「ネイト!セキュリティ復活まであと30秒!」 「ん、りょーかい」 サーバーを漁り、目当てのデータを探す。 「…あった!」 探していたファイルを無事に見つける、ファイル名は暗号化されているけど、ファイル本体よりはずっと緩い。 すぐに暗号化を解除して、目当てのファイルであることを確認する。 これは今回の仕事の『保険』だ。 「レナモン、そっちはどう?」 「前情報通り、向こうは『バード』が来た」 「一人で大丈夫そう?」 「当たり前だ、あんな図体相手に追いつかれるかよ」 「こっちは『保険』を見つけたよ、ランデブーポイントまで来て」 「おう」 よし、サーバールームのセキュリティが復活する前に、さっさと退散しよう。 ─ 「ネイト!セキュリティ復活まであと30秒!」 「ん、りょーかい」 オレは別行動中の相棒に、黙らせたサーバールームのセキュリティの限界時間を告げる。 おっと… 『ソニックデストロイヤー!』 ─パロットモン ワクチン種 完全体 巨鳥型 背後からオレを追う追っ手、パロットモンが高速で突進してくる。 「バカが、当たるかよ」 オレはビル群の壁を蹴り、反対側のビル群へ飛ぶ。 向こうは見事にビルの壁面に激突している、マヌケめ、その図体でオレを捉えられるわけ無い。 「レナモン、そっちはどう?」 相棒からの通信が入る。 「前情報通り、向こうは『バード』が来た」 『バード』、俺達と同じく、最近頭角を表してるとかいうクラッカー。 今回の仕事で積み荷の「護衛側」の仕事を受けたとかいう噂が流れていて、オレが他の護衛、多分適当に買い揃えたんであろうマシーン型とサイボーグ型デジモン連中を蹴散らした後、実際に後ろからバードラモンで不意打ちを仕掛けてきた。 …前情報通りだ、ある程度小回りがきくバードラモンで奇襲を仕掛け、その後パロットモンに進化して追撃する。 「一人で大丈夫そう?」 他の連中はどうか知らないが、ここ『9番街』でオレに追いつけるヤツなんてそうそう居ない。 機動力ならこっちが遥かに上だし、この複雑怪奇に入り組んだウォールスラム9番街の構造にだってオレのほうが詳しい。 第一 「当たり前だ、あんな図体相手に追いつかれるかよ」 あの巨体でここを飛び回るなんて愚策だ。 あちこちの建物にぶつかって、オレが攻撃するまでもなくダメージが蓄積している。 「こっちは『保険』を見つけたよ、ランデブーポイントまで来て」 相棒は用事を終えたようだ、こっちも時間稼ぎは十分だろう 「おう」 オレはぶん取った積み荷を抱え、合流地点へ向かう。 「だぁあぁぁぁぁ!!!『ミョルニルサンダー!!!』」 向こうは相当しびれを切らしているらしく、狙いも付けずに雑に電撃をばらまく。 もちろん当たるわけがない。 ─ 「レナモン!」 迷路のように入り組んだビルの谷間から、「黒い影」が表れる。 ─レナモン 『ウイルス種』成長期 獣人型  私の相棒、「黒い」レナモン。 どうやら私の相棒は結構な特異個体らしく、通常種の黄色いレナモンとは差異があるらしい。 まず体色が一目で分かる通り「黒い」 体型も全身にだいぶ筋肉があって、元のレナモンの「細身」のイメージとはかけ離れている。 攻撃方法が一番差異があるかもしれない。 通常種のレナモンは木葉を使った幻術とか投擲が得意らしいが、相棒はそれは苦手らしい、本人が言っているんだからそうなんだろう。 その代わりに「炎」を使うことに長けている。 『狐炎脚!』 ちょうど今みたいな、脚から炎を吹き出してブースターとして利用するように、発生させた「炎」を自在に操るのが相棒の得意技だ。 「レナモン!こっちこっち!」 「ネイト!掴まれ!」 炎を吹き出しながら猛スピードで私に向けて突っ込んでくるレナモンに、すれ違いざま手を触れる。 体に触れるだけでいい、それだけでレナモンのデジコアへ、私と『保険』が格納される。 ただデジコアに戻るだけならホロライズを解除すればいいけど、他のデータを格納したいなら直接レナモンの体に触れる必要がある。 合流地点を設定したのはそのためだ。 視界が私の体、つまり「人間」のものから、「レナモンの視界」へ切り替わる。 『マインドリンク』 人間の精神データをデジモンのデジコア内部へ格納し、デジモンの五感を通して、本来人間には単なるプログラムのコードとしか認識できないデジタルワールドを「知覚」する技術。 この「マインドリンク」は元々あのAE(アバディンエレクトロニクス)社が開発した極秘の技術だったが、「ある事件」によって流失し、今では私のような「そのへん」のクラッカーが平気で使っている。 「さてと…」 デジコアに戻った私は、デジコア内部に仮想的に作った「コックピット」に座り込み仮想ウィンドウを立ち上げる。 他のデジモンがどうだか知らないが、機動力を活かし3次元起動をするレナモンと視界を共有するなら、立っているよりこっちの方が良い。 ウィンドウからMAPを立ち上げ、依頼人の指定したピックアップポイントまでのルートを設定する。 「うげっ」 「どうした」 「…指定ポイント、九狼城の近くだよ。」 「『9番街の主』の根城か、そりゃあ近づきたくねぇな」 ウォールスラムはいくつかの地区に別れている、そのうちの一つ、9番街が今私達がいる場所だ。 その中心部「九狼城」に住むという9番街の主、「フェンリルガモン」 フェンリルガモンは単に究極体レベルのデジモンというだけではない。 あのクラッカーチーム、SoC(サンズ・オブ・ケイオス)のリーダーのデジモンと噂されている。 そんなヤツの根城にわざわざ近づきたくはない。 …たとえSoCが「古巣」であっても。 『ソニックデストロイヤー!』 おっと、コイツらのことを忘れていた。 「おいネイト、この辺り一帯はある程度開けてる、今までほど躱すのはラクじゃないぞ」 「そうだね、…じゃあそろそろ」 「ハァ…ハァ…やっと追いついた…」 パロットモンから男の声が響く、中のクラッカーがホロライズせずに仮想的なスピーカーから声を流しているんだろう。 ついでに奥の方からオーケストラだかクラシックだから知らないが、何かの曲が聞こえる、多分『バード』がBGMでも流しながら私達を「狩って」いたんだろう。 仮想ウィンドウを操作してこっちも外部スピーカーをONにする。 「ッ…!『ブラックフォックス!』ようやく追い詰めたぞぉ!」 『ブラックフォックス』それが私の、いや、「私達」のクラッカーとしてのハンドルネームだ …ところでハンドルネームのハンドルってどういう意味でハンドルなんだろう? 今まで当然のように使っていたけど気にしたこと無かった。 まぁいいや。 「追い詰めた、ねぇ…、成長期一体相手に完全体でここまで振り回されといてよく言うね『バード』さん」 「あんだとこのガキ!」 うん、いい感じに頭に血が上ってる。 これならまぁ、負ける要素はない。 「ちょこまか逃げ回りやがって!ここには隠れる場所なんてねーぞ!」 「そうだね、追いかけっこはもう終わりにしようか」 私は左腕に巻き付いた「デジモンリンカー」を構える 「行こう、レナモン」 「おう」 ─レナモン進化! レナモンの全身が、自身の操る黒い炎に包まれる。 そのまま燃え上がって巨大化していく黒い炎の中から、四ツ足の獣が姿を表す。 ─キュウビモン ウイルス種 成熟期 妖獣型 レナモンの進化した姿、「黒い」キュウビモン。 ウイルス種のキュウビモンなら「ヨウコモン」という亜種が居るらしいが、解析データにキュウビモンと書いてあるんだから「キュウビモン」なんだろう 「進化したって!所詮は成熟期!」 『ミョルニルサンダー!』 パロットモンの頭部の羽根から、キュウビモンに向け電撃が放たれる。 「真正面からそんなの撃っても当たんないよ」 『鬼火玉!』 キュウビモンの9本の尻尾全てから炎が吹き出す、やっていることは先ほどと同じ、操る炎をブースターとして使う高速移動だ。 でも今度は脚だけじゃなく尻尾全てをブースターとして使う、速度はさっきの比じゃない。 ブースターを吹かし、電撃を横滑りするように移動して躱す。 「だぁぁぁぁ!ちょろちょろと鬱陶しい!」 「そんな事言われても、私らのウリはスピードだし」 よし、そろそろこっちも撃ち返そうか 『鬼火玉!』 今度は尻尾からでなく、「何も無い」空間から炎を出現させる。 …というか鬼火玉っていうんだから本来こっちが正しい使い方なんだろう。 そうして発生させた鬼火を上空のパロットモンに向けて放つ、炎の弾幕だ。 「ちいっ!」 今度は向こうが避けて回る番だ。 「だぁぁぁぁ〜ちょろちょろと鬱陶しい〜」 「真似すんなクソガキ!『ミョルニルサンダー!』」 おっと、電撃で相殺し始めた、当然完全体の向こうが攻撃力で勝っているのでこちらの炎は簡単にかき消される。 流石に完全体ともなると一筋縄では行かないか。 まぁでも、そろそろだろう。 突如として向こうのスピーカーの奥から、警告音が鳴り響く。 「っ…!Kライン警告!?」 やはり、限界が近かったか。 マインドリンク、デジモンを通してデジタルワールドを体感できる技術。 しかし当然そんなものを何のリスクもなく使えるわけがない。 マインドリンクには、限界時間が存在している。 細かい説明は省くとして、一つが今男が達したKライン、これはいわばイエローラインで、限界時間が近いことを警告するラインだ。 このKラインを超えてマインドリンクを続けると達するのがLライン、こちらはもう完全にアウト、これを超えたら精神データがデジコアに癒着し、現実の肉体に戻れなくなる。 そうなったらDMIA(Digital Missing In Action)として行方不明、意識不明者のリストに名を連ねることになる。 …なったらマシな方で、私達クラッカーみたいなロクデナシは大抵、誰にも発見されずに孤独死として処理されて終わりだ。 「あったりまえじゃん、そっちはずっと完全体維持してたんだから」 マインドリンクの限界時間は、デジモンのレベルが上がるに連れて短くなっていく。 すぐに完全体に進化したままレナモンと追いかけっこしていた向こうと、成長期のまま逃げ回っていたこちら。 当然、限界は向こうのほうが早く訪れる。 「チッ…」 さて、どう出るか… 「パロットモン!撤退すんぞ!」 「…いいのか?」 今まで沈黙を続けていたパロットモンが口を開く。 「『トニック』はこんなとこで使えねぇよ」 「…分かった、依頼は失敗で報告するぞ」 パロットモンがバードラモンへと退化する。 …戦闘は終了だ。 よかった、流石に「トニック」を使われたらまずかった。 こっちも完全体まで進化したら勝てるだろうけど、今回の仕事はコイツの討伐じゃない。 まだ指定ポイントまで距離があるのに力尽きるわけには行かない。 「おいクソガキ!…いや『ブラックフォックス』!てめぇの名前覚えたぞ!この借りは必ず返す!」 「うん、ちゃんと名前を覚えて『ブラックフォックス』に負けましたって宣伝してね」 「んだとてめぇ!!」 「もう帰るぞ」 バードラモンのクチバシに服の袖を掴まれて『バード』は撤退した。 さて 「行こっか、キュウビモン」 「もう追っ手は居ねぇ、このまま飛んでったほうが速いぜ」 「おっけー」 キュウビモンの尻尾から炎を吹かそうとしたその瞬間。 「よっす!」 ふいに現れた、『男』から突然挨拶された。 「……誰?」 一応、ホロライズして「外」に出る。 まぁ最低限のマナーと言うか、敵かどうかわからないんだからとりあえずは「顔」を見せるべきだろう。 「あー、おれ?」 「おれはエイジ!こっちは相棒のルガモン!よろしく!」 「よう、俺様のナワバリで派手にやってるな」 名前と連れているデジモンを見た瞬間に背筋が凍りつく 誰?なんて聞いてる暇があったらさっさとGriMM (グリム)を開いて相手の名前を確認するべきだった。 そうすればギリギリ逃げ出せていただろう。 エイジ、「ナガスミ エイジ」 そしてその相棒、魔狼「ルガモン」 クラッカーチームSoCのリーダー、「タルタロス」だ。 「…あの『タルタロス』様が私に何の用?」 できれば「根城でのんびりしてたらよそ者が派手に暴れていたので様子を見に来た」であって欲しい。 そしたらなんとか?ギリギリ?ごまかして逃げられるかもしれない。 「うん!実はさ、キミ達が持ってる…あ、キミ名前は?」 「『ブラックフォックス』…今はフリーでやってるよ」 「キツネちゃんか!よろしくな!つーかキミの相棒のキュウビモン!珍しい色じゃん!かっけー!」 「キ、キツネちゃん?」 いきなりあだ名を付けられて虚を突かれる。 「それでさ、君たちの持ってる「ソレ」なんだけど」 来たか、本題 「ソレの中身ってさ!ガチでヤバイヤツなんだよ!だから…」 「おれ達に渡してくれない?」 …なんだ、「ガチでヤバイヤツ」って 語彙とか以前に、何かを強奪してこいなんて依頼は、ことごとく荷物は「ヤバイ」やつだ。 そうじゃなきゃクラッカーを雇ったりなんてしない。 第一、中身が危険だから何だって言うんだ。 重要なのは報酬額と、予測される敵戦力と、通るべきルート、そして報酬額だ。 中身が何かなんて知らない。 然るべき報酬が支払われるんだったら私は仮に中身が核弾頭だって運んでやる。 「…やっぱりこれが目当て?」 「うん!…ルガモン、オマエなにやってんの?」 向こうの相棒「ルガモン」がフリフリと動くキュウビモンの尻尾を目で追っている。 今にも飛びかかってじゃれつきでもしそうだ。 「エイジ、あいつなかなか良い尻尾してるぞ。」 「…オマエやっぱ犬じゃねーの?」 さてと 積荷を渡せか。 当然答えはNOだ。 「それで…この『ガチでヤバイヤツ』を渡したら、代わりに私に何をくれるの?」 「え?…あー、考えてなかった!」 ふざけてるのかコイツ? 「んー、じゃあメシでも食いに行こうぜ!オレのおごりで!」 「あとはそうだな…」 「キミフリーでやってるって言ってたけどさ、ウチ、SoCに来ない?」 「っ…」 おいおい、前者と後者の落差がとんでもないぞ ちょっとメシでも奢ってやる、とデジタルワールドトップのクラッカーチームへの招待状、しかもリーダー直々の。 その価値は宝クジの6等と2等ぐらい違う。 「再び」SoCに入る、か。 うん、やはり答えはNOだ 受ける前ならともかく、仕事中により良い条件を提示した方に寝返っていては、あっという間に信用は地に落ちる。 「ヤダって言ったら?」 「もちらん!…力づくで持ってく!」 隣のルガモンが臨戦態勢に変わる。 「ルガモン!進化!」 小さい狼、だったルガモンの姿が変貌していく。 自身の操る「魔炎」を吹き出しながら一旦、キュウビモンと同じくらいの大型の四足獣になった後、「もう一段階」姿を変えていく。 二足歩行する人型へ、そして吹き荒れていた「魔炎」が肩の部分へと収束する。 呪われた「魔炎」を自由自在に操る「魔術師」 ─ソルガルモン ウイルス種 完全体 魔獣型 一気に完全体まで進化された。 逃げ場はどこにもない、やるしかない。 「キュウビモン、限界時間は?」 「『バード』が思ったより早く引いた、余裕はあるぜ」 「じゃあ、やろっか」 「おうよ」 「キュウビモン!進化!」 キュウビモンの体躯が一回り大きくなり、全身に真鍮色をした特殊金属「ブラスデジゾイド」が装着されていく。 その中でも尻尾全体を覆い尽くす大型の部品、これは単なる装甲じゃない、キュウビモンの鬼火を無限の燃料とした「蒸気機関」だ。 それらは装着された瞬間から燃焼を初め、直ちに全身に「蒸気」が充填されていく。 それと同時に、仮想コックピット内のウインドウに新たな表示が追加される、全身に張り巡らされた蒸気配管の圧力計だ。 全て正常値、コンディショングリーン。 最後に前脚部に大型の実体刃が取り付けられる、これがメインの武装になる。 そして今まで全身から吹き出していた炎の代わりに、今度は噴出孔より蒸気が吹き出し、水蒸気が周りを白く染める。 ─スチームキュウビモン ウイルス種 完全体 古代サイボーグ型 『イラプションハウリング!』 ソルガルモンが手に持ったメイスから、魔炎の刃を形成する。 だったらこっちも「剣」で勝負してやる スチームキュウビモンの前脚のブレードを展開、そして噴出孔より過熱水蒸気を当てて刀身を過熱する。 敵を溶断する、赤熱剣の完成だ。 『スチームヒートブレード!』 「ネイト、作戦は?」 「ない!正面からたたっ斬る!」 「お前…『バード』と大差ないぞ…」 「とつげーき!!!!」 体の背面にある噴出孔から、高圧の蒸気を一気に吹き出す、真正面への全速力の突撃。 向こうの構えは…多分カウンター狙いだ。 やってやろうじゃないか「タルタロス」 あの『扉』の向こうに行って生還した唯一の者たち その伝説に挑んでやる。 デジタルワールド「表層」ウォールスラム9番街。 今「魔狼」と「妖狐」が激突する。 …結果? もちろん瞬殺だ 私達が。 ─ 「「かんぱ〜い!」」 ここはデジタルワールドじゃない、現実世界にある私の家のリビングだ 私の向かいにはホロライズしたレナモンが座っている 今日はささやかな祝勝会ってやつを開いていた。 乾杯、とは言ったけど、酒にあたるプログラムを接種しているのはレナモンの方で、私のは雰囲気のためにジョッキに注いだだけのただのコーラだ。 …先日の戦いを思い出す、見事に瞬殺…いや瞬殺じゃない、ぜったい途中までは互角だった。 いい感じにソルガルモンと剣戟を交わしていたうちは良かったものの、ほんの一瞬向こうの姿が消えたと思ったら、次の瞬間にはスチームキュウビモンは真っ二つにされていた。 戦闘ログに残された、かすかな残像。 解析不能なほどごく僅かな時間だけ記録されたこの姿こそ九狼城の主「フェンリルガモン」だろう。 これが「究極体」の力。 私は「2度」その恐ろしさを目の前で味わった。 でも、今は前ほどのショックはない。 今の私、いいや『私達』はいつかあの高みにも手を伸ばすって、そんな気がする。 …これも違うな、「絶対に手が届く」だ。 「しかしまぁ、依頼人もだいぶ奮発してんな、『半分』は失敗だってのに」 レナモンがツマミの肉を齧りながら言う 「そうだね、遅刻分を引いても成功報酬の4割だもん」 あの戦いの後、レナモンだけはデジモンリンカーのセーフティのお陰でデリートされる前にログアウト出来たけど、運んでた荷物は結局横取りされてしまった。 それでも今日「祝勝会」が開かれているのは、依頼が「半分」成功だからだ。 今回の依頼内容は正確には「輸送中の積荷の強奪、もしくはその研究ファイルの奪取」 この内前半は見事に失敗、けど後半部分は別行動した私が達成していた。 だから報酬は完全達成時の半分…遅刻分を差し引いて4割が支払われた。 4割でもそれなりにまとまった額なので、こうして一夜限りの豪遊をしているわけだ。 …「タルタロス」が直接奪いに来るほどのデータ。 異様に金払いの良い依頼主。 ……まぁいい、和達クラッカーが運ぶ荷物なんてすべからくロクでも無いものだ。 そんなことより今はこの「フルカスタム宅配ピザ」を堪能しようか。 ─ 強制ログアウトの後、依頼人にトラブル発生の連絡を取った直後、向こうから引き渡しは後日という連絡が返ってきた。 今日はその受け渡しの日だ。 「中身見てないですよね?」 「見てないって…ちゃんとソレ用のプロテクトもかかってるでしょ」 「心配ならここで開けて確認しなよ…」 「……えぇ確認できました、すみません…本当にウチらでも機密中の機密なもんで…」 明らかに着慣れてないスーツを着た依頼人が、やたらと下手に言ってくる。 剃り残したヒゲ、クマだらけの目、ボサついた髪、多分研究職だろう。 強引に会社員らしい体裁を整えてやってきた、ってところか。 クラッカーではない、でもこうしてマインドリンクしてデジタルワールドに立っている。 まぁそこまで珍しいものではない、クラッカー達が支配する無法地帯のデジタルワールドにも「企業」は参入してくる。 積荷の中身を研究してた企業間の抗争。 今回の仕事の背景はそんなとこか 「では報酬ですが、契約通りデータのみの受け渡しなので、完全達成時の半分、ですが」 「え」 「あのタルタロスに襲われた、その事情はお察ししますが…すみません、これも契約なんで」 「遅刻分を引いて、本来の4割とさせていただきます」 「ぐっ…」 仕方ない、多分コイツ相手にゴネても意味はない。 間違いなくサイフを握っているヤツじゃない。 「……分かったよ、それでサインする」 「助かります、それではまた、『ブラックフォックス』」 「うん…じゃあね」 『ダイバニッシュ』 今のは多分「エスピモン」だ、高いステルス能力を持つ上にサイボーグ/マシーン系デジモンで「扱い」易いからよく使われる。 どこかに潜んでいたんであろうエスピモンのダイバニッシュに包まれて依頼人は姿を消した。 「帰ろ…」 ─ 確かに、ファイルの中身は見ていない、けどファイル名は見た。 じゃなきゃ目的のファイルかどうか判別できない。 『GRB(Gulus Realm Brust)因子』 それが、ファイル名だ。