1. ハァ、ハァ……。 荒い息を立てながらうっそうとした森を駆け抜ける人影。 薄暗い森の空気は鈍く沈み、足にまでその重みがのしかかる様だ。 ここ"オークの墓"と称される森に迷い込んだ青年クリストは はるか後方を激しい物音とけたたましい叫び声を上げる怪物"オークの姫"に追われていた。 聖都出身のクリストは生真面目な青年であり 長く続く人間と魔族の抗争の歴史を学ぶために許可を得てオークの墓へと訪れたが、 オークの姫はそんな彼の都合なぞつゆほども知らなかった。 クリストの放つ聖なる気配に苛立ちを覚え自身の寝床を脅かされるとでも思ったのだろうか 憎き相手といわんばかりに執拗に森の中を追いかけ続けた。 オークの姫は"第二形態"と総称されるいくつかの姿のうち 上半身は姫のまま下半身から獅子の首から下をそのまま生やしたような、 それでいて地を駆ける足は数多のオークの遺体の腕が絡みつき自身の胴体よりも太い腕を象っていた。 ぬかるみも多く起伏の激しい森の中を戦車のキャタピラのごとく駆け抜けるオークの姫は 遥か先を走っていたクリストをいともたやすくとらえてしまった。 そして自前の人間部分の腕に構えた大きな斧を振り上げると……──。 「そこまでだ姫!!」 広い森の中全域に通るような女性の声で叫ばれた言葉に反応し、少し遠くに目を向けながら斧を抱きしめた。 不意に聞こえた救いの声に驚きクリストも思わず同じ方向に目をやる。 木漏れ日が揺れ視界が声の主を捕えるのに数秒かかったがそこに居たのは勇者のパーティだった。 ただしアンデッドの……。 癖っ毛の長い黒髪、古いタイプの緑色の制服、そして毒々しい紫色に光る右腕。 ショウキ。魔王軍の勇者と謳われ度々人間の軍の兵士が襲われた名のあるアンデッド。 戦地にて大昔に魔王軍に寝返ったとして話には聞いていたが、クリストがこれほど間近で見たのは初めてだった。 敵方の勇者が人間の自分を救った行為の意味不明さに思わず声をかける。 「あの、助かりました。でもどうして助けてくれたんですか、人間は敵なんじゃ……。」 「教育に悪い。魔王軍は破天荒ぞろいだが道徳に欠けたやつらで構成されてるわけじゃない。」 ショウキが小さく視線を動かした先には彼女の恐らく今回のパーティメンバー三名が居た。 全身を包帯で巻かれた子供のようなアンデッド、マミー・マミー。 黒いローブで全身を包んだ存在感があるようなないようなアンデッド、ネクロゴースト。 この二人は度々戦禍に巻き込まれた街の跡でも見かけるかわいそうなアンデッドたち。 その二人の少し後ろに隠れる三人目は前線で目撃だけはしたことがある。 ノルチア・シクラーサ。ダースリッチ軍の魔術師のはずだ。でもなんでこの取り合わせでこんなところに? 下手に探るよりも相手を刺激しないと考えクリストは疑問をそのまま投げかける。 「ここオークの墓は確かに王国の結界が貼られていて一見人間の領土に思えるだろう。 だがここはむしろ魔王軍の立地に近いところにあるのだよ。穢れを押し付ける意味でね。」 ショウキの答えに小さくオークの姫が頷く。 先ほどまでのどう猛さが嘘のように消え、まさしく一国の姫君の気品すら漂わせる立ち居振る舞いを見せる。 オークの姫と呼ばれるだけあるのだなとクリストは密かに感動すら覚えた。 そんなクリストの気のゆるみを察してか「クルル……。」とショウキパーティに小さく吠えるオークの姫。 「そういうことなら。」「いい頃合いかもね。」ノルチアとネクロゴーストが顔を見合わせる。 「モゴ。モゴ。」と包帯越しに歓喜の声を上げるマミー・マミー。 森の中でアンデッドたちに囲まれたクリストの、 保身のために回転していた思考をあざ笑うような提案が敵方のショウキから飛び出す。 「お茶にしようとさ。」 2. 第二形態のままのオークの姫は自分の背に仲間のアンデッド、 マミー・マミー、ノルチア・シクラーサ、ネクロゴーストたちを乗せ森の中をしゃなりと歩いている。 時々揺れに振り落とされないように体を掴まれるとこそばゆいのか軽く身をよじり笑い声のような吐息を吐く。 情景だけなら可愛らしいものだがクリストはいわば敵陣に単身突っ込んでいるような状況だ。 和やかな場面も裏を返せば敵陣の余裕とも取れ警戒を緩める気にはなれない。 オークの姫の後ろを並んで歩くクリストとショウキの間にも緊張の糸が張る。 ショウキの右側を歩くクリストはいくら防御に長けていても 気配の読みづらいアンデッドの魔力が溢れる腕に突然襲われれば恐らく手負いは免れない。 流石に敵方の勇者だけあってそれとなく地の利を得ることに長けている。 「安心しろ。取って食おうなんてつもりはないさ。」 「あの、ところでショウキさんたちはどうしてここに?」 「ただの散歩だよ。前線慣れした者も居るが、戦わせるためのメンバーじゃないからね。」 「マミー・マミーですね。僕も何度か見ましたが成り立ちを知ってるだけに胸が締め付けられます。」 「優しくしてやってくれクリスト。立場上は魔族寄りだがあの子たちも元は人間だからな。 優しくすればきっといいことがあるよ。」 微笑み返して会話を終わらせたが、なぜか名前まで知られている恐怖でクリストは気が気ではなかった。 魔族や人間の交流のある緩衝地帯や催しごとがあるのは知っているが 直接対面したことのない相手に名前を知られるのは不気味極まりない。 それなりに実力がついて知られるようになった、とでも考えておかなければ緊張で押しつぶされる。 そんな緊張をよそに一行は歩みを止める。 木漏れ日が穏やかに照らす屋根の付いた休息所、ガゼポとか言っただろうか。 先ほどまでの森の中の重くよどんだ空気を抜けたそこはさわやかな緑の空気に清流の水場があった。 曰く、ここはオークを切り捨てた処刑人たちが刃物を洗い清めるための休息所だったらしい。 最近では人間側の来訪者もめっきり減ったため魔族が整え清潔に使っているようだ。 どこから出したのか、最初から持っていたのか、 大きなバスケットから茶器を出し皿を並べるノルチアとネクロゴースト。 マミー・マミーとオークの姫が落ちていた石や枝を寄せ集め簡易なかまどを造り、 ケトルのかけられたそこにショウキが魔力で火をつける。 なにか手伝おうかと動きかけるクリストの肩にオークの姫が軽く手を置き座るよう促す。 いたわるような触れ方から「お客様を働かせるわけにはいかない。」というような意図を感じる。 波風を立てないよう大人しく石で造られた椅子に腰をかける。 アンデッドに囲まれお茶が湧くのを待つ不思議な状況にクリストはふと東方出身の者たちから聞いた話を思い出した。 "死者の世界で飲み食いをしたものは生きて帰れない。" いやいや、ここは彼らの故郷よりはるか西で自分は聖都の加護がある。 そんなことにはならないだろう、多分……。 一人震えるクリストを尻目にアンデッドの女性陣によるお茶会の準備は粛々と進められていく。 そしてもう一つ重要なことにクリストは気付かされる。 意思の疎通の難しいオークの姫にマミー・マミー。 アイマスクをしているのに顔すら合わせようとしてこないノルチア。 恐らく喋れるはずなのに自発的に発声しないネクロゴースト。 彼女らと意思疎通を行え、なおかつこちらの言葉も理解してもらえるショウキの機嫌を損ねたら いよいよもって生きては帰れないんじゃないか?そんな考えが頭をよぎる。 ちょうどそんなタイミングを図るようにショウキが神妙な面持ちでこちらに向かってくる。 そして賑々しく準備を進める彼女らの耳に入らない様注意を払って耳打ちをしてきた。 「なぁ正直に言ってくれ、私ってどんな匂いする?やっぱ死臭とかするのかな…?」 「……え?」 予想外の質問が飛び込んできて思わず素っ頓狂な声で聴き返してしまった。 てっきり機嫌をそこねないよう釘を刺されるのかと思いきや身だしなみについての悩み相談。 「あの子たちやあまり戦闘に不向きな魔族を連れて人間と交流させてやりたいんだが、 いくら緩衝地帯の街といえど色々体裁というものがあるだろう? もげた腕とかはしょうがないとしてせめて体臭は整えたいんだよ。古参の私が大丈夫なら他も平気だろ?」 「あ、あぁそうですね。鎧と革装備の独特の匂いはしますけど、ショウキさん自体はそんなに。 むしろアンデッドで代謝が無いせいか"しない"というかよくわからないというか……。」 そこまでクリストが言うとショウキは破顔しホッと胸を撫で下ろす。 クリストは二つ驚いた。 一つは魔族といえ敵意の無い状態は人間相手にここまで気を許した表情を見せるのかということ。 もう一つはまさか普段人間相手にしている相談の相手役を魔族からも任されそれに応える自分自身に。 こんなお人好しな性格だからこれまでどこのパーティに行っても気を張り詰めて抜ける羽目になるのだと自身を顧みる。 せめて"今組んでいるパーティ"こそは解散しない様に帰ってからも気を付けなければ。 クリストは予想外のボディブローを受け、身につまされる思いに包まれた。 3. ガゼポのテーブルをパステル調の色合いの可愛らしいランチョンマットが覆い その上に並べられたアンティークのティーポッドと温かい紅茶の注がれたカップが顔を突き合わせる。 皿にはジャムの乗った手の込んだクッキーや焼き菓子、ダース・リッチという銘柄のチョコレートが人数分。 魔王軍の厨房担当は実力者たちの集いという噂を聞いたことがあるが よもやこのような形で真偽を確かめることになるとは。 毒食らわば皿まで。 アンデッドの茶会、聖都のパラディンとして乗りこなしてみせる。 クリストの開き直りともとれる決意と共に茶会は開かれた。 「……美味しい。」 思わずこぼれる感想に驚いたのはやはりクリスト自身だった。 自分のパーティにも食べさせてやりたいと思ったほどクオリティの高い菓子が聖盾の守りを解く。 ハッと視線を感じ取り顔を上げると周りのアンデッド、いや彼女たちが柔らかく微笑んでいる。 眼帯越しでも顔を合わせようとしなかったノルチアの口元は優しくほころび 口元に手を添え微笑むオークの姫はまぶしさと優雅さすら覚える。 「そっちのも食ってみなよ。」とネクロゴーストにすら声をかけられる。 そうだ、彼女らも元は自分と同じ人間だったんだ。 味覚や雰囲気の好みが似通っていてもなんらおかしくはないのだ。 聖都の勇者一行のメンバーとして組んでは壊れるパーティに焦りすぎて クリストは自分の視界の狭まりを図らずも自覚させられる。 人間から見ると裏切者のショウキは彼女ら魔族側の力無きものを守っていることを。 そして彼女らにしてみれば戦闘態勢を取っていたのは自分の側だった。 パーティの盾を任される身として、こういう方法でのパーティの守り方もあるのかと学ぶに至った。 テーブルを囲みながらお互いちょっとした情報交換を行う。 かつてショウキとオークの姫の組んでいたパーティにマーリンという魔法使いが居たこと。 そのマーリンは今大衆を賑わせている"男"のほうに対し腹に一物あること。 人間の世界ではザ・ブレイブバトルという勇者パーティ同士がぶつかり合う大会があること。 ……──ひとしきり会話を交わし日が傾き始めてくる頃には 遊び疲れたマミー・マミーがオークの姫の膝にもたれてうたた寝をし始める。 待ってましたと言わんばかりに話を切り出してきたのはショウキのほうだった。 「私たちのパーティは大昔に魔族をほぼ一掃したんだが……。」 ザ・ブレイブバトルの概要である 1.風船を三日間守るサバイバル 2.観客を魅了するドレッサーバトル 3.勇者の歴史クイズ ……を述べた際にショウキが自身の身の上ならと切り出してくれた。 風船はともかくドレッサーバトルなら自身のパーティメンバーに任せればいいが歴史はそうはいかない。 特にどこの人間の街の図書館でも塗りつぶされている項目がいくつかあって そのうちのひとつがショウキパーティのことだったからだ。 4. ショウキのパーティが魔王軍をほぼ一掃まで追いやったのは数百年前。 今より苛烈で人間も魔族も白黒を付けたがる風潮だったという。 勝利の旗を掲げて凱旋の元王都に招かれたパーティ。 ショウキ、オークの姫、魔女マーリン、暗黒卿レイスは各地に石像も建てられるほどの功績を遺した。 これを脅威と捉え面白く感じないのが当時の人間の王の一人だった。 後日人間に寝返ったアーチリッチの暗黒卿レイスを権力と盟約で動きを封じ ショウキとそれに先立ってオークの姫を処刑したのだ。 事後にそれら蛮行を知らされたマーリンは深い失望を抱えたまま森の奥へ姿を消した。 何より無念に、そして憤りを覚えたのはレイスだろう。 事前に勇者たちの処刑を知らされたレイスは心の底でアーチリッチゆえに処刑を施されたあとを察してしまい 逆らって自身やマーリンまで刃が及ぶ危険性よりも王にへりくだってでもわずかな仲間を逃げ延びさせることを、 そして恨みゆえに蘇るだろう仲間たちを無念ゆえのアンデッドへの変貌から解き放つための術を 自身が獲得するための時間稼ぎ目的で見殺しにしてしまったことを。 オークの姫が打ち捨てられたのはここ、のちにオークの墓と呼ばれる区画に。 ショウキは腕も落とされ魔族の領土すぐそばへと打ち捨てられ表舞台からは消されるはずだった。 レイスの見立て通りショウキはなんと処刑されたのち蘇った。 魔族の領土近くに屈辱的に打ち捨てられたことが引き金となり、漂っていた魔力と結合しアンデッドになった。 人間の街に戻り王の告発をしようとしたが 見るからに魔族の生き残りが自国の王をつい害するような発言をすれば結果は火を見るより明らか。 魔族を滅ぼした勇者は一晩のうちに滅ぼされたのだ。 行く当てもなく自分が目覚めたところへ戻ろうとした最中見覚えのある姿が行く手を塞いだ。 「ショウキさん、ワス一部始終見せてもらいましたぁ。あんまりにもかわいそうダスなぁ。」 幾度と魔王軍の前線に現れ、倒したはずのダースリッチ。倒したはずの魔王軍幹部が目前に現れたのだ。 「人間っツーのは勝手なもんダス。盛り上がってる間ははやし立てて戦わせて用が済んだら記憶から消しちまう。 せっかくあんなカッチョイイ石像までバカスカ建てたっつーのに英雄本人はお払い箱ダスなぁ。」 「あの世から憎い相手の醜態でも笑いに来たのかダースリッチ。お前ら魔族からしたらさぞ滑稽な姿だろうさ。」 「ワダスはねショウキさん、お迎えに来たんダスよ。いやね、お迎えっつってもあれダス。 別にあの世の道案内とかしてやろうってんじゃないんダスよ。」 「ワダスはね、魔王軍が復活するんでお誘いに来たんダス。ワダスの復活が何よりの証拠ダス。 こっからどんどんみんな蘇って新しい魔族も日ごとに生まれてくるダスよ。だからねぇショウキさん。」 「今度はワダスらの勇者さなってくれねーダスか?新しい戦士の教官役にもなって欲しいッス。ダメッスかねぇ。」 ダースリッチの勧誘は世迷いごとでも幻覚でもなく真実だった。 次々現れる四天王に新たに生まれる魔族の増えるスピードのなんと速い事か。 旅人たちの敵として戦線に舞い戻ったショウキも初め猛烈に人間たちからの激しいバッシングを受けたが 王が代替わりをし新王と暗黒卿レイスの広報活動によって一部人間たちからも同情の声が上がった。 一時怒りに駆られた民衆の手によって古の勇者たちの石像も多くは壊されたが 今もわずかながら破損しつつも残されている。 そして幾年月が重ねられ勇者たちの像の謂れがほとんど失われた頃……。 「新魔王様の誕生おめでとうございます…!」 かつて人間の勇者だったものは完全に消え、魔王軍の勇者が人間たちに立ちはだかることになる。 ……──これが大まかないきさつだ。ショウキが周りを見渡す。 ショウキの"今"連れているパーティのノルチアとネクロゴーストもダースリッチにつられて魔王軍に居るようなものだ。 倒しても倒しても必ず蘇るという噂は予想以上に厄介なもので、しかも噂に留まらなかった。 その上に当時の王の、そして人間たちの悪辣さにクリストは愕然としていた。 「主観も混ざっているからな。もしお前がマーリンやレイスに会うことがあれば改めて聞いてみるといい。 また違った視点での解釈や知見も得られることだろう。」 「すみません、つらいお話をさせてしまって……。」 「昔のことだよ。お前も勇者なら今後理不尽な目に合うだろうが仲間は大事にしろよ。」 クリストは勇者によく間違えられるが実は槍使いだと言いたかったが、彼の理想は叶わなかった。 日が傾くと危ないと、行き同様オークの姫がアンデッドの娘たちを背中に乗せ人間の街近くの帰り道へと見送りに来てくれた。 「また、お茶でも飲みに来てください。できればおひとりで。」 出会い立ての頃にはおよそ想像もつかなかった笑顔をノルチアが見せる。 「まぁ、来てもいいよ。」 髪をいじるしぐさで少しだけフードを下げるネクロゴースト。 人差し指と中指を剣に見立てトン、トンと静かにクリストの両肩を叩くオークの姫。 「モゴ、モゴ。」と声を上げながら寄ってくるマミー・マミー。 その手からクリストに渡されたのは赤く光る宝石。 「これっ……!?もしかして試練の宝玉か!?初めて見た。」 「懐かれたなお人好しめ。忘れるな、戦場で会ったら敵同士だぞ。」 「えぇショウキさん、それに皆さんも。美味しいお茶ご馳走様でした。」 赤く傾く夕日がアンデッドたちの頬を照らし、まるで血の通った赤らみを乗せる。 逢魔ヶ時。薄暗い昼と夜の境界の時間帯は人と魔が出くわしてもお互い気付かないという。 「ブレイブバトルとかいうのがんばれよ。未来の勇者。」 「……ありがとうございます。古の勇者。」 オークの墓の森を背に向け、クリストがふと一瞬振り返ると彼女らの姿はとうに消えていた。 5. 「……というのがことのいきさつです。これで依頼達成でよろしいですか?」 「えぇ、十分過ぎる活躍ですよクリスト。ご苦労様でした。報酬は色を付けておきますよ。」 翌日昼、クリストと暗黒卿レイスが古い石像のある公園で依頼内容のやり取りを行っていた。 依頼内容は"オークの墓に居る姫の安否の確認"、無論依頼者は暗黒卿レイスだった。 オークの姫が動いているところだけでも確認できれば御の字だったが まさか生前の豪快さと気品すら取り戻しているだけでなくショウキの安否までも確認できたのだ。 当時仲間たちに何もできず半ばあきらめも含んだアンデッドの救済、保護活動に勤しんでいたレイスもまた救われることとなった。 「死人領への勧誘をと考えていましたが、必要なさそうですね。あとはあの子、マーリンだけですね。」 「レイス卿、よければその依頼も受けさせてもらえませんか。少し貴方たちの過去について興味が湧いて来ました。」 「ブレイブバトルの歴史科目ですか。ピンポイントで私たちの項目が出るとも思いませんが……。」 「それでも、それでもですよ卿。時渡りの鍵が手に入ったら貴方ならどう使いたいですか?」 少し肌寒くなってきた秋風がクリストの前髪を掻き上げる──。