平和島にあるアパート兼事務所、「Nerve-Ally」の事務所。 そこの名張家自宅となっている3階のダイニングで4人がテーブルを囲んでいた。 しかし4人とも押し黙ったままである。 テーブルの上には文房具のような棒状のものが置かれている。 傍らの紙箱には「妊娠検査キット」と印刷されていた。 「……あんな?」ホークモンが口を開く。「ワイ前にも言うたよな?」 「……はい。」茜と 「……うん。」蔵之助は沈痛な面持ちである。 「酒飲んだらこうなるて!これで何度目や!!」 「……三度目です!ごめんなさい!」茜がテーブルに叩頭する。 陽性反応を表示する線の浮かんだ検査キットが衝撃で跳ねた。 「ほんっとーに、申し訳ない!」蔵之助も珍しく素直に謝る。同じ失敗をまたも繰り返したのが相当に堪えたようだ。 「主殿もお館様も、頭を上げてください。」ひとり落ち着いた様子のレナモンが言う。 「ホークモンも、今更責めたところで無かったことには出来ないでしょう?」 いや、これは落ち着いてるのではなくて嬉しくて浮かれてるな?と茜にはわかった。 「せやかてレナモン……」 「家族が増えるのは喜ばしいことではないですか。だからまずはこれからのことを考えましょう。」 立ち上がって両拳を握りしめながら斜め上を向いてレナモンは力説する。 「明日の配信はお休みですね。どうしても言うならお館様のソロ配信で。まずは産婦人科に行きましょう。」 「あっうん、そうするよ。」蔵之助はレナモンの様子に気圧されている。 「ホークモンは明日一日家で待機。うっかりシンドゥーラモンにぼやいてそこから広まってしまいますからね。」 「おっ、おう。」ホークモンも毒気を抜かれてしまっている。 「主殿、明日の産婦人科へは私が同行します。全力でお守りしますのでご安心を。」 「あっうんそうね、おねがいねレナモン。」やや引き気味に茜が答える。 「ああ……今度は男の子でしょうか、それとも女の子でしょうか……楽しみで楽しみで仕方ありません!!」 とうとう嬉しさを隠そうともせずに、レナモンはその場でくるくると回りだした。 このテンションの上がり方はまるで芦原さんに対するドウモンみたいだな、と三人は思ったが口に出して言えばレナモンが不機嫌になるのは目に見えていたので黙っていた。 大気圏外から降ってくる愛媛県を迎撃する愛媛迎撃作戦……というちょっと理解が追いつかないような作戦の直後、慰労のためのバーベキュー大会が催された。 作戦前半は核弾頭による降ってくる愛媛の迎撃、後半はテイマーコレクターへの対処と各組織間の連絡・調整役として東奔西走していた。 そのためバーベキュー会場にたどり着いたものの疲労困憊極まりなく、またすぐ傍でデジ対の酒多女史が盛大に酒盛りをしていたため二人ともそれに釣られてしまった。 本来酒は好きだが酒に弱い二人は、性欲への抑えも効かなくなって避妊などが頭から蒸発した状態で行為に及んでしまう。 実は侘助の時も一華の時も酒の勢いでやってしまった結果だった。 翌日の昼前。 茜とレナモンが事務所に戻ってきた。 「……おかえり、どうだった?」 やや不安げな調子で尋ねる蔵之助に、茜はVサインをした。 「あっ……」何か言おうとして言葉を少し詰まらせている間に、茜は薬指も立てた。 「……?」 「三つ子!」元気よく茜が言い放つ。「赤ちゃん、三人いるって!」 『……えええええええっ!』蔵之助とホークモンは声を揃えて驚愕した。 「三つ子……三つ子かぁ。」ひとしきり驚いた後、半ば放心した様子で蔵之助は呟いた。 「こりゃいい加減、侘助を呼び戻さないとなあ。一華にも手伝って貰って……」 そう考えていたところに蔵之助のスマホの呼び出し音が鳴った。 「はいもしもし、名張です。どうしたんですか芦原さん。芦原さんが僕に掛けてくるなんて珍し……」 『済まないが前置きは無しだ。落ち着いて聞いてくれ、名張。』 芦原の様子がおかしい。何かただ事ではないことが起きたのだとすぐに察した。 『お前の息子の侘助君が突如発生したデジタルゲートに飲み込まれた。』 ただし告げられた内容は蔵之助の予想を遥かに超えていた。 『クラスメートと一緒に飲み込まれたらしい。周辺の捜索も続行してるがおそらくデジタルワールドに……もしもし、おい、聞いてるか名張!もしもし、もしもーし!』 芦原の声を垂れ流しながらスマホが音を立てて床に落ちる。 禍福は糾える縄の如し。吉報に続いて齎された凶報に、蔵之助はただ呆然としていた。