二次元裏@ふたば

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133747 B24/08/11(日)01:30:13No.1220625000+ 04:37頃消えます
その日は一段と暑い夏らしい日で、自分と彼女の身の安全のために、急遽屋内にトレーニングメニューを変更しなければならないほどだった。しかし夜は昼間の暑さが少し和らいで、窓を開けても涼しい風が吹き込んでくるようになっていた。
夕食を摂って風呂に浸かったあとの身体には心地よい眠気が宿り始めていて、このまま布団に身体を埋めて眠ってしまいたい欲求に駆られる。だが、隣に腰掛けた彼女が優しく頬をつついてくれて、幸いにも意識が再び浮かび上がってきた。
「だめだよ。夜はこれからなのに」
「ごめんごめん。気持ちよくてさ」
そう答えるとわざとらしく頬を膨らませてみせる彼女はひどくかわいらしくて、その頬をつつき返しながら起き上がった。そのままベッドサイドに置いたパソコンを起動して、あるアプリケーションをクリックする。
このスレは古いので、もうすぐ消えます。
124/08/11(日)01:32:01No.1220625530+
「じゃあ、やりますか」
「いいよ。お先にどうぞ」
彼女にそう促されて、パソコンにスピーカーを繋いだ。この日のために少し奮発したものだが、彼女の満足そうな声が背中から聞こえてくると、いい買い物をしたと心から思えた。
自分と彼女──ミスターシービーだけ。ふたりだけのための音楽会の始まりは、おおよそそのようなものだった。
224/08/11(日)01:32:58No.1220625802+
独り暮らしの寂しさには、音楽が一番よく効く。それに気づいて毎日のように好きな曲を聴き始めるようになったのは、いつのことだったろうか。
彼女もまた同じ結論に達していたとわかったのは、恋人になってすぐのことだった。お互いの家に代わりばんこに泊まるという今のライフスタイルになって間もないころに、彼女の部屋にいつも音楽が流れていることに気づいてからは、お互いに好きな音楽の話をよくするようになった。
「シービーも好きなんだな。音楽聴くの」
「うん。いいよね、ひとりで聴く音楽ってさ。
誰にも遠慮せずに、好きなだけ音に浸れる」
その言葉を聞いて、ちくりと心に引っかかるものがあった。どこまでも自由な彼女が自分の隣を居場所に選んでくれたのはこの上なく嬉しいけれど、彼女はきっとひとりの時間も存分に楽しんできたに違いない。
324/08/11(日)01:33:21No.1220625933+
「たまにはひとりにしたほうがいいか?最近はずっと一緒だったろ」
だが、彼女は愉快そうにくすくすと微笑んで、身体を起こしてこう言った。
「大丈夫だよ。むしろ、きみの好きな曲が聴きたいな。
音楽の好みは、そのひとらしさがいちばん出ると思うから」
もっときみを知りたい。
そう彼女に言われたときから、今の時間を過ごすことは必然だったのかもしれない。

こうして週に一度、どちらかの家に泊まっては好きな音楽を一曲ずつ交互に流し合うという習慣が始まったのだった。音楽会と言うには、随分と奇妙な催しだったけれど。
燕尾服もドレスもなく、部屋着でベッドに寝転んだままの音楽会。クラシックも、ロックも、ポップスも、なにもかもが混じり合った演目。
そこに決まり事はない。込み入った知識も、難しい考えもいらない。
ただ、好きなものを集めればいい。あとは耳をすませば、どこにだって旅立てる。
聞き慣れたはずの音色に乗って、彼女と一緒に何度も航海をした。
424/08/11(日)01:33:36No.1220626009+
「きみが選ぶのって、懐かしい曲が多いよね」
そう言って寝転びながらジュースを喉に流し込む彼女を、咎めるものは誰もいない。
時代もジャンルも、言葉さえ多種多様な彼女の選曲に対して、確かに自分の選ぶ曲は一昔前に流行ったものが多い。
「父親の影響かな。自分が若い頃に流行った曲をずーっと車の中で流してたんだよ。
だから俺も、親父の年代の曲ばっかり聴くようになったんだ」
彼女は今度は俯せになって、脚をぱたぱたと交互に上下させている。その表情はどこか不満げで、首を傾げているこちらをじとりと睨んでいる。
「ずるい」
「なんで?」
「アタシ、知らないもん。その曲。
きみだけ懐かしい気分になれてずるい」
つん、とわざとらしくそっぽを向いて拗ねる彼女を見ていると、困るよりむしろ楽しくなってしまう。懐古することは長く生きてきた分の特権かもしれないが、たまにはその感情を共有したいという想いは、それ以上に愛おしかった。
524/08/11(日)01:33:57No.1220626108+
「はは、わかったよ。じゃあこれは知ってるか?」
画面を操作して別の曲を流す。イントロが流れ出してすぐに、彼女の拗ねた表情が柔らかな微笑みに変わった。
その曲は今でも、コマーシャルで時折耳にするものだった。その歌手は知らなくても曲は知っているという人は、若い人でも少なくないだろう。
この季節にぴったりの、爽やかで少し甘い曲調。自分も彼女もその曲の中に、きっと白い砂浜や華やかな夜のネオンサインを見ていただろう。
「いい曲だよね、これ。でも、歌詞はちょっと切ないや。
思い出の方が今より綺麗だから、昔のことばかり想ってるなんて」
その言葉を聞いて、少し安心した。今が幸せで、これから訪れる日々を楽しみにしていなければ、その感想は出てこないだろう。
その幸せに、少しでも自分が入っていたらいいな。
もう一度瞼を閉じて白い砂浜を想いながら、そう願い続けていた。
624/08/11(日)01:34:41No.1220626332+
「あれ」
だが、そんな幸福な瞑想は唐突に終わりを告げた。曲の途中だというのに、突然音が途切れてしまったからだ。
何が起こったのか身体を起こして確かめようとしたが、それは唐突に身体の上に感じた重みで阻まれた。
「シービー…!?」
彼女はこちらの胸板にぴったりと頭を乗せて、腕をしっかりと胴に回してきていた。何を驚くことがあると言わんばかりの、いつも通りの甘やかな微笑みを浮かべたまま。
724/08/11(日)01:34:59No.1220626428+
彼女の細く、柔らかい肢体に籠められた温もり。ほのかに香る甘い匂い。好いた女のそれを直に感じて、心臓の鼓動が跳ね回るのがわかる。
驚いて手を止めてしまったこちらに何も言わないまま、彼女は目配せをしてきた。きっとそのまま作業を続けろということなのだろう。
気を取り直して、パソコンとスピーカーを見る。音が途切れた原因はなんということはないもので、寝返りを打った拍子にスピーカーのコードが抜けてしまっただけだった。
元通りに配線を繋ぎ直すだけだから、そう手間のかかる工程ではない。彼女もきっとそれをわかっているから、抱きしめるのをやめないのだろう。
彼女は何かに思いを馳せるように目を閉じたまま、こちらの胸に大きな耳をぴたりと当てていた。
824/08/11(日)01:35:22No.1220626582+
「…なんであんなことを」
再び流れ始めた調べの中で、彼女の温もりを感じ続ける。その不意打ちで散々胸を掻き乱されて、今度はこっちが拗ねる番だった。
「音楽を止めたくなかったんだ。そしたら、聞いてみたかった曲があったのを思い出してさ。
ずっと前から聞きたかったけど、なかなか聞けなかったのが」
けれど、彼女の手がその胸に触れると、心臓は簡単に早鐘を打ち始めてしまう。本当に好きなひとの前では、少しでも意地を張っていたいのに。
924/08/11(日)01:35:43No.1220626721+
「不思議なメロディーだったな。初めて聴くのに、なんだか何度も聴いたような感じがする。何度でも聴きたいって思っちゃう」
彼女がさっきまで聴いていた曲を、何度でも奏で続けてしまう。知らず知らずのうちにいつも繰り返してしまっている、その曲を。
だから、彼女に訊いてみる。この胸がいったい、どんな音色を奏でていたのか。
「…どんな曲だった?」
「素敵なラブソングだったよ。
歌詞はついてなかったけど、わかるんだ」
もう一度胸に耳を当てた彼女が、にこりと笑った。
お気に入りの曲の好きなフレーズが聞こえてきたときと、同じ笑顔だった。
1024/08/11(日)01:35:59No.1220626816+
「いい曲だったな。だから、楽しみにしてるね。
これからいっぱい、きみが歌詞をつけてくれるの」
愛おしそうに胸に頬擦りをしてくれる彼女の髪をゆっくりと梳きながら、唇に当てられた指の感触に酔う。
唇がひとつしかないのがもどかしい。待っていてくれている彼女には申し訳ないが、もう少し待ち続けてもらわなければいけないかもしれない。
「それなんだけどさ。ごめん。まだかかりそう。
でも、その分だけいいものにするよ。絶対」
君と唇を重ねていたくて、しばらく言葉を紡げそうにないから。
君への想いは大き過ぎて、簡単には言葉にできそうにないから。
1124/08/11(日)01:36:21No.1220626921+
「ん…」
今度こそ、本当に曲が終わる。けれど重ねた唇はそのままで、静寂の中に君を感じる。
音楽が終わっても、君を愛することは止めたくなかったから。
彼女が好きだと言ってくれた曲が、まだ胸の奥から聞こえてくる。彼女の生き方を美しいと思ったときから、奏で始めたその曲が。
彼女と過ごす時間。そのぜんぶを費やして、きっとこの曲は完成するだろう。気の遠くなる話に思えるかもしれないが、待ちくたびれる心配はしていなかった。
1224/08/11(日)01:36:31No.1220626958+
「いいよ。ゆっくり考えて。
待ってる時間も、きみとなら楽しいから」

君を愛することに、飽きることなんて、ないから。
1324/08/11(日)01:37:25No.1220627238+
おわり
君は天然色を聴きながら書きました
シービーいいよね…
1424/08/11(日)01:40:07No.1220628066そうだねx1
シービー良いよね
猫みたいで好き
1524/08/11(日)01:41:32No.1220628453+
詩と音楽と自由が大好きな野良猫みたいな女いいよね
1624/08/11(日)01:41:49No.1220628547+
1724/08/11(日)01:43:55No.1220629056+
ウマ娘の耳は大きくて敏感だから心臓の音も音楽みたいにはっきり聞こえるんだよね
1824/08/11(日)01:46:01No.1220629577+
「むしろ、きみの好きな曲が聴きたいな。」
シービーなら言いそうな台詞回し良いね
1924/08/11(日)01:48:35No.1220630192+
心臓の鼓動=生きている限り奏で続ける音楽が好き
つまりきみが生きていることが好き…ということだね?
2024/08/11(日)01:51:07No.1220630743+
芦毛トレーナー?
2124/08/11(日)01:56:07No.1220631934+
寝てるときにもこっそり抱きついて聞いてたりするといいと思いますね
2224/08/11(日)02:05:22No.1220633857+
シービーのを聞こうとすると照れてするっと逃げちゃうんだよね
でも結局その日の夜に胸に抱きかかえて聞かせてくれるんだよね
2324/08/11(日)02:10:40No.1220634934+
胸に耳を押し当てると海の音が聞こえるんだ…
2424/08/11(日)02:15:00No.1220635813+
シービーみたいなその人しかできない甘え方してくる女いいよね
2524/08/11(日)02:21:48No.1220637282+
熱烈なラブソングなのに聴いてると安心してそのまま寝ちゃったりするんだよね
2624/08/11(日)02:33:33No.1220639577+
猫みたいにあったかくて柔らかい女に抱きしめられながら好きな音楽を聴いて甘えられたいだけの人生だった
2724/08/11(日)02:46:59No.1220641925+
拗ねシービーも甘えんぼシービーもすき


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