彼の頭を穿った訳ではない
傍から見ている者が気づかぬ速度でトレーナーが首を動かしたのだ
「見ているんだよ、グラス」
「はい」
自らの薙刀を抜き放ったトレーナーがまるでクラウチングスタートの様に
その身を屈め、屈め…屈めて　そして足跡を残して、消えた
彼の直線状にあったのは覇王嵐であり
グラスワンダーの視線がそちらに移ると同時
竜巻が、文字通りに割れた
そして次の瞬間には薙刀を構えたグラスのトレーナーが出現し
中央から両断されたであろう覇王嵐は勢いを失い、そして霧散する…
「これが…」
「そうだ。ヒトでも風を切る事はできる」

グラスワンダーがトレーナーへと駆けていく
それは彼の無事を喜んでの事ではない
自らが目指す武、その高みへ近づく事への興奮が彼女を衝動的に動かしていた
いずれはその手で風を切る。そして…
彼女のウマソウルは集中し、形を成し
そして薙刀へと具現化したそれを構えたまま
雄叫びを上げて師へと斬りかかる

気絶した自らのトレーナーをオペラオーが介抱する傍ら
何もわかんない、といった様子で
風で頭をボサボサにしたマヤノトップガンがその光景を見ていた

マヤわかんないよ…

風を切るってそういう意味だったかな…

特に理由なく強いよなこいつ…

ここのトレーナーたちはどんどん人間離れしていくな…

今宵の怪文書は難しいな

「技の名は?」
「風を切る。ただそれだけの所作に名が要るのかね」
「然り」
刃を交える事数回合。気の抜けぬ死合いの中の気のおけぬ会話
「だが仮に君が俺を倒したのならその時は…風切越だな、グラス」
「つけてるじゃないですか、名前」
放った腹部への石突は照れ隠しか はたまた

風を斬り波を斬り山を斬る時初めて世界が斬れる

大地と海くらいは切れそうだしアバンストラッシュの完成だな

風切とは風を切ろうとして切る技ではない
研ぎ澄まされた一閃が無形の大気のうねりさえも捉え引き裂くようになっただけに過ぎない
目に見える竜巻を切ろうと気が逸るから切れないのだよグラス

オペさんにどんな危機が迫ったら全力で竜巻を呼ぶことになるんだろう

いや覇王だぞ
タイフーン位相手じゃないとオペラオーは満足しないさ

風を切った後には真空が現れていそうだな