「おや、そうなんですか？」
「ええ。走る以外にね、夢中になれる事を私は見つけたの」
言葉が終わる直前、トレーナーが後方へと飛んだのは半ば直感であり
それが彼の命運を分ける事にも繋がっていた
（…足りない）
後方へと飛び、そして更に横へと飛ぶと
先程まで彼のいた砂浜が文字通り…爆ぜる
「貴方の様な人との素敵な出会いがあるんですもの」
成程トレーナー狩りだ
春先に地…闇の者達が人手不足に悩み行われるそれとは違い
音に聞こえる中央のトレーナー達が府中を離れるこの時期
年頃の優れたウマ娘を育成する若武者相手に己の業を試そうと
野生の達人がこれ幸いと集まってくる夏の風物詩である
「…斬バ刀か」
「うふふ本当に素敵。初見でそこまで"これ"を看破するのね」

優雅には程遠い重心の置いた足運びと
何かを構える様な構えを見せる女性の両手は一見空に見える
だがそれがフェイクである事を
トレーナーは砂浜に出来た破壊痕と構えから看破していた
――――斬バ刀
戦国時代において薙刀以上の長さを持ち
そして使い手によってはウマ娘が加速するよりも早く放たれ
両断したとも言われる大振りの刀である
彼の担当するグラスワンダーが固有スキルで薙刀を具現化するように
目の前の彼女もまた斬バ刀を具現化し…
更には透過させた状態で扱ってみせるという技を見せていたのである
（さっきのは上手く回避できたが、これは…）
真夏の暑さではなく緊張からトレーナーの頬を汗が伝う
元々斬バ刀の様な大型武器の挙動は限られる
だが最初の見えない突きと、そこからの上段からの振り下ろし

その二つの間には大したラグは無かった
そして生憎とトレーナーの手には護身用の小太刀が１本だけ
敢えて獲物を持たぬ方の手を腰の後ろに隠して見せるのはフェイクである
「………………」
十中八九空手である事を見抜かれている
それでも尚、女性に油断の色は無い
それは目の前の自らよりも若い、そしてヒトが
自らよりも遥かにリーチの短い獲物しか持たない彼が
場合によっては五体を引き裂かれようと自らに一撃を入れる
そういう目をしている事を確信していたからでもある
「本当に、若さって素敵ね…」
「言う程お年をめされている訳でも無いでしょう」
「あら。中央の方ってお世辞も上手なのね」
じり…と軽口を叩きながらも互いに構えのまま砂浜を足が這う
炎天下の中の探り合い。そして勝負は一瞬だった

「…はうっ」
軽い呻き声とともに女性がそのまま砂浜へと倒れ込む

熱中症である

担当であるグラスワンダーの元に
「グラスワンダーのトレーナーが色っぽい水着のお姉さんを
抱きかかえて海の家に入って行って休憩したらしい」
そんな話が舞い込むのはこのすぐ後の話だったという。

な…なんだぁっ

毎度楽しませてもらってるけどよく考えたらこれってグラスワンダー怪文書じゃなくてグラストレーナー怪文書では...？

フクキタルみたいな目の前のバ群を割る固有かな…

これグラトレ悪くないじゃんこれ！

獣臭がすると思ったらやっぱりだった

>これグラトレ悪くないじゃんこれ！
それはそれ
これはこれ

急に辻切りくらいの気軽さで出していい獲物ゃない過ぎる

>担当であるグラスワンダーの元に
>「グラスワンダーのトレーナーが色っぽい水着のお姉さんを
>抱きかかえて海の家に入って行って休憩したらしい」
>そんな話が舞い込むのはこのすぐ後の話だったという。
エル…腹を切りなさい…