いつか、きっと。彼を助け出せる時が来る。 残虐で悪意に満ちた不思議の国は、しかしソウルを集め、その力とするには最適だ。 だから、きっと。彼がこの世界そのものと対峙し、打ち倒せるくらいに強くなるまで。 私達は演者として狂った劇を表向きは従順に進行し…陰ながら彼の助けとなろう。 そんな、キャンディーよりなお甘い計画は、結局のところ根底から既に破綻していたのだろう。 がちゃり、と視界の端で赤いドアが開き、彼がゆっくりと入ってくる。特徴的な騎士鎧を捉えると同時、私の心は大きく弾んだ。 何十、何百とはじめましてを繰り返しても、やはり彼と出会い直せるのは純粋に嬉しい。 今すぐ駆け寄りたい、抱きしめたい、愛し合いたい、そんな欲望をどうにか抑え、とびきりの笑顔で彼に振り向いた。 「あっれれぇー?おかしいぞぉ?ここは部外者は立ち入り禁止なのにぃ…っ!?もしかしてプリケットのファン……なのか…な……」 眼前のあまりにも酷い彼の有り様に、私の声は尻すぼみに消えていった。 外傷は無い…精々海水でびしょ濡れになっているくらいだ。しかしその魂は…酷く穢れ、濁り、人どころかそこらの支配者よりもなお黒ずんでいる。 「…………」 彼は何も言わず、ただ虚ろな瞳で私を見つめる。1歩、2歩と私に近寄り、そして。 「……んぇっ…!?」 ぎゅう、と抱擁される。遥か昔に『アリス』にしたような優しいハグではない。普段『プリケット』にしていような、雄々しさを以て女を安心させるそれでも無い。 彼は縋り付いていた。 「えっとぉ…どうしたのかなっ☆辛いことあったら聞くよ〜☆」 口を付いて出た軽薄な偶像の台詞に我ながら殺意が湧く。彼がどんな辛苦に晒されているか、一番良くわかっているのは私だというのに。 彼を地獄に突き落としたのは私だというのに。 もっと身体を密着させ、せめてもの癒やしになればと頭を胸に抱きかかえると、彼は何も言わずにただ身体を震わせた。 涙が、アイドル衣装に沁み込んでくる。私達の共謀、私達の計画は、結局のところ…彼に更なる重荷を背負わせることで成立していたということに今さら気づく。静かに泣く彼を抱き締めながら、私は全てが破綻してしまっていたことを、その現実を飲み込んだ。 グリムは…彼のソウルは、この世界の狂気に浸かる内に穢れ、汚れ、濁り……そして、折れてしまっていたのだと。 私はその場で決意した。もう後悔はしないように、ここで全てを裏切ることを。這い寄る者は勿論…白兎も虚無も裏切ることを。 彼以上に大事なものなんてありはしないのだから。 「ねぇ、グリム」 暫し、彼の涙を…私の罪を受け止めた後に声をかける。 素の口調が意外だったのか彼は少しだけ目を丸くしたが…アイドルの仮面なんて最早無意味だ。 「……ずっと、ここに居て?」  返事はない。でも構わない。もう二度と離れることが無いように、強く強く彼を抱きしめた。 おそらくは、もう。彼が何かに立ち向かうことは叶わないのだろう。ぐちゃぐちゃになったソウルがそれを示していた 彼をこの地獄から脱出させることは不可能となってしまった。それならば、せめて。 せめて狂気に触れ得ないよう、私の愛で満たしてあげよう。 「貴方のしたいことは何でもさせてあげる。貴方を苦しめるものは何でも消してあげる。」 耳元に囁くが、反応はない。だが、それで十分だ。否定しないということは肯定のはず、と言葉を続ける。 「永遠に、貴方を大切にさせてください。」 それが私の、せめてもの罪滅ぼしだから。 ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★ 「はぁ…っ♥んっ♥んっ♥きゅううっ♥」 ぐしゃぐしゃのベッドの上で、飽きもせず情交を繰り返す。 壊れてしまったグリムはまるで抜け殻のようで、何にも興味を持たず、何も要求しなかった。 快楽に身を浸しながら、彼の顔を見る。その表情には、かつてのような明るさも生気も無い。世界の狂気が…いや、私が壊してしまったのだ。彼の心を砕き、そして、身体も。 紅茶にお菓子を用意しても、彼は手を付けなかった。不死者ゆえに食事の心配は要らないのだが、それでも味のない生活はつまらないだろうと何度か勧めたが頑なに拒んだ。もしかしたら、食べ物を口に入れることすら億劫な程に、生きようとする行為そのものに嫌気が差しているのかも知れない。 詩を詠んでも、歌を奏でても、彼は何も返してくれない。愛を謳って/唄っても、返答どころか…耳を傾けてすらくれない。 唯一彼の目に欲望の火が灯るもの、それが性交だった。 肉欲に溺れれば、一時だけでも苦痛を忘れられるからなのか、それとも、世界の狂気に犯され、繁殖欲が魂に刻みつけられてしまったせいなのか。  正直に言えば、どちらでも良かった。 私を求めてくれるなら、それ以上の悦びはないのだから。 「あっ…ふぁっ…♥」 びゅるびゅると胎内に吐き出される熱に強烈な多幸感を得る。 頭では、理解していた。 弱っている彼につけ込んで、彼を独占しているだけだということが。…私が身を引き裂かれるほどに恐れたことを遂にやってしまったと、頭の隅では解っていた。 しかし、下腹に燻る火は、そんな後悔、自責、その他諸々を焼き付くして余りあるほどに熱かった。 ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★ 「ねぇグリム?童話を読むのもいいけれど、偶には詩が聞きたいな。」 光指す庭、置かれた机。席につくのは2人と1匹。 「よろしい、それでは私達の冒険、邪竜を狩ったその顛末、それを一つの詩にして捧げよう。題するなら、そうだね…『ジャバウォックの詩』」 お茶を飲み、お菓子を食み、日がな一日、詠み踊る。 「ふむ…リズム感はあるけれど、少々造語に頼りすぎるきらいがあるね。」 彼が歌い、彼が批評し、私がただ聞き惚れる。 最初から解っていた。これは夢だと。他ならぬ私が壊した、過去の残滓だと。 それでも、嗚呼、なんて暖かいのだろう。身に纏うエプロンのドレスに触れる。世間一般の、『アリス』から抽象化された衣裳 ガワのガワにして、女の子的にはいちばん大切なもの。顔貌は這い寄る者に奪われても、この服のオリジナルだけは、今でも密やかに所有している。 せめてアリスだったころの思い出は、彼と愛し合っていた時の形見は、私だけのものにしておきたかったから。 「ね、グリム?ウサギさんの居ぬ間に…いいでしょ?」 アリスの顔をした私が、愛しき彼に顔を近づける。彼は困ったように微笑むと、私に唇を寄せ…  ──プリケット。 「……ぅあっ?……ごめんねっ☆」 頭を振り、呆けた意識を取り戻す。微笑みとウインク、それから彼に唇を落とした。 彼の肉棒に。 「はむっ…ちゅ……ん……れろ……」 舌を這わせ、唾液を塗す。竿を握り上下にしごくと、少しずつ硬度を増していった。口いっぱいに広がる雄の臭い。脳髄を溶かす麻薬のようなソウルの味。 最後に唇同士でキスをしたのは何時だっただろうか?もう、遠い昔のこと過ぎて忘れてしまった。 グリムを私室に招いてから…いや、軟禁してから幾星霜。彼の精神状態はちっとも良くならず…性的な要求ばかりが日に日に過激になっていく 勿論、私は拒まない。彼が求めてくれる限り、いくらでも応えよう。 だから今日も。彼の望むままに、私は振る舞う。 「んぶうっ!!??」 突然、頭を掴まれ、喉奥まで突き入れられる。噛まないように慎重に顎を開く。 「おぶっ!!ぐぽおっ!!」 そのまま前後に動かされ、呼吸も満足にできないまま乱暴に蹂躙される。頑張って舌を絡め、少しでも快楽を与えられるよう尽力する。 「げほっ!ぐえぇっ!……んじゅるるるっ♥」 嘔吐くが構わずに責め立てられ、最奥にドロリと精が放たれた。彼の快楽の証だ。 アイドルの大事な喉なのに…と思う反面、もう人前で歌うことはないのだからどうでもいいか、とも思う。あれから一度もライブを開いていない。集まってくれた信者の皆さんはどうしているんだろうか?退屈に膿んでいるのか、それとも死んでしまったのか。 まあ、そんなものは最早どうでもいい。彼に愛を捧げられるのならば、私も、私の財産も、全て… 薄々、勘付いていた。彼を癒やしてあげることは叶わないと。こんなモノは、自分に課した罰に過ぎないのだと。 だが、しかし。彼に求められることが、彼に愛を捧げることが贖罪になるのなら……罰としては、素晴らしく有情ではないだろうか? ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★ 「痛っ!?……あはっ☆がっつき過ぎだって〜んぎっ…!」 彼が前戯をしてくれなくなった。唾液をたっぷり塗りつけたり、奉仕中に自分で慰めるなどして潤いを確保することにした。 ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★ 「あはははは…じゃ、じゃ〜ん…☆プリケットのぼでーはいつでも準備おけーですっ☆きゃっ♥」 アイドル衣装を脱がすのに苛立ちを隠さなくなってきた。どうせ不要なのだから、この際脱いでしまおう。裸を晒すのに、今さら抵抗感もないし。 ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★   「あ゛がっ……ご、ぶっ……♥」 行為中に首を絞められた。ふわふわと不思議に良い気分だった。身勝手な言い分だとは分かっていても、彼が私に罰を与えてくれるということが、それが彼の快楽にもなるということが、無性に嬉しかったから。 ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★ 「ぜぇ……っ♥はぁ…っ!はぁ…っ!」 足腰が立たず、ベッドに倒れ伏した私を尻目に、グリムは衣装棚を漁っている。乱雑にものを引っくり返す音が、いやに精神を掻きむしった。 やがて、彼は目当てのものを見つけたようだ。クローゼットの片隅に丁寧に畳んで隠されていた『それ』を暴く。青と白を基調にしたエプロンドレス。私自身の形見。引っ張り出されたアリスの服を引っ掴んだグリムが、ゆっくりと近づいてきた。 その目に性欲を滾らせて。 「嫌。」 何をするつもりか分かってしまった私の口が知らずに開く。グリムを拒絶したのは生まれて始めてのことだったが、構わず彼は歩を進める。 「やだやだ…っ!やぁだぁぁやぁだやぁだやぁだぁやぁだぁぁっ!!!」 どうにか逃げ出そうとするも、疲れ果てた身体では指先すらまともに動かない。あっという間に組み伏せられ、手足を絡め取られ、身動きが取れなくなる。 「やぁぁだぁぁぁあぁぁあぁやぁあぁぁあぁぁぁぁぁああぁあ!!」  泣き叫び、鳴き喚いても、グリムの力は揺らがない。じたばたと暴れる両腕は容易く掴まれ、万歳の形にされ、ゆっくりと衣裳を被せられていく。 「わ゛たしじゃない゛いいぃぃぃぃいみるなみないでみないでみないでぇぇぇぇえぇぇぇえぇっっっ!」 抵抗虚しく、アリスのガワのガワが私に被せられた。涙でシーツに池を作る私を無視し、太腿を掴んで割り開ける。 視界の端に、怒張した肉棒が見えた。 「いや゛ぁぁぁぁあ゛ぁあ゛ぁぁぁあ゛ぁぁあぁぁぁぁぁぁっっ!!!」 嗚呼、神様。 これが私への罰ならば。 貴女はなんて悪趣味な…… 【Punishment END】