-------------------------------------- 登場キャラクター: No.126 八王子 蘭(自創作キャラ)&ホーリーデジタマモン No.295 メラニー&アルバ&闇のトレイルモン No.326 二本柳 海砂緒&クレニアムモン No.328 子宝 豊&エビドラモン --------------------------------------  沢山のデジタマが転がる海岸で、三体のデジモンと三人の大学生達がピクニックテーブルを囲んでいる。  そのテーブルに置かれているのは、二つの大きなクローシュ(※釣鐘型の金属の蓋)であった。 「二人とも完成したようだな。それじゃあ早速、"ホーリーデジタマモン杯・サンドイッチコンテスト"の結果発表と行こうか!」 金色の翼を有する卵の姿のデジモン「ホーリーデジタマモン」は、挑戦的な目でお料理対決の参加者デジモンを見上げる。 「良いだろう」 「ひっくり返んなよデジタマ野郎!」  コック帽を被った聖騎士型デジモン「クレニアムモン」が頷き、同じくコック帽を被った水棲型デジモン「エビドラモン」が鋏を振り上げる中、ホーリーデジタマモンのパートナーである「八王子 蘭」は思い返す。  どうしてこうなった? と。 〇〇〇 デジモンイモゲンチャーサイドストーリー: 「ホーリーデジタマモン杯・サンドイッチコンテスト!」 〇〇〇  お料理対決結果発表の、約1時間前。  パートナーデジモンであるホーリーデジタマモンに連れられて、大学生の女の子である蘭はデジタルワールドの海岸に降り立っていた。 「未だに信じられないなぁ。あの頃は、家への帰り道を探して只管彷徨っていたのに……こんなに簡単に、二つの世界を行き来できるようになるなんて!」 「ふふん。なんたって俺は"ホーリーデジタマモン"だからな! まぁ、デジタルゲートを開くのは結構しんどいから、頻繁にはやりたくないが」  ホーリーデジタマモンは自分の料理に自信を持っている。現実世界に来てからは更にそのスキルが上がったと自負しているが、パートナーの蘭からは渋い評価ばかりであり……  蘭を舌馬鹿であると信じて疑わないホーリーデジタマモンは「改めて他のデジモン連中に軽食料理を振舞って、評価を聞いてみよう!」と、サンドイッチの材料と蘭を伴い、デジタルワールドにやってきたのだ。   「善は急げだ。早速、販売所をセッティングするか!」  荷物が入った風呂敷包みを降ろしたホーリーデジタマモンは、蘭と共にサンドイッチ販売所の設営を開始するが、その最中、蘭は気が付いた。 「ホーリーデジタマモン。この海岸、誰も居ないよ」 「何?」  二人は周囲を見回す。  ここはいつもデジモンで盛況の海岸であるはずなのだが、周囲には沢山のデジタマが転がるばかりで、アクティブな生命データの気配が無いのだ。 「本当だ……どうしてこんなにデジタマだらけなんだ?」 「わからないけど、ここじゃあ誰も食べに来る人がいないかも」 「うーむ」  折角準備したが、場所を変えるべきか?  ホーリーデジタマモンが悩む中、重厚な足音が二人に近づいてきた。 「そこにいるのは。ホーリーデジタマモンに、蘭殿か」 「あら! どうしてお二人が、デジタルワールドに!?」  現れたのは、大学生のお嬢様である「二本柳 海砂緒」と、彼女のパートナーであり、デジタルワールドを守護するロイヤルナイツでもある「クレニアムモン」である。  彼女達は、かつて現実世界でデジタマ怪獣に襲われていた蘭とホーリーデジタマモンを助けたことがあり、蘭たちとは面識のある関係だった。  「海砂緒さん! えぇと、ホーリーデジタマモンがサンドイッチを売ってみんなの感想を聞きたいって言い出して。それで私たちはDWに」 「? ら、蘭様。貴女が何を言っているのかよくわかりませんわ……」 「俺は自作したサンドイッチを売っている。それがわかれば十分だ。ほら、買って喰え。そして感想を言え」 「「…………」」     海砂緒とクレニアムモンは顔を見合わせる。  自分たちはこの海岸で起こった"デジタマ化現象"の報を受け、その調査のためにDWにやって来たのだが……どうやら目の前の二人は無関係であるらしい。 「そうだな。丁度お昼時だし、ここで食事にしようか。二つ売ってくれ」 「まいど」  クレニアムモンが通貨を渡して自分と海砂緒の分のサンドイッチを受け取ったその時、海岸に何やら賑やかな声が響いた。 「おー! あっちで軽食売っているぜ!」 「お昼にしましょうよ、エビドラモンさん!」  海を渡っていた「エビドラモン」と、彼に乗っているパートナーの大学生「子宝 豊」が、軽食販売に気が付いて砂浜に降り立ったのだ。 「サンドイッチ、二つくださいな!」 「はいよ。食べたら感想を言えよ」  豊はホーリーデジタマモンからサンドイッチを受け取り、砂浜に座るエビドラモンの背中に移動した。 「はい、エビドラモンさん! 一緒にいただきましょう!」 「おー、サンキュー豊! イタダキマース」 「海砂緒。私たちも頂こうか」 「えぇ。頂きましょうニア様!」  サンドイッチ購入組が、その口元にサンドイッチを運ぶ。  だが、そのサンドイッチは、決して美味しいものではなかった。全てが壊滅的というわけではないのだが……シンプルに、味がイマイチであるのだった。 「う、うぅむ」 「ううん……」  クレニアムモンと海砂緒は悩んだ。  ホーリーデジタマモンから味の感想を求められているが、それをそのまま言ってしまえば、彼のプライドは傷ついてしまうかもしれない。 「何だこれ! まっずいサンドイッチだなぁオイ!」  だが、味の感想をストレートに伝えた者がいた。  エビドラモンである! 「え、エビドラモンさん!?」 「わざわざ金払って喰うもんじゃねえよこれ!」 「ま、待って待ってエビドラモンさん。そんなことを言ったら、彼を怒らせて……!」 「このくらいの料理なら、俺にも出来らぁっ!」  ホーリーデジタマモンは、その発言を聞き流せるだけの器を持つデジモンではない。ホーリーデジタマモンは蘭と豊が慌てる中エビドラモンに近づき、彼を睨み上げた。 「今、なんて言った?」 「お前のサンドイッチはまっずいし、俺の方が美味いサンドイッチをつくれるって言ったんだよ!」 「くくく……こりゃあ面白い舌馬鹿ザリガニデジモンだ!」 「ご、ごめんなさい、ハネタマゴモンさん! エビドラモンさんに代わって謝ります!」  豊はエビドラモンの忌憚なき発言を謝罪するが、ホーリーデジタマモンは「やれやれ」と言わんばかりに、殻を横に振った。 「そうはいかないな。こうやって堂々と料理にケチをつけられたんだ。こりゃあどうしても、俺のものより美味いサンドイッチとやらをつくってもらおう。この場でな!」 「え! ここでサンドイッチを!?」 「そうだ。舞台は用意してやるよ。"ホーリードリーム"!」    器の小さい究極体デジモンであるホーリーデジタマモンは、翼を広げて必殺技の「ホーリードリーム」を放つ。  それは理を覆し、不条理を跳ねのける願いの光。  光は複数のデータを構成し、やがて、砂浜にはどこからともなくピクニックテーブルと、コック棒と、調理器具が現れ…… 「マジかよ」 「このコック帽子は? 私も参加するのか? 何故?」  かくして、エビドラモンと巻き込まれたクレニアムモンは、ホーリデジタマモン主催のお料理コンテストに強制参加することになってしまったのだ! 〇〇〇 「そして出来上がったものが、こちらになるわけですね! ニア様!」 「あぁ。私が作ったのは、デジピタサンドだ」  クローシュを持ち上げたアイアンシェフ・クレニアムモンは、少し気恥ずかしそうに自作料理を紹介する。 「デジクルミ入りのデジピタに、ハーブ処理したデジカムルとデジ野菜を入れてある」 「こちらの方には、新デジジャガと肉のデジマヨ炒めを入れてみたんだ」 「デザートにはオレンジバナナ」 「そして飲み物は、デジコーヒーだ」 「どうだろう?」  それはとてもお洒落な軽食セットであり、クレニアムモンの料理を見た大学生の女の子たちは目を輝かせる。 「ヒィィィニア様! おしゃれー!」 「うわあ、綺麗で美味しそうなサンドイッチだ!」 「蘭様、違いますわ! これはサンドイッチではなく、ピタサンドです!」 「あっ、ごめんなさい。でもピタサンドって……?」 「それはきっと、この状況に「ピッタリなサンドイッチ」ってことじゃないかしら?」 「なぁるほど! だから略してピタサンド! さっすが豊さん!」 「違いますわよ!? あぁ、でも、もうそれどころじゃないっ! ヒィィィニア様〜!」  夢女子と化した海砂緒は、デジヴァイスVに備わるカメラをカシャカシャと連射しながら、黄色い悲鳴をあげ続けている。 「あ、相変わらずやかましい人間だ!」 「わはは。クレニアムモン。お前のパートナーはヤベーやつだな!」 「失礼なことを言うな。さぁ、君たちも試食してみてくれ」  クレニアムモンはエビドラモンとホーリーデジタマモンに試食を勧め、二人はピタサンドを手に取り口に運ぶ。 「ウヒョー! ウメーウメー!」  「ぐぬぬ……!」  その味にエビドラモンは大喜びし、ホーリーデジタマモンはぐぬぬした。  ホーリーデジタマモンからしても、クレニアムモンのつくったピタサンドは良い出来栄えだったのだ。 「さて。私の料理はどうだろうか、ホーリーデジタマモン」 「だ、駄目だ駄目だ! 失格だ! これは"サンドイッチ"のコンテストだと言っただろ! ピタサンドは駄目だっ!」 「おおっと……そうか。それは残念だ」 「美味かったぜごちそーさん! んじゃあ次は俺の作ったやつだな〜」  エビドラモンはクローシュの取っ手を鋏で掴み、そのぎこちない動作にホーリーデジタマモンは笑った。 「深海暮らしのエビ野郎に、料理なんてできるとは思えないな!」 「へいへい、ご心配ドーモ。豊にも手伝ってもらったし、バッチリだぜ! 俺のはこれだっ!」  クローシュが持ち上げられ、その料理が露になり……その瞬間、豊と夢女子モードの海砂緒以外のメンバーは、一歩後退した。 「お、おい、エビドラモン。お前、そのサンドイッチに一体何を入れたんだ!?」 「ん〜? 俺料理わかんねぇからさぁ。豊に何入れたら良さそうか相談したんだよ。それを全部突っ込んだ!」  ホーリーデジタマモンが呼び出した食材は、彼が選定したわけではなく、参加者が欲しいと願ったものである。  エビドラモンが提供したサンドイッチに入っていたものは…… 「うふふ。うなぎ、牡蠣、すっぽん、レバーに山芋、ごまとニンニク。エトセトラ、エトセトラ……!」 「何か元気出そうだろ〜!」    その精力漲るサンドイッチの圧は、究極体をも圧倒する。  試食を勧められるホーリーデジタマモンとクレニアムモン、そして蘭は「拒否」をジャスチャーで示した。 「んん〜喰わねえのか? じゃあ俺の優勝ってことで」 「んなわけあるか! 料理で遊ぶな! エビドラモン、お前も失格だ!」 「あぁん? しょーがねえなぁ……んじゃ、これ俺達で喰っちまおうぜ豊」 「えぇ! 頂きますね、エビドラモンさん!」  豊とエビドラモンは蘭が止める間もなく、力が漲るサンドイッチを手に取り、頬張った。  「嗚呼、嗚呼っ……!」 「うへー! なんか身体がブルブル来るなぁ豊!」  流石にクレニアムモンのピッタリサンドには勝てないが、ホーリーデジタマモンのサンドイッチよりは美味しい!  そう笑って豊に振り向いたエビドラモンであったが、彼は目を見開いた。 「嗚呼、エビドラモンさん! エビドラモンさん!」 「豊?」  パートナーである豊の様子がおかしい。彼女の身体が、異様なまでに火照っているのだ。 「今日の貴方は、なんかアメリカザリガニーン!」 「どぉわあああああっ!?」  豊はエビドラモンに覆いかぶさり、絶頂する。  その光景はとても直視できるものではなく、「ヤベーやつだ」とホーリーデジタマモンと蘭は慌てて会場を片付けて撤収し、冷や汗を流すクレニアムモンもまた、海砂緒を連れて足早に立ち去った。  海岸にはエビドラモンと豊、そして沢山のデジタマ達が残され……やがて夜になったときには、エビドラモンのデータは搾り取られたかのように、すっかり干からびてしまっていた。 〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇 ―ざぁーこ、ざぁこ。 ―はやく、はやく。目を覚まして。   「……?」  深夜。  精魂尽き果てたエビドラモンが目を覚ますと、そこには、自分の両脇で囁く二人の人間の少女の姿があった。 「な、何だぁお前ら……」 「私はアルバで」「私がメラニー」  ここは海岸の筈だが、列車の汽笛が聞こえる。  だが、エビドラモンはそれを疑問に思う余裕も無かった。彼はもう干からびているのだから。 「ざぁこざぁこ。一体ここで」「何があったの?」  何があったか。  その問いに、エビドラモンは思い返す。  ホーリーデジタマモンが主催したサンドイッチコンテストに参加して、豊と自分は自作の特性サンドイッチを食べて、そしたら豊が盛り上がって。  ……それからは、記憶が残っていない。気が付けば自分はカピカピになっていた。 「ほ、ホーリーデジタマモンが……」 「ホーリーデジタマモン?」「だぁれそれ?」 「頭に輪っかがついていて……金色の翼が生えた……見たことのねえ、デジタマモン野郎だ……」 「「…………」」  エビドラモンは「ホーリーデジタマモン杯・サンドイッチコンテスト」の話をする間もなく再び気絶し、立ち上がったメラニーとアルバは、周囲を見渡す。  視界に広がるのは、生命の気配のない海岸に散らばった、沢山のデジタマ達。まさかエビドラモンが産卵したはずもなく、このデジタマまみれの異様な光景に、彼女達は覚えがあった。  もし、この光景を作ったのが「ホーリーデジタマモン」とやらの仕業だとすれば……   「そいつは"私"の仇に繋がるかな? アルバ」「さぁ? だけれど会いに行かなくちゃね、メル」  エビドラモンの傍に回復フロッピーを置いた双子の姉妹は、「闇のトレイルモン」に乗って闇夜へと去っていく。  汽笛が遠ざかっていく中、豊はエビドラモンの身体の上で微睡から目覚め、その瞼を薄く開いた。 「エビドラモンさん。とっても、美味しかった」 「…………」 「あなたの、サンドイッチ…………」  豊は恍惚とした表情で、エビドラモンの甲殻をなぞる。  干からびたエビドラモンとは対照的に、豊のその肌は、どこかつやつやとしていた。 [終わり]