夏。 世の学生達が大好きな季節。 けたたましい蝉の声が響き、太陽の光がより鋭く肌を刺し、様々なものに熱を伝えるそんな季節。 愛しの女性の苗字にも含まれている夏。 そんな季節に自分は─── (かこさんの、水着が見たい………っっっ) まるで夏の暑さにやられた様に頭を茹でらせていた。 切っ掛けは、師匠である美雨さんが見せてくれた少女時代のかこさんの写真だった。 幼くも主張する所は主張する女性らしさを感じさせるボディライン。 あどけなくも可愛らしい笑顔。 その全てが輝きを放つ写真は自分にとてつもない衝撃を与えた。 あの写真を見て以降───燃え盛る熱い衝動が自分の中で生まれ、暴れているのだ。 しかし……付き合って迎える初めての夏にいきなり海に誘うのは少し生き急ぎ過ぎてはいないだ ろうか? それも水着が見たいと言う不純な理由で。 何度頭を悩ませても答えが出せない自分は、行きつけとなっている馴染みのラーメン屋でその店 長と常連客のひとりである強面の男性に悩みを打ち明けていた。 「海……懐かしいね。私も昔はじんさんに水着を見せる為に何着も────」 「オマエの気色悪い四方山話などどうでもいい。さっさと去ね」 話を遮られた店長はハイハイ、といじけて厨房へと戻ってゆく。 店長の水着……塩顔のイケメンだからイカした水着でもアロハシャツみたいなイロモノな格好でも きっと似合うのだろう。やはりイケメンが最強か……と世の不公平に嘆いていたら、呆れた様な返 事が返ってくる。 「貴様は相変わらずつまらん事で悩む凡夫だな」 「ぼん……」 凡夫って…… 今どき他人をそう称する言葉には適しているのだろうか?いや、自分に限っては何も間違ってい ないのだが…… そんなどうでもいい事を考えてる自分を気にする事なく、強面の人は言葉を連ねてゆく。 「貴様の好いた女は、貴様の抱いた浅ましい欲を受け入れられぬ器なのか?」 「……え?」 「そも、己が欲し己が選んだ番に欲を抱くなど当たり前の事。それがどんなものであろうともな」 「満たしたければ満たせばよいのだ。貴様らの身の丈は貴様らしか測れん」 「つまり……?」 「何故困ってるんだい?彼のアドバイスはシンプルだよ」 強面の人の言葉に困惑していると、戻ってきた店長が味噌ラーメンを差し出すと共に声を掛け る。 「恋人同士もっといちゃつけってさ」 ワンコール。 ツーコール。 スリーコール目で聞こえる、愛しの人の声。 『もしもし……「」さん!最近暑いですね』 電話越しでも耳朶を震わせ、全身に浸透していく心地良い声。 自分は、この愛らしいひとの彼氏だ。 だからこそもっと見たい。色々な彼女の姿を。 そして、告げる言葉は決まっている。 「───あなたに、決闘を挑みます」 ────戦うしかない。 愛しの人の水着姿をこの目に収めるために。 「俺と一緒に、海に行きませんか」