「君の勤務地はデジタルワールドです」 「…は?」 憧れの海洋研究所に就職した初日、アタシを迎えた言葉がそれだった。 いや確かに水棲型デジモン達も水棲生物なのは間違ってない、けど何の連絡もなく遠方どころか世界すら跨ぐ単身赴任をしろってのは流石に無茶があんだろう。 その辺りを問いただしてみると 「おかしいですね、担当は連絡してあると言っていましたが」 担当…?担当ってあの新歓でしつこく声掛けてオヤジだっけ? それともインターンの時に強引に迫ってきたから蹴っ飛ばしたあのピアスの野郎だっけ? どっちにしろロクでもない理由で連絡が届いてないのは間違いないだろう。 「いやさ、普通に考えて新人を一人で単身赴任させなくない?」 「えぇと、そう言われても私は人事の担当ではないので…」 んなこたぁ分かってるが、流石に一言言いたくなるのも理解して欲しい。 「それと、完全に一人きりという訳ではないようです」 「はい?」 今初めて渡された赴任先の資料には私の名前しか無いが。 「ディープセイバーズより選ばれた一人が君と共同で生活する、とか」 ディープセイバーズとは何か。 それはデジタルワールドに数ある勢力圏の一つで、デジタルワールドの広大な海を根城としている者達だ。 この海洋研究所と彼らディープセイバーズ共同で設置された施設がアタシの滞在先、らしい。 滞在者は2人だ、アタシとディープセイバーズ側からデジモンが1人、そして研究の目的は…『深度毎の生息域マッピングと海底に埋没した遺跡調査』か。 …これホントに2人でやんの?タダの体の良い厄介払いでは? 「それでどうします?異議があるなら担当に連絡してみては」 「…」 アタシが今こうなっている原因を考えると、あまり意味がある行動とは思えない。 それにデジタルワールドでの生活ってのも興味が無い訳じゃない。 「いや、行きます、荷物纏めて来るんでデジタルゲートの座標だけ下さい」 「…わかりました、お気をつけて」 データが入った支給品のスマホだけ受け取り、研究所を後にした。 ─ と、前置きはこんな所か。 「ふぁ…」 アタシはあくびをしながら書きかけのレポートのファイルを閉じて、冷めきったマグカップの中身に口をつける。 あ 「…もう空っぽじゃん」 しゃーない、コーヒーを沸かしに行くか。 アタシは席を立ち、給湯室へと向かう。 アタシが今暮らしているこの場所は、ディープセイバーズの所有する海中基地の一つだ。 戦闘の果てに撃墜され、海中に没したメタルエンパイアのデジモン達の残骸を組み合わせて作られたと、以前自慢げにアイツが話していたっけ。 給湯室への道は一つだけだ、その途中には海中を一望できる展望室がある。 アイツは展望室がお気に入りの様で、大体はそこから海を眺めている…ちょうど今みたいに。 「よっす、また海眺めてんの?」 「アイト、ずいぶん遅いけどまた寝坊?」 ─シーホモン アーマー体 フリー種 水棲型 アタシの声に答えたのはディープセイバーズの水棲型デジモンの一人、シーホモンだ。 シーホース、タツノオトシゴが元データとなったこのデジモンの最大の特徴は、やっぱりその喙だ。 ラッパの様な形状をした特徴的な先端部から必殺技の『プリズムレインボー』を放ち、放たれた7色の音波は闘争心や憎悪を浄化する力を持つ… と自称していた。 「いんや、この時間まで作業進めてただけ、コーヒー飲んだら一眠りするよ」 アタシの言葉にシーホモンは眉を細める。 「…また仮眠?寝れる時はちゃんと寝とかんとダメよ?」 「アンタもいっつもそこから海眺めてるじゃん、あんまり寝てるトコ見たこと無いよ」 それに対し、シーホモンはエヘン、と胸を張って答えた。 「この海の記録…記憶はディープセイバーズ代表であるオレのライフワークじゃんね」 また始まったか。 訂正しよう、このシーホモン最大の特徴は喙ではなく、その口から繰り出される『ホラ吹き』だ。 初対面のあのインパクトは忘れられない。 ─ディープセイバーズの代表と言えばオレみたいなトコあるよね。 ギガシードラモンとかリュウグウモンなら分かるが、幾多の水棲型デジモンたちが集まるディープセイバーズでシーホモンが代表ってのは大分無理あると思う。 その他にも ─オレが本気になるとそこいらのシードラモンよりデッカくなれるのよ ─オレの奏でる旋律は闘争心を消し去れちゃうのよね ─オレ実は古代デジタルワールドに居たデジモンのデータを受け継いでるのよ などと、大層なことを言っていた。 とはいえ、時間さえあれば海を眺めるコイツを、暇なんだね、などとは決して思わない。 …海と、海に生きる生命が好きなのはアタシも同じだから。 「そ、じゃアタシはコーヒー挿れてくるから」 「あ、待ってアイト」 立ち去ろうとした背中をシーホモンに呼び止められる。 「何?」 「昨日引き上げたアレ、解析結果出たよん」 ─ その後一眠りしてから、ラボへと入った。 流石にあの眠気たっぷりの頭で解析結果を噛み砕くのは困難だ。 「うし、モニターに出して」 「あいよ」 シーホモンが翼を器用に動かして、宙に浮かぶ仮想キーを叩く。 そうしてモニターに表示されたのは、海中から引き上げられた「何か」の残骸だ。 サイズは大体船の貨物用コンテナくらいで、表面はびっしりと苔とサビで覆われている。 「成分は…クロンデジゾイドか」 「ロストエンパイアにしては珍しく普通のクロンデジゾイドじゃんね」 「そのお陰で海の中でも無事だった訳だ…ま、本当にロストエンパイアの遺産だったらの話だけどさ」 …この海中基地の設立目的である『深度毎の生息域マッピングと海底に埋没した遺跡調査』ウチら海洋研究所は良いとして、これにディープセイバーズが同意した理由が謎だった。 が、直ぐにその理由は判明した。 この付近の海域には、ロストエンパイアの遺した遺産がある。 遺跡調査なんて名ばかりで、ディープセイバーズの本当の目的はロストエンパイアの遺産、どうせ兵器とかそのへんだろう。 かつてデジタルワールドに存在し、今は滅び去った勢力『ロストエンパイア』 彼らの最期の真相は未だに明らかではないが、デジタルワールド各地の海から引き上げられる残骸によって「海中に没した」というのが共通認識だ。 海中から引き上げられる残骸はどれも極めて損傷が激しく、それも彼らの歴史を紐解くのを困難にしている。 損傷が激しい理由は一つ、彼らロストエンパイアが多用していた特殊なクロンデジゾイドだ。 名前は「ブラスデジゾイド」ゴールドデジゾイドに似た色を持つが性質はほぼ真逆で、ゴールドデジゾイドが圧倒的な防御力、「堅さ」が特徴なのに対しブラスデジゾイドは柔らかく、加工しやすい…そして、サビに非常に弱い。 海中から引き上げられるロストエンパイアの遺産が激しく損傷しているのはそのためだ。 が、稀に保存状態が良い物が見つかって、それらはアタシ達みたいな研究者や一部のマニアの間で取引されている。 今回引き上げられたのも、そういった「ブラスデジゾイドではないから原型をとどめている物」だ。 本物なら、の話だが。 「外観スキャンから入口…開け口?が見つかってるよん」 「あー、じゃ貨物室とか保管庫って感じ?」 「開けて見なきゃわかんないね」 そりゃそうか。 「隔離シールド開けて、マニピュレータ準備」 「うい」 ラボ内と検体チャンバーを隔てるシールドが下がり、間を区切るものが強化ガラスだけになる。 流石にチャンバー内部を写したカメラ越しでの作業には限界がある、やっぱ目視でやるのが一番だ。 「始めっか」 アタシは宙に浮かぶ仮想インターフェイスを操作し、チャンバー内部にある検体接触用マニピュレータを動かす。 …やっぱアンドロモンの腕だよな、これ。 まぁいいや。 「開けるよ」 「今んトコ汚染物質の放出は検知されてないし、やっちゃってー」 アンドロモンの腕…じゃない、マニピュレータを切断モードにして、「開け口」らしき隙間に差し込んでいく。 ここから隙間を広げてカメラを差し込み内部を見るって寸法だ。 程なくして、おおよそ弁当箱くらいの穴が開口した。 「どう?」 今開けられた開口部からは、保存され続けた古代デジタルワールドの空気が放出されてる状態だ、別に吸いたくはないが。 「密閉されてた内部から汚染物質は出てないね、続けて続けて」 アタシは接触用マニピュレータを引っ込めてカメラアームへと切り替える。 …やっぱこれイーバモンの触手のような。 考えるのは止めとこう。 カメラアームを開口部へと差し込み、ラボ内のモニターに映像を映す。 「やっぱ保管庫か何かかな、これ」 中の様子を見ると、ボルトで念入りに固定された棚が壁際に並んでいる。 棚に収められている物の大半は、歯車とフレームが組み合わさって出来たなにかの部品だ。 その色は鈍い金色…つまり 「ブラスデジゾイド製、ロストエンパイアの遺産ってのはマジみたいね」 「だね〜」 引き上げには割と苦労したので、実は水没したプリンプモンやカーゴドラモンの残骸でしたなんてオチは勘弁して欲しかったが、杞憂で済んだ。 そのまま内部の捜索を続けていると、シーホモンから声が上がった 「アイト、ちょいストップ」 「あん?何?」 「今んトコからちょっと戻って、そう右」 言われた通りにカメラアームを操作する 「はいストップ、そこでズーム」 どうやらシーホモンは何かを見つけたらしい。 拡大してみると確かに、画面中央に周囲に転がる部品とは異質な物体が見える。 周りが「何か」の一部なのに対して「これ」は単体で1つの物の様に感じた。 金属板を貼り合わせて作ったような球体の表面に、同じ色の金属管が張り巡らされている。 その色はブラスデジゾイドと同じ鈍い金色だ、そして球体の上部には何かの紋章のような刻印が施されている。 …なんだこれ? 「これは…デジメンタルじゃんね」 「デジメンタル?」 シーホモンはこれの正体に心当たりがあるらしい。 「うん、何らかの強い素質を持ったデジモンが死ぬ時に、残留したデータが稀に形となって残る場合があんのよ、それがデジメンタル」 「へー」 「これを適正のあるデジモンが使用すると、普通の進化とは別の姿に進化できるのよ」 「かくいうオレも昔、光のデジメンタルを使ってこの姿に…まぁその話は今度で良いや」 シーホモンは視線をモニターへと戻す。 「でもロストエンパイア産のデジメンタルがあるなんてのは初耳じゃん」 「ってことは、使ったらどんなデジモンに進化できるのか全くわからない訳だ」 「そだね、けど」 アタシとシーホモンは顔を見合わせて、同時に言葉を発する 「「使えば現代にロストエンパイアのデジモンが蘇る」」 それだけは確実だ。 「ま、これを使えるデジモンは今この場に居ないけどね、オレはもうデジメンタルを使った後だし…次の定期便で本国送りかな〜」 「んだね、詳しいことは向こうの設備に任せよう」 後は内部の物品を回収して保管ケースに格納しよう、それで一旦作業は終了だ。 そう思いマニピュレータを操作しようとした瞬間。 けたたましい音を上げ、基地の警報が鳴り響いた。 「何!?」 「立ち上がったらダメ!基地周辺に熱源を感知!衝撃に備えて!」 シーホモンの言う通り、アタシは手近な机の下に隠れる。 とほぼ同時に、爆発音と強い衝撃がアタシ達を襲った。 「攻撃!?」 「んだね、ソナーを広域探査に切り替えるよん、さぁてドコが仕掛けてきた?」 程なくして、モニターに解析結果が表示される。 「この機影は…」 ─メタルシードラモン 究極体 データ種 サイボーグ型 ウミヘビの様な長い巨体に、頭部を覆う機械の鎧。 メタルエンパイアの水中戦闘用デジモン、メタルシードラモンだ。 その周辺にも多数の小さい機影を感知しているが、この距離では正体がわからない。 「メタルシードラモンだねぇ」 「メタルエンパイアが仕掛けてきた?なんで?」 ディープセイバーズとメタルエンパイアは別に戦争状態って訳では無い、別に仲良くも無いが、要は中立状態だ。 それがどうして突然ディープセイバーズ所有のこの水中基地に攻撃を仕掛けてきた? 人員はアタシ達2人だけで、別に基地に戦力が集まっているわけでもない。 「この基地のめぼしいものなんて、アレしかないじゃん?」 シーホモンが指す先はチャンバーの中、つまり引き上げたロストエンパイアの遺産だ。 「マジかよ…」 真意は不明だが、メタルエンパイアの連中もコレを狙っているらしい。 「どうしよ、引き渡して帰ってもらう?」 「無理じゃない?無警告で発砲してきたんだし、オレ達ごと沈めて回収する気よ」 そう言うとシーホモンはラボから出ようとする。 「ドコ行くの!?」 「黙って撃たれる気は無いし、止めに行くのよ」 止める?一人で?メタルシードラモン達を? 「どうやって!?」 「言ったっしょ」 シーホモンは、胸を張って答えた。 「オレの『プリズムレインボー』は相手の闘争心を鎮めるってさ」 ─ 駆け足で基地内を移動する。 アタシは管制室、シーホモンはドックだ。 一定間隔で響く爆発と衝撃からして向こうの攻撃はまだ続いている、この距離だからこそまだ耐えられているが、接近されて狙いが正確になると流石にまずい。 この基地の迎撃装備は必要最低限しか無いのだから。 アタシは管制室の座席に座り、シーホモンとの通信を繋ぐ 「聞こえてる?」 ─オッケー、繋がってるよ。 「うし、じゃあ始めるよ」 ─あいよ アタシはインターフェイスを操作してドックに注水を開始する 直ぐにドック内が海水で満たされ、外部との水圧差が基準値に収まる。 これでハッチ開放が可能になった。 「水密ハッチ開放…行ってらっしゃい」 ─秒で片付けて来るから、ターキーでも焼いといて〜 「ターキーなんてねぇよ…」 畑で取れるあの肉はどう見ても鳥の肉じゃないだろう。 ハッチから飛び出したシーホモンが真っ直ぐにメタルシードラモンへと向かう その速度を示す/dNM(デジノーティカルマイル)はかなりの数値だ、アイツ、本気を出すとこんな速度で泳げるのか。 「…あぁ、そういう仕組み」 シーホモンから送られてくる映像を見ると、シーホモンはただ泳いでいるわけではなく、口から音波を吐き出しながら進んでいる。 「スーパーキャビテーションか」 超音波で微細な気泡を大量に発生させ自身を覆い尽くし、それによって水との抵抗を極限まで減らして水中での驚異的な速度を生み出す。 スーパーキャビテーションという現象をシーホモンは利用しているわけだ。 やがてメタルシードラモン達へ接敵したシーホモンは、その口先をメタルシードラモンに向けて必殺技を放った。 『プリズムレインボー!』 シーホモンのラッパ状の口から七色の音波が繰り出され、周辺海域一体に響き渡る。 その音色は…なんか聞き覚えがあるような? 「これラブ・セレナーデじゃん!」 シーホモンが吹き鳴らしている音楽は、エテモンの十八番『ラブ・セレナーデ』だ そりゃこんなもん聞かされたら闘争心も失う。 シーホモンの奏でるラブ・セレナーデがメタルシードラモンへと浴びせられる。 しかし、メタルシードラモンの様子に変化は見られない、それどころか 「っ!シーホモン!回避!」 メタルシードラモンは鼻先に付いたエネルギー砲のチャージを始めている。 どう見ても『プリズムレインボー』の効果を受けていない。 ─あっれ〜おかしいな、なんで効いてないの。 「言ってないで!全速で退避!」 ─あっ、原因わかったわ。 そう言ってシーホモンがこっちにデータを送信してくる。 それはメタルシードラモンの周りにいる取り巻きの一体を写した映像だ。 「何、コイツ」 外見はルカモンに似ているが、頭部やヒレが機械化していて色も大幅に違う。 ─多分向こうさんの新型だろうね、どうやらルカモンをベースにしてるみたいだし、コイツにオレのプリズムレインボーを解析されて逆位相の波長で相殺されるっぽい。 ソナーの探知範囲を絞ってみると、確かにあの改造ルカモン達が音波を発生させているのが確認できる。 なんて面倒な連中だ。 そうしている間にメタルシードラモンの主砲『アルティメットストリーム』のチャージはほぼ完了、しかしシーホモンの現在座標はまだまだ危険区域内だ。 「スーパーキャビテーションはどうした!?」 ─いや、無理、あのルカモンから向けられてる超音波でオレの波長が乱されてさ、キャビテーションの発生が不完全なの。 「は」 ─これ、ちょっちマズイかもね…あっ。 『アルティメットストリーム』 その言葉を最後に、シーホモンの姿がメタルシードラモンのエネルギー砲へ呑まれた。 ─ 「シーホモン!シーホモンっ!」 呼びかける通信回線からは、ノイズしか帰ってこない。 「クソがっ!」 苛立ちを抑えきれずに、アタシは手近にあったペンを壁に叩きつける。 なんなんだよあの連中。 こんな何も無い基地にいきなり表れて、こっちが苦労してブツを引き上げるのを待って最後に美味しいとこだけ持って帰ろうってか ふざけんじゃねぇぞ 握りしめた拳から血が一筋流れ出す。 その行動に応じたのかどうか定かではないが、胸ポケットに仕舞ってあるデジモンドックから光が発せられる。 シーホモンとペアリングしたこれは、リアルワールドでアイツを格納して移動するために使用される物だ。 なのでデジタルワールド内部では無用だ。 だから今までずっと胸ポケットに仕舞い込んだままだったが、一体何の光だこれ。 アタシは胸ポケットからデジモンドックを取り出し、付けられた小さな液晶画面を見る。 そこには「READY」の文字が表示さていた。 Ready?準備しろ? デジモンドックはデジモンとペアリングして使うもので、使い手は人間だ。 つまりこの表示はアタシに準備はいいか?と聞いている。 「なんだかわかんないけど、今はとにかくあのクソ共をぶっ飛ばして…アイツ、シーホモンを助けたい!」 だから 「やってやるよ」 アタシはデジモンドックを強く握りしめる。 それに応じる用にデジモンドックの画面が強く光り輝き、文字列が切り替わる。 その表示は ─ EVOLUTION ─ それと同時に、ノイズだけを吐き出していた通信回線からシーホモンの声が聞こえてくる ─シーホモン、進化! 瞬間、海中に巨大な光が表れる。 チョウチンアンコウの疑似餌よりも遥かに強いが、深海の太陽と形容する程強くもない。 力強さと淡さが備わった光。 その光が収まると、中心から巨大な構造体が姿を表した。 ─マリンピラミディモン 究極体 データ種 水棲型/サイボーグ型 巨大な三角錐型の形状はピラミッドを連想させるが、主な構成要素は岩石ではなく金属だ。 そして三角錐全体が中央で2分割され、三分の一ほどの空間は真っ黒に染まっている。 その真っ黒い空間のど真ん中に赤く輝く球体。 「うっそ、デジコア剥き出し!?」 ─問題ないよ 回線からアイツの声で答えがあった。 「シーホモン!無事!?…いや、今シーホモンでいいの?」 ─今のオレはマリンピラミディモン、それと剥き出しのデジコアに付いてだけどさ。 シーホモン、いやマリンピラミディモンはいつもの調子で告げる。 ─オレに攻撃を通せる奴なんて居ないんだよね。 『デジタライズ・オブ・ディープ』 マリンピラミディモンのデジコアから波動が放出され、周囲の空間にワイヤーフレームが組み上がっていく。 「これは…」 やがてワイヤーフレーム達は、複数のデジモンの形に完成した。 ─メタルシードラモン 究極体 データ種 サイボーグ型 ─メタルピラニモン 究極体 ウイルス種 水棲型 ─マンタレイモン アーマー体 フリー種 水棲型 向こうと同じメタルシードラモンにメタルピラニモンの群れ、そしてマンタレイモン 違うのは彼らにはテクスチャがなく、内部のワイヤーフレームのみの存在という点だ。 ─これがオレの必殺技『デジタライズ・オブ・ディープ』オレの中にある水棲型デジモンのデータベースから、デジモンたちを好きに引っ張り出せるって寸法よ。 「は」 じゃあ何だ、コイツがかました「オレはディープセイバーズの代表」だの「古代デジモンのデータを受け継いでるだの」あれ全部事実って事? 「アンタ…マジでディープセイバーズの代表だったの?」 ─…?始めからそう言ってるじゃんね。 そんなことを話していると、敵のメタルシードラモン達に動きがあった。 『アルティメットストリーム』の次弾だ。 「来るよ!」 ─オッケー、こっちもおっぱじめますかい。 マリンピラミディモンが告げると、ワイヤーフレームのメタルシードラモン達が一斉に動き出す。 メタルピラニモンとマンタレイモンは散開し、左右から挟むように展開、メタルシードラモンは向こうと同じく主砲『アルティメットストリーム』のチャージだ。 やがて対峙する2体の海竜は、同時にエネルギー砲を放った。 『『アルティメットストリーム』』 海中で2つの光条がぶつかりあい激しい光を放つ、その押し合いは…こっちが負けている。 「ちょっと!押し負けてんだけど!?」 ─そりゃあこっちのは劣化コピーみたいなもんだし、真っ向から力比べしたら勝てないよ。 「じゃあどうすんの!?」 ─まぁまぁ、見ててなって。 マリンピラミディモンはそう言うが、こっちのメタルシードラモンはどんどん押し負けている。 そして案の定、メタルシードラモンは向こうのメタルシードラモンの『アルティメットストリーム』に貫かれ、大爆発を起こし消滅した。 その光が晴れた時。 「はっ?」 形勢が逆転していた。 敵のメタルシードラモンが、ワイヤーフレームのメタルピラニモンの群れに「食われて」いる。 メタルシードラモンは苦しみに悶え振り落とそうとするが、一度噛みついたメタルピラニモンの顎はそう簡単には外れない。 「爆発を目くらましにして接近した訳か」 ─そそ、けど向こうさん、改造ルカモンがいるじゃん?アレに動きを探知されそうだからマンタレイモンを呼んだのよ。 マンタレイモンの特徴は海中でのスティルス性と、尻尾から繰り出される電撃針(スタン・ニードル)だ。 …そうか 「スタン・ニードルの放電で電磁波を出して、あのルカモン共の探知からメタルピラニモンを欺瞞した?」 ─そゆこと。 やがてメタルシードラモンはメタルピラニモンの群れに跡形もなく食い尽くされ、周囲の取り巻き連中もマンタレイモンに始末された。 広域ソナーにも反応はない、戦闘は終了だ。 「…死ぬかと思った」 ─オレも。 ターキーは無いが、アイツが戻ったらささやかな祝勝会でも開くとしよう。 ─ その後、戻ったシーホモンと一緒に基地の補修を行い、食料庫(パントリー)からいつもより豪華に食料を持って来た。 一緒にアタシがリアルワールドから持ち込んだビールの、貴重な一本もここで開けてしまおう。 「それじぁ」 「勝利を祝って」 アタシ達2人は飲料の缶をぶつけ合う。 「「乾杯!」」 アタシはビールの缶と、シーホモンは雪解けシェイク缶だ。 デジモンがアルコールを接種するとどうなるか気になる部分ではあるがまた今度にしよう、ビールも貴重だし。 「それで、本国からの連絡は」 シーホモンがニクのしぐれ煮缶をつまみながら尋ねてくる。 「襲撃されたことを伝えたら周辺の警戒を強めるから、って適当にあしらわれそうになったよ、引き上げたデジメンタルの話を出したら便を出すって即座に手のひら返したけどね」 「らしいと言えばらしいけど、嫌だねぇ〜」 「だね…にしても」 メタルエンパイアが襲撃を仕掛け、ディープセイバーズは即座に回収に乗り出す 一体なんなんだこのデジメンタルは、もう滅んだ勢力の遺物だろう。 「何なんだろうね、このデジメンタル」 「さぁね、ロクでもない代物なのは確実じゃない?」 「だろうね、何にせよ」 アタシはビールを一口啜ってから続きを口に出す。 「アタシ達のやることは変わんない、この基地から海を観て、生命を観て、時々遺物を引き上げる…クソめんどくせぇ陰謀だの駆け引きだのは上の連中が好きにやれば良い」 「…あの、一応オレも肩書は上の方よ?ほぼ放逐されてるけど」 「あ?そうだっけ、まぁいいじゃん」 「ひ、酷い…」 そうしてアタシ達は小さな宴を続ける。 この後、ディープセイバーズとメタルエンパイアどころかデジタルワールド全体を覆い尽くす争いに巻き込まれることになるのだが、それはまた別の機会にでも記そう。