No.259 VI・F/マグナモンX-neXt No.162 ■■■■ 「――これでも、届かないのか……ッ!」 「いいえ、十分届いておりましたとも。」 金の鎧に身を包んだ者が、Y・Fを一瞥する。 「心、体、力、技。どれも素晴らしい水準でしたとも。これならば、救世なぞ造作もないでしょう。 ですが、力の強さだけですべてが解決するわけではありません。 強大だからこそ、丁寧に、無駄なく、効率的に扱われなければいけないのです。」 ■■■■の周りに"力"が結集し、Y・FとマグナモンX-neXtはその圧力に気圧される。 純粋にして圧倒的な力でなければ、マグナモンX-neXtの持つ絶対的な防御力を打ち破ることはできない。 そんな彼ですら死を予感させる力の波動が、この空間を満たし、支配する。 「貴方たちなら必ず突破できるでしょう。 挑戦はいつでも受け付けています。だから、また挑戦してくださいね?」 ■■■■は両腕を大きく開き、愛しい我が子を抱きしめるように、美しい花々を愛でるように、蠢動する力の塊に両手を添える。 あふれ出す光の瞬きが、極限まで凝縮された何かが溢れかえること予感させる。 「(これは…凌ぎきれない…ッ!せめて、せめて主だけでもッッ!!)」 「マグナモン…ッ!」 マグナモンX-neXtは僅かに残ったすべての力を防御に転換する。 溢れかえる激しい光と熱に、二人は耐えられず目を覆う。 「滅びゆく者から不滅の者へ、移ろう者から不変の者へ。 始まりと終わりの狭間に微睡む君よ、目覚めの時だ。 ――因果地平/不可説転生(いんがちへい/ふかせつてんせい)……。」 直後、二人の姿は光に掻き消え、世界は暗転した。 ◇ 「―――――ッ!」 意識が復活したY・Fは勢いよく体を起こして周囲を見渡す。 そこは先の戦闘に入る前にいた、テイマー用の拠点施設の中であった。 隣にはマグナモンが気を失って横たわっていたが、直後に意識を取り戻し顔を上げる。 「主……。」 「夢だったが夢じゃなかった、というやつだな。」 Y・Fは起き上がり、マグナモンへ手を差し伸べる。 「あの姿になっても勝てない敵がいるなんて…。」 「まあ…なんだ。俺が思うに、あれは"俺たちの物語に関与しない部外者"(ばんがいへん)って奴だろうさ。」 「…?」 マグナモンはきょとんとした顔でY・Fを見る。 その言葉の意味をどうにか考えるが、答えを導き出すことはできなかった。 「悔しい……ですが、なんだか嬉しいですね。私はまだ、高みを目指せる…!」 「フッ、俺も同意見だ。あれは一生でまみえるかどうかの強敵だろう。 ――まだまだ、世界は俺たちを退屈させてくれないようだ。」 二人は顔を合わせ、部屋を後にする。 スマホの画面に提示された260,800,000bitの入金メッセージと、 メッセージに添付された超ド級のアーティファクトのデータにY・Fが目を丸くしたのは、それから数分後のことだった。 ◇ No.D150 エンシェントモニタモン No.162 ■■■■ 「はぁ〜、中々見ごたえのあるバトルだったわねー。生の映画を見てるようだったわ。 ……それはそれとして、あそこまでガチガチにしなくてもよかったんじゃないの? 容赦がなさ過ぎてハラハラしたわ。」 「何を言ってるんですか。彼相手ならアレくらいの出力でなければ意味がないのです。」 袋を抱えポテトチップスをつまみつつ、モニターを眺めていたエンシェントモニタモンは感嘆の声を漏らす。 両手を掲げ、黄金の杯を生成していた■■■■は彼女の批評に口をとがらせる。 「でも、あの子が貴方のもとに到達したってことは、この後色々と展開が動くってことなのかしら? じゃなきゃ、ああも露骨に依頼に誘導なんかしなかったでしょ?」 「さぁ、どうでしょう。それは彼らの選択次第です。 未来の行く末は、今を生きる人間に委ねられているのですから。」 「……ひょっとしてそれはギャグで言ってるのかしら。」 全知全能から語られる戯言に、エンシェントモニタモンは大きくため息をついた。