盛大な拍手はいつまでも鳴り止むことのなかった。雷雨か嵐かと聞き紛うほどの。 顔ぶれも多彩だ――一国の大臣から一兵卒、学者に村人、果ては海賊まで。 そして皆、花嫁たちの華麗なるを見て、魂の抜かれたように呆けているのである。 式場の扉がばたんと大きな音を立てて閉じてから人々が我に返るまでの永い間、 彼らの目には、通り過ぎていった白い残像がくっきりと残っていたのであった。 ――だが誰も、新郎と新婦の数の同じならざることを見咎めはしない。 一対三、夫一人に妻が三人――人によっては眉をひそめそうなその様を。 衆目から離れた花嫁たちは、その白絹の装いもそのままに、夫となる青年に相対する。 四人の間に、特別な言葉は改めて必要なかった――生命をかけて世界を救った同士、 そしてまた、幾度となく若さに任せて身体を重ねた恋人同士であったから。 たとえば決戦の前夜に、冒険で疲れた肉体を癒やすための一夜に、 新婦たちの父や祖父の死んだ日に、彼女らのの心を慰めるために―― 彼が誰を選ぶか、というありきたりの悩みなどわざわざ問い直す必要もなかった。 新婦それぞれと新郎との間には、既に否定し難き愛の物証が生っていたし、 また新婦たちも、同じ男を好いた女同士で――あるいは血縁さえもそこにはあった。 邪悪に抗った戦士たちを父に持ち、無の力を得てなお蘇った仇を討ち滅ぼして―― 彼らの築いた平穏は、しかし父祖のように三十年かそこらで壊されてはならないものだった。 戦の中でもたらされた破壊と混沌は、世界の姿そのものを新たな形に定義する。 王を喪った城。武力の源の絶滅した城。否応なく発生したそれらの空白を、 誰がどのような形で埋めるか、そのことは世界中の人々にとって新たな悩みの種であった。 だがその問題が、今日の式典によって一気に氷解したのである。熱狂も当然であろう。 花嫁たちの白い肌よりなお白く、艶々とした布地は寝室の灯りに煌めいていた。 彼女らの装いが、人々の前に晒されたときとは僅かに違っていたことに気付けるのは、 まさにそこに同席する夫一人だけ。より美しく、より淫らに―― その差異点を、女たちはわざとらしく見せつける。彼の興奮を誘うために。 案の定、男は顔を真っ赤にしながらも、妻たちの誘いに乗って、 雛鳥めいて差し出された唇一つ一つに、丁寧に口付けていくのであった。 初めは紫の髪をした、一番年上の女から――甘えた舌使い、縋るような絡み方。 唾液の橋の切れるのさえ、彼女は切なく感じているようで、二度目の接吻をすぐねだる。 けれども、一人だけに構ってはいられないから――彼女の妹、桃色の髪の女の唇に、 男はさも当然、とばかりに舌を差し込む。ねちゃねちゃと水音が跳ねる。 羨ましそうにそれを見つめる彼女の姉は、口腔内に残った夫の唾液を舌で掬い集めて、 なんとも物足りなそうに、喉を鳴らして飲んでいくのだ。無意識に唇を触りながら。 二人目との口付けが終わると、新婦は新郎ににこり、と微笑みを投げかけた。 そして大人しく待っている最年少の三人目、金髪の眩しい少女へと、順番を譲るのである。 男と少女とは、ほとんど兄と妹のような気さくな間柄であった。 その祖父より直々に、孫娘を頼むと言われておきながら、こうして孕ませてしまうなど。 だが先に口付けを済ませた二人、姫と海賊とに生き別れた姉妹の父親からも、 娘たちのことを任されていて――肌を重ねたのであるから、一人だけ仲間外れにはできない。 若く活力に溢れた三人が、戦への癒やしを、あるいは逃避を求めて交わっているのに、 ほんの少しく年若いだけで、その一切から排除してしまったとしたら、 それこそ、息を合わせねばならぬ四人の絆に罅が入ることであろう。 親愛を示すような軽い口付け――それを何度も何度も、重ねては離れの繰り返し。 やがて全員と唇を重ねると、男は改めて三人の妻の前に向き直るのであった。 人前に見せた花嫁衣装は、それぞれに国の王女である彼女らの威信をも示すような、 貞淑さそのものであったが――今、夫の前に現れているものはまるきり違う。 胸元の布地が大きく取り払われて乳房が谷間ごとすっかり露出しているだけではなく、 長い白靴下で隠されていた太腿が、いや下半身がほとんど顕になった状態だ。 だが無闇に裸に近づけたのでもなく、むっちりと健康的な下半身の上に、 ほとんど透けるような極薄の絹を、ふわりと纏わせているのである。 そしてまた、乳房の突端――乳首の上には、乳頭の形がくっきりわかるぐらいの薄さ、 汗に湿って乳輪の赤みさえ隠せない絹の端切れがぺたりと貼り付けられている。 今にも剥がれ、ずり落ちてしまいそうなそれを花嫁たちは指でくいくいと触りながら、 彼に手づから剥がしてもらおうと、挑発を繰り返すのだ。 その誘惑にも、男は容易に乗らない。乳房をゆっくりと握り、揉んで指先を沈めながらも、 緊張と興奮とにふるふる震える乳首には、決して触ろうとはしないのだ。 甘い声が出る――三人のうちの誰だろう。切なげに夫を呼ぶ声がする――これも誰か? 彼が熱心に触るのはむしろ、胸よりも彼女らの腹部、大きく盛り上がった臨月胎である。 幾度となく互いの絆を確かめあった証、未だ平和が戻ってから日の浅いことを思えば、 どう計算してみたところで、三人が身籠ったのは旅の最中の何時ぞやになるのであった。 それを花嫁衣装――というには余りに淫猥に過ぎたが――の中にみっちり詰め込んでいる。 へその盛り上がりさえ見て取れるような立体的な膨らみを、男は丹念に撫で回した。 母を早くに亡くし、男手一つで育てられた彼にとって、肉親の情はとても深い。 それは新婦の側とて同じこと。二親の揃っていたものはおらず、姉妹と生き別れたものさえ。 彼ら四人にとって、自分たちの――父と母との愛を十全に注げる相手、 臍帯にて繋がれた我が子の存在は、平和の象徴という以上にずっと重いもの。 なぜなら彼らは、英雄の息子――あるいは娘として、これからの何十年かを背負うのだ。 その遥かに重い役目を担わせる前に、思いっきりの愛情を彼らに注いでやりたい。 未だ見ぬ我が子の姿を、決めてもおらぬその名を、四人は日取りを指折り待つのである。 けれどその撫で回す指付きに、男の本能、雌を貪りたいという獣欲もまた隠されている。 妻の胎の上をすりすりと手が這い回るごとに、愛撫されている彼女ら本人より、 男は鼻息をより激しく、荒くしていく。いよいよ我慢の限界が近づいたとき、 彼の指は、お預けを食わされてぴん、と固く立ってしまっていた乳首の上に伸びるのだ。 ぺりぺりと、申し訳程度の接着剤――汗が虚しくも剥がされて乳輪をそこに見せる。 白い肌の上に広がる暗褐色――桜色や桃色だった彼女らの乳首は今や、 妊娠によって色素を溜め込んで黒く、また広く染まってしまっている。 剥がした端切れの裏側には、汗と乳汁の混交液が塗りたくられていて、 その匂いと味とを、男は一人分ずつ嗅ぎ、舐めてみせるのである。 唾液にも濡れてべとべとの布地――それが夫の舌や鼻に触れているのを見ていると、 女たちは触られてもいないのに、実際に乳首を舐られているかのような錯覚を覚えた。 乳腺の中をむずむずと、白い溶岩が這い回っている――じんわりと、その突端が湿る。 乳房から起こった熱は、血流に乗って全身をどうしようもなく火照らせていく。 一番物欲しげに――今にも泣き出しそうな顔をしたのは、やはり紫髪であった。 彼女の豊かな乳房を、直にたぷたぷと捏ねながら敏感な乳首に、指で、ぴん。 びくり、と背を震わせる様子を見て、それが男装して海賊の頭目をやっていた女だと、 いったいどこの誰にわかるだろう?あの蕩けて媚びた声の情けなさといったら。 夫がずるずると下品に音を立てて彼女の乳首をねぶると、また新婦は達した。 絶頂による身体の強張りが解け、疲労に全身がくたりとなった途端、 男は羊の乳でも搾るかのような手つきで、ぎゅっ、ぎゅっと乱暴に乳房を握った。 愛する夫からの、強引な搾乳に女は怒りの声を上げるが――すぐに声は芯を失う。 がくがくと腰が蕩け、膝が笑う。快楽に身体が耐えきれていないためだ。 じわじわと乳輪に浮く乳汁の粒を、男は指で掬ってぺろりと舐めながら、 彼女自身の唇にも塗りたくり、己がどれだけ甘ったるい乳を垂れるかを教え込む。 そしてとろとろにほぐれた膣肉へ、駄目押しの挿入――一際甘えた声が出た。 口では夫に怒ってみせるものの、全くといっていいほど説得力はない。 身重の妻を気遣ってゆったりねっとりとした腰使いをする夫の背中に両手を回し、 脚をがっしりと彼の腰に巻き付け、唇を尖らせて口付けをねだっているからだ。 姉がそうして彼に甘える姿を、妹は微笑ましそうに見ている―― ぐっ、と押し込むような最後の一突きとともに男が妻の胎内に精を吐き、 酸素の一欠片までをも奪い合うような永い永い舌と舌の絡め合いを終えて身体を離すと、 不満そうな表情こそすれど、女の貌に怒りの色など微塵も存在してはいなかった。 まだ熱の残る腹部をぼんやり撫でながら一人目が余韻に浸るその横で、 金髪の――最年少の少女が夫の上に跨って自ら腰をくねらせていた。 幼さの残る顔と裏腹の、熟練の娼婦のように雄の性を知り尽くした腰使い―― それを、身体の小ささと軽さを活かして自在に実現してみせるのだ。 赤子の分の体重を加味しても、彼女の動きはなお軽やかに、鮮やかである。 射精したばかりですぐには動けないはずの男も、あっという間に元気を取り戻していく。 彼はただ、妻がうっかり姿勢を崩さないように手で支えてやるだけでよかった。 その尻に手を回し、細かった腰がいまやぱんぱんに膨らんでいるのを愛でながら、 彼女の導くとおりに――胎内に、どぷん、と精を吐いてやるのである。 二人を満足させたあと、男は残ったもう一人の妻をも喜ばせるために。 寝床にごろんと転がった彼女の身体に覆い被さる格好を取った。 そしてその両手、十本の指を己の十本と余すことなく絡め合いながら握り合い、 ゆっくりと、彼女の身体――赤子をも気遣いながら腰を動かし始める。 三人の妊娠発覚を機に、彼らの性交はこのようなものに自然となっていった。 ちょうど都合のいいように、三人ともが同じ時期に妊娠を彼に切り出したから、 一人だけが子を得られなくて焦ることも、あるいは逆に抜け駆けの形になることもない。 揃って孕んで――それにより必然的に同時期の出産を約束されたのだ。 彼が彼女らを纏めて娶ったのも、これまた必然のことであった。 一突きごとに息を一塊、吐いては吸っての繰り返し。速度や深さこそないものの、 お互いに具合を知り合った同士の、過不足ない性交がそこにはある。 妊娠前から二人は同じようなやり方を取っていたから、 速度を緩めた分だけ、絶頂に達するまでの時間が長くなってしまうようになったが。 ふうっ、と息が漏れ、彼女があと少しで達することのできるのが傍目にも明らかになると、 先に抱かれていた二人は、せき止められた川のごとくにすっと分かれた。 そして桃色の髪が、事態を把握せんと左右にぱさぱさ振られたのに合わせて、 彼女の両乳首を、ぱくりと咥えて啜り始めたのである。 予測不可能な刺激、両方の乳頭が左右でめいめいにねぶりあげられ、 ずぞぞぞと、赤子がそうするように好き勝手にしゃぶり、噛まれて歯型を残される。 あと少しで満つるはずであった快楽の器は、一気にこぼれだすほどに注がれてしまった。 びくん、と背を弓なりに。それでも足らずに、ぐにゃりと反りながら、指に力を込める。 だがその十本は、夫の十本にしっかり絡め取られてしまっており、 胸を啜る二人にも、駄目押しの抽挿を続ける夫にも、抗う手段を奪われている。 その上、酸素を求めて突き出した舌まで――彼の舌に捕まえられてしまっては。 また、びくんと大きな快楽の波が打ち寄せて――女の身体からはくたりと力が抜けた。 汗と精とに花嫁衣装を濡らした妻たちに囲まれながら、男は長く息を吐く。 彼を労うために、その胸板に何度も花嫁たちは唇を添え、赤い跡を残していった。 それに応えてやるだけの体力も残ってはいないから、緩やかに頭を撫でるだけで―― 日が昇り、暮れ、時が過ぎていけば――やがて彼らの子がそれぞれの国を背負うことになる。 男もまた、これまでのように気楽に旅を続ける生活はできなくなるだろう。 三人の妻の居所を巡って、子供らに父親としての情を注いでやらねばならぬのだから。 だがそれまでは――彼らはまだ、共に旅をした四人のままでいられる。 この時間が永遠に続けばいい――男はそう思った。 この子が早く生まれてほしい――女たちは思った。