な手段を取ってしまった。謝罪しよう。」 「……?なんの話だ…?」 「おっと、君の記憶はまだ操作したままだったね。」 エルダーさんは私と同じようにシャウトモンの額にも指を伸ばす。 「あ…!そうだ!テメーどっかで見たことあるってずっと思ってたんだよ!あん時か!!デジタマモンの!」 シャウトモンも、私と同じく全てを思い出した様だ。 「君にはまだ話すべきことが────── エルダーさんの話を遮る様に、私のスマホが通知音を鳴らした。 私は何の通知なのかを確認するため、横目でチラリとそれを見た。 「え…?そんな…!?」 私は思わず声を上げてしまった。 ━━━━━━━━━ 「え…?そんな…!?」 ほむらはスマホを見るなり、目を見張りながらそう呟いた。 「ん?どうしたよほむら。」 「シャウトモン…これ…!」 ほむらが見せてきた画面には、ニュース映像が流れていた。 「えー、速報です。FE社のCEO、クオン・I・比良坂氏が銃撃されたとの情報が入って参りました。現場で死亡が確認されたとの情報もあり────」 FE社。ほむらの内定先であり、ほむらの母親がいる会社でもある。 そこのCEO…要するにお偉いさんが死んだとなれば、そりゃ一大事だ。 ほむらが驚いたのもわかる。 だが、その音声を横で聴いていたエルダーワイズモンの慌てようは尋常ではなかった。 「クオン・I・比良坂が銃撃…まずい!未来が…私の見た未来が来てしまう!」 頭をかきむしりながら、必死に何かを探す様に目を泳がせる。 「エルダーさん、落ち着いてください!未来って…どういうことですか…?」 ほむらはエルダーの肩を掴み、それを落ち着かせようとした。 「あ…ああ。私には未来を演算する力があるんだ。クオンCEOの暗殺事件…これは偽装であり…彼女はこのあと、DWで自らの望みを叶えようとする。が…私の知る大抵の未来でそれは失敗し、FE社の崩壊に繋がる。そしてそれは…多くの犠牲者を出す。」 未来の演算。普通だったらまず信じないが、こいつが今までやったことを考えれば、疑う理由はない。 「じゃあ…鏡花さんもそれに巻き込まれて…」 「そうだ。クオンの実験が行われるのは、ダークエリアに存在する研究施設『天沼矛』。鏡花もそこにいるんだ。ほむら…君に頼むべきことで無いのは…わかっている。非常に危険でもある。だがどうか…!私と…鏡花を助けに行ってはくれないか…?」 「私…行きます。鏡花さんに…お母さんに会いたいです。」 ほむらは迷うことなくそう答えた。ほんと感心するぜ。だったら俺様が行かねえ理由もねえよな。 「マジかよ。全く、ほむら…お前ってやつは…。バンドメンバーをほっとくわけにゃいかねえ。俺も付き合うぜ。」 「シャウトモンは来なくていいよ。お留守番してて。」 「…は⁉︎」 聞き間違えかと思った。 「お前今なんて…」 「だーかーら、ついてこなくていいって言ったの。危ないんですよね?エルダーさん。」 やっぱり聞き間違えじゃなかった。ほむらは俺についてくるなと言った。 「ああ。崩壊の際には様々な騒ぎが起きる。非常に危険だ。」 「だってさシャウトモン。来なくていいよ、私の問題だもん。」 「何言ってんだよほむら!一人でそんなとこ行ったら生きて帰ってこれるわけねえだろ!?」 「大丈夫。私錬金術師なんだよ?一人でも平気!」 ほむらは笑っていた。それは、妙に胸騒ぎのする笑顔だった。 そんな笑顔を、俺はDWにいた頃に何度か見たことある。 それは…死を厭わない奴の笑顔だった。 「ほむらお前…!死んでもいいと思ってんだろ!?デジモンならともかく!人間がそんなこと考えんな!」 死ぬことを怖がらないデジモンってのは、案外多い。デジタマに戻っちまえば死んでねえのと同じだしな。 でも人間は違う。死んだら終わりだ。 ほむらは一度死んで蘇ったらしい。だが、それを知ってすぐに死を怖がらない様になれる訳がねえ。 「ほむら…お前、ちゃんと生きたいと思ったこと…あるか?」 間違いない。こいつはずっと、死んでもいいと思ってたんだ。 「………」 「ずっと引っかかってたんだよ…お前がよくわかんねえ男引っ掛けたり…俺を守ろうとしたりよ…。お前…自分の事…大事じゃないんだろ。自分の事…嫌いだろ?」 「─────まえじゃん…」 ほむらは拳を握りしめていた。 「当たり前じゃん…!お父さんもお母さんもいなくて…伯父さん達はずっと私を腫れ物扱い…ひどいことをされたわけじゃないけど…愛されもしなかった。…自分の事なんて好きになれるわけないじゃん!」 彼女の心の奥深くには、俺が思ったより遥かに深く、濃い闇があった。 一度触れてしまったからには、何とかしてやらなきゃなんねぇ。俺はそう思った。 「あーあ…言っちゃった。じゃあもう…全部話しちゃお。………わたし…さ、誰かに必要とされてみたかった。愛されたかったんだ。」 ほむらは少しづつ、ぽつりぽつりと語り始めた。 「だから…最初に彼氏ができた時は嬉しかった。……初めて誰かに愛されたと思った!…それが身体目当てでも…嬉しかった。」 エルダーはそれを聴いて、申し訳なさそうにしていた。自分が蒔いた種だと感じていたんだろう。 「だからそれが忘れられなくて…色んな人とセックスした。だって気持ちいいのは好きだったし…愛が欲しかった。でもやっぱり…違うんだよ…そういうのは。私が欲しい愛とは…違うの。だからすぐ別れてばっかり。」 愛…か。俺には馴染みがなかった。 「私が欲しかったのは…たぶん親の愛だったんだよ。そんなの最初からわかってたけど…どうにか心の隙間を埋めようとしてさ。最低だよね、私。」 ほむらはそう言いながら、しゃがみこんで急に俺を抱きしめた。 「…わたし…じぶんが大事じゃないから…シャウトモンの方が自分より大事だから…一緒に来てほしくない。」 「…パートナーを死なす訳にはいかねえ。死ぬつもりなら、俺はお前をこの部屋から出さない。俺は人間よりずっと強い。それが出来る。」 俺はほむらを抱き返しながら言った。 「じゃあ…シャウトモンと私の関係も…今日で終わり。FatalErrorは今日で解散。もう他人だよ、私達。好きなとこ行きなよ。どこでもさ。」 彼女は俺を突き飛ばす様に離れた。 「待てよ!」 俺はほむらの腕を掴んだ。 「お前が死んだら何の意味もねえだろ。俺のこと大事だってんなら、俺が大事にしたいものも大事にしてもらう。」 「…それって?」 「お前だよ、ほむら」 歯の浮く様なセリフだとは、自分でも思った。でもよぉ… 「ふふ…あはは…!」 「笑うこたねえじゃねえかよほむら…」 「ばかだね。ほんとバカだよ…シャウトモンは…。私なんかに入れ込んでさ。」 「それがパートナーってモンだ。一蓮托生ってやつだよ。…一緒に生きよう。」 「……うん」 そう彼女が答えた時、急にデジヴァイスが光り出した。 「その光…まさか……!?ダメだ!今すぐ手を離すんだブラックシャウトモン!」 エルダーが焦ったように言う。 だが、既に俺の身体中を力が駆け巡っていた。 今までに経験したどの進化とも違う。 「シャウトモン…大きくなってる…?」 いつの間にか、彼女の腕を掴んでいた俺の手が人間そっくりな形になっていた。 「…まさかアレは…ヘヴィーメタルドラモンではない…?」 そうだ、これは… これは…! 「ブラックシャウトモン!究極進化!!」 究極進化だ!!! 身体が急激に巨大化し、V字のツノが仮面のように変わる。 脚の鉤爪は靴の先に取り付けられた装飾になり、首元にファーのついたジャケットが現れた。 俺はギターを背中に背負う。 「ベルゼブモン!ライブモード!」 これが俺の…究極体…! 「カッコよくなったね…シャウトモン。」 「俺様は元々カッコいい。だろ?」 俺は再び彼女を抱きしめた。 この姿なら、彼女にしゃがんでもらう必要はなかった。 「ベルゼブモン…ライブモード…?私の知らない未来だ…!」 そんな俺達の姿を見て、エルダーワイズモンは笑っていた。 「鏡花…やはり君の娘は…素晴らしいよ。」