【ドナウ・フェデラル:寝室】 「ハプスブルク=サン…ほんとにいいんでございやすかァ…?」「先に言ってきたのはそっちだろ」 たった一つの照明で照らされる薄暗く、だがどこか安らぎを感じられる寝室のフートンの上で、少し緊張してるブライカンと呆れた様子のハプスブルクがいた。ブライカンはさらしに白い下着とシンプルな格好をしている。ハプスブルクは布が透け、体のラインと胸が見えるネグリジェを着用していた。 事のきっかけは些細なことだった。閉店間際にブライカンが店に来ては金をせがみハプスブルクがカラテするもなんだかんだ酒と食事を出す、二人にとっていつものやり取りをしていた時だった。その日は珍しくハプスブルクも酒を飲んでおり、ブライカンが「いやぁ、ハプスブルク=サンのような気品のある方と夜を共にしてみたいでございやすなぁ」と冗談交じりで言い、それを聞いたハプスブルクが「だったら、試してみるか?」と言い出し、気が付けば今に至っていた。流石のブライカンも酔いが覚め少し困惑も感じている。無論、ブライカンはこれまでに何度もハプスブルクに痛めつけられては達しているどうしようもないクズではあり、こうしたシチュエーションをイメジし達することも何度かあった。だが、イメジと実際に起こすのとではまるで違う、ましてや相手は湾岸警備隊で訓練を共にした古巣の仲というのもあり、何よりもハプスブルクからの誘われるなんて展開は考えたこともなかった。 「いやぁ…あたしとしてはスゴイ嬉しいではありやすけど…まだ心の準備ができてねぇといいやすか…」「貴様にそんなのがあることに驚きだが、少しは欲を見せたらどうだ?情けない」「アッ!」 ハプスブルクの下げずむような眼差しと言葉を前にブライカンは達した。溜息を吐きながらハプスブルクはブライカンに近づく。 「いくじなしが、今日は気分が良いから乗ってやったというのに…」「ですが、実際ハプスブルク=サンは正にタカネ・フラワーめいたもの!いくらあたしでもちょっと躊躇いは…」「…そんなのでもないさ、私は」 ニヒリズムめいたアトモスフィアを感じる口調にブライカンの表情が少し変わる。ハプスブルクは続けてしゃべり続けた。 「ブライカン=サンは知っているだろ?数年前に初めて出会った私を」「…えぇ、覚えてやすよ」 数年前…まだ、ハプスブルクが湾岸警備隊に入る前の頃だった。貴族という地位から没落し、故地たるキョートにいられなくなったハプスブルクは否応なしにネオサイタマへ逃げざるを得なかった。猥雑溢れるこのネオサイタマの地はキョートでの狭く仮初の貴族世界しか知らなかったハプスブルクにとって凄まじい衝撃と刺激が強かった。無論、ネオサイタマに助けとなる知り合いなどおらず、わずかな金しか持ってないハプスブルクにまともな日々を送れるわけがなかった。餓えが彼女を苦しめ、毎日のようにファック&サヨナラ目当てのヨタモノに襲われ、住む場所もなくふらふらと歩き続け眠ることさえ許されない。たった一度のミスにより周囲からムラハチされ、貴族としての栄華や誇りも消え、親族や従者にも裏切られ命さえ奪われそうになった。『責任を取れ』『お前のせいで何もかも失った』『女子高生イケス店に売りさばいてやる』いろんな罵声が今でさえニューロンに響くほどに、数年前のハプスブルクは精神的にも不安定な状態に陥っていた。セプクする勇気も気力もなかったハプスブルクはオイランとして身も心も堕ちて楽になろうと考え始めた時に…ブライカンと出会った。 ブライカンは見ず知らずのハプスブルクに手を差し伸べ、食事を与え彼女の住む安アパートで寝床を与えてくれた。その後はブライカンの誘いもあって湾岸警備隊に入り、過酷な訓練をし続け日銭も稼ぎ、気が付いたころにはバーテンダーとして安定した生活を得ていた。 「私は、今こうしてまともに生活できているのはブライカン=サンのおかげだと思ってる」「……」「あの日の私は、責任から逃げるためにネオサイタマに逃げてきて、潔くセプクする勇気さえなく意地汚く生きてきた…でも、インガオホーだと思ってる。私のせいでいろんな人が不幸になったのは事実だ、死んでもオイランに堕ちても、誰も悲しみやしな…」「ハプスブルク=サン」「なんだ?まだ喋ってる途中、」 喋っていたハプスブルクをブライカンの口と舌が塞ぎ止めた。 「んっ…んんッ…」 ハプスブルクの呻くような声を出すのに対してブライカンは無言、13秒後ブライカンはようやく解放し二人の舌の間に唾液の橋ができる。ブライカンはそれをフートンに落とすことなく自分の口の中に飲み込んだ。 「ハァ…ハァ…少し急すぎやしな」「あたしはハプスブルク=サンのことが好きでごぜえますよ。可憐で美しく、いつもあたしに酒と飯をくれる優しいハプスブルク=サンのことをブッダだと思っている」 そう言い続けながらハプスブルクをフートンに押し倒し、顔と体を近づけた。 「弱気な貴女も…嫌いではないでねえすが、紳士なあたしでも少し意地悪したくなりやすよ」 いつもなら『貴様が紳士などほざくな』と言うところだったが、今のハプスブルクはただ何も言い返せなかった。 「では、どうしてあげましょうか?」「貴様にまかせる」「いやぁ、あたしはやる時は相手の要望を聞いてからやる主義でやして、ちゃんと喋ってくれいないと困っちゃいますよ?」「……いじわる」 ハプスブルクは少し顔を赤らめながら溜息を吐き、両手を広げる。 「今、この気分を忘れられるほど…激しく…して…ほ…ほしい…」「では、その通りに」 二人の影はそのまま重なり合い、そして交わり始めた。夜はまだ、始まったばかりだ。 【名簿的な何か】 [ハプスブルク] 普段は皮肉を言ったりするが酒が入ると弱音を吐いたりする。ネグリジェはネオ・カブキチョで買った物であり毎晩これを着て寝ている。