もうすっかり日が沈んで、バーベキュー会も「夜の部」が始まった。 キャンプファイヤーを囲んでどんちゃん騒ぎしてる連中から少し離れた場所、あぁいう大騒ぎはちょっと…という層が少数グループに別れてそれぞれ焚き火を囲んでいる。 …なんか昼間も似たようなこと言ったな。 知らない間に水着に着替えている「ナンバーズバスター」となんか全身に浅めの傷がある「根布谷 シンジ」 なんだかんだいつもの3人で固まって、とりあえず誰ともなく焚き火でマシュマロを焼き始めた。 そして話題に上がるのは当然、俺の行き先だ。 「さてと…」 「何があった?」 思わず苦笑する、「何処に行ってた?」じゃなく「何があった」か。 あれだけ行くのを渋ってた奴が勝手にどっかに行った、ではなく、「何か」があって何処かに消えてたと認識されている。 なんとまぁ、信用度が上がったもんだ。 「何があった、か…」 結局のところ、なんで俺が二人に別れたのか、それは分からない。 あの後『俺達』は一つに統合され、『どちら』の記憶も取り戻した。(ついでに使ってたデッキも) しかし肝心の俺が2つに別れる瞬間の記憶は、どちらも持っていなかった。 気がついたら片方はメタルティラノモンに追われ、 もう片方は一人でデジタルワールドを彷徨い始めていた。 第一、なんで俺は自分同士で戦っていたんだろう。 自分自身が消えることに本能的に恐怖した? …違うな、そんな感じではない。 こうして一つに戻って見ると、本当に無意味な戦いをしていたのだと思う。 別に勝ったほうが体の主導権を握っている、とかでもない。 どっちが勝とうが負けようが、「肉体」と「アバター」、2つのデータは統合され今の俺になっていただろう。 例えるならなんだろう、…分割された圧縮ファイル? 容量の大きすぎるデータは分割されたファイルにされて、元のデータに戻す時は全てファイルを揃えてから解凍する。 そのとき、重要なのは解凍された元のファイルであって、分割された圧縮ファイルのどれが本体だ、なんてないだろう。 (解凍作業をするときには大抵ファイルの一個目を指定するだろうが、分かりやすいからであって別にどれだって良いはずだ) だからきっと俺だってどっちが本体、なんて無い。 と思う、多分。 そんな感じのことを掻い摘んで二人に話す 「突如現れた自分自身と戦った?」 「それって…」 「「怪談?」」 「は?」 …言われてみればその通りだ、ドッペルゲンガーだか生き霊だか知らないが、怪談話にはもってこいの内容だろう。 「いやマジの話なんだが?」 「そう言われても」 「見た目前と変わらないじゃない」 「一体森で見た自分自身ってどんな姿だったんだ」 「ぐっ…」 仕方ない、俺はD-STRAGEを操作してアバターメニューを呼び出す。 …今まで開かなかったメニューが、無事に開く。 細かい操作はいらない、デフォルトアバターに戻すボタンを選択するだけですべて終わる。 「着替え」に特にエフェクトだのは出てこない、一瞬でデフォルトアバター、つまりリベレイターにログインした直後、現実世界での姿に切り替わる。 「こんな姿だったぞ…」 「怪談」らしいのでちょっとそれっぽく言ってみる。 「「…」」 「なんだかこう…」 「大分縮んだな」 「ぐえっ…」 ひ、人がそこそこ気にしていることを! 「なんだとぉ…、クソッこうなったらデジカでケリ付けてやる!」 二人が俺に合わせて立ち上がる。 畜生アバターを戻したせいで俺が見上げる形になってるぞ… 「そういうことなら、俺も遠慮なくヌメウッコを使わせてもらおうかな」 ニヤリ、と笑いながら言う。 「上等だ!今日こそヌメウッコをぶち抜いてやる!」 「頑張ってね〜」 ナンバーズバスターとアルフォースブイドラモンが焼き上がったマシュマロを頬張りながら「観戦モード」に入っている。 「ジョン、まずい、早く決着を付けないと俺達の分のマシュマロがなくなる」 「くっ…行くぞ!」 「根布谷 シンジ!」 「ジョン・ドゥ…いや!比良坂 櫂理!」 お互いに名乗りを上げる、もちろんこの行為に特に意味はない。 「セキュリティシールド展開!(エクステンド)」 「戦闘開始!(デジタルゲート、オープン)」 あぁ、そうか。 何故俺が俺自身と戦おうとしたのかようやく分かった。 理由なんて無い、ただ戦いたかったんだ。 今もそうだ、二人だって本気で俺の容姿を侮蔑したわけじゃない。 俺だって二人に本気でケンカ売ってるわけでもない。 ただそれを口実にデジカで戦いたいだけだ。 あのときも同じ、特に理由なんて無いが、自分自身と本気で戦いたかった きっと、それだけのことだ。 俺と『俺』が統合される直前 向こうの俺が残した最後の言葉だけがずっと頭の奥に突き刺さっている。 ─お前の居るべき世界は本当にこっちでいいのか