「チッ…数が多いな!」 司は複数いるインフェルモンの内の一体の顔を掴み握りつぶしながら、胴体にレプリクロスローダーを押し付け、強引にハントする。 「これ!アタシ達だけでなんとかなるか!?」 メルヴァモンはディアボロモンの両腕を斬り落としながら問いかけた。 「なんとかするしかない!」 彼はケラモンの触手を掴んで振り回し、クリサリモンにぶつける。 「ナイトストーカー!」 メデュリアがツメモンやクラモンを数十体ほどまとめて吹き飛ばし、司がそれをレプリクロスローダーで回収する。 「やっぱりこれしかない…か!」 彼はレプリクロスローダーのスロットにデジメモリを挿入する。 「力を貸してくれ!オメガモン!」 オメガモンの幻影がその場に現れ、周囲をグレイソードでなぎ払い、ガルルキャノンをディアボロモンに撃ち込む。 「残りはまかせろ!マッドネスメリーゴーランドDX!」 高速の回転斬りはやがて竜巻となり、その場にいた大量のツメモンやケラモン、クリサリモンを吸い込み撃破していく。 「ハントだ!」 司はそれらに纏めて紫の光の輪を放ち、片っ端からクロスローダーで捕獲した。 ━━━━━━━━━ 「なんとか…なったか…?」 「ハァ…ハァ…全部ズタズタにしてやったはずだぞツカサ…」 「アイツら…一体どんだけいたんだ…」 俺はレプリクロスローダーの画面に中身のデジモン数を表示させる。 「幼年期のが150ちょっと…ケラモンが47、クリサリモンが22、インフェルモンが14で…ディアボロモンが3体か…どうすんだこれ…」 あまりにも数が多かったので、とりあえず減らせればいいと全て捕獲してしまったのが仇になった。 「アタシこん中に入るの嫌だぞ…?」 一応、捕獲したデジモンとパートナーデジモンは格納されるエリアは別なのだが…まあメルヴァモンが嫌がる気持ちはわかる。 「しかしなぁ…なんでコイツらこんなところで…」 辺りは至って普通のデジタルワールドの一角。何か重要な施設があるわけでもない。 「なぁメルヴァモン、ちょっと中入って聞いてこいよ」 このまま持っておいたところでロクなことにならないだろうし、今から一匹一匹始末してデジタマにするのも骨が折れる。 だったら直接理由を聞いてなんとかして、できればそのまま普通にこっちで暮らしといてほしい。 「嫌だって言ってるだろー!ツカサのいじわる…!」 「ごめんごめん、冗談だって。」 「……悪いと思ってるならアタシにキスしろ。」 こんなめんどくさい彼女みたいなムーブどこで覚えたんだよ… めんどくさい彼女ってところはまあある意味正しいか… 「あんまり外でするもんじゃないって…」 「キースーしーろー!」 彼女は駄々をこねる子供のように騒ぎ出す。 メルヴァモンに進化して多少は落ち着いたが、こう言うところはミネルヴァモンの頃から変わらない。 「キースー!っ──────!………♡♡」 このまま放っておいても騒がしいままなので、俺は彼女の顎に手を添え、唇を奪う。 突然の事にメルヴァモンは一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐにトロンと蕩けた目になる。 「──────これで満足?」 「ツカサぁ…大好き…♡」 「あー、はいはい。」 俺はクロスローダーに目線を戻す。 「じゃあ…とりあえず一匹出して話聞いてみるか。リロード、ケラモン。」 細長い腕と足が特徴的な、不気味な顔をしたデジモン。 少なくとも、こいつだけなら暴れられてもすぐになんとかなる。 「動くなよ?動いたら次の瞬間…お前はズタズタだ。」 メルヴァモンはケラモンに剣を向ける。 「─────イ…!」 「なんて?」 「憎イ…!復讐スル!」 うわ言のように繰り返すクラモン。 「復讐…って誰に?」 「ワカラナイ…!復讐…!」 「話にならないな…ツカサ、どうする?」 メルヴァモンがちらりとこちらを見る。 「…お前、どうしてここにいた?」 「復讐…チカラ…!ココニアル…」 力…ここに?あたりを見回してみたが、やはり何かがあるようには思えない。 結局、他の個体も呼び出してはみたものの、皆一様に同じことしか言わなかった。 ───────── 「アイツら同じ個体から分裂してるから、誰に聞いても同じことしか言わないみたいだな。みんな相手もわからないのに復讐に囚われてる。」 「復讐…か」 メルヴァモンが呟いた。 「あんまり他人事って感じもしないから…ちょっと可哀想な感じもするな。」 「メルヴァモン…お前…」 忘れもしない、ディスペアモードとなった時の彼女。 その時に見た彼女の苦しみの記憶には、復讐についてのものもあった。 「今は平気だよ。また大切なものを見つけられたから。」 そう語る彼女の顔は、どこか悲しげでもあるような気がした。 「caution!caution!」 そんな湿っぽい雰囲気をぶち壊したのは、レプリクロスローダーから響く警告音だった。 「なんだツカサ!?」 「まずい!アイツら中で合体しやがった!勝手に出てくるぞ!!」 ディアボロモン達が成長段階も関せず融合した、6本の細長い足を持ったデジモンが、クロスローダーから強引に抜け出してくる。 「なんだアイツ…」 俺はレプリクロスローダーを奴に向け、アナライズを起動する。 アーマゲモン…超究極体。 「ウ゛ゥ゛ォ゛ォ゛ォ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛…!!!」 耳をつんざく地響きのような咆哮と共に四方八方へ放たれる光弾。 「危ない!」 俺は咄嗟にミネルヴァモンのデジメモリで呼び出した盾を構え、彼女の前に立つ。 「ツカサ!アイツヤバいぞ!逃げた方がいい!」 「そんなこと言ったってアイツを放置できないだろ!」 「アタシだけでなんとかする。お前は逃げろ!」 そう言ってアーマゲモンに飛びかかるメルヴァモン。 「ファイナルストライクロール!!」 アーマゲモンはオリンピア改を咥えて受け止め、口からエネルギー波を放った。 「うぐあぁぁっ!」 連戦で疲れが出ていたらしく、彼女はなすすべもなく吹き飛ばされる。 「メルヴァモン!」 奴は追い討ちとばかりにエネルギー弾を放った。 どうするべきかは、考えるまでもなかった。 「てえぇりゃあああ!!!」 俺は彼女の元に駆け寄り盾でエネルギー弾を弾き返し、半開きのアーマゲモンの口に向かってオリンピアを投げて突き刺す。 「グワゥ゛ゥ゛ゥ゛…⁉︎」  「ツカサ…逃げろって言ったのに…!」 「お前を置いていけるわけあるか!俺だって十分戦えるのはわかってるだろ!」 とは言ったものの、オリンピアと盾はデジメモリの効果時間切れでもう使えない。これ以上デジメモリを使えばレプリクロスローダーがオーバーヒートして使い物にならなくなる。 メルヴァモンは連戦の疲れとさっきのダメージがきつい。動けそうではあるが、このままアイツと戦って勝てるかと言うと怪しい。 逃げるとしてアイツを放置はできないし、上手く逃げられる確証はない。下手にデジタルゲートを使って逃げてRWに出てこられても厄介だ。 助けを呼ぶにしても、すぐに誰かが来られるとも思えない。 俺が打てる手は、もはやアーマゲモンに殴りかかるぐらいしかなかった。 「……ッ!」 覚悟を決め拳を握りしめたその時、突然足元が揺れ始めた。 「なんだ!?」 地面から炎が噴出し、アーマゲモンを怯ませる。 俺は思わず、その炎に手を伸ばした。 「これは…」 丸い卵のような形に角が生え、炎の模様が描かれた何か。 俺は炎の中からそれを掴み取った。 「それ…デジメンタルじゃないか!?」 「メルヴァモン、知ってるのか?」 「ああ。古代デジタルワールドで作られた進化を補助するアイテムだ。」 古代デジタルワールド…アイツらが言ってたチカラってのはこれか! 「使ってみようツカサ。今はこれしかないぞ…!」 「わかってる。やるぞメルヴァモン!デジクロス!」 俺はクロスローダーを掲げた。 いくつかのパーツに分かれたデジメンタルが、メルヴァモンに融合していく。 一つは足へ。一つは腰へ。 一度胸の布が分解され裸のそれが顕になったかと思えば、上からデジメンタルがそれを覆う。 全身が赤熱したかのように色が変わり、失われているツノを補うように炎が噴き出す。 「アーマーアップ!フレアメルヴァモン!!」 彼女は進化した勢いで、火の玉をいくつかアーマゲモンにぶつける。 「ツカサ!この力すごいぞ!これ!あったかい!」 あったかいじゃ済まないと思う。 「まだまだ行くぞ!火炎殴蛇!!」 メデュリアが火を纏いながら向かっていき、奴の横っ面を思いっきり殴り飛ばした。 「やるな…」 「カ゛ル゛ル゛ラ゛ァ゛ゥ゛……!!!」 アーマゲモンは再びビームの雨を降らせようと、背中にエネルギーを集中させる。 「させるか!!」 フレアメルヴァモンは足から炎を吹き出させながら飛び上がり、奴に飛び乗って大剣を突き刺す。 「喰らえぇ!!!」 彼女はそのまま勢いよく背中を駆け、体表を抉り抜いた。 「ウ゛ァ゛ァ゛ル゛ル゛ル゛!!!」 「よし!効いてるぞメルヴァモン!」 するとアーマゲモンは俺の方を向き、エネルギー波をチャージし出す。 「ツカサ危ない!」 彼女はアーマゲモンの頭に向かって斬り上げを放ち、メデュリアを巻きつけ急接近してさらに追撃する。 「二人で決めよう!ツカサ!」 フレアメルヴァモンは俺にオリンピア改を受け渡す。 「わかった!全力でキメるぜ!!」 彼女に教えてもらった剣技を思い出しながら剣を構える。 「バーニングラヴ!」「真・強襲旋斬!」 フレアメルヴァモンが火球を乱射し奴を怯ませ作った隙へ俺がオリンピア改をぶちかまして傷を作り、彼女がメデュリアから火炎放射を叩き込む。 「ケゃ…ア……ァ………」 アーマゲモンの体がバラバラに崩壊していき、融合前よりもさらに大量のクラモンに変化していく。 「…アイツらほっといて大丈夫か…?またああなるんじゃ…」 「そうだな…じゃあ…アタシに考えがある。」 そう言って、彼女はわざとらしく咳払いをした。 「おい!お前らよーく聞け!」 クラモン達の目という目が彼女の方を見る。 「復讐なんてロクなことない!アタシがそうだったからわかる!そんなことする必要ない!」 奴らはそれを聞いて不思議そうに首を傾げて…いるのだろうが、一頭身なので結果的に全身を傾けている。 「誰にしたいのかもわからない復讐なんて本当に意味ない!…テイマーでも探した方がいいぞ!」 そいつらはそれを聞いてどう思ったのかわからない。ただ、各々がバラバラに散っていった。 「なあメルヴァモン…そんなので本当に効果あるか?」 「わかんない。けど…何もしないよりはいいんじゃないかって思いたい。」 「そうか。…んでさ」 「なんだよツカサ?」 「その姿でくっつかれるといつもの5倍ぐらい熱いんだけど…」 ━━━━━━━━━ 「おやおや…あんな大層な技を使えるとは…どうやら司君も立派なデジミューテイトになったようですね…」 「そうかぁ〜?あいつこの前は一発でふっ飛ばされてたぞネオデスモン。」 「そうだよ。あんなに弱いのにデジミューテイトなの?私達デジミュータントと力の差はそうないんだよね?」 「いえいえ…アラク、ナクア。彼は中々…侮れませんよ?なぜなら楽音を…」 「姉貴がどうかしたのか!?」 「いえ。そういえば私はなぜ彼に着目したのだったか…そもそも…私はなぜ楽音に…どうにも…記憶に不自然な点がありますね…」 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 「アーマーアップ!フレアメルヴァモン!」 フレアメルヴァモン 究極体(アーマー体)・神人型・ウィルス "勇気のデジメンタル"のパワーによって強化された神人型デジモン。 燃え盛る炎を纏い、高い運動性を誇る。 オリンピア改から放たれる炎を纏った斬撃は敵を焼き焦がし、一撃一撃が必殺級の威力を誇る。 燃え滾る剣を扱い華麗に戦う姿は、まるでファイヤーナイフダンスのよう。 脚から炎を噴出させアフターバーナーのように使用して跳躍することや、火炎のエネルギーを収束させ爆発を起こすこともできる。 得意技は、左腕のメデュリアに炎を纏わせ相手を殴りつける『火炎殴蛇』(かえんおうだ)。 必殺技は、炎によって魔法陣を描き燃え上がる“邪神ウロボロス”を呼び出す『ファイアウロボロス』、 炎球を乱射しながら炎の一閃を放つ『バーニングラヴ』、火炎竜巻を生み出す横回転斬り『クレイジーゴーラウンドEX』。 片角のメルヴァモンがこの形態に変化した場合、失われているツノを補うように炎が噴出する。 ツカサ達はデジメンタルの使用法を知らなかったため、デジクロスを介して使用している。 この形態である事に特にデメリットもないため、彼女はこの形態を防寒のために使用することもあるようだ。 真・強襲旋斬 吉村司がメルヴァモンから伝授された剣技を元に編み出した技の一つ。 ファイナルストライクロールが元になっている。 まずオリンピア改を地面に叩きつけ、棒高跳びの要領で体を持ち上げ空中で体を捻り、その勢いを乗せてオリンピア改を振り下ろす技。 デジメモリで召喚したオリンピアの場合は体を持ち上げられるほどのサイズがないため、この技を使用できるのはメルヴァモンからオリンピア改を貸与された時のみである。