師走も半ばを過ぎ、クリスマスも近いそんな時期──── 「すごい……!」 「これだけの品揃えがあるとは……神浜の雑貨店に来て正解でしたね」 神浜市のとあるデパート内に併設されている雑貨店にて、2人の少年少女が驚嘆の声を漏らして いた。 『千束さんへのクリスマスプレゼントを一緒に選んで欲しい?』 『はい』 『あれ?でもついこないだ柚子達と一緒にプレゼント買いに行ったよね?と言うかオレもいたし ……』 『それはそうなんですが……その時のプレゼントは皆で意見を出し合って選んだ物じゃないです か』 『あぁー……そう言われると確かに?』 『今回選ぶプレゼントはその……個人的な感謝を込めた物を贈りたいと思ったんです』 『なるほど……んんん?』 『どうしました?』 『いや、それならオレが一緒に選ばなくてもいいんじゃ?だってたきなさん個人の想いを伝えるん ならオレは必要ない気が……』 『いえ、遊矢君は必要不可欠です。何故なら千束はあなたが贈った去年のプレゼントの髪留めに とても喜んでいました。これで確信したんです。遊矢君が選ぶものにハズレはないと』 『い、いや、そんな全幅の信頼を寄せられても────』 『だからわたしについてきて下さい』 『は、はい……』 (───結局、押し切られてついて行く事になったけど……本当にいいのかな?) ここに来た理由を振り返り釈然としない遊矢へと、店員が話し掛けてきた。 「なにかお探しですか?」 「あ、はい。ちょっとクリスマスプレゼントによさそうな物を探してて……」 「お隣の彼女さんへのプレゼントでしょうか?」 「えっ!?いや、違います違います!この人は友達みたいなもので!」 「あ、そうなんですか!申し訳ございません。お似合いのカップルだと思ってしまってつい……」 「は、ははは……」 「この時期に合うプレゼントをお求めになられているのですね?それでしたら特設のコーナーがご ざいますのでそちらへご案内致しますね!」 「ありがとうございます。たきなさん、行こう」 「…………」 「たきなさん?」 「────はっ!す、すみません。行きましょう」 我に返ったたきなは、急く様に遊矢の前へとゆく。 (たきなさん、なんか少し顔が赤い気がしたけど……寒かったのかな?) 特設コーナーに案内された2人は数十分辺りの時間物色し続け、どうにか千束へのプレゼントを 見つける事が出来た。 「喜んでくれるといいね」 「はい。では会計に─────」 と、言い掛けたところでたきなの視界にとある物が入る。 そこには『迷犬メリー 冬季限定ver』と書かれているキーホルダーがあった。 サンタ風の衣装を身に纏った可愛らしいその装飾品にたきなは目を離せずにいた。 「たきなさん、どうかしたの?」 「……いえ、何でもありません」 どこか名残惜しげそうに会計へと向かうたきな。 遊矢はその背を一瞥し、彼女が見つめていたキーホルダーに視線を移す。 「…………」 「プレゼントも購入出来ましたし舞網市に戻りましょう」 「────たきなさん、ゴメン!」 「はい?」 「実はさっきのお店で買い忘れたものがあってさ……それを買ってくるからちょっと待ってて欲しい んだ。いい、かな?」 「構いませんが……」 「すぐ戻るから!」 遊矢はそう告げながら、雑貨店へと走って戻っていった。 十数分後─── 「いや、さくやさんと時女の人達に会うとは思わなかったからびっくりしたなぁ……」 偶然先程の店にプロミストブラッドの魔法少女でありランサーズのメンバーの一員でもあるさくや と、時女一族である尊、涼子、ちかが一緒にいたのだ。 彼女達もプレゼント選びをしていたらしい。 そんなワケでつい会話が盛り上がってしまい、予定より買い物が長引いてしまった。 少しでもロスを取り戻すべく遊矢は足早に駆けていく。 そして待ち合わせ場所に無事到着したと思いきや─── 「あ、いた!たきなさ……!?」 なんと、たきながガラの悪い二人組の男に絡まれている場面の真っ只中だった。 「ねーちゃん、俺らとお茶しない?」 「結構です。それに人を待っているので」 「んなおカタイコト言わずにさぁ〜。ちょっとくらいいいだろォ〜……なっ!」 「……ッ!」 遊矢の視界に、男のひとりから腕を掴まれ不快感で眉根を寄せるたきなの姿が映る。 それを見た瞬間、遊矢はカッとなり咄嗟に飛び出していた。 「おい、やめろよ!」 「遊矢君!」 「あ〜ん?なんだオメェ?」 「オレはこの人の友達だ!アンタ達こそこの人に何の用だよ!」 「俺たちゃ今からこのねーちゃんとサ店で楽しくオシャベリを決め込むんだよ!ガキは引っ込んで な!」 「ふざけ────」 「────待ちな」 「ア、アニキ……?」 「そこの兄ちゃん。アンタもしや……あの榊遊矢か?」 「だ、だったらなんだよ……!?」 「へっ、やっぱそうか。面白ェ……なぁ兄ちゃん、おれと決闘しねぇか?」 「え……?」 「ちょ、アニキ!?いきなり何言ってんスか!?」 「おめーは黙ってろ。お前さんが勝ったらおれ達は潔くこの場を去る。おれが勝てばこの姉ちゃん はサ店に連れて行く。それでどうだ?」 「……わかった。その決闘受けてやる!アンタ達みたいなヤツらにたきなさんは絶対渡さない!」 「遊矢君………」 「いいねぇ、燃えてくるじゃねぇか……オイ、決闘開始の宣言をしな!」 「でゅ、決闘開始ィ!」 「オレは覚醒の魔導剣士を対象としてEMパートナーガのP効果発動!対象のモンスターの攻撃 力はターン終了時まで自分フィールドのEMカードの数×300アップする!場のEMカードは2枚 ……攻撃力は3100になる!」2500→3100 「漆黒の魔王LV8の攻撃力を越えました!」 「だが、漆黒の魔王を破壊したとしてもまだおれのライフは2000残るぜ……!」 「いや、この一撃で決める!オレはバトルフェイズに突入!覚醒の魔導剣士で漆黒の魔王LV8に 攻撃!」 「ぐううっ…!」2300→2000 「そして漆黒の魔王を破壊したことにより覚醒の魔導剣士の効果発動!破壊した相手モンスター の元々の攻撃力分のダメージを与える!2800のダメージでショーは幕引きだ!」 「なにっ!?ぐわあああああっ!」2000→0 「あ……アニキいいいいいいっ!」 わあああああっ! 勝敗が決し、場が歓声と拍手に包まれる。 いつの間にか周囲には通行人達が集まっていたようだ。 たくさんの称賛を受けた遊矢は、礼儀正しくボウ・アンド・スクレープのポーズで返す。 「へ…へへへっ……楽しかったぜ、兄ちゃん。流石あの赤馬零児を倒しただけはあるな」 「え……?もしかして、零児との試合見てたのか?」 「ああ。その後の榊遊勝との試合もなァ……おれァあそこまで血が滾る様な決闘を見たのは初め てでよォ、いつかアンタと闘ってみたいと思ってたんだ」 「ど、どうも……?」 「しかしまあ、いいオンナだと思って声をかけようとしたがまさかアンタのオンナだとは思わなかっ たぜ!邪魔しちまって悪いなぁ兄ちゃん」 「は!?」 「ガラの悪いおれらを見てもビビるどころか殺気を向けるタマがある強いオンナだ。大事にしろよ ────オイ、行くぞ」 「い、いやだから─────」 「ま、待って下さいよアニキ〜!」 「な、なんだったんだろう……いや、それより!たきなさん、大丈夫!?」 「はい、助かりました。あのままだと実力行使に出なければいけなかったので。さすがにこの人だ かりの中でその行動をとると目立ちますし……」 「…………」 あの場で飛び出して本当に良かった、色々な意味で……と遊矢は心から安堵した。 「そういえば、買い忘れたものは大丈夫なんですか?」 「あ、うん。ちゃんと買えたよ!はい!」 「えっ……?」 「待たせたお詫びと、ひと足先のクリスマスプレゼント……ってことで。受け取ってくれないか な?」 たきなは差し出された箱の包装を解くと、そこには──── 「これ、は─────」 先程の雑貨店で販売していた迷犬メリーのキーホルダーが存在した。 驚きで目を見開くたきなに、遊矢は若干照れながら経緯を説明する。 「いや、さっきの店でたきなさんこのキーホルダーじ~っと見てたからさ。欲しかったのかなって 思って。それで買ってきたんだ」 「…………」 「もしかして、違った……かな?」 「いえ─────ありがとうございます、遊矢君。とても嬉しいです……!」 たきなはキーホルダーを大切そうに握りしめながら、遊矢へと感謝の言葉と華やかな笑顔を向け た。 「─────ッ!?」 「……遊矢君?」 「い、いや!なんでもない!なんでもないよ!」 (ド、ドキッとした……!) 普段あまり大きく表情を変化させない彼女の珍しい笑顔を直視し、遊矢は自身の心臓が大きく脈 打ったのを感じていた。 どうにかして落ち着きを取り戻そうと必死な遊矢に、たきながまた行動に出る。 「たっ、たたたきなさん!?何で手を握って─────」 「いえ、今日は何かとカップル扱いされていたので。わたしも少しそんな雰囲気を経験するのも悪 くないと思ったんです」 「あ、あれは誤解でしょ!?それに雰囲気って───」 「ふふっ。よろしくお願いしますね、”アナタ”」 たきなはそう言いながら、またもや綺麗な笑みを向けた─────