ロードナイト村のブライダルイベントがもう間もなく終わろうという頃。 一人の男と一体のデジモンが村を訪れた。 出産で未だ村から離れられない名張家、その長女の一華を訪ねてきたのである。 「やあ、久しぶり。元気だったかい、お嬢さん?」 「ボーフ!」 「鵜戸三佐!それにブルーちゃん!」 陸上自衛隊Dレンジャーズ隊長の鵜戸とそのパートナーデジモンであるコモンドモンである。 このコモンドモンはブルー少佐という愛称で呼ばれていた。実際の階級は三佐扱いである。 「これがガードロモン専用デジメンタル統合運用システムを別のデジメンタルに落とし込んだものです。」 頑丈そうな金属製のトランクケースを軽々と持ち上げながら一華が説明する。 「これを使えばブルーちゃんもわたしと同じようにアルティメットガードロモンのフルスペック運用の統合管制ができるはずです。」 「ボフ!」ブルー少佐は人の言葉を話すことが出来ない。鳴き声で返事をする。 「このトランクにはお願いされてた特殊デジメンタルも入っています。現状は6つが運用可能です。」 そう話す一華の表情は暗い。目ざとい鵜戸はすぐに気がついた。 「どうしたんだい、君らしくないな?前だったらこういう事をすごく嬉しそうに説明してたじゃないか?」 「……わたし、デジモンのみんなで実験みたいなことはもうしないって決めたのに、またこんなことを。」 「それは違うよ一華君。私達にとってそれが必要な物で、それを作れるのが君しかいなかった、それだけの話さ。」 そう言って一華の頭を鵜戸は撫でる。 「私もブルーも、そしてガードロモンの皆も君に感謝している。その事を忘れてほしくはないし、無かったことにするのは彼らに対しても失礼だよ。」 「……はい、そうですね。わかりました。」鵜戸の優しい言葉を一華は肯んじた。 「この特殊デジメンタルを使えばブルーちゃんをアーマー進化で昔の姿に戻すことが出来ます。」 一華は説明を続ける。 「リバースコンバートによる実体化と違いデジモンとして戦うことができるので、鵜戸三佐のデジヴァイスで各種プラグインが使えるようになります。」 「それはありがたいな。」 「……正直に言って、いまだに信じられません。どう考えても現代の科学力を大きく超えています。」 「……私達の出自は、蔵之助君から聞いているのだろう?それに君も一つは直接見たじゃないか?」 「それは……そうなんです、けど。」 「ボフボフ!」ブルー少佐が巨大な顔を一華に擦り寄せてきた。 「あっ、ちょっと、ブルーちゃん!……心配して、くれてるの?」 「ほら、ブルーも心配するなと言ってるよ。」 鵜戸はしゃがんで一華に目線を合わせ、また頭を撫でる。 「あんまり不安そうな顔をするものじゃないよ。モニターの前のみんなだって不安になってしまう。」 「何ですか、それ……意味分かんないことばっかりなんですよ、鵜戸三佐は……」 すこしはにかみながら、一華は撫でられた髪の毛を両手で抑える。 「もうこうしてあげられるのもこれが最後でしょうね。次会った時の君は人妻だ。これからは素敵な旦那様にいっぱい撫でてもらうといい。」 「はい、そうします!」鵜戸の言葉に、一華は今度は満面の笑みで返した。 未だ永い旅をしている男と、これから旅に出る少女。 その二人が次に会う時は何が起こるのか、もはや誰にもわからない。