◇廃棄街・第九層「███████」 ジャックのタイムリミットまで、残り1時間。 「見送りは期待してなかったんだけど…」 「そう言うな。世界の変わる瞬間とやらに立ち会いたかっただけだ。」 「イルミナス・トライフォース」の本拠。その最深部となるヴァイスハゥプトの研究所。 扉の前の段階で、既にエネルギーの曝露量としては危険域。 私やエッグガーディアンの面々ならともかく、生身の人間には早めにご退場願いたい。 「一つ質問しよう。何故お前は私の事務所を選んだ?」 「それは探偵さん。貴方の推理から聞かせてほしいな。」 「お前、探偵になりたかったんじゃないか?」 否定はしたくない。肯定も難しい。そんな答え。 だからここは一つ、図星を突かれたれた犯人らしく。 「────驚いたな、名探偵。どんな突飛な推理でそんな結論が出せたんだ?」 「これは推理なんてものじゃない。ただ、あの時お前が腰掛けてたのは、依頼人でなく探偵の椅子だった。あそこを選ぶに足る理由なんて、他に思いつかない。」 「答えとしては、それで正解。私は探偵になってみたくてね、あの椅子の眺めが知りたかったの。」 「でもね、それだけじゃないんだよ。」 扉のロックは解錠され、いよいよ後は私が中に収まるだけとなった。 私の肉体の安置とか、そういう事はエッグガーディアンの装置が用意できてからだ。 人の身である彼女が居る状態ではこの扉は開けられない。 「それじゃあさようなら。また何時か、遠い未来で会いましょう。」 「……ああ。さようなら、またいつか。」 荒見一箱が地上へと戻っていったのを確認して、扉を音を立ててこじ開ける。 散らかってるなぁ…最後まで気に入らないジジイだけど、居抜きする訳だから贅沢は言わない。 ─────さて。 正義の味方をやってみたかった、アイドルにもなってみたかった、特殊諜報員もやってみたいし、一研究者としても生きてみたかった。彼女達みたいな電子の妖精に興味があった。 ジャックもその内の一つ。世界を憎み、無法を働く。そんな悪党に、なってみたかった。 やりたい事は山のようにあって。でもその中で選べるのは一つしか無くなった。 だからこれが私の選択。 シー・S・クロウは、安寧と歓楽の冥界を作る。 それじゃあさようなら。 おやすみ、世界。