「来るのがとても待ちどおしくて、その歩みを早めさせようとするかのように未来を待ちこがれている……ねぇダージリン、この部品どこにつくと思う……」
　いつだって前しか見ないという青い目がこちらを見て、わたくしは手にしていたマグカップを置いた。
「フーム」
　これじゃダメかしら。

　長いようで短い月日。
　それはわたくしからいろいろなものを奪い去っていった。
　例えば、あまりに純粋で嫌味の一つも言えないような無垢な少女の心、ミニスカートを堂々とはく勇気（今にして思えば月刊戦車道のピンナップ撮影に応じていた西住流家元はさすがの豪胆さだったと思える）、三日間徹夜して作戦を考えることができる体力……は、過去のわたくしよりも三倍早く作戦を考えることができる経験値とトレードしたのでよいとする。
　それから……。
　わたくしは目を閉じて天井を仰ぎ見た。
　同居人であるケイに渡す誕生日プレゼントのレパートリィ。

　今年、ケイは三十歳だ。
　去年の九月、私が三十歳の誕生日を迎えた時、彼女は年の数の真っ赤なバラの花束と三十年もののワイン、三十本のロウソクを立てたやたらカラフルなホールケーキ、そして、おばあちゃん用の刺繍セットと杖と、それからわたくしが欲しがっていたおしゃれな眼鏡をプレゼントしてくれた。
　それらを受け取るところを、わたくしの家族とケイの家族にビデオ通話をつなぎ、さらに後輩であるナオミさんとアリサさん、それからおちびを呼びつけて、盛大に祝って……煽ってくれやがりましたのだ。
　わたくしはなんとしてもそれに負けない三十歳のお祝いをしなくてはならない。
　ひとまずもらった刺繍セットでクマ（お手本がそれだった。なんとかっていう包帯のついたクマ）を刺繍したひざ掛けは用意してある。できるだけ野暮ったくて、おばあちゃんがロッキングチェアに揺られる時にかけているようなやつだ。もちろんケイがたとえ百歳になっても、ロッキングチェアでうとうとしながら昔話を語るようなことはないだろう。このひざ掛けはケイをたっぷり煽った後は、きっと寝室のベッドがちょっと寒い時にたまに使われる位になるに違いない。

　それから、そう、ケーキ。ロウソクのたっぷりついたのを、すでに安斎さんに聞いた美味しいお店で注文してある。チョコレートに乗せる文言は、Grow old with me! The best is yet to be.だ。「やだ、老いなんて」とワァワァ言う姿が目に浮かぶ。
　花束は、同じものじゃつまらないので、星のようなアングレカム。せっかくだからホテルも予約している。
　さて、と、私は考える。
　汚れつちまつた悲しみに、12年としばらくを、この騒がしい相棒と過ごしたわたくしときたら、こういった煽りはいくらでも思いつくのに、肝心のプレゼントが思いつかない。
　三十路煽りは三十路煽りとして、一つくらい、彼女が本当に喜ぶものを用意したい。
　わたくしは立ち上がると、ライティングデスクの脇にある半年前にもらった眼鏡を手に取った。レンズを通して見るケイは、ついに部品を裏返しにするという画期的な発見をし、裸で風呂から飛び出すが如くに喜んで、完成した加湿器に水をいれるためにキッチンに向かって駆け出していた。
　そもそも1月というタイミングもよくない。

　クリスマスプレゼントを渡したばっかりだ。今年のクリスマスプレゼントには、新しい革のキーケースにしてみた。車のキィとつけるためのものだ。
　アクセサリーは難しい。好みはわかっているが、何より過去からちょくちょくプレゼントしている。今彼女が身に着けているネックレスもわたくしとペアでこしらえたものだし、指輪もピアスもプレゼントしたことがある。共に過ごした13年の月日は、おそらくお互いにお互いからの貰い物で全身を飾れるくらいにしてしまっている。
　ええい、もう、ケイが喜ぶものなんで、わたくしのこの笑顔だけで充分だ、という気にすらなってくるが、それで済ますのはあまりに悔しい。同じことを来年やられたら烈火のごとく怒る自信がある。別に物が欲しいわけではないけれど。

　わたくしはソファから立ち上がると、コートを羽織ってマフラーを巻く。
　ちらりと窓から外を見ると、時刻はまだ昼下がり。寒いながらも柔らかい日差しが見えた。
　もの思いしながら出歩くには最適だろう。

「あれ？　どっかいくの？」と、ケイ。
　クリスマスにあげたキィケースを手に取るのを、わたくしは首を振った。
「ちょっとお散歩。考え事をしたいから」
「オウケイ。帰ってきたら驚くわよ。いい匂いがするはずだから」
　加湿器がラベンダーの匂いのする蒸気を吹き始めていて、ケイはそれを満足気に眺めていた。
　お散歩と言いつつ、わたくしは街に繰り出して、ケイの喜ぶ新しい物を探すつもりだった。
　思えば一昨日くらいから、ずっとケイのことを考えている。
　このわたくしの灰色の脳細胞をこれだけ占有させてあげているのだから、本当にこの時間がプレゼント、ということにならないかしら！
　もっとも。
　わたくしは寒風を頬に受けて、一人微笑んだ。
　もう13回目になるこの時間が、わたくしは嫌いではないのだ。

　未来を考えないものに未来はない。
　――ヘンリー・フォード

おしまい

嘘やん懐かしくて涙出るわ

ガルパンが2012年だから13年目だ
当時17歳だった子が次々三十路に…

現実の時の流れに合わせられると悲しくあり暖かくもあり

こういうのでいいのかもこういうので

当時の「」はまだここにのこっているだろうか

>あまりに純粋で嫌味の一つも言えないような無垢な少女の心
なんて？

もっと年下と思ってたけど放送年からだと思ったよりは歳離れてないなダー様

居酒屋鮨住のみんなは元気だろうか

>ミニスカートを堂々とはく勇気（今にして思えば月刊戦車道のピンナップ撮影に応じていた西住流家元はさすがの豪胆さだったと思える）
そうだね

月刊ちよみの戦車道…まだ読みたかった…

ケイダジありがたい…いや本当にありがたい…

お姉ちゃんはプロだろうけどみんな何やってるんだろうな

ケイダジ久しぶりにみた

お互いのプレゼントで全員飾れちゃうの
マーキングのしすぎみたいでなんか可愛いと思うんだよね

懐かしい…ガルパンまだ完結してないんだったな…

覚えててくれてる人がいて嬉しかったー
おやすみ