「あ、あのォ〜……ヨシさん。お見苦しいモノをお見せして誠に申し訳ないと言うかぁ〜……なんと いうかぁ……」 「ハハハ、大丈夫さ。気にしてないよ……フ、フフフッ、トランクス……トランクスか」 「ちょっ!?思いっきり気にしてるやつじゃないですかぁ!」 「……ゴホン!千束、お客さんが呼んでるぞ。行ってあげなさい」 「あ、はーい!今行きまーす!」 「……色々すまない」 「いや、いいさ。それより彼女は何を……?」 「あぁ。これから常連さん達とデュエルをするんだ」 「皆様今日もお集まり頂きありがとうございま〜す!この喫茶リコリコの看板娘錦木千束によるエ ンタメデュエルを心ゆくまでお楽しみ下さーい!」 「エンタメ……?」 「千束はプロ決闘者の榊遊勝に憧れていてな。彼の様にデュエルで人を笑顔にしたいと常に思っ てる」 「……憧れ」 「今日は楽しみにしててよ千束さん!この前よりパワーアップしたエンタメを魅せてやる!」 「ほほ〜う?言うではないか少年。遊勝さんの子なら期待以上のモノをお魅せしてくれないと!」 「榊遊勝の、子供……?」 「ああ。彼は遊矢君と言って榊選手の息子さんだ。千束が連れてきてウチの常連に……おいシン ジ、どうし────」 「あれ、ヨシさん?どうしたんです?あ!もしかしてぇ〜……ヨシさんもデュエルやりたくなっちゃっ たり!?」 「いや、違うんだ。少し、ね……失礼。キミが榊遊矢君かい?」 「え?あ、はい。そうですけど……あなたは?」 「始めまして。私はここの店長の古馴染みの吉松と言う者だ。キミに少し尋ねたいことがあるんだ が……いいかな?」 「えっと……なんでしょうか?」 「────キミは本当に、そのエンタメデュエルを望んでやっているのかい?」 「……えっ?」 「ヨ、ヨシさん?いきなり何言って……」 「キミは考えた事はないか?自分にはエンタメではなくもっと別の相応しい道や望みがあるのに、 それが正しいかわからないから仕方なくエンタメを選んでいると。ならば私が道を示してあげよ う、榊遊矢君。キミはただ自身の心の奥底の声を聴くだけでいいんだ。それを聴くだけでキミは幸 福に────」 「やめろシンジ!そこまでに────」 「───んで、ます」 「……なんだい?」 「オレは、自分で望んでやってます」 「………」 「小さい頃に父さんのエンタメを見て、あんな風にたくさんの人が笑顔になれる様なデュエルをし たいって気持ちはずっと変わりません。正しいとか間違いとかじゃなくて、オレがそうしたいんで す!」 「オレの周りには、オレと同じ夢を見てる人や、応援してくれる人達もいるんです。だから絶対に 諦めたくない……!」 「そう、か……いきなり不躾な質問をしてしまいすまなかったね。非礼を詫びさせて貰うよ」 「い、いえ!オレは別に……」 「ミカ、悪いが私はそろそろ失礼するよ」 「あ、あぁ……」 「……あ!よ、ヨシさん!今度はいつ来てくれますか!?」 「……機会があればね。またな、千束ちゃん」 「……何かあの人、ヤな感じ〜」 「うむ……」 「遊矢、大丈夫……?」 「うん。平気だよ」 「……遊矢君。私からも謝罪させてくれ。シンジが失礼な真似をしてすまない」 「い、いや!謝らないでよ店長!オレは本当に気にしてないし!それより店長も参加してよ! ねっ!」 「そーそーセンセ!気を取り直してエンタメショーの再開といきましょ〜!」 「待たせたね、姫蒲君。車を出してくれ」 「いえ。どちらに?」 「今日は同じアランの同志である蓮君との食事の約束がある。向かい先は神浜の高級レストラン の◯◯で頼む」 「承知致しました」 「───この次元のズァークの分身と出逢ったよ」 「……!確かですか?」 「ああ、確かだ。面影がそっくりだった……それに、アダムの因子を持っている」 「!」 「EVEの因子が強く反応していた。彼が最後の3つ目の因子の持ち主だ」 「これで全ての因子所有者が揃ったと」 「そうだな。かつての榊遊勝の弟子が、今度は息子に生まれ変わり、千束や赤馬の息子と同じア ダムの因子を持つ……全く、因果なものだな」 「しかし榊遊矢───いや、ズァークは哀れだ。再び自らに呪いの枷を嵌めようとするとは」 「前もそうだった。ヤツのデュエルで笑顔と言う呪いにより与えられた才能(ギフト)との乖離に苦 しむ事になったのだ」 「その才能をGODが見出し、破壊と言う道へと導かなければズァークは榊により決闘者生命を絶 たれていただろう。あの男は自らの理想を押し付け他人を蝕む病原菌だ」 「だが、ヤツは次元の狭間に消えた。私が2年前にキミへ命じたからな。LDSの次元移動装置を 誤作動させろと」 「…………」 「千束。キミもその病原菌の呪いに縋らなくていいんだ」 GODがズァークに道を示した様に私もキミに道を示してあげよう、千束。 キミには、殺しと破壊が相応しい。 それこそがただ唯一の幸福だと。 「……わかってくれるだろう?千束」