① 「見つけた!大丈夫!?アンティラモン」 「ぬぅ勇太…ヴォ―ボモン、その方はサンドリモンのところのチュウモンか…気付いたら身体が全く動かせんかったから助かった」 「これダークタワーの小型版?大分深く刺さってるけど痛くない?」 「データと融合するせいか自分で何本か脱いたがあまり抜けても傷はないみたいだ。  ところで光とデビドラモンは?」  勇太は今までのいきさつをアンティラモンに説明した。 「うむ…邪悪な気配は感じないが…何か違和感は?」 「正直全然…」 「私にダークタワーを打ち込んだのはチラリと見たが、デビモンだったが…そのルクスモン意地でも私に会いたくないみたいだな」 「それより光とデビドラモン!」 「そうだな…勇太の身体も気になるがデーモンの復活もあるし時間がない…先を急ぐべきか」 「勿論!俺より光のが大事だよ!もし敵に何かされたら!」 「落ち着け勇太。  慌てれば、事を仕損じるのは世の常だ」 「特に勇太が突っ走る時は碌な事にならないからね」 「…うぐ…まぁ」 fu4534975.png ② 「チュウチュウ!」 「なんて?」  チュウモンが何やら勇太達に話してるようだが勇太には全く伝わらなかった。 「なんだ分からないの勇太?」 「人間だからか?サンドリモンがソドムでの協力者を紹介してくれるらしい …勇太、どうやら人間らしいぞ」 「えっ本当!」  気が気でない勇太も人間の協力者と聞いて少し気が紛れたようであった。 「そういえばソドムってどんな街なの?」 「僕も初めて聞いてけど有名な街?」 「正直私もよく知らない…だいぶ出来て新しい街だ。  いや、少し違うな…昔は小さな街があったのだが私がデーモンに襲われる少し前くらいから急速に大きくなり始めた街だ。  デジモンによっても呼び方が違って理想都市ソドム…もしくは欲望と堕落の街とも言われている」 「なにそれ、なんか聞いた感じ真逆だね」 「街に秘密があるようだが、何やら脳にロックがかかって街の詳細な事を語る事ができないようになってるみたいだな」 「うわ…うさんくさ」 「そうは言ってもDWならよくあるレベルだ  デーモンが関わっているなら話は別だがな」 「あっ見て勇太」  ヴォ―ボモンの言葉の方向を勇太が見ると遠くではるが巨大な街が見えた。 fu4534977.png ③ 「でっかというかなんか…」 「ここはDWでも特に勇太達の現実世界の街に近いみたいだな」 「へあ~勇太の元いた世界ってこんななんだ~勇太の世界にもあんな塔あるの?」  ヴォ―ボモンが見え上げる先の街の中心には機械的な女性の顔を象った巨大な塔があった。 「アレは流石にないかな…」  勇太が周りを見ると現代の日本を思い出す光景が広がっておりなんだか安心感と懐かしさを覚えた。 (母さんや父さん…日花。元気かな…こっちに大分いるからみんな心配してるんだろうな) 「勇太大丈夫?」 「うん?あぁ大丈夫。それより案内してくれるひとって…「おおおおおおおおおおおおおおいいいいいいいいいいい!!!!!!」 fu4534979.png ④  あまりにも大きな声で呼び止められるものだから勇太は一瞬ビクッと強張った。 「君だろぉ!サンドリモンから聞いたぞぉ!」  そこには天然パーマの毬藻の様な濃い顔の髭面の男がいた。  肩には小さなデジモンが乗っている。 「えっと?あなたが?」 「おおそうだ!土井 健太郎だ!いやぁ本当にこんなおめぇ甥っ子より小せえじゃねえか」 「ていうかそんな大声でいったら敵にバレるというか」 「なに?大丈夫だ!日野君!そういった連中はとりあえず見たことはない!大丈夫だ!」 「あの…でもその右手は?」 「うん?あぁこれはDWに来る前の事故が原因だ」 「えっとすみません…」 「気にするなぁ!日野君!なんだぁ君真面目だなぁ!!」  そういうと健太郎は勇太の背中をバンバンと叩いた。 「ははは…」  圧の強い絡み方であったが勇太はこの感じが不思議と嫌ではなかった。 fu4534982.png ⑤ 「健太郎さんはいつからDWいるんです?」 「うん?僕かぁ?僕はね数年前からかな  現実世界じゃあ卵だけどスーツアクターをビシっとしてたんだよ」 「スーツアクター!?特撮の!?本当ですか!?俺特撮とかヒーローとか大好きなんですよ!」 「おお!そうか!」  それから道すがら勇太は健太郎と話をしすっかり森までの緊張感が溶けていた。 「勇太、緊張感。光の事忘れてない?」 「わ、忘れてないよ!」 「なんだい勇太君の彼女か?君その歳で生意気じゃあないかい?」  そういうと健太郎は勇太の肩を抱え左右に揺らした。  健太郎の言葉に勇太の顔が見る見ると赤くなった。 「ちちちち違いますよ!!そんな…光は俺の事なんか」 「今色々あって別行動してるんだ。  会って話できればいいんだけど健太郎さんに会うまで勇太ずっと暗い顔してたから」 「なに?じゃあ会ったら僕がベシッと言ってやろうじゃないか」 「はは…ありがとうございます」 fu4534984.png ⑥-1 「やっぱり来たのね…」  勇太達を見張るように遠くから光が眺めていた。  その眼はDWに来た時のような冷たいものであった。 「ね?頂戴…苦しいの全部忘れるよ?ね?頂戴?」 「うるさい!!!」 「光…まだ何か聞こえるの?」 「はぁはぁ…うるさいわね…なんでもない…なんでもないわよ」  ソドムに来てから光は背後からずっと誰から見られ話しかけられている気がしていた。  デビドラモンには聞こえず原因も分からずただただ苛立ちが積もるだけであった。 「クソ…クソ…クソ」  ただ苛立ち悪態をつく事以外何も出来なかった。 fu4534987.png ⑥-2 「やっぱり来たか…勇太」  暗闇の中で勇太を見ている者がいた。 勇太の従兄弟である持田叶であった。 「むざむざと殺されに来やがって…せっかく血の繋がった馴染みで助けてやろうとしたのに本当に馬鹿が…」 爪を噛みながら苛立ちながら誰に言うのでもなく叶は呟いた。 「…本当にいいのか?叶…それで?」 「あぁ?」  語りかけるブイモンに叶は間髪入れず腹に蹴りを入れ痛みでうずくまるブイモンを何度も蹴りつけた。 「うるせえんだよ!成長して話すようになったと思ったら余計な事ばっか言いやがって!  お前は自分が何なのか分かってるのか!?デーモンが作った選ばれし子供のパートナーを模したただのクローン!道具だろうが!」 「で…も俺はかな…えのパート…」 「はぁ!?何調子乗ってるんだ!?お前は道具だろ!?お前の代わりなんて幾らでも作れる!少しは立場を弁えろ!黙って俺に従って動いてればいいんだ!」 「…」 「クソ…今度こそ…俺の手で殺してやる勇太…お前が悪いんだ…お前さえいなければ…俺は今度こそ自由になれるんだ」 fu4534994.png ⑦ 「えっと…おわ!?」  周りに気を取られ勇太は通行人とぶつかり尻もちをついた。 「いててすみません…怪我ありませ…「な、何をしてるんだお前!私の娘に何をしているんだ!!」 「え、あ?え?すみません?」  ぶつかったピヨモンの保護者と思われるキウイモンが事以上に勇太に対して苛烈に責め立ててきた。 「えっと、どこか怪我したんですか?」 「違う!そういう事じゃない!」 「え?え?え?」  今にも襲い掛かりそうなキウイモンの間に健太郎が割って入った。 fu4534996.png ⑧ 「おい。そこまでにしときな。  大事な娘が巻き込まれるのは本望じゃねえだろ」 「…!おま」 「もういいよ」  更にヒートアップしそうになっていたキウイモンにピヨモンが制止する。  それに対してキウイモンはビクリと大きく震えた。 「で…でも」 「いいから」  静かに離れているピヨモンに怯えるようにキウイモンは人混みの中に消えて行った。 「大丈夫か?勇太君?」 「あ、ありがとうございます…なんだったんでしょう」 「過保護なひとだったね」 「…アレがこの街の秘密という事か?」 「まぁ、そんなとことだな…」 「…」 fu4535001.png ⑨  道すがら、勇太がふと見上げると人混みの中に探していた見慣れた白い長髪が目に入った。  勇太はヴォ―ボモン達に声を掛けるのもの忘れ走っていた。 fu4535003.png ⑩ 「光!」  光の姿を見て勇太は駆け寄った。 「ゆ…うた?」  光は勇太が会った事に驚きと気まずさを併せた顔を見せた。 「えっと…」 「デビドラモンちょっと離れてなさい…」 「えっと…ひか「いいから!」  光の怒声にデビドラモンは肩を震わせ、そして何か言いたそうな顔で離れて行った。 「ヴォ―ボモン達は?」 「えっと、光の姿見つけてさ…つい駆け出してはぐれたって言うか…」 「敵陣のど真ん中でいい度胸ね…」 「そう…だね」  勇太は本題を切り出せずにいた、光もそれを感じてかバツが悪そうにしていた。 「…手紙読んだ…よ」 「そう…」 「なんでっ俺…達の前から…何か悩みがるなら言ってくれれば」 「なんで?」 「なんでって!」 「あんたはあんた、私は私…他人でしょ」 (私…デビドラモンは…) 「どうしてそんな事言うんだよ、なんか…前の光みたいだ」 fu4535006.png ⑪  勇太の言葉に何かが切れたように光は目を大きく剥き、歯ぎしりをした。 「あんたのそう言うとこが嫌になって出てったのよ!  私の事なんて何も知らない癖に、分かった風なその態度が気に喰わないのよ!」 「どうしたんだよ!やっぱりあの森で何かされたのか!?」 「何かされた!?洗脳でもされたって言いたいの!?  そうよねいい子の勇太ちゃんはそう言うわよね  そういうとこで私を美化してるとこも気に喰わないのよ!私は私よ!あんたが思ってるような奴じゃないだけよ!」 fu4535166.png ⑫ 「そうよ!あの森で昔の事全部思い出したのよ!  ママや…パパの顔も!あの男の顔も!どれだけ苦しんだか!どれだけ…パパとママの!!  そしたら馬鹿馬鹿しくなったのよ!あんた達との家族ごっこがね!」 (そうよ…私はこいつに縋ってただけなんだ…寂しくて…何かに期待して、でも分かり合える筈なんてない…どいつもこいつも…結局ひとりなのよ) 「でもひとりでいいなんて…そんなの!…寂しすぎるだろ!」 「それをあんた達が埋めてくれるって言うの!?あんたが!?」 「それは…そうだよ!俺達は…その…」 (仲…間…いや…なんだ?俺と光の関係って…) fu4535167.png ⑬ 「あんたはさ…」 「え?」 「あんたは犯されるってどういう感じか分かる?」 「なっ…は?」 「小2で訳も分からず処女奪われるってのが、痛いとかじゃなくて壊れるのよ…心も身体も全部ぐちゃぐちゃにされて何度も!何度も!  ロリコンのおっさんやひとの事をトロフィー扱いしてる奴に犯されるとね!臭いし汚いしキモい以上に心が冷えてくのよ!魂が汚れていくのが分かるのよ!自分がクソ以下の存在だって思い知らされるのよ!  それが私の世界なのよ!  あんたの世界はきっと温かくて優しくて…!そんな奴が私の何が分かるってのよ!」 「それでも…!」 「そうよね!いい子の日野ちゃんは懸命に分かろうとしてくれるわよね!  でもね!それがムカつくのよ!あの苦しみを理解しようとするのが!理解なんて出来る訳ないのに!そんな顔をされるのが…!!それがどんだけ私の事をコケにしてんのか!」 「そんな…俺は…ただ…」 「だから…だから日野。  もう私の前に現れないで私を探さないで」 「光!!」  光はそういうと人混みの中に姿を消した。  勇太は必死に探したがついに見つける事はできなかった。 fu4535168.png ⑭ 「そうか光と会ったか…」  ヴォ―ボモン達と合流した勇太は光とのやり取りを報告した。 「…俺、なんですぐに手を取らなかったんだろう…」 「えっ」 「何も言ってやれなかった…光の言うとりなのかもしれない俺は…」 「…」 「そん「そんな簡単にあきらめるのか」 「え?」  ヴォ―ボモンの言葉を遮ったのは健太郎であった。 「恰好付けるなよ。  男ってのはこういう時恰好付けたがるのは分かるがな、そん時…んな事しちまうと数年…10年経ってから後悔するんだよ…結局、手が届かなくなってからな。  そしてずっと燻りながら迷うんだ…今手伸ばさないでどうすんだ?」 「…」 「なっ!そうだろぉ少年!青春だねぇ!!」  健太郎はいつもの調子に戻り、勇太の背中を叩いた。  勇太もそれに釣られ小さく微笑んだ。 「しっかし、どうしたもんかね。探す暇もなさそうだしねぇ」 「手紙の内容なら光はデーモンの部下の義父を探しているはずです…だから」 「結局、目的地は変わらないわけだ、ほら」  健太郎が手を伸ばし、勇太がその手を取って立ち上がる。 「よし!行こう!ヴォ―ボモン!」 「あっまたはぐれるよ勇太!」  勇太とヴォ―ボモンが走り出して行く。 「助かったよ、勇太は相手を慮って身動きが取れなくなるきらいがあるんだ」 「いや…僕は、ただ…まぁ…」  健太郎は走っていく勇太の背中を見ながらバツが悪そうに答えた。 fu4535170.png ⑮  街の中心にある塔へデーモン達からの妨害も特に受ける事はなく入る事ができた。 「と言っても正面から入れる訳じゃないんですね」 「僕がこっちでメンテナンスの仕事してるからねぇ、今は塔が閉じてるし正面からなら入れないけど裏口ならべっとは入れれるからねえ」 「ありがとうございます、流石にデーモンの部下っぽいデジモンいますね」  隠れながら健太郎に案内され塔の中腹の部屋に来た。 「手…?」  部屋には祭壇に巨大な猿の手が置かれているのみで特にデーモンの部下らしいデジモンやテーマーは見当たらなかった。 「キンカクモンやギンカクモンはいないみたいだな」 「そうだね。どっかに行ってるのかな?」 「いやこの部屋は元から無人だよ」 「え?」 「こう使うんでね!」 ⑯ 「うわ!?」  背後から勇太は蹴り飛ばされ床に開いた穴に落とされた。 「勇太!」  ヴォーボモンが勇太を追いかけ穴に飛び込む。  落ちた先は1つの空間になっており周囲を見るとゆうに100m近い高さがあった。  塔の殆どは空洞でこの空間となっているのが分かる。  ヴォーボモンが勇太を捕まえ羽ばたいた事で勢いが殺されなんとか転落死となる事が避けられた。 「ここは…」  あたりは様々なガラクタが山のように積もっていた。  物理的には確かにガラクタであるのだが、違和感のような単品では気付かない全体を見る事で気付く、何か業のようなものを感じた。 「ていうか勇太!健太郎!アンティラモン!」 「そうだ、ラヴォガリータモンで上に…」 ⑰  勇太は後ろからの視線に気付いた。  扉の前にいるそれはよく見知った顔であった。 「叶…!」 「よう、勇太やっと来たか」  黒いの門の前に叶は座り勇太を静かに見ていた。 「じゃあここがやっぱり…」 「ああ、ダークエリアへの…地獄の門への入り口だ。  先までお前といたあのオッサンに願いを叶える変わりに連れて来るように言っといたんだよ」 「願い…?」 「そうか、お前ここがどういう場所か知らないんだな…そりゃあそうか」 「どういうって…そりゃあゴミ捨て場だろ」 「ゴミ捨て場…はっ確かにそうだよなゴミ…ゴミだよな」 「何笑って…」 ⑱  勇太の足元から物音がした。  物音の方を振り向くとそこにはキウイモンがボロボロに傷ついた状態で今にも消えそうな小さな声で助けを求めていた。 「助け…」 「まさか…こいつ…」 「叶本当にいいのか?」 「あぁ?いいからやれよ」  そう言うと叶はブイモンの脇腹に力を込めて蹴りを入れた。 「!何やってるんだ!?叶!」 ⑲  勇太が食って掛かろうとした瞬間ブイモンが進化の光に包まれ同時に銃声が響き渡りキウイモンの頭部が破壊されそのまま霧散していった。  勇太はその光景を唖然として見ていた。 ⑳ 「お前…何やってるんだ…」  勇太の視線が冷たくなり叶に向く。  しかし、叶はその事を全く意に返さず軽薄な態度で返答した。 「あ?お前自分で言ってたろゴミだって、ゴミ掃除だよ」 「そういう事じゃない!先のブイモンへの暴力だってそうだ!心が痛まないのか!?どうしたんだよ叶!」 「痛む?まさか…俺はな勇太自由になれたんだよ!これが本当の俺さ!今のお前みたいなクソみたいな倫理観に縛られない!誰がどうなろうが心も痛まなければ俺の思い通りにどいつもこいつも好きにできる!今だったら自分の為なら親だって何も感じずに殺せるさ! 後はお前だ…勇太」 「…」 ㉑ 「お前さえ殺せば俺は本当に自由になれる。  だからここへ誘き出した…お前を今ここで殺す。  安心しろよ今回は完全体だけで相手してやるお前が俺には勝てないって事を骨身に分らせてるよ」 「デーモンに何を誑かされたか知らないけど、俺こそその歪んだ薄ら笑い顔に一発入れて目を覚まさせてやるよ!  話はそれからだ!ヴォーボモン!」 「うん!」  勇太の呼びかけに応えヴォーボモンがラヴォガリータモンへと進化する。 「お前が俺に一発入れる?勇太…お前が俺に勝てたもんがひとつでもあったか!?勉強でも運動でも?喧嘩でもな!」 「うるさい!だったら俺は今日こそ…お前を超えてやる!  その腐ったヘラついた顔を覚まさせてやる!」 ㉒ 「メルダイナー!!!!」 「デスペラードバスター!!!」  ラヴォガリータモンとパイルドラモンそれぞれの必殺技がぶつかり大きな爆発を起こし開戦の火蓋が文字通り切って落とされた。 ㉓ 「始まったみたいだな…」 「初めからデーモン側…騙していたというわけか」 「悪く思わないでくれよぉ、こうすれば僕の願いが叶うって後ろの手がね…」 「…なんとなく察しは着いたが下のゴミ山…それにキウイモンは…」 「流石三代天使の一角地べたの下々までよく目が通る。  お察しの通りさ、ここは対価を払えばその分の何かを得る事が出来る街。  どいつもこいつも多分あのピヨモンも欲しい物の為に捧げてゴミみたいに捨てたのさ。  どうせ下らないものにな」 「嫌らしいな、ここ位でしかこの手についてもまともに話せない。  だが街の住民達はシステムは理解している。  誰もがいつかは自分が捨てられるのか捨てるのか誰にも話せないまま疑心暗鬼に囚われて捨てられる前に捨てようとする訳か」 「ひとつ訂正するなら恐らくこの街の住民はそんな事に罪悪感なんて感じてないってとこかな。  当たり前の事…だから僕もあの少年を捨てさせてもらって君も殺させてもらうよ」 「…正直最初は疑いの目もあった。  しかし、光と別れた後の君の言葉は真実だと…誰かを慮る心が見えたアレも嘘だったのか?」 「…さあね…いいじゃないか全部…どうでもいい事さ」 ㉔ 「ま、どうでもいいんだけどさ、僕も夢には必死なんだ。  究極体へはまだ戻れないのは知ってるけど全力でいかせてもらうよ」  そう言うと健太郎は腰の入れ物からドライバーを取り出し腰に巻きつけカードを手に取った。 「変身(マトリックスエボリューション)」 ㉕ 「随分と状況に似合わないものに進化したな」 「まぁ自分でもそう思うね、本当に…本当にさ」  たなびく赤いマフラーを巻き現れたのは正義の名を冠したデジモン、ジャスティモンであった。 ㉖  ラヴォガリータモンはパイルドラモンの連続の砲撃から避けるのに手一杯であった。  パイルドラモンからの攻撃よりも最高速度は上であり、広い場でなら状況は全くの逆であったかもしれない。  しかし塔の狭い円周の中ゴミの山が転々とある中では速度を落とすしかなかった。  更にはラヴォガリータモンの巨体が邪魔をしゴミの山からの通れる道が限定されそれが先読みされ後手に回る要因にもなった。 (この為にわざわざここまで誘き寄せたのか…!クソ!)  パイルドラモンの横で笑みを浮かべる叶がその事を如実に表していた。 ㉗ (だが、ここでダメ押しがあるんだよ勇太)  ラヴォガリータモンは小回りが効かず砲撃が擦り始め徐々に防ぎきれなくなってきた。 「勇太!このままだとまずい!一気に!がぁ!?」  勇太は一瞬何が起こったのか理解できなかった身体が宙に投げ出され回転していた。  フェアリモンの脚を出し体勢を取り直しラヴォガリータモンに向き変える。  そこで何がラヴォガリータモンの動きを止めたのかを理解したそこには無数のワイヤーが張り巡らされていた。 (先はなかったはず…!そうか!砲撃の爆発音に被せて両腕からワイヤーを!まずいラヴォガリータモンはまだ何か起こったのか混乱してる!) 「大丈夫!下がるんだラヴォガリータモ…!?うわ!!!」  身動きが取れないラヴォガリータモンに砲撃が直撃する。  その衝撃でなんとかワイヤーから脱出できたがダメージは深刻であった。 ㉘ 「だから言ったろ勇太。お前は俺に勝てないんだよ。何一つ何一つも…」  体勢を立て直すが先程以上にラヴォガリータモンは上手く飛べず直撃は避けても砲撃のダメージが積み重なっていく。 (クソ!このままじゃ…俺は結局叶には勝てないのか…) 「勇太危ない!」  ラヴォガリータモンの言葉に顔を上げると砲撃が勇太へと向かっていた。 (しまっ…死!)  爆発音と煙が広がり何かの塊が落ちていくのが叶には見てとれた。 ㉙ 「は…はは!やったっこれでこれで俺は…自由に…」  叶が勝利を確信した瞬間であった。  背後から煙を巻き上げ襲い掛かろうとしてきた。 「叶!」  パイルドラモンが叶を庇い間一髪で避ける。 「なんだ!?鬼塚はここにはいないはず!?他にも仲間がいたのか!?」  縦横無尽に煙とゴミの山から襲撃をかける影に今度は一転として叶とパイルドラモンが翻弄される事になった。 「んぐっ!?!!!」  影を何とか捉えパイルドラモンは投げ出し壁に当てる。 ㉚ そこにいたのは勇太とラヴォーボモンであった。 「なに…?なぜ退化を…?」 「はぁはぁはぁ…ふぅ」  壁を蹴り向かって来るラヴォーボモンはワイヤーをゴミの山や壁を上手く使い避けパイルドラモンへ一撃を加えて後方に下り煙の中に姿を消した。 「クソ!パイルドラモン!」 「うおおおおおおおおおお!!!!!」  パイルドラモンはラヴォ―ボモンの後方からの襲撃をダメージを受けながら受け止め砲撃を連射し吹き飛ばす。 「完全体から成熟期に退化して身体の大きさと移動方法を変えて移動速度を上げたみたいだがそれが仇になったな!成熟期じゃパイルドラモンの攻撃で喰らえばダメージだって!」 ㉛ 「クソ!やっぱり!」 「いや、駄目だ勇太!ここで引いたら向こうもスピードに慣れて来てる!今しかない!行くんだ勇太!!」 「でも!」 「僕も…僕も勝ちたい!こいつらだけには負けれない!負けちゃいけないんだ!だから直線だ!行くんだ!!」 「!…分かった!」  ラヴォ―ボモンは砲撃の中でなんとか体勢を取り直し一気に前踏み出した。 「馬鹿か!?こいつら!?」   砲弾が勇太とラヴォ―ボモンに当たり傷を増やしていくいつ致命傷を喰らってもおかしくはなかった。 (ラヴォ―ボモンならいつパイルドラモンの砲撃に吹き飛ばされたっておかしくはない…集中しろ!この砲撃の中で一心だ…ただ一心に!) 「ぐぅ!?」  勇太の腹に砲撃で弾かれた金属片が深く突き刺さる。  意識が遠のいていくその瞬間、走馬灯のように勇太の脳裏に浮かんだのは (そうだ…叶は…ずっと優しかった。  俺に笑いかけてくれたアレは…嘘なんかじゃない!  ずっと何か俺と別のものを見てたとしても、今ここで届かなかったらきっと…何もできない!だから!!)  勇太のデジヴァイスが光を放ち始める。 (…け!)  ラヴォ―ボモンが進化の光を放った。 (届け!」  ラヴォガリタ―モンが口に炎をを溜めメルダイナーを放とうとする。  同時に、止まらないラヴォガリタ―モンを迎撃するたねパイルドラモンが両脇の生体砲を連結させデスペラードブラスターの射出体勢に入る。 「届け!!!」  メルダイナーとデスペラードブラスターがぶつかり合い拮抗する。 「届けえええええええええええ!!!!!!」  その時、確かに勇太は前に踏み出し、叶は後ろに後ずさった。  拮抗した2つの必殺技は中心から爆発し両者を吹き飛ばした。 ㉜ 「はぁはぁはぁ…」  ラヴォガリタ―モンとパイルドラモンはヴォ―ボモンとブイモンに退化しそのまま気絶した。 「ヴォ―ボモン!」  勇太はヴォ―ボモンに駆け寄り抱きしめる。 「やるじゃねえか…勇太。  今の爆発でダークエリアの門も壊れたみたいだしな」 「えっ」  門の方を見ると爆発のせいで砕け、そこから形容し難い黒い霧のような波のような生物のようなもの…闇が漏れ出していた。 「ここからは、マジだ…完全体同士で決着とか温い事はしない。  手段なんて選びはしない…必ずお前を殺して俺は自由になる…まずはこれだ…」  そう言うと叶はブイモンの首を掴み上げ後方にゲートを開いた。 「待て!」 「生きてたらまた会おうぜ…」  勇太が叶を捕まえようとしたがゲート共々その場から消えていった。  門の方を見るとどんどん闇が溢れ出してきた。  これに触れたら不味いと勇太は本能で理解できた。 「早く出なきゃ…」 ㉝ 「アンティラ…って!?うお!!!!???」  上を見上げた瞬間に健太郎が降ってきた。  (上で戦闘してたんだろうけどアンティラモンも荒いな…) 「アンティラモン!聞こえる!アンティラモン!!!」  見上げると落ちた場所から爆発が見えた。 ㉞ 「すまない勇太!私もまだ手を出せる余裕はないみたいだ!!!」 (ここでか…)  アンティラモンの目の前にはキンカクモン、ギンカクモン他のデーモンの部下が迫って来ていた。 (しかしこれは…生気をまるで感じないな)  キンカクモンとギンカクモンを見ると不自然に脱力し動きが頼りなく視線の向きと身体がバラバラであった。 (サンドリモンの言う通りだな) ㉟  (不味い足元にまで闇が…とりあえず出口…あるのか?どっちみち行かないと!)  そのばから離れようとする勇太であった健太郎が目に入る。 「ああ!もう!」 「はぁはぁはぁ」  結局、勇太はヴォ―ボモンと健太郎を背負って歩き出した。 「幾らこっちに来て足腰強くなったと言っても…大人とヴォ―ボモン両方はキツイな…」 「ここ…は」 「気付きましたか、健太郎さん塔の上から落ちてきたんですよ。  闇が広がって来てて、アンティラモンもまだ交戦中みみたいで、なんとか出口探さないとって…」 「闇…?」  健太郎が後ろの門から溢れる闇を見て状況を把握した。 「降ろせ…大人ひとり担いで…それにここに出口なんか…」 「…せめてアンティラモンが助けに来るまで…大丈夫です…死なせません」 (どのくらい経った…重い…大分上にだって上がってるのに闇から遠くならない)  闇はまるで獲物が弱るのを待つかのように着かず離れずの距離で勇太達の後ろにあった。 「降ろせ…勇太…」 「すみません…痛むかもしれませんが今はが「ふたりで行けって言ってるんだよ!!!」  健太郎が暴れバランスを勇太はバランスを崩した。  尻もちを着いた瞬間に一気に疲れが襲って来た。 「はぁはぁはぁ…んっ」  なんとか震える足を起こし再び健太郎とヴォ―ボモンを担ぎ勇太は脚を進めた。  その間無言であったのは何も言はなかったのではなく疲れで言えなかったからであった。 「馬鹿な事しないでください…死んじゃいますよ」 「それでいい…もういいんだ…勇太…今諦めたんじゃない。 もう…僕はずっと諦めてたんだ…」 「何言ってるんですか…」 「僕はね…ヒーローになりたかったんだ…」 「奇遇ですね…俺もヒーローになりたいと思ってますよ」 「だからスーツアクターになりたかった…少しでも近づける気がしたんだ、でもな…それすらも右手を事故で失ってから全部どうでもよくなったんだよ…  くだらない人間だと分かってたけどな、夢を追えば少しはマシになるかと思ったが結局全部駄目にしちまった…  ヒーローなんていいながら、挙句は君を…子供を…自分の為に…こんな…」  勇太の脚が止まった。 「だからもう…「なんでだよ!!!!」  無意識であった…しかし勇太は叫んでいた。 「あんたも!!!叶も!!!光も!!!何も言わないで!言ってくれないで!!!ひとりで決めた気になって!生きた気になって!勝手に諦めて!勝手に納得して!!!そんなの…馬鹿みたいじゃねえか!!…なんで言ってくれないんだよ…なんで…なんで…世界にひとりなんて…寂しすぎるだろ…」  気付けば蹲り目からは大粒の涙が流れていた。 ㊱ 「あっ!」  気付けば闇が足元まで広がっていた。  沼のように広がりどんどん沈み纏わりついてくるようであった。 「不味い!!」 (沈むのがかなり早い!このままじゃ!) 「はぁはぁはぁ…」 (俺とヴォ―ボモンだけなら…)  無意識に勇太は健太郎の方を見ていた。  その視線の意味を健太郎も理解しているのか見つめ返す。 「はぁはぁはぁ…」 ㊲ 「うわ!?」  足元まで浸かったと思ったら一気に引き摺り込まれていく。 (どうする…!?伸ばすなら!早く!?でも…!俺達だけなら…) 「はぁはぁ」 (俺達だけなら!!!!…助かる) 「そういう事だ勇太…」 ㊳ 「はっ!?」  勇太が次に気付いた時にはベットの上であった。  傷は手当されており、邪魔なのか服は脱がされている。 「ここは?」  周囲を見渡すとそこは現実世界で自分達が住むような洋風の部屋のように見えた。 ㊴ 「やあ気付いたかい?」  耳にした事のある声に勇太が振り向いた。 「あなたh…ってうお!!??????ななななななんてかかっこう」 「ん?あぁシャワーを浴びていてね君もどうだい勇太君」  そこには全裸の鮎川 聖がいた。