※太線(━━━━━━━━━)は語り手の変わる場面転換、細線(─────────)は語り手の変わらない場面転換を表しています。 私を殺して。彼女はそう言いながら意識を失った。 改変プログラムが効果を発揮したのか、倒れた彼女はすでに人間の姿に戻りきっていた。 「ツ…ツカサ…ど…どうしよ…」 「神月さんの所に連れて行こう。今の俺たちにできることで、たぶんそれが一番いい対応だ。」 「わ…わかった…」 メルヴァモンは完全に動揺しきっていた。 楽音の体を抱き上げると、それがとても軽く、小さい事を実感した。 まだ幼く弱いのに、彼女はどれだけ多くの苦しみを背負ってきたのか。そのことを思うと、彼女を抱く手に力が入ってしまう。 「ツカサ…ラクネの言ってたこと……どうすれば……」 「介錯してやるべきだったと思うか?」 メルヴァモンは何も答えず俯いていた。 「俺には彼女を裁けない。……それに、今の俺達には多分彼女を殺せない。」  メルヴァモンの息が詰まるのが聞こえた。 いくら倒しても襲ってきたアルケニモンの事を考えると、彼女もそうでないと言い切れない。 口では色々言っても、結局俺もまだこの選択が正しいのかわからなかった。 ───────── 程なくして、俺たちは神月教授がいるはずの建物へ着いた。 出る時は窓から飛び降りたから気づかなかったが、ここは大学の一角であったらしい。 楽音の体をメルヴァモンに預け、俺は守衛と揉めていた。 「だから!神月教授に会わせろって言ってんだよ!本人呼べばわかるから!」 「そうは言ってもねぇ…関係者以外を入れるわけにはいかないのだから…」 「緊急の要件なんだって!」 「しかしねぇ君、身分もわからないような人間を入れるわけにはいかないのだから…」 身分の証明。思えば現実世界から持ち込んだ荷物のほとんどはデジタルワールドの戦いで紛失したり破壊されてしまった。スマホもとうの昔にバッテリーが切れてしまっている。 「…!司君!」 「神月さん!楽音ちゃんが!」 向こうから来てくれて助かった。 「今すぐ研究室に!」 「わかりました!メルヴァモンも来い!」 メルヴァモンの姿に驚く守衛を尻目に構内を走る。最初からこうしてしまえばよかったな。 ───────── 「服脱がせて!」 「わかりまし…え?」 「いいから早く!」 そう言われ、俺は楽音の服を脱がせていった。 まだ未発達の胸、無毛の性k─────こんなことを考えている場合じゃない。 一糸纏わぬ姿の彼女に神月さんはマスクをつけさせ、例のカプセルの中へと寝かせた。蓋を閉じると再び液体が中に満たされる。 「解析完了。………マズいな…」 「何がマズいんだ!?」 「改変プログラムの効果が薄いみたいだ…これを見てくれ」 見せられたのはよくわからない数字と英語の羅列。見せられても意味がわからない。 「ツカサ…わかるか?」 メルヴァモンも小声で聞いてきた。聞かれても困る。 「変異したデータを改変して戻しても改変され返しているんだ…一時的に人間に戻ってもすぐアルケニモンに戻るのはこれが原因だろう。」 「じゃあ…どうすれば?」 「問題ない。私がなんとかする。知り合いの病院にも連絡して対処するから、君たちはもう帰りなさい。もう遅いしタクシーを呼んでおくよ。」 「………そうですか。帰ろう、メルヴァモン」 「帰るってどこに?」 「俺の家だよ。」 さっきの入り口へと再び戻ってくると、すでにタクシーが停車していた。 「料金はすでにお支払いいただいております。お乗りください。」 わざわざ背の高い車種を手配してくれたらしい。メルヴァモンも楽そうに乗り込んでいた。 運転手に行き先を告げる。帰るのは何ヶ月ぶりなのだろうか。日付を知りたいが、ヤバいやつだと思われそうで聞くに聞けない。 「なんか落ち着かないよぉツカサぁ…」 車に乗るのは当然初めてだったのだろう。メルヴァモンがそわそわした様子で抱きついてくる。熱い。 何か言おうかとも思ったが、これからのことを考えると、言葉が出なかった。 ━━━━━━━━━ 改変プログラムはいずれ彼女から完全にアルケニモンを分離することを前提とした設計だった。 しかし、詳細に楽音の体をスキャンすると、彼女の体とアルケニモンがかなり深く結びついてしまっていることがわかった。 特に心臓とデジコアは完全に融合している。安易に分離すれば、楽音の命に関わるだろう。 ならば、アルケニモンの活動を単純に抑制してしまえば良い。 継続的に抑制プログラムを接種し続けることになる。そのプログラムを制御するデバイスも必要だ。 僕は抑制プログラムを作りながら、あるところに電話をかけた。 「もしもし。芦原さん?」 「はい!芦原です」 「…ああドウモン君か。神月だ。倫太郎君を頼むよ。」 「少々お待ちください!」 「……お電話変わりました。デジ対芦原です。」 正直なところを言うと、官公庁に頼るのはあまり好きではない。 研究費をたんまりともらっている身で言っても説得力がないが。 「単刀直入に言う。今すぐバイタルブレスのデータをくれ。」 「いくら神月教授といえども藪から棒にそんな…外部への情報提供は上の決裁が必要になりますし…それに今日はリアライズ案件で警視庁からも問い合わせがあって…」 「僕だってそんなことはわかってる!その上で頼んでるんだ!」 「そう言われても…」 「頼む!命がかかってる!今抱えてる件ですぐに必要なんだ!」 「………わかりました。その代わり、ちゃんと何に使ったのか、報告書あげてくださいよ?」 「すまない…恩に着る…!」 電話が切れてから数分後、バイタルブレスのデータが送られてきた。 すでに抑制プログラムの雛形は完成した。あとはAIに任せても問題ないだろう。 さて、あとは制御デバイスの設計だけだ。 彼女はすでに知り合いの病院に搬送した。いつ改変プログラムの効果が切れるかわからない。タイムリミットは多めに見積もっても夜明けまでだろうか。 「やってやろうじゃないか」 僕は自然とそう呟いていた。 ━━━━━━━━━ 30分ほどして、車は指示した場所に到着した。 降りるとすぐにタクシーは走り去った。 都内の住宅街。その一角に建つ、白い無機質な四角。その前に俺たちは立っていた。 「ここがツカサの家なのか?結構大きいな!」 はしゃぐメルヴァモンを宥める様に、俺は話しかける。 「…メルヴァモン。クロスローダーに入っててくれないか?」 「どうしてだ?」 「親父が見ると…さ、面倒だから。な?入っててくれ」 そう言いながらクロスローダーを彼女に向ける。メルヴァモンは不満そうに口を尖らせると、クロスローダーに入っていった。 すぅ〜…はぁ〜…… 一つ深呼吸をして、懐からキーケースを取り出す。スマホと同じく、向こうで無くさなかったものの一つだ。 家の鍵を取り出し、鍵穴に差し込もうとすると、手が震えていることに気付いた。馬鹿馬鹿しい。向こうにいる時はあんなに帰りたがっていた家だ。何を躊躇うことがある。 『ツカサ、どうしたんだ?入らないのか?』 クロスローダーから彼女の声がする。 「静かにしといてくれ…!」 『は〜い』 不満そうな返事が返ってくる。まあ、今ので気が紛れた。さっさとやろう。俺は鍵を開けた。 「ただいま〜…」 返事はない。靴を脱いでリビングまで歩いて行く。 「……ただいま、父さん。」 親父はソファーの上でPCをいじっていた。 「………一ヶ月どこに行ってた。」 「心配の言葉とかないのかよ」 「何を心配する様なことがある。お前はそんなに弱くない。何をしていた?」 言葉の節々から冷気が立ち上っているかの様だ。 「何って…多分言っても信じないだろ…」 「隠し事があるならもう少しまともに言い訳を考えておけ。学校も塾もサボって何をしていた?今はお前にとって重要な局面なんだぞ。」 「そんなのわかってる!」 「わかってるならなぜ一月も行方をくらました!」 「そ…それは…」 「ツカサはデジタルワールドにいたんだ!」 「メルヴァモン⁉︎ややこしくなるから出てくるなって言っただろ!父さんこれは…」 俺たちの険悪な空気に耐えられなかったのだろう。メルヴァモンがクロスローダーから出てきた。親父もさぞかし驚いただろう。そう思ったのだが… 「なるほど…な。」 「アタシに…驚かないのか?」 「ITに深く関わってる奴は大なり小なりデジタルワールドのことを知ってるさ。まぁ…まさか自分の息子が当事者になるとはな。お前名前は?」 「メルヴァモンだ!ツカサがデジタルワールドに来てから最初に出会ったのがアタシなんだ!な〜?」 メルヴァモンが甘えた様子で俺に同意を求めてくる。まさかこんなにトントン拍子に進むとは。 「…制服はどうした?」 「色々あって焼けたよ。」 「そうかー…新しいのを発注しよう。」 「何だよ結構いい人だなぁ〜ツカサのお父さんはぁ〜」 メルヴァモンが新しいおもちゃを見つけた時の猫の様な声になっている。 「制服が出来上がるまで3週間ぐらいか…それまで学校は休んでいい。」 「マジで?」 「ただし勉強と塾はいっとけ。この3週間で現実に慣れておくんだ。いいな?」 「…わかった。」 「よし!風呂入ってこい。だいぶ汚れてんぞ?」 言われてみればそうだ。向こうだと体を洗う機会は少なかった。暖かい風呂ともなれば皆無に等しい。 風呂場へと向かうと、すでに湯が張られた状態だった。妙な準備の良さに感謝しながら服を脱ぎ捨て、シャワーの栓をひねる。 これだけの手間で暖かいシャワーを浴びられる。なんて素晴らしいことなのだろう。 文明の力に妙に感激していると、背後から風呂場の扉が開く音がした。 「えっとー…お背中お流しします♡…で良いんだっけな」 「どこで覚えてきたのそんな言葉…」 入ってきたのはメルヴァモンだった。 「えっと…これを使えばいいのか?」 彼女はたどたどしい手つきでシャンプーを手に取り、しゃこしゃこと俺の頭を洗っていく。思いの外繊細な力加減で心地が良い。こうして誰かに頭を洗ってもらうなどいつぶりだろうか …などと物思いに耽って誤魔化そうとしたが、やはり気になる。 明らかに背中に彼女の乳房が当たっている。いや当てているのか? 一度意識してしまうと、嫌が応にも興奮を励起させられる。 が、流石に親父がいる家で事に及ぶほどの勇気はない。もっと別のことを考えなければ…そうだ…もっと頭に意識を…両手でゴシゴシと洗われている頭に… ん?両手?彼女の左腕はメデュリアとかいう蛇になっていたはずでは… 「なあメルヴァモン…」 「ん?」 「蛇ちゃんどうした…?」 「メデュリアか?脱いだぞ?」 「あれ脱げんの⁉︎!?!」 思わず大声を上げてしまった。 「当たり前だろ?くっついてるとでも思ってたのか?そろそろ流すぞ〜」 彼女はそう言って笑っている。またもやたどたどしい手つきでシャワーを使い、泡が洗い流される。 「次は体だな♡」 さっきからメルヴァモンの言葉に妙なアクセントが付いている。 このまま彼女のペースに任せるとまたなし崩し的に持ち込まれてしまう。ここは攻める時だ…! 「いや、今度は俺が洗ってやるよ。ほら座って。」 「えっ?いやアタシは…」 想定外の返答に彼女が戸惑っている間にさっさと立ち位置を入れ替え、彼女の背後を取る。 いつも編まれている髪がほどかれている。足元まであるだけあって、とても長い。こうして洗っているとそれを実感する。 そういえば、彼女が髪を洗っているところを見たことがない。しかしこうして洗っていると、別に汚れているわけではない。 お湯で洗い流せばそれで良いぐらいだ。これもデジモンだからだろうか?不思議なものだ。 確かシャンプーで洗うべきは頭皮がメインで、毛先を洗うのではないと聞いたことがある。自分が洗う時は気にしたことがなかったが、メルヴァモンの髪となると、気にしなければいけない気がした。 「くっ…ハハハ!くすぐったいよツカサ!」 「あんまり動くなって…洗いにくいから」 暴れられると流石に俺も振り回される。大型犬を洗っているかの様だ。 まあこれぐらい洗えば良いだろう。シャワーで頭を洗い流しながら、ついでに体にもシャワーを浴びせる。 さて、ここからが反撃だ。 ボディソープを泡だて、彼女の体へ乗せて行く。 改めて体を見てみると、案外傷跡が多い。進化しても傷は消えないんだな。 俺が知っている傷も、知らない傷もある。彼女はここに至るまで何回戦いを経験してきたのだろうか。 「あっ…!♡の、…ツカぁ♡サぁっ!♡」 彼女は基本的に攻めてくる方だ。しかしそれは自分の予想外の攻撃には弱いということでもある。侮るなよ。もう君の弱点は把握済みだ。 「ア”タシがぁッ♡♡イ”か”されッっ‼︎♡♡ィ”ッッ♡♡♡♡」 彼女の体がビクビクと痙攣する。 「じゃあ流すぞー」 あえて素知らぬふりをして、シャワーをあて泡を流す。 本当は俺も体を洗いたかったが、仕返しされそうなので普通にシャワーを浴びるだけにした。 ───────── 湯船の対岸に背を預けているメルヴァモンの目線が俺に突き刺さる。 どう考えても不満の目線だ。口とがらせてるし。 「……………」 「………………」 耐えられない。もう出よう… 「…のぼせると良くないからさ、もう出ようか」 「………わかった。」 脱衣所に戻ると、蛇ちゃんはトグロを巻いていた。 …俺の脱いだ服を巻き込んで。 「!!?何やってるんだメデュリア!」 あたふたするメルヴァモンと得意げなメデュリア。 ところどころ伸びたり蛇ちゃんの唾液が付いたりしているが…まあ良いか。 「これ使え」 彼女にバスタオルを投げ渡すと、俺も体を拭いた。 俺は良いが、彼女の髪はタオルだけでは無理があるだろう。服を着てドライヤーを取り出す。 「使うだろ?ドライヤー」 「どらいやー…ってなんだ?」 いつの間にか服を着ていた────と言っても彼女の場合ほぼ着ていないようなものの気もするが────メルヴァモンは、そう言って頭上に"?"を浮かべている。そこからだったか… 説明するのも面倒なので、俺は電源を入れ温風を彼女の髪に当てる。 「うおーー!!すごいなーー!これーーー!!」 髪を風に靡かせながらはしゃいでいる。大型犬かお前は。 ━━━━━━━━━ あれ……私…なんでまだ生きてるんだろう… 「バイタルは」 「現状は安定しています、北条先生。」 「そうか…あとはユウがプログラムを完成させるまで待つしかないな…」 そっか…私のこと…ころしてくれなかったんだ… 「鎮静剤は追加しますか?」 「いや…もう良いだろう。」 しょうがないよね…ミネルちゃん優しいもん…つかさくんもきっとそう… 「ドクテアーゼを試しますか?」 ごめんね…二人には…いらない心配かけちゃったな… 「効果は薄いだろうな…」 「やはりそうですよね…」 「……なぁテチス。もし今改変プログラムの効果が切れたら…どうなるんだろうな。」 「もしそうなったら、先生は私がお守りします。」 「心強いよ、テチス。」 ━━━━━━━━━ 「はぁーー………」 久々に寝転ぶ自分のベッド。 「広いな〜ツカサのベッド〜!」 一人で使うには大きいと思っていたが、メルヴァモンとだと正直狭い。 端に追いやられながら、久々に電源の入ったスマホを確認する。 最初の方は関係の薄い知り合いからも心配する連絡が来ていたが、2週間ほど前からは一部に限られ、ここ数日は誰からも連絡はなかった。 いや、一人だけ俺のチャットを買い物メモにしているやつがいるな… とりあえず全員にまとめて無事であることを知らせる。 どこに行っていたのかは…まあ誤魔化すか。 『一年の女子にも同じぐらいの時期に行方不明になったやつがいたから駆け落ちかって噂されてたぜ?』 友達からはそう茶化すようなチャットが返ってきた。まさか俺以外にもデジタルワールドから帰れなくなった奴がいるのか? 「なぁなぁツカサぁ〜」 横に寝ているメルヴァモンがつんつんと俺の頬を突いてくる。 「なんだよ」 「なにしてんだ〜?」 「情報収集。」 デジモンのことを知ってからニュースを見ると、案外関係がありそうなものがいくつか見つかる。 ムーもこういう時ばかりは役に立つな。 しかし今日も疲れた。デジメモリの力を使ったためか、妙に瞼が重い。寝落ちてしまう前に寝るとしよう。 「メルヴァモン、クロスローダーに。」 「なんでだよツカサ!向こうだといつも一緒に寝てただろ!」 「こっちのベッドは二人で寝ること想定してないんだよ…頼むから大人しく入っててくれ」 「……わかった。でも後でちゃんとその分いろいろやってもらうからな!」 またもや不満げな顔をして彼女はクロスローダーに入って行った。 電気を消し、今度は広くなったベッドに横たわった。 帰ってきてから、俺もメルヴァモンも楽音のことを話題にしなかった。 忘れたわけじゃない。ただ、神月さんの”なんとかする”という言葉に縋っているだけだ。あの人ならきっとなんとかしてくれる。そう思って問題から目を背けていないと、とても耐えられなかったのだ。俺も、彼女も。 そんなことを考えていると、いつの間にか俺は眠りについていた。 ━━━━━━━━━ クロスローダーの中は静かだ。決して居心地が悪いわけじゃないけど、少し寂しい。 他にデジモンが収納されていれば話し相手にもでもなるのだけれど、今は私一人だ。眠る気にもなれないし、いらないことを考えそうになってしまう。 楽音…多分、ツカサもわざと考えないようにしていたのだろう。ハカセならきっとどうにかしてくれる。そう思っておこう。 外に勝手に出たらツカサは怒るかな。それとももう寝てるかな。 音を立てないようにクロスローダーから出てみると、彼はすでに寝ていた。 起こしてしまわないようにそっと横に寝てみる。いつも険しい顔で寝ている彼だが、今日はいつにも増して険しい。 きっと、悩んでいることは私と同じだろう。ツカサが少しでもぐっすりと眠れることを祈って、私は彼の額にそっと口付けをした。 口にしなかったのは、そうしてしまうと私が我慢できなくなってしまうからだ。 私も寝よう。 私は彼の隣で目を閉じた。 おやすみ、ツカサ。 ━━━━━━━━━ 「ははは…やったぞ…!ついに完成した!!」 すでに窓から朝日が差し込み出している頃、ついに抑制プログラムとその制御デバイスが完成した。 正直すぐにでも寝たい。というか倒れそうなのだが、ここで僕が倒れると楽音ちゃんもエルも危ない。僕は急いで北条医院へと向かった。 ━━━━━━━━━ 「はは…やったぞエル…!一晩で完成させてやったよ…あはは…」 昨日俺に楽音ちゃんを押し付け…託してきた時から随分と不健康そうな見た目になって、彼はうちへやってきた 「無茶しすぎだぞユウ…」 「君に無茶振りしすぎたからね…僕もこれぐらいの無茶は軽いさ…」 「先生…神月さん…大丈夫でしょうか…?」 「おおテチス君じゃないか…久しぶりだね…アレを頼むよ…ラクネちゃんへの施術は僕がやらなきゃならないからね…!」 テチスが心配そうに俺に目配せしている。まあ仕方ないだろう。俺は首を縦に振る。 「ドクテアーゼ!」 「ぬおっ⁉︎おお…!キタキタキターッ!」 ドクテアーゼによる一時的ブースト。体には良くないが、まあアドレナリンやらを打つよりは健康的だ。あとで目一杯休んでもらおう。 彼を楽音ちゃんが寝ているところへ案内する。 懐から取り出した腕輪を彼女の腕に取り付けると、ユウは何やら設定をした後、俺に分厚い資料を渡してきた。 「なんだよこれ?」 「デジヴァイスバングルの説明と楽音ちゃんの体についての資料。彼女が目を覚ましたら教えてあげてくれ…俺は……もう………ねむ…………」 そこまで言いかけて、彼は倒れた。どうせそうなるだろうとついていたテチスが受け止めてくれたので、大事には至らないだろう。 「ドクテアーゼの副作用…やっぱり使わないほうがよかったのでしょうか…?」 「ユウは昔から倒れでもしないと休まない奴だったからな…寝かせてやってくれテチス。」 「わかりました先生。空きベッドに寝かせておきますね。」 そう言って軽々とユウを持ち上げ運んでいく彼女。俺はその間に資料を読み込んでおくことにした。 ━━━━━━━━━ ……暑い。いや熱い。ついでに息が苦しい。重い。 久々のリアルワールドでの寝覚めは、あまりいいものとは言えなかった。 「えへへ…ちゅかしゃあ…💤」 クロスローダーに入っておいてと言ったのに… 「……そぉい!……起きろメルヴァモン!」 俺の体に覆い被さる彼女をひっくり返し、体を揺らす。 「………朝からなんて…大胆だなツカサ///」 そう言って頬を赤らめるメルヴァモン。言われてみれば俺が押し倒したようにも見える。 「そうじゃない!さっさと起きろ!」 メルヴァモンを叩き起こし、部屋を出る。 親父はすでに家を出ていた。 俺もさっさと出よう。楽音のことが気になる。 ━━━━━━━━━ 目を覚ますと、鼻に消毒されたような病院の匂いが突き刺さった。 無機質なビープ音が、私がまだ生きていることを如実に示している。 私…なんでまだ生きてるんだろう。 体を起こすと、左腕に何か知らないものがついていることに気付いた。 なんだろう…これ… 「起きた?」 そう声をかけてきたのはナース服を着た… 「えっと…デジモン…?」 「私はテチス。この病院の看護師をしてる。北条先生は今ちょっと立て込んでるから、質問があるなら私が受け付けるわよ。」 彼女の声は聞いたことがある。北条は…昨日話していた人のことかな。 「そう…なんだ。テチス…ちゃん?これ…何かわかる?」 左腕についているものを指差しながら聞いてみる。 「それについては…僕が説明し「お前は寝てろ!」 「ハカセ!?大丈夫?」 白衣を着たクセ毛の人と一緒に、クマを作ったハカセがふらつきながらやってきた。 「アイツはちょっと疲労溜まってるだけだ。君は気にしなくていい。テチス、ユウを”しっかりと”休ませてやれ。」 「わかりました北条先生。」「離したまえテチス君…!私はデジヴァイスバングルの説明を…!」 「はいはいわかりましたから今はゆっくり休みましょうね〜ビビサンダー。」「うおっ!?…………」 ハカセはテチスちゃんに連れて行かれた。 「それでー…まずは自己紹介か。北条鋭流だ、よろしく。」 「南雲楽音です…よろしくお願いします」 「その腕輪ー…えっとデジヴァイスバングルだけども。」 エル先生は分厚い紙の束をめくりながら話し始めた。 「まずは君の体のことを把握してもらう必要がある。」 「…はい。」 「落ち着いて聞いてほしい。君の体はかなりしっかりとアルケニモンと融合している。おそらく分離することは無理だ。」 やっぱりそうなんだ…あの声はいつも私の中から聞こえてきた。私は…あの声に負けてしまった…勝てなかった。 私の中にアルケニモンがいるんじゃなかった。アルケニモンの中に私が閉じ込められてた。 「君の心臓はアルケニモンのデジコアと融合しているらしい。もし分離すれば君の命に支障が出る可能性が高い。だからその腕輪をユウが…神月教授が開発した。」 これ…ハカセが作ったんだ。 「その腕輪は君のバイタルを確認し、アルケニモンを抑制するプログラムの投与量を調整している。理論上は君がアルケニモンに戻ることはない。」 「そう…ですか…。」 確かにあの声はもう聞こえない。 「ただ、君の状態によっては何か変化があるかもしれない。でもその場合もそれが判別してすぐに元の状態に戻れるはずだから安心していい。何か質問は?」 「……ないです。」 「そうか…ちょっと様子を見たいから、2日か3日ぐらいは入院してもらうよ。」 そう言ってエル先生はどこかへ行ってしまった。 退院したら…私、どうなるんだろう。パパとママが死んだのって…本当なのかな…そうだったとしたら…わたし… ━━━━━━━━━ 神月教授の大学に着くと、昨晩喧嘩になった守衛から伝言のメモを渡された。 どうも、彼は北条医院という病院にいて、楽音もそこにいるようだ。 俺たちはそこへと向かった。 個人病院にしてはやけに大きい。相当儲かってるのか? メルヴァモンには引き続きクロスローダーに入っていて貰うことにして、俺は受付へ向かった。 中は老人と病人ばかり。まあ病院なのだから当然だ。 「あのー…すみません、南雲楽音さんはどちらにいらっしゃるでしょうか…?」 「あら、そんな子いたかしらねぇ…ご家族?」 「いや…そういうわけでもないんですが…」 「じゃあ調べるわけにもいかないわねぇ…」 採血が上手そうな中年の看護師はそう言う。クソ、またこのパターンか… 「お願いします…!神月教授から直接教えられてきたんです…どうにかなりませんかね…?」 「あらぁ…神月さんが?」 看護師は周囲を確認してから、声を潜めて続けた。 「もしかして、デジモン科の関係?」 デジモン科?そんなのは看板に書かれていなかったが…しかし、デジモンに関係している案件であるのは確かだ。俺はゆっくりと首を縦に振った。 「それじゃあ調べても私にはわかんないわねぇ…テチスちゃ〜ん!」 「はい、なんでしょうか?」 テチスと呼ばれこちらにやってきたのは、メルヴァモンと同じぐらいの背丈の女性。いや…この感じ…人間じゃない。 「デジモン…なのか…?」 「あら、解るんですね。では私についてきてください。」 言われるがままにその女性…テチスについてゆく。 彼女は受付の脇にある扉を開け、通路の途中にあるドアに何かを読み込ませた。どうやらそれはエレベーターであったらしい。促されるままに俺は乗り込んだ。 「クロスローダーの中にいらっしゃる方も、出てきていただいて大丈夫ですよ?」 エレベーターが閉まると同時に、テチスはそう言った。メルヴァモンのことが…わかってるのか…? 「アンタ、デジモンなんだな?」 「ええ、私はテティスモンですが…テチスとお呼びください。」 メルヴァモンの問いかけにニコリと微笑んで返すテチス。相当な手練れなのだろう。彼女の威圧に全く動じていなかった。 エレベーターが停止し、ドアが開く。 「ここは北条医院デジモン科、デジモン関連の病気や怪我専門の医療施設です。私はここでナースをしているテチスと申します。」 そこにあったのは謎の液体に満たされたカプセル。 薬品のビンとメモリーカードが並ぶ異質な薬品棚。 やたらとモニターの多いPC。 いくつかは神月研究室で見たものと似ている。 「おおー…司君…迷わずに来れたかい?」 「神月さん!…調子悪そうですけど大丈夫ですか…?」 ふらついているしクマがうっすらとついている。だいぶ無理をしたようだ。 「神月さん、まだ休んでいて頂かないと困ります。」 「大丈夫だテチス君。それよりも司君、楽音ちゃんのことだが…」 「ラクネは大丈夫なのか!?」 「メルヴァモン、人の話を遮るのはやめなって…」 「私が開発したデジヴァイスバングルと抑制プログラムがあれば大丈夫だろう。それよりも心配なのは…」 「精神のことですか。」 「そうだ…彼女の精神状態は芳しくない。悪化すればアルケニモンの侵食が進むだろう。君たちに会って悪い変化がないといいんだがっ……」 彼の体から急に力が抜け倒れそうになったが、テチスさんが受け止めた。 「おっと…自分が思ったほど回復していなかったみたいだ…すまないねテチスく……💤」 「ハカセ…寝てるぞ…」 「楽音さんのためにだいぶ無理をして開発されたようなんです。だから休んでいてとお願いしたのに…もう…今日は入院してもらいますからね!」 神月さんはテチスさんに引きずられ奥の病室へ消えていった。 「さて、楽音さんに面会ですか?」 戻ってきた彼女が言う。 「ああ、そうだ。」 「ご理解なさっていると思いますが、楽音さんは今非常に心が弱っておられます。あまり刺激しないよう、お願いいたします。」 「わかった。それでラクネはどこにいるんだ?」 「北条先生は今診療で忙しいので、私がご案内いたします。それと…」 「ん?なんだ?」 「デジモン科内では戦闘行為や武器の所持は禁止しております。その大剣もこちらで預からせていただきますね。」 「……仕方ないな。」 「それでは、こちらへ。」 俺たちは再び、彼女の案内についていった。 ━━━━━━━━━ この病室、明るいけど窓がない。景色を見ることもできないから、エル先生が置いていった資料を読んでいる。 難しい言葉が多くてよくわからない… わかったのは、このデジヴァイスバングルには一時的に抑制プログラムの投与を中止する機能があるということと、デジモンとのリンクができるらしいと言うこと。 こんなの読んでても面白くないけど、何もしていないと色々考えちゃうから、ただ読み進めている。 その時、病室のドアが開いた。 「ラクネ!大丈夫か?」 ミネルちゃんとつかさくんだ。 「二人とも…ごめんね、二人がここに連れてきてくれたんでしょ?」 「そんなこと気にしなくていい!ラクネは大丈夫なのか?」 「うん…ハカセのおかげで私もう大丈夫みたい。」 「そうか……よかった。」 ミネルちゃんが私の手を握っている。とても暖かい。 「楽音…助かってよかった。」 やっぱりつかさくんは顔が怖いけど、本当に安心したのだろうと言うことが解る。 私のことを大切に思ってくれてるんだ、二人とも。 ふと、自分でも手を触ってみる。冷たい…ミネルちゃんが暖かいんじゃない…私が…私の手が…死人のように冷たいだけだったんだ。 気付いタか…?オまエは…まだ人ゲんじゃな……… 私の中から、またあの声がした。 胸が苦しい。目の前が暗くなっていく 「ラクネ⁉︎」 「どうした楽音!!」 「北条先生!急変です!今すぐこっちに────── ───────── あれ…気を失ってたんだ、私。 目を開くとベッドの横にハカセが座っていた。 「…起きたかい。」 ゆっくりと体を起こす。 「バングルのログを見たけど、一時的に侵食値が上がっていた。何かあったのかな?」 「……またあの声がして…私が人間じゃないって」 「ふむ…抑制プログラムの常時投与量を増やしてみようか。」 「それよりハカセは大丈夫なの?」 「もう十分寝たさ。」 バングルに繋いだPCを彼がカタカタと操作をしている音だけが、しばらく病室に響いていた。 「楽音。」 「…なに?」 「君は自分を殺してと言ったそうだね。」 私はそれに答えることができなかった。 「罪を背負っていない人間なんていない。大抵の人間は自分の罪から目を背けたり、自分を正当化して生きてる。自分の罪に向き合って、それを償おうとした君は立派だ。そう簡単にできることじゃない。」 ハカセは私の目をまっすぐ見ながら続ける。 「でもな。死ぬことは償いじゃない。生きて…生きて自分にできることをやって行くことこそが、償いなんじゃないかな?」 「ハカセ…私は何をして償えば良いの?」 「それは君が考えるべきことだよ、楽音ちゃん。」 私の…つぐない… 「君は本当に立派だ。僕なんかよりよっぽど大人だよ…」 ハカセは呟くように言った。 病室に沈黙が訪れる。 「ハカセ…退院したら私どうなるのかな…パパもママも…」 その沈黙を破ったのは、私だった。 「知っていたのか。…南雲君たちのことは本当に残念だ。」 やっぱり本当だったんだ。 「泣かないでくれ…楽音」 気づかないうちに、私の目から涙が流れていた。 悲しい…のかな。もうよくわからない。 「もしよかったら、僕の家に来ないか?」 「えっ?」 「僕の家は広いからさ…部屋が余ってるんだよ。どうかな…?」 「いいの?」 「もちろん。カオルが帰ってきた時驚くかもしれないけどね。」 「ありがとう、ハカセ。」 ━━━━━━━━━ 「楽音ちゃん…もう体は大丈夫そうだね。退院しても問題ないだろう。」 翌日、楽音は鋭流に診察を受けていた。 「あの…エル先生…」 「どうしたの?」 「髪…戻るかな?」 アルケニモンになってから、真っ白に染まってしまった髪。彼女はこれもカワイイと思っていたが、元に戻るのかは気にしていた。 「正直なところを言うと、髪の色も、目の色も、体温も、なんでそうなったのか、これから戻るのか一切わからない。おそらくはアルケニモン由来だと思うけど…そうだとするなら戻らないだろう。」 「そう…ですか。まあ、染めることもできるし!」 「…そうだね。また何かあったら…遠慮しないで来てくれていいから。テチス、彼女を上まで送ってあげて。」 「わかりました。楽音さん、こちらへ。」 彼女はテチスについていき、エレベーターに乗った。降りたあと通路を抜けると、開けたところに出る。彼女は久々に見る太陽を前に、眩しそうに目を細める。 「楽音ちゃん。」 「ハカセ?どうして?」 「迎えに来たんだ。さあ、一緒に行こう。」 「うん!」 神月と楽音は一緒に病院を出る。 「お大事に〜」 後ろではテチスが手を振っていた。 その時、楽音の影が急に立ち上がった。 「ね…ネオデスモン…!」 「こんにちは教授。ですが今日はあなたに興味があるのではないのですよ。」 目を開いたその影は、楽音にとってはどこかで聞いたことがある声で喋っていた。 「その声…もしかしてイレイザーさん?」 「おおー…まさか覚えていただいているとは。嬉しいですね。南雲楽音、あなたにはご同行願いますよ。」 彼女の足元が急に沈みだす。影に体が飲み込まれているのだ。 「誰か助けて!!!」 「待て!ネオデスモン!」 「無駄ですよ教授。よく知っているでしょう?」 ネオデスモンを捕えようとする教授の手は、虚空を掴んだだけだった。 「アドゥワールド!」 病院の目の前でそのようなことが起きていれば、テチスが見逃すはずもない。瞬間転移を使いネオデスモンに急接近したのち、両腕に電撃を迸らせる。 「ハンマーぁぁぁ!サンダー!!!!」 全力の拳が振り下ろされるが、地面を深く抉っただけで、ネオデスモンにダメージを与えることは叶わなかった。 「楽音ぇー!!!」 神月の叫びが、ただただ虚しく響き渡った。 ───────── 「──────どこ…ここ?」 影から解放された楽音は、周りを見渡した。 「ラクネ!?」 「ミネルちゃん!?つかさくんも…どうして?」 「影野郎に連れてこられて…まさかラクネもか?」 そこには、メルヴァモンと司も連れてこられていた。 「うん…ハカセとテチスちゃんが助けようとしてくれたんだけど…」 「周り…ガレキだらけだな。まさか」 司は薄々ここがどこであるか勘付いていた。 「ここはアルケニモン:ダークネスモードが破壊したビルの跡地ですよ。あなたは覚えていたみたいですね、吉村司。」 影に再び目が開く。 「そうだ…たくさんのデジモンをくっつけられて…私はここで…」 「それでは改めまして自己紹介を。」 ネオデスモンは3人の前で立ち上がり、名乗り始める。 「私はデジモンイレイザーの配下が一人、嗜劇のネオデスモン!ネオデスジェネラル、死影将ぐ「たあっ!!」 せっかくの名乗りは、またもやメルヴァモンによって遮られた。 「チッ…お前は人の話もちゃんと聞けないのかメルヴァモン…!」 「お前の話を最後まで聞いてやる義理なんてない!それに今回は名前は言わせてやったろ?」 「ッ……!…まあいいでしょう。今日は君達に重要な事を教えに来ました。」 ネオデスモンはそう言うと、影から一匹のデジモンを呼び出した。 「この可愛らしいデジモンはユキミボタモンと言うんです。」 怯えている様子のユキミボタモン。 「おびえてる…?何をする気なの!」 「来い、シールズドラモン。」 楽音の声を気にもせず、ネオデスモンは再びデジモンを呼び出す。 「そいつを殺せ。」 「jawohl.」 特殊部隊のような装備を身につけたシールズドラモンは、その一声を聞くと、すぐさまナイフをユキミボタモンに突き立てた。 「みぎュ…。」 暴れることすらできず、ユキミボタモンは力尽きた。 「あの影野郎…なんてことを!」 「ここからが注目ですよ、皆さん。」 殺されたユキミボタモンは、一瞬ノイズがかかったかと思うと、デジタマに変化した。 「このように死んだデジモンはデジタマになるのが普通です。あなたは知っていますよね?メルヴァモン」 「ああ…デジモンはそうやって輪廻を繰り返す生き物だ。誰だって知ってる。」 「よくご存知で。ではアルケニモンの事を思い出してみてください。彼女に食われたデジモンは卵になりましたか?彼女が産んだドクグモンは?」 「なってない…」 楽音が暗い目で言う。 「その通り。大正解ですよ楽音。貴女はセーブした姿と記憶のままで甦れる。その代償として、貴女が産むデジモンは卵になれない。貴女が喰ったデジモンも卵になれないのですよ。どう言うことかといえば…つまり、貴女が大好きだった”あの”イグニートモンは二度と戻ってこない。と言うことですよ。」 影に目がついているだけなのに、そのことを伝えるネオデスモンが笑っているのを、その場の誰もが感じていた。 「ふざけやがって…!メルヴァモン!」 「ああ!ナイトストーカー!」 メデュリアがネオデスモン目掛け一直線に伸びて行き、大口を開けて飲み込んだ。 しかし、ネオデスモンは平然と別の影から立ち上がる。 「まだまだ今回のイベントは残っているんですよ?そんなに焦ら「ファイナルストライクロール!!!」 「はぁ………君は本当にセオリーのわからないデジモンだ。少しおとなしくしていろ。」 そう言うと、彼のダークネスローダーが闇を吐き出す。 「カーゴドラモン!デッカードラモン!強制デジクロス!」 空飛ぶ黒い影から、無数の飛翔体が発射される。 「なんだ!?」「ツカサッ!」 着弾時の煙が晴れると、二人がネバネバしたものに絡め取られている姿が楽音の目に入った。 「二人とも!大丈夫!?」 「大丈夫だ…ちょっと動けないだけで…!」 「トリモチランチャーです。お二人はお行儀良く話を聞けないようですから。…それでは、お話の続きです。」 ネオデスモンの足元に影が広がり、またもやデジモンが出現する。 「このデジモン…幼年期ですがとても凶暴な私の配下の有望株なんです。」 現れたのは、頭から角の生えた、チクチクとした毛並みのデジモン。ツノモンだ。 「グルルル……!!!」 牙を剥き、楽音に唸っている。 「彼にこれを使うとどうなるでしょう?」 ネオデスモンは一枚のカードを取り出す。 「何…そのカード…」 「カードピアース…超進化プラグイン…S…!」 カードが宙を舞いツノモンに突き刺さると、それは回転しながらデータとなって取り込まれる。 「ツノ…モン…!進化ぁぁぁ!!!」 四肢が生え立ち上がり、ツノは手裏剣へと変わる。 「イグニートモン!!!!」 その姿は楽音のよく知ったものだった。 「…イグニートモン…なの?」「ガラパゴスフィールド!!」 彼は楽音の姿を見るなり、斬撃を飛ばした。 彼女は咄嗟のことに対応できず、まともにそれを食らってしまった。 「気安くオレの名を呼ぶんじゃねえよ…」 「だからさっきお教えしたでしょう?貴女が大好きだったイグニートモンは貴女に殺されてしまいました。デジタマにもなれずに消滅した彼はもう帰ってこれないんですよ。かわいそうですねぇ〜」 そう言って笑う影。しかし、楽音は案外ショックを受けていないようだった。 「おや?泣いたりなさらないんですか?私の知っている貴女はこれで絶望してくれるはず…死を望んだり…アルケニモンに戻ってもおかしくないはずですが…」 「私…考えたの。私なりの償い方。」 「何ぃ…?」 「私は命を沢山うばってきた…だから今度は、沢山の命を救うことにしたの。それが私の償い!」 ───────── 楽音が覚悟を決めるまでの間、司とメルヴァモンが何もしていなかったのかといえば、もちろんそんなことはない。 「くっっそ…!!これ全然取れない…!ツカサ…どうにかならないのか…!」 「そんなこと…!言ったって…!オレだって全然取れねえよ…!」 トリモチから逃れようと悪戦苦闘する二人。 メルヴァモンがミサイルから司を守ったために、彼らはほぼ密着した状態でトリモチに絡め取られていたのだ。 「そうだ!蛇ちゃんでなんとかできないか?」 「その手があったか!メデュリア!」 もぞもぞとメデュリアが動き、首をどんどんと伸ばしてゆく。 それはトリモチに噛みつき、ツカサの右腕を解放することに成功した。 「よし!これでクロスローダーが使える!」 「おい…ツカサ…あれ…!」 メルヴァモンの示す方向では、ネオデスモンの配下がイグニートモンに進化していた。そして彼は楽音に斬撃を飛ばした。 「マジかよ…」 「影野郎…わざわざイグニートモンに進化させるなんて…!」 「そうだ!デジメモリ使おう!…ポケットに手が届かねぇ!」 「アタシが取る!」 メルヴァモンはそう言いメデュリアを脱ぎ、自由になった左腕で司のポケットをまさぐる。 「ん〜?これか?」 「そこポケットじゃない!チャックついてないところだよ!」 「………これだな!」 「よし、それをクロスローダーに!」 共同作業でクロスローダーに挿入されたデジメモリが輝き出す。 「そういえばなんのデジモンのやつ取ったんだ?」 「え?見てないぞ?」 ───────── 「ほう…貴女が立ち直ってしまうとは…予想外ですねぇ…ですが貴女に何が─────誰だ君は?」 背後から近付く何かの気配に気づき、ネオデスモンは楽音を舐め回すように見つめていた瞳をぐるりと回した。 「………」 そこに立っていたのは、ネオデスモンともまた違う黒い人のような何かだった。 『Shotriser!』 それは無言でベルトのような物を装着する。 「まさか貴様…!」 手に持つ四角い何かについているシリンダが回されると、『RampageBullet!』と言う音声が響き渡った。 黒い何かは力任せにそれを展開し、ベルトに挿入する。 『Allrise!』 Kamen Rider…Kamen Rider… ベルトのバックル部分を取り外し、正面へと構える。 「またか…いい加減にしてくれ…!カーゴドラモン!」 「了解。ビートデッカードストライク。」 ネオデスモンの指令を受けたカーゴドラモンはその黒い何かに向け、一斉射を放った。 『Full!Shotrise.』 放たれた弾丸は分裂し、10種の動物の形を取った。 『Gathering Round! 』 そして、それぞれの動物はカーゴドラモンのミサイルや弾丸を破壊していく。 動物の中の一体、狼を模したデータイメージが黒い何かの方へと振り返り、弾丸を放つ。 その弾丸はスーツとなって黒い何かを包み込んだ。 『RampageGatling!』 他の動物たちも彼の方へと戻り、装甲へと変化、左半身に装着されてゆく。 『Mammoth!Cheetah!Hornet!Tiger!Polarbear!Scorpion!Shark!Kong!Falcon!Wolf.』 動物たちの鳴き声が、辺りにこだました。 『貴様もこの世界に存在してはならないはずだろう…!この前の鎧武といい全くふざけている!カーゴドラモン!やれ!」 「了解。ヘビースローターブレード!」 カーゴドラモンは急降下し、プロペラを使いランペイジバルカンを細切れにしようとする。 『Speed!Rampage!』 ラ    スピード ン       ブ ペ       ラ イ       ス ジ       ト ランペイジバルカンは片方のみの翼を展開して空を飛び、それを翻す。 『RampageSpeed!Blast!』 そして連続蹴りを叩き込み、カーゴドラモンをネオデスモンの元まで吹き飛ばした。 「墜落。危険。離脱を推奨…」 そのまま翼を地面に突き刺し固定すると、今度を銃を両手で構える。 『Power!Speed!Element!AllRampage!』 ラ ン ペ イ ジ オ ー ル ブ ラ ス ト 『RampageAll!Blast!』 全てのエネルギーを込められた弾丸は疾走する狼の幻影を纏いカーゴドラモンへと撃ち込まれ、大爆発を起こした。 「Currently recharging. Time remaining until reuse: 95:59:52.」 「すげー…ツカサ、あれなんてデジモンだ?」 「メモリにはHUMANって書いてあるな…あれ本当にデジモンだったのか?あれ進化っていうより変身だったろ。」 二人は相変わらずトリモチに粘着されながら、その強さに圧倒されていた。 ━━━━━━━━━ 「はぁ…シラけるな…」 爆発の煙が晴れると、やはりネオデスモンはそこに立っていた。 「もう少しゆっくりと苦しめてあげようかと思いましたが…面倒になってしまいましたよ。イグニートモン。」 「ネオデスモン様!なんですか!」 「お前に力をやる。好きなだけ暴れろ。イグニートモン!アンドロモン!メタルグレイモン!強制デジクロス!」 「ぐぁっ…⁉︎うぉぉぉ……!!!」 イグニートモンにデジモンがくっついていく。私がされたのと多分同じだ。 彼の体は、前に見たことがある映画のアンドロイドのように機械が入り混じった背の高いものへと変わり、左腕には大きなキャノン砲のようなものが付いている。 「さしずめイグニートモン:メタルモードと言ったところですかね…」 ネオデスモンはそれを見届けると、目を閉じ影に紛れてしまった。 「スパイラルブラスター!」 腕のキャノンから発射された斬撃は、射線上にあったビルを三つも貫いた。 「ははっ…アルタラウス…すげえ威力だ…!この力で好きなだけ暴れられんのかよ…!最強じゃねえか!」 「やめて…」 「あ?さっきの女かよ。ちょうどいいぜ、お前も撃ち抜いてやる!」 「やめて!あなたがイグニーじゃないとしても、イグニーと同じイグニートモンでしょ!?ひどいことしないで!」 「知らねェよ…さっきからテメェウザいんだよ!」 「悪い子は…私が止める!」 「あ?ネオデスモン様も言おうとしてたけどよォ…お前に何が出来んだよ!ただの人間がよ!」 それは間違いだ。私はただの人間じゃない。人間なのかももう私にはわからない。アルケニモンの力を使えば、彼の悪行を止められる。 アルケニモンの力を抑制しているプログラムは、一時的に止められると資料に書いてあったのを思い出す。きっとそうすれば、アルケニモンの力が使えるはずだ。 そうしたら…私も無事じゃ済まないかもしれない。でも彼をこのまま放っておけば多くの人が苦しむ。それは…止めなきゃいけない! 左腕のデジヴァイスバングルを操作する。 「suppression program has been interrupted. Reactivation in 3 minutes.」 無機質な音声が流れた。 「今なんつった?」 らク音…!私ニ体を渡す気になったノか? 胸が苦しい。あの声がまた聞こえる。 「違うよ。あなたに体を渡す気はない。あなたには…私と一緒に罪を償ってもらう!だから力を貸して。」 つミ?わたシが何を償う必ヨうがアる? 「たくさんのデジモンを殺して、苦しめた。それはあなたと…私の罪。」 ワたしはたダ自分のサい初の命れイに従ッただけだ。 「最初の命令…?」 そウだ。喰い殺セ…全てヲ…!チりすら残サず殺せ!そレが私の動く意ミだ。 「誰がその命令をしたの?」 キょう味ない。殺シて喰らフのはタのしい!それだけデ十ぶンだ。 「それは違うよ。もっと楽しいこと…たくさんあるよ。」 ソウか? 「うん…!たくさん!」 ハhaはは…へんナ奴だ。お前ハ私を憎んデいないのカ? 「憎いよ。私からイグニーを奪って、5年も時間を奪った。でも憎むだけじゃその先はない。パパが昔そう教えてくれたから。」 ソの…さキ… 「それに、あなたとわたしはもう離れられないみたいだし。」 ハハ…ソれもそうカ……わかっタ。ちカラを貸シてヤル。どうナってモ知らなイぞ。 「さっきからブツブツブツブツ一人で何言ってんだお前!ティモニデストロイヤー!」 体が勝手に動いて、それを避けた。 「うっ…く…あつ…い…!!!」 身体中が燃えているような感じがする。手の甲に蜘蛛の紋章が現れた次の瞬間、私の左腕はアルケニモンになっていた。 頭をツノが突き破る。 はぁ‥!はぁ…!はぁ…!! 左目で見える世界が変わった。 殺せ…!殺せ…!目の前の全てを…喰い殺せ!!!! 頭の中に、今までに聞いたことがないような声がする…違う。これは声じゃない。これは…命令だ。 「避けやがった!?なら次は…!スパイラルブリッツ!!」 あのキャノン砲─────アルタラウスにエネルギーが込められ、私目掛けて振り下ろされている。 「はっ!」 私は左腕でそれを受け止めた。 「嘘だろ…」 「イグニートモンの姿で悪いことは…絶対にさせない!」 体を蹴り上げ動きを一瞬止め、今度は頭を鷲掴みにする。 「ゲートオープン!」 これ以上こっちで被害を出したくない。私はそのままゲートを開き、デジタルワールドへと入った。 ━━━━━━━━━ 一方その頃、相変わらずメルヴァモンたちはトリモチに捕えられていた。 「ラクネ…アルケニモンの力を使いこなしてる…?」 「ゲート能力まで活用してる…すげぇ…」 「というかツカサ、これいつになったら取れるんだ?」 メデュリアの口もトリモチでくっついてしまい、お互いに片腕しか使えない状況では、やはり変わらず脱出は困難だった。 「確かこういうのは冷やすといいらしいんだけど…」 「じゃあこれ使ってみよ!」 「「デジメモリ!クリスペイルドラモン!」」 『フローズンクロー!』 現れた竜人の幻影がトリモチを凍らせながら切り裂き、二人はようやく脱出することが出来た。 「ラクネが心配だ…早く追いかけよう!」 「わかってる。ゲートオープン!」 ━━━━━━━━━ 「離せこの…!」 暴れるイグニートモン。左腕に徐々に力を込めていくと、頭が軋み、つぶれていくのがわかる。それがどうしようもなく心地よかった。 「うっ…あ…こんなところで…死んでたまるか…スパイラルブラスター…!」 撃ち出された斬撃をモロに体に受け、私の体は吹き飛ばされた。 「げほっ…!」 壁に叩きつけられ、口から血がでた。それなのに全くいたくない。全身が戦えと叫び続けている。 「今だ…!死ねぇぇぇ!!!!!」 「パラライズブレス!」 飛びかかってきた彼に麻痺毒を浴びせる。効果はすぐに現れ、イグニートモンは体を引きずり、あとずさることしかできなくなっていた。 殺せ…!ころせ…!コロセ…!鏖にしろ…!全てを食い尽くせ…!!! 「く…来るな…!」 アルタラウスからの砲弾も、私の左腕には通じない。 ラク音も結局、私ト同じカ。 「ハぁっ…!」 左腕を一振りすると、アルタラウスは破壊され、ガラクタと化した。 「わ…悪かった…もうあんなやつについていくのはやめる…!助けて…」 「スパイド…!」 左目で彼のデジコアの位置を見極め、狙いを澄ます。 彼は恐怖のあまり、完全に腰を抜かしていた。 私…また怖がられてる? そうだ…私がしたかったのは彼を殺すことじゃない! 喰え…殺せ…今も私に命令し続ける声を、頭を振って追い出そうとするけど、それは消えてくれない。 私の意思を無視してイグニートモンを殺そうとする左腕を、右手で必死に食い止める。 「3 minutes have passed. Re-administration will commence.」 その時、バングルから無機質な音声が流れた。 体から急に力が抜けていく感じがする。左腕は元の大きさに戻り、ツノもなくなって、左目で見えるものもいつもと変わらなくなっていた。 ━━━━━━━━━ 「ラクネ!大丈夫か!」 「あっ…ミネルちゃん…」 力が抜けへたりこむ楽音の元に、後を追いかけてきたメルヴァモン達が現れた。 「これ…ラクネがやったのか?」 痺れた体を引き摺り逃げようとしているイグニートモンと鉄クズと化したアルタラウス。その光景は、とても彼女がやったと信じられるものではなかった。 「たぶん…そう。」 メルヴァモンが楽音と話している間、司はイグニートモンを腕ひしぎ十字固めにしていた。 「おい、逃げられると思ってんのか?」 「勘弁して…ください…」 「やめてあげて!…もうこんなことしないよね。ね?」 「はい…」 「仕方ねぇ…離してやるか」 司は立ち上がり、クロスローダーをイグニートモンに向ける。 「Forced Xros-open is available.」 「強制クロスオープン!」 イグニートモンは一瞬光に包まれると、ツノモンと2個のデジタマ、そしてカードに分離した。 「あなた…なんてデジモンなの?」 「つ…ツノモン…です」 「ツノモンちゃん、もう悪いことはしちゃダメだよ。約束できる?」 「うん…わかった。」 ツノモンは楽音と話すと、どこかへ歩いて行った。 「このタマゴ…どうすんだ?」 「それなら大丈夫だツカサ。見てろ」 二つのデジタマは宙に浮かぶと、どこかへ消えて行った。 「今のは…」 「デジタマはそれを求める者のところへ引き寄せられるんだ。それがデジモンか人間かはわからないけどな。」 「あの子たち…今度はいい子になれるのかな?」 「それは…わからない。」 「ま、また俺たちに刃向かってきたら、倒してやるだけだよ。な?メルヴァモン。」 「それもそうだな、ツカサ。」 ━━━━━━━━━設定コーナー━━━━━━━━━ 吉村(父) 司の父親。AIベンチャー企業の役員をしている。そのため、うっすらとデジタルワールドとデジモンの存在を認識していたようだ。 抑制プログラムの作成に活用されたAIは、この企業の開発したものらしい。 力を絶対視する節があり、司にも強くなれと教えてきた。 司には絶対に越えられない壁の様な存在として認識されている。 司の母親とは結婚しておらず、司とも会うのは年数回だった。別に仲が悪かったわけではないが、関係を誰かに規定されるのを嫌う司の母親の意向と、彼の仕事の都合があった様だ。 司はこのことを曲解し、結婚というものに対し抵抗感を覚える様になった。 司のことは母親に任せ自分は財布役に徹していたが、1年前に司の母親が死んでからは、共に暮らす様になった。それ以来、司との関係が微妙になり始めた。 司からは冷たい人間だと思われているが、実際は彼とそう変わらない程度の優しさを持っている。生前の司の母親からは、よく似ていると評されていたようだ。 髪が無くなる前に好きなだけやっておこうと、最近は髪を染めている。 司にもバッチリと受け継がれている人相の悪さと相まって、よくヤクザと間違えられる。本人曰く「せめてインテリヤクザだろ」 ━━━━━━━━━ 北条 鋭流(エル) 神月教授の同級生である開業医。クセ毛が特徴的な男性。独身。軽さを追求した極細フレームのメガネを掛けている。 本業の傍、デジモンに関係する負傷の治療などを秘密裏に行っている。 神月研究室から機材の提供を受けているため人間デジモン関係なく治療できるが、デジモンの治療はほぼプログラミングの域なため、あまりやりたがらない。 幼い頃から流血に耐性があり、それに気づいた親が医者になる進路をゴリ押しした。本人も勉強が苦にならない性格であったため、そのまま現在に至る。 神月とは中学時代からの付き合いだが、たびたび無茶をさせられるため、その度に「お前と知り合うんじゃなかった!」とぼやいている。 神月が試作したデジヴァイス:を彼に半ば無理やり持たされているが、戦闘になることがそもそも少ないため、あまり使われることはない。 現状、テティスモンがこれによって進化した事はないが、もしそうなれば発光色は薄紫だろう。 休日にジェリーモンと出かけていたところを知り合いに目撃され、隠し子疑惑やらロリコン疑惑をかけられている。 趣味は博物館巡り。特に古生物学を好んでいる。 ジェリーモンを保護した際、手元にあった古生物学の書籍にあった”テチス海”から取って、彼女をテチスと呼んでいる。 しかし、彼女がテティスモンに進化した際に元ネタが微妙に食い違っていることから呼ぶのをやめようとしたところ、彼女にものすごい抵抗を受け、現在もそのままテチスと呼んでいる。 テティスモン 北条のパートナーデジモン。ジェリーモンであった頃に瀕死状態でリアライズしたところを彼に保護され、それ以来彼に付き従っている。 北条の役に立ちたい一心でデジヴァイスなどの外部的補助に頼らず、自力で完全体にまで進化したストイックガール。 ジェリーモンまで退化することも自在に可能で、"オフ"の際はジェリーモンに、"勤務中"はテティスモンとして行動している。 ナースとして勤務しており、電撃能力をカウンターショックに活かすなどして彼の補佐をしている。デジモンと関わることの多い鋭流の治療の実験台となることもある。 ドクテアーゼを利用したデジモン用医薬品が使えるため、北条の病院はその筋では評価が高い。 北条から丁寧な言葉遣いを叩き込まれたため、ジェリーモンの頃から言葉遣いは丁寧だった。しかし本人は北条のことを下の名前で呼びたがっている。 北条につけてもらったテチスという名前を非常に大切に思っており、テティスモンに進化した際に彼がそう呼ぶのをやめようとした際には必死に懇願して撤回させた。 命を救われた恩もあり、北条に淡い恋心を抱いているが、どちらかといえば彼に幸せになってほしいという願いの方を強く持っている。 着用しているのは専用のナース服。 ジェリーモン↔テティスモンへの進化の際に身体に合わせ形状変化し、能力行使も邪魔しない特別製であり、脱ぎ着も非常に手軽。神月教授に頼み込んで開発してもらった。 北条からのウケを気にしていたようだが、当の北条からは、「わざわざユウに頼むなら着なくてもよかったんじゃない?」と言われ、枕を濡らした。 服のネームプレートには、『北条 テチス』と書かれている。 北条医院 北条鋭流が営む病院。診療科は内科と整形外科、そしてデジモン科。 8年前に開院して以来、それなりに繁盛している。 地域住民からも信頼され、近所の学園の校医も勤めている。 テティスモンは主にデジモン科の看護師として働いているが、内科や外科でも勤務することがあり、デジモンと気づいていない一般人から彼女は地味に人気を集めているらしい。 デジモン科の施設は地下に秘匿されている。元は地下施設は存在していなかったが、デジモン科の業務が拡大するうちに他のスペースを圧迫するようになり、各機関からの融資を受け増築した。 ─────────会話例───────── 「テティスモンか…じゃあテチスって呼ぶのやめようかな…」 「どうしてですか先生!?」 「だってテティスって多分ネーレーイデスのテティスだろ?テチス海はティーターンのテーテュースだからさ…」 「………何を言っているのがよくわかりませんけどお願いですからテチスと呼んでください!」 「まぁ…君がそこまでいうならテチスでいいけどさ…」 「ありがとうございます北条先生!もっとテチスと呼んでください!」 ─────────※エルの命名理由───────── ホウジョウエルゥ! 何故ジェリーモンがデジヴァイスを使わずに…進化できたのか。 何故君に付き従うのか。 何故時々君を見て頬を染めているのかァ!(アロワナノー) ジェリーモン:それ以上言わないでください!(ワイワイワーイ) その答えはただ一つ……。 ジェリーモン:やめてー! ハァ……。 ホウジョウエルゥ! 君は、世界で初めて、ジェリーモンが好きになった男だからだァーーっハハハハッ! ヴェーッハッハッハハ!!(ソウトウエキサーイエキサーイ) アーッハーッハーッハーッハッ!!! ━━━━━━━━━ 南雲楽音(現在) デジヴァイスバングルを左腕に装着し、常時抑制プログラムを接種することによって、アルケニモンを抑制している。 白髪化した髪は元に戻らず、目も色素が抜け赤くなった。 またとても体温が低く、平熱が30度前後になっている。 アルケニモンのデータを完全に取り除くことも検討されたが、幾度も復活を繰り返した結果、アルケニモンのデジコアと楽音の心臓が完全に結合していることから断念された。 身体の検査データによると、アルケニモンであった5年分の肉体的成長は確認できていない。 デジタルゲートを開く能力は健在。レプリクロスローダーによるものに比べると、転送先をある程度操作することができるため、戦術的な使用も可能だと思われる。 セーブ能力をそのまま行使できるかは不明。 デジヴァイスバングルを操作することで一時的に抑制プログラムの接種を停止させアルケニモンのデータを活性化させることができ、 左腕が肥大化、右角が生え、左目がアルケニモンの様になり、身体能力が通常時の592%まで上昇する。 これらの変化には苦痛が伴う。 強い破壊衝動と殺意に苛まれ、命を奪うことに対しての心理的ハードルが下がる副作用があるため、能力解放には多大な危険がつきまとう。 長時間の抑制プログラムの無効化は再びアルケニモンに身体を奪われるリスクがあるため、3分で抑制プログラムが自動的に再投与されるシステムになっている。 変異した左目は対峙しているデジモンのデジコアや弱点などを、的確に探し出すことが可能。 得意技は麻痺性の毒を吐きかける「パラライズブレス」。 必殺技は、肥大化した左腕でデジコアを引き抜き捕食する「スパイドバイト」この技を使用した場合、デジコアを引き抜かれたデジモンはデジタマに戻らない。 そのため、楽音は意識的にこの技を使わないようにしている。 「デコピン」はそれらの事情から楽音自身が考案した技。肥大化した左腕によるデコピンはとてつもない破壊力を誇り、フルパワーで放たれた場合、200mmの装甲板も破壊可能。 一般的な完全体のデジモンならば一撃でデジタマになるほどのダメージとなる。 右手で放たれた場合も、マトモに喰らえば3メートルほどは吹き飛ばされる。 しかしリーチが短く、非常に当てにくいのが難点。 デジヴァイスバングル デジタル庁デジモン対応特務室から提供されたバイタルブレスのデータを参考に神月教授が一晩で開発した。 装着者のバイタルを監視し、抑制プログラムの投与量を管理している。 操作することで投与を中断することが可能。これは本来能力解放のためのシステムではないが、戦闘のために使われている。中断中は危険を周知する目的で画面が赤く発光する。 3分で自動的に投与が再開される様になっているが、これはタイムリミットとして設定されているものであり、 楽音がアルケニモンに呑まれそうになるなどの異常が発生した場合は即座に投与が再開される。 投与再開時には全身のスキャンが行われ、改変プログラムも使用することによって、変化した部位を元に戻している。 腕にニードルを突き刺す形で装着されているため簡単には取り外せない。 将来的には体内にインプラントするタイプのデジヴァイスを開発することも検討されている様だ。 デジヴァイスというだけあり、デジモンとのリンク機能や進化の促進も可能だが、 パートナーデジモンが存在しないために、今は使われていない。 進化の促進を楽音自身に使用することも理論上は可能だが、そうした場合はおそらくアルケニモンが完全に体を乗っ取ってしまうと考えられる。 使用者の周囲の情報を取得する機能が搭載されている。これはレプリクロスローダーシリーズにも搭載されている機能で、危険察知を目的にしているが、神月教授が個人的に閲覧することも可能。 抑制プログラム 変質したデータを改変し、元に戻すことを目的とした改変プログラムでは、侵食が現在進行形の場合、効果の発揮は一時的なものとなってしまう。 そのため、改変プログラムを使用したのち、即座に侵食元を断つことが必要とされる。楽音の場合、身体のデータとアルケニモンのデータが深く結合していることに加え、 データ侵食の元であるアルケニモンのデジコアが心臓と完全に融合しているため、摘出は不可能とされた。 そのため、デジコア自体の活動を抑制するプログラムが必要とされたのだ。 対症療法的なものであることは間違いなく、継続して投与していなければいつアルケニモンに変貌してしまうかわからず、 さらにこのプログラム自体も長期投与による影響が未知数なため、彼女の現状は手放しに喜べる状況ではない。 ━━━━━━━━━ カードピアース デジカをディーアークなどの外部手段なしに使用する方法の一つ。 カードを直接デジモンに突き刺し、データを取り込ませることによってアビリティを発揮する。 ━━━━━━━━━今回のモブ━━━━━━━━━ 「カーゴドラモン!デッカードラモン!強制デジクロス!」 カーゴドラモン:デッカードカスタム カーゴドラモンの収容スペースにデッカードラモンが持つ重火器を搭載した、攻撃的なカスタム形態。 本来想定されているバランス以上に武装を搭載しているため、飛行速度や安定性が低下している。 トリモチランチャーを使えば、いかなる強力な対象でも長時間拘束できる。 必殺技の「ビートデッカードストライク」はミサイルやキャノンを一斉発射し、地上を焦土と化す。 「イグニートモン!アンドロモン!メタルグレイモン!強制デジクロス!」 イグニートモン:メタルモード アンドロモンを手本とした機械化改造をイグニートモンに施し、メタルグレイモンXのアルタラウスを装備させた形態。 必殺技はエネルギーの斬撃をアルタラウスで撃ち出す「スパイラルブラスター」と、複数の特殊弾を装填して発射する「ティモニデストロイヤー」、力を込めた強力な斬撃を放つ「スパイラルブリッツ」。