リョウスケの研究室は、無数の電子機器とスクリーンに囲まれ、落ち着かないな雰囲気を漂わせていた。壁にはデータが絶え間なく流れ、静かな電子音が響いている。コンソールに表示されている映像は、サンドリモンの使い魔達の視界とリンクしており、常にデジタルワールドの監視風景と、研究室で実験中のデジモンが映し出されている。 シャペロモンは、ティーテーブルに散らばったカードを睨みながらリョウスケの言葉を待っていた。 スタートデッキ童話の舞踏を使用したミラーマッチでシャペロモンは負け越しており、既に10戦2勝8敗。そろそろイカサマを疑っている頃だろう。 リョウスケは、電子データの端を指でスライドさせながら口を開いた。 「シャペロモン、結婚式とは、まるでシェイクスピアの劇の一幕のようだと思わないか?純白のドレス、華やかな飾り、そして偽りの誓い。」 シャペロモンは、冷ややかに笑いながら答えた。 「アナタの言うことはいつも大袈裟ね。でも……結婚式には何か特別な魅力があるわ。特に花嫁が純白のドレスを纏って、皆に祝福される姿なんて、まるで夢のよう。その瞬間は童話で見たお姫様になれるんだもの」 リョウスケは、ふとシャペロモンに視線を向けた。 「ああ、君もそんな夢を見ているのかい?君の舞踏会は苛烈でとてもお姫様だなんて口が裂けても言えなかったが」 シャペロモンは、リョウスケの嫌味に目を細め、遠くを見つめながら呟く。 「それにしても、オキグルモンにお祝いを贈っておいて式に行かないのはアナタらしくもないわ。だって“あんな物”送りつけるなら結果を見たくて冷やかしに行くと思うもの。結婚式に出席しないのは何故?」 リョウスケは一瞬の沈黙を置き、再びコンソールを眺めた。画面上にはロードナイト村で警備員をしている妹の姿や、自分の預かり知らぬ所で誕生したもう1人の妹の姿が映っていた。 リョウスケはコーヒーカップを手に取って啜った。 「呼ばれてもいない結婚式に行くなんて、余程暇だと思われるだろう。」 その一言に、シャペロモンは呆れた表情を浮かべた。 「アナタって、結局妹達と顔を合わせるのが気不味いだけでしょう?情けないったらないわ。とっくに無量塔じゃないのにいつまでも無量塔を名乗ってる所とかも本当に女々しいし未練がましい。」 「流石私を一度殺してくれただけはある。全く遠慮というものが無くて涙が出てくるよ。」 シャペロモンの嫌味など全く気にしない様子のリョウスケは、ティーテーブルのカードに視線を落とすと、サンドリモンを使ってダイレクトアタックを決めた。こうして11戦2勝9敗となり、シャペロモンの機嫌は益々悪くなるのだった。 この後、無量塔は機嫌を取る為にビーチへ赴く事になった。