《序章》 ──都内某所。デジタル庁デジモン対策特務室……通称、"デジ対"。 その日、対デジモン戦線の最前線と言うべきこの部署に緊張が走った。 小会議室には、スーツ姿の男女が神妙な面持ちで並んでいる。その中に紛れて、不釣り合いに活動的な姿の少女が一人。 『……では、本当に現れると言うのかね?』 厳格な印象を持つ老年の議員が問う。 「はい」 少女が答える。威圧感を与えるその風体にも、一切物怖じしていないようだった。 「転送時の状況、ログ、データ量、通信状況などから考えて、恐らく現出地は……ここ」 広げられた地図の一点を指さす。その先は……。 『……市街地のど真ん中じゃないですか。また厄介なところに……』 神経質そうなアラフォーの職員が、冷や汗を垂らしながら言葉を漏らす。 『これが避難計画の試算です。時間的には十分な猶予がありますが、ただ……』 端末を弾きながら、桃色の髪の女性職員が話す。 『確証もなしにこれだけの人員を動かすのは……いくら厳城先生のお力添えがあっても厳しいかと』 「それに関しては……信じてもらうほかありません」 想定内の反応だった。公的機関がこれだけで動くはずがあるまい。 『……私個人としては、わざわざデジ対のど真ん中にリアライズする彼女の度胸を買いたいところですけどね』 「偶然ですよ。単にかわいい"弟分"の顔を見に来たら、ここに出てきちゃっただけです」 笑って答える。彼女にしてみれば、手頃な知り合いの端末を通じデジタルゲートを開いただけ。 もっとも、おかげで足を運ぶ手間は省けたが。 『どうします、室長?仮にこれが事実なら……』 『……分かっています』 室長と呼ばれた強面の男は静かに答える。人命か、それとも公的機関としての責任か。彼は板挟みの状況にあった。 しばしの静寂。そして、それを裂いて鳴り響く着信音。 『宇佐美です。……ええ、分かりました。繋ぎます。酒多さん、スクリーンの方に』 宇佐美室長の指示により、酒多と呼ばれた女性職員が再び端末を操作する。……ブラインダーが閉じ、照明が落ちる。 暗くなった小会議室の中では、プロジェクターだけが光を湛えていた。スクリーンに映るのは若い青年職員の姿。 『詩虎です。観測データを調べてたんですが……これを見てください』 そう言うと青年はいくつかの書類を適示する。一つは拾得物、もう一つは落下事件についての報告。 『ここ数日、○○市では拾得物の報告が急に増えてるみたいで……その大半が何らかの機械部品や破片のようなんです』 『そしてもう一つ。同じように〇〇市では落下物による負傷や物損事故が多発していました。こちらもまた、同様の物体によるものです』 続いて提示された書類、それはここ数日の〇〇市でのパケット数増加を示すものだった。 『見てのとおり、前述の報告と時を同じくしてパケット数の増加が相次いでいます。データ量自体は微々たる物ですが、これは間違いなく……』 『……リアライズか』 議員が重たい口を開く。 『え、ええ……。可能性としては、戦闘中に膨大なデータ量の物体がリアライズを試みて、巻き込まれた破片などが先に出てきたってとこですかね』 『まあ、要するに……その"正義の味方"ちゃんの言うことは信じていいと思います。それでは、ひとまずこの辺で』 通信が切れ、室内に再び光が戻る。だが、惨劇の予測が裏付けられた今、彼らの上には暗い何かがのしかかっていた。 『……冬矢くん。君の意見を聞きたい』 小会議室の片隅に、その少年……風吹冬矢はいた。周囲と壁を作るかのように顔を伏せ、会議が始まってから一言も発していない。 『今ここで、彼女の素性を知るのは君だけだ。正直に話して頂きたい。』 「……」 「……彼女は、嘘をつく人間ではありません。僕から言えるのはそれだけです」 静かに答える。少女は冬矢に向かいにこっと微笑みかけるが、彼は俯いたままだった。 『……宇佐美くん』 『はい』 思案した後、厳城議員が一言だけ告げる。 『……責任は私が取る。全力を尽くしたまえ』 それは、デジ対にとって新たなる戦いが始まることを意味していた。 『……分かりました。酒多さんは大至急対策案をまとめてください』 『そう来なくっちゃ!』 待ってました、とばかりに酒多が端末に齧りつく。今はオフィスに戻る時間すら惜しい。 『芦原さんは関係省庁への通達を……電脳犯罪捜査課の方にも要請をお願いします』 『了解しました。……はあ』 深いため息をこぼし、神経質そうな職員……芦原が立ち上がる。 『……やりますか』 その目は、頼りなさげなアラフォーから、瞬時に怜悧な切れ者のそれへと変わっていた。 『詩虎くんには引き続き情報収集を頼むとして……。確か灯導……千尋さんでしたね』 宇佐美が少女、千尋の方へと向き直る。 『見ての通り、うちは慢性的な人員不足でして……警察や民間テイマーの方々にも手伝っていただいているのですが、思うように首が回らないのです』 強面と巨体に似合わない、朴訥とした苦笑。 「分かってますとも。ボクにできることならなんなりと」 屈託のない笑みと共に差し出された手を、宇佐美は少し恥ずかしそうに握り返す。 この状況では、彼女の明るさも、力強く握られた手も、この上なく頼もしかった。……少々力が強すぎて痺れが残ったが。 最後に、声をかけたのは冬矢。 『タイムスケジュールは追って伝えます。それまで、出来る限り体と心を休めておくように。……可能なら、彼女に今の情勢などを教えて頂けると助かります』 「……はい」 あくまで彼は民間協力者。必要以上の業務を押し付けるわけにもいかない。やがて始まる苦闘に備え、最低限心身を整える。それが最適解だろう。 自分にもやらなければいけないことが幾らでもある。使命を胸にデスクに戻ろうとするが、その前に宇佐美は、千尋の注意が逸れた隙を見計らい、静かに冬矢へと耳打ちした。 『……本当に、大丈夫なんですか?』 「これは俺個人の問題です。……俺自身でなんとかします」 『……分かりました。どうか、無理だけはしないでください』 「……」 ……会議室を後にする宇佐美の瞳には、少年への微かな不安が宿っていた。 「ふふっ、まさか君と肩を並べて戦うとはね。改めてよろしくね、冬矢」 「……」 ……冬矢は、視線を逸らしたまま何も言わなかった。      《1.》 ……数十時間後。未明の街は戦場と化していた。 家々を照らす明かりは炎。闊歩するのは奇怪な黒ずくめのデジモンの群れ、群れ、群れ。その名はトループモン。 行進の先に待つのは、市街地のど真ん中に顔を覗かせた数十メートルほどのクレーター。 クレーターから数キロメートルほど離れたところに、彼女はいた。 「なってないよ!もっと本気で打ち込んでみな!」 灯導千尋。徒党を組んで迫るトループモンの集団を、彼女は拳一つで蹴散らしていた。 その腕、その脚、一挙手一投足の全てが、凶器となって彼らの身を裂いていく。 肉弾戦では彼らに勝ち目はなかった。それを察したのか、一体のトループモンが物陰に身を隠し長銃を構える。照準は、勿論千尋。 「うおおおおおおっ!!」 ……が、その背後から雄たけびを上げて冬矢が迫る。倒れた他のトループモンから拝借した銃を、頭めがけ一直線に振り下ろす。 「この野郎、この野郎……っ!!」 何度も、何度も、銃床を繰り返し打ち付ける。ヤツが動かなくなるまで。 「はぁ、はぁ……」 ……残心。息も絶え絶えに神経を尖らせる。少なくとも、この場のトループモンは全て倒れたようだ。 深く息を吸い、高ぶった心を落ち着かせると……目に映るのは、ズタボロになったトループモン。 「……ッ!?」 冷や汗が伝うと、腕から力が抜け、滑り落ちた銃が音を立てる。 ……落ち着け。落ち着くんだ。デジモンを倒す。これまで幾度となくやってきたことだ。何も変わらない。そう自分に言い聞かせていると……。 「ありがとね、冬矢」 ハッとして向き直ると、そこには千尋がいる。彼女にしてみれば、冬矢はピンチを救ってくれた恩人だ。無邪気に微笑み礼を言う。 だが、それは冬矢にとって、自分が何を成したかを冷たく示しているようでもあった。 「ああ……これ?大丈夫だよ。コイツらはただの抜け殻だから」 彼女曰く、このトループモンなるデジモンは、体内に詰まったエネルギーで動かされる人工の戦闘兵器らしい。 理屈の上ではそうなのかもしれないが……腕に伝うぐにゃりとした感覚は、未だに抜けてくれなかった。 ……千尋の警告は現実となった。 デジ対の訪問からしばらくして、某市上空にリアライズが発生。現れた大質量の未確認物体は一直線に落下。衝撃で建物は倒れ伏し、円形に灯りが消え暗闇が訪れる。その代わりに、裂けたガス管を伝い炎が辺りを赤く染め上げた。 幸い避難計画は滞りなく進んでおり、直撃による死傷者は皆無だった。残りはデジ対主導で未確認物体を早期に回収、対処する算段だったが……そこに現れた未知の乱入者。それがトループモンだった。 リアライズした無数のトループモンは、職員に攻撃を加えながら一心不乱にクレーターを目指した。彼らにとっても、例の物体は重大な戦略目標らしかった。 言うまでもないが、デジ対が黙っている理由はない。市内各所で戦闘が勃発し、二人もそれぞれのパートナーと共に戦線へと加わったが、数で攻める彼らを捌き切ることはかなわず、分断されてしまったのだった。 「いらないって!……俺の分はあるんだから、お前が飲めっての」 千尋の差し出したゼリー飲料のパウチを跳ねのける。不躾な冬矢の態度に、彼女は少々不満げな顔をするが……すぐに拾い上げ、封を切った。口に当てたそれは、ものの数秒でぺしゃんこになる。 「……棚の飲んだっていいだろうがよ」 先程の交戦地点から、少しだけ落下点に近づいたところ。彼らは光の消えたコンビニの中に腰を下ろしていた。 トループモンたちは一路クレーターを目指している。さすれば、対応するデジ対の面々も集まってくるだろう。そう考えた彼らは、建物の陰に隠れながらクレーターを目指していた。 しかし、未だ活気に溢れる千尋と比べ、冬矢の顔には疲れが色濃く現れていた。見かねた彼女はコンビニでの休憩を提案。 無人の店内から商品を拝借し一服していた。……気持ち程度に、レジの上に千円札を置いて。 「……俺の金なんだけどなあ」 ……愚痴をこぼしながら、目の前にいる少女をまじまじと見つめる。確かにその姿、その笑顔は、心の芯に焼き付いた記憶と寸分違わない。 しかし、目の当たりにした力は到底人間のものとは思えなかった。生身でデジモンの群れを片づけ、息一つ上がっていない。 ここにいる彼女は、本当に自分の知る千尋なのだろうか。 「……ちょっと気に食わないんだよね」 「えっ?」 疑問を見透かしたように、千尋が切り出す。 「久々のご対面だってのにどうも冷たいような気がするんだよねー。……そりゃ、数か月も行方不明になってたボクにも落ち度はないとは言わないけどさ。どうした?生のヒロ姉さんだぞ?」 ……その呼び名は、小学生くらいまでよく使っていたものだった。 二人は幼馴染の間柄にある。家が近かった冬矢を、千尋は姉のように可愛がって面倒を見ていた。 三つ子の魂百までと言おうか、その性根は幼い頃から変わっていない。引っ込み思案だった昔の自分を引っ張ってくれた彼女は、まさしくヒーローであった。 あの頃の記憶は幾らでも思い出せる。忘れようがない。忘れるものか。 「いつの間にか言葉づかいも荒くなってるし、"僕"から"俺"になっちゃってるし。いったいどうしたの?なんか壁を感じるな」 「もしかして何かあった?悩み事があるなら、このヒロ姉さんになんでも話してみたまえ。ん?」 図星だった。だからこそ、何も言いたくない。 「……まあいいや。何も言わないからには、それなりに理由があるんだろうしね。話したい時に話してくれればいいさ。」 「それにしても驚いたよね。まさかテイマーになって、悪いデジモンと戦ってるなんてね。これぞ正義の味方!ってわけだ」 "正義の味方"。昔から彼女が好んで使う言い回しだった。そして今、それは冬矢にとって……最も聞きたくない言葉だった。 「男子三日会わざれば、ってやつなのかな。ちょっと寂しいけど、立派になってくれてお姉さん嬉しいぞー?」 ……間違いない。彼女は紛れもなく本物の千尋だ。 「あ……あのさ!」 閉ざされていた冬矢の口がようやく開いた。 「おっ、やっと何か話してくれる気になったのかい?」 「そうじゃなくて……どうしてあっちに行ったのか、覚えてる?」 「あー……ごめんね?実はその辺よく覚えてないんだよね。なんだか知らないけど気づいたらデジタルワールドにいた……みたいな?」 「……なんで、こんなことを聞くんだい?」 「そ、それは……なんでもない」 怪訝そうな眼差しで彼女が見つめ返す。当然だ。いきなりこんなことを聞かれても戸惑うほかはあるまい。 本当に彼女は、あのことを覚えていないのか?それとも、覚えていたのなら……このように接しているだろうか。 衝動のままに、次の質問を繰り出そうとした……その時。 「シーッ!ちょっと静かに!」 千尋が口を塞ぐ。……静寂。その中には、微かに爆発のような音が混じっていた。 窓の外に駆け寄ってみると、クレーターの方から時折光が明滅している。 「……アーク、アーク出して!」 言われるがままにディーアークを差し出すと、レーダー画面が展開される。さっきまで静かだったそれは、一転してクレーターと同じ方角に光点を並べている。 アークのレーダーが示すのは……パートナーデジモンの所在。彼らは、今そこで戦っている。 「悪いけど質問は後回し。行くよ!」 「えっ!?ちょ、ちょっと!?」 冬矢は自分ほどに動くことはできない、ならばこれが一番早い。そう判断した千尋は、冬矢の身体をおもむろに抱え上げた。傍目から見れば、お姫様を抱きかかえる王子様と言ったところだ。 コンビニを抜け、友が待つ戦場へと一直線に駆け抜ける。腕の中で揺られる冬矢は、軽く乗用車程度のスピードは出ているように思えた。 道中のトループモンたちはこちらを見るなり発砲してくる。だが、乗り捨てられた車から車へ、華麗な八艘飛びを披露する彼女には、傷一つつけることは叶わなかった。 ……なんなんだ、この人は。 飲みかけの容器が、冬矢の掌から滑り落ちていった。      《2.》 クレーター近傍。ようやく彼らは、それぞれのパートナーと合流することができた。 「全く、派手な登場だな」 「えへへ」 千尋のパートナー、メラモンが声をかける。それは呆れているようでもあり、感心しているようでもあった。 ……何せ、迫りくるトループモンたちの後方から稲光のように駆け寄り跳躍。何体も吹き飛ばしながら飛び込んできたのだから。 「じゃ、彼を頼むよ」 ガードロモンの下へ冬矢の身を下ろす。 「怪我はないか、冬矢」 「大丈夫。この通り……傷一つないよ」 「……千尋が、守ってくれたから」 苦虫を噛み潰したような表情で吐き捨てる彼に、ガードロモンは何も言わなかった。 いや、言えなかった。 「さて、大掃除と行きますか!」 千尋の号令と共に、トループモンたちへとメラモンが火球を投げ込んだ。これ見よがしに放たれたそれは、応戦する彼らの銃撃であっさりと消え失せる。 安堵したのか、あるいは状況確認か。先頭のトループモンが引き金を緩めた瞬間、その顔面に火球の裏に迫っていた千尋の膝がめり込んだ。 正拳突き、回し蹴り、背負い投げ。怒涛の連撃の前に、トループモンたちは次々となぎ倒されていく。距離を取った一体が長銃を向ければ、すかさず射線上に別の一体が蹴り込まれる。 頃合いを見計らい、メラモンが再び火球を投げ込んでいく。その目標は……千尋。同士討ちかと思われた瞬間、彼女はしゃがみ、標的を失った火球は後方のトループモンを燃え上がらせた。 無論投げ込まれた火球は一発だけではない。が、そのいずれも彼女は寸前で身をかわし、巻き込まれたトループモンたちが灰と化していく。 作戦は単純だった。飛び込んだ千尋が前線をかき乱しつつ、自らを囮に火球を誘導する。危険極まりない真似だが、二人のコンビネーションはそれを軽く成し遂げていた。 一方、ガードロモン。誘導灯を振るいトループモンを一体ずつ確実に沈めていくが、その動きは精彩を欠いていた。 振り下ろせば破裂する勢いで地に伏し、横に薙げば建物にめり込むほどに吹き飛んでいく。……明らかに力み過ぎている。 ガードロモン本人はいつも通り戦っているつもりだった。だが、冬矢は違う。 戦況を冷静に見極めパートナーを助ける。それこそがアークを持つテイマーの務め。分かっている。分かっているはずだが、どうしても彼女の存在が頭から離れない。 視線を逸らせばそこに彼女がいる。人間離れした力で、厭味なまでに颯爽と立ち回る彼女が。まさしく、TVに映るヒーローのように。                ・・・・・・・・ ……何故、自分はああなれない?彼女を手にかけて、責を背負い、心に蓋をして、いったい何を手に入れたというんだ? こみあがった黒い感情は、彼を気に掛けるガードロモンの心にも影を落としていた。 「君で最後!」 千尋の足技の前に最後の一体が吹き飛ぶ。行く先に待ち構えるはメラモン。灼熱の拳に打ち上げられたトループモンは、花火となって夜空に散った。 喧騒が止む。少なくとも、ここの一団は片づけたと言っていいだろう。 「ふぅ〜っ、いい運動にはなったかな。……ところでさ」 千尋が周囲に目を見渡す。炎。瓦礫。そして、向こうには積み重なったトループモンたちの残骸。その数は優に百を超えている。 「あれ、君たちがやっちゃったわけ?ひょっとしてボクたちが来なくても十分だったかな?」 冷やかし混じりの賛辞のつもりだった。だが、二人の表情はどうにも冴えない。 「否定」 「えっ?」 「……我々が来た頃には、既に死屍累々だったよ」 この残骸の山はメラモンたちの作ったものではない。無線を傍受したところ、デジ対や警察の面々はそれぞれ離れた場所でトループモンの一団と交戦中だという。 そうなればとてもこちらには応援に来られない。ということは……。 「お、おい!誰かそこにいるのか!?」 冬矢が声を上げた。彼が見つめる方には、煙に紛れて近づく人影があった。 事前に避難勧告が出されていたとはいえ、逃げ遅れた者がいる可能性がないわけではない。思わず呼びかけるが……。 「大丈夫、俺たちはデジ対の方から……」 「……えっ」 声は途中で止まった。何かがおかしいのだ。 確かにそのシルエットは人間だった。しかし、その足音は規則的に重々しく、その動きは避難民にしては異様に落ち着き払っていた。まるで機械のように。 やがて煙が晴れ異様な風体が露わになっていく。光輝く銀色のボディ、奇怪な印象を与える肌色の口元、そして右手に握られているのは……銃。 「やべっ……!?」 「伏せろ!!」 爆発。脅威と判断したガードロモンが咄嗟にディストラクショングレネードを放つも、その人物は物ともせず歩みを続ける。 アンドロモン。サイボーグ型デジモン。完全体。科学の粋を集めて作られた全てのサイボーグデジモンの祖。 だが、今この場に立つそれは普通のアンドロモンではない。人間の体を素材に用いた、生体ロボットとでも呼ぶべき代物だった。 火を噴くアンドロモンのフルオート99。 断続的に注ぐ銃撃に、一行はたまらず頑丈なガードロモンの陰にその身を隠した。 「なあ!お前の言ってた脅威って……」 「ご想像の通り!」 レジストリシティで猛威を振るった試作アンドロモン。系列機が暴走しリアルワールドに向かったことを知った千尋は、その脅威を伝えるためにリアライズしたのだった。 仮にこのアンドロモンが堂々市街地に現出し暴れまわったらどうなっていたか。……横たわるトループモンたちが静かに語っていた。 しかし、千尋は腑に落ちない。アンドロモンの狙撃は正確無比なはずだが、先程の連射はどうにも精度が荒い。 ガードロモンを盾にしたって、その気になれば跳弾でもエナジーキャノンでも使って我々を排除できるはずだ。 考えられるのは牽制。奴にとっては、我々の排除以上に優先される事項がある。 アンドロモンが進む先には赤々と光るクレーター。さすれば、底に眠る"アレ"を回収するというのだろう。 「……まあ、やりますか」 「ああ」 "アレ"が奴の手に渡れば甚大な被害が出る。危険だが、それだけはなんとしても避けなければならない。 天を仰ぎ深呼吸。即断即決、それが彼らの信条。立ち上がったメラモンが拳を地面に叩きつけると、炎が地を這いアンドロモンの下へ道を作る。 「お、おい!?」 冬矢が引き留めるより先に二人は走り出す。遠距離ではフルオート99の的になるのみ。ならば、光と熱がセンサーを乱した隙に懐に飛び込むしかあるまい。 目論み通り、アンドロモンのバイオ・シナプス回路は戦闘モードを近接格闘に切り替えたようだった。とはいえ、問題はここから。 機械的で緩慢な動作を見切ることは難しくはない。が、そのパワーは計り知れない。 シティでの攻防で目の当たりにしたアンドロモンの腕力はコンクリートや金属などを軽々と砕く。一撃でも受けたくはない。 なによりこちらにとって素手で外装を貫くのは困難だった。関節部を狙おうにも、相応に丈夫に作られているのは察せる。下手すれば巻き込まれ、万力のように潰されるだろう。 そして、サイボーグ型デジモンであるアンドロモンは疲れを感じない。戦況は厳しかった。 「あいつは……なんでいつも……」 「……ガードロモン!」 「分かっている」 今やるべきは彼女の援護。両肩から放たれたホーミングレーザーは、蛇行しながら二人の身をかわしアンドロモンに命中する。しかし、有効打には至らない。 レーザーを撃ち続けながら、ガードロモンは一抹のもどかしさを感じていた。彼のパワーなら近接攻撃で傷を与えることも不可能ではないが、 冬矢が後ろにいる以上簡単に近づくことはできない。少しでも姿を見せればたちまちハチの巣だ。 ふと千尋はアンドロモンの変化に気づく。レーザーを受け続けた装甲が薄く赤熱化していたのだ。 彼女の脳裏によぎった言葉はオーバーヒート。奴があくまで機械だと言うなら、熱暴走は避けたいはずだ。 何よりこちらにはお誂え向きにメラモンがいる。やってみる価値はあるかもしれない。 「メラモン!奴を炙れないか!?」 メラモンは静かに頷くと、後方に下がり炎を射ち放つ。千尋の意図は伝わったようだ。 が、それは彼女にとって膨大な熱量、何より二人がかりで受けていたアンドロモンの大馬力を一人で相手することを意味する。 「どうした!そんな攻撃では届かないぞ!」 虚勢だった。肉体、精神ともに限界が近づいている。的を絞った奴の攻撃は激しさを増し、当たらないようにするのが精一杯だった。 だが、怯みはしない。やっとのことで掴んだ光明を手放すわけにはいかない。その強い意思が、彼女の身を支えていた。 ……しかし、彼女は知らなかった。奴に二の手があったことを。腹を抉らんとする左腕を寸でのところで受け止めた、その時だった。 「……ッ!?」 ……アンドロモンの左手の甲からスパイクが飛び出し、千尋の剥き出しの腹を突き刺した。      《3.》 「……千尋?」 限りなく重い一手。それは、趨勢を決するには十分だった。 スパイクを格納し、抑えた腕を引き離す。 縫い留められたかのように固まった千尋を、アンドロモンは一瞥だにせず通り過ぎていった。やがて、その身が崩れ落ちる。 「……おい、千尋!?」 「貴様ァァァッ!!」 止まっていた時が動き出し、その場にいた全員が一斉に走り出す。 パートナーを傷つけられ、激昂するメラモンはお礼参りの拳を加えんとする。 しかしアンドロモンの右腿から抜かれたフルオート99がそれを許さない。張られた弾幕の前に、メラモンは遠巻きに炎を浴びせることしかできなかった。 無論、その程度でアンドロモンの歩みは止まらない。次第に目的のクレーター外縁に到達したアンドロモンは、悠然と身を投げた。 「クソッ……!」 「おい!?大丈夫なのか!?千尋!」 一方、千尋の窮状に血相を変えて駆け寄る冬矢。 「千……!?」 ……だが、その傷を目の当たりにした瞬間、彼は凍り付いた。 抑えた腹から零れ落ちるのは赤い血ではない。青白く輝く0と1の光の粒子。それはまるで、デジモンの受けた傷のように。 「……あっ、見ちゃった?」 「あっちに行ってからこうなんだよね……まあ、こんな身体だからね。何が起きても驚かないさ」 安心させようというのだろうか。千尋は強がって笑ってみせるが、冬矢の心を解かすには至らない。 彼女は既に人間ではない。分かり切っていたことだ。そうでもなければ、散々見せつけられたあの臀力を説明できない。 だとしても、改めて突き付けられた事実は深く心を抉る。 「大丈夫。この程度の傷なら慣れて……くっ!?」 そのまま立ち上がろうとする千尋だったが、やはり身体に力が入らない。 慌てて支えに入った冬矢に肩を貸され、どうにか身を持ち直した……その時。 ……ずしん。 重たい音が深く響き、大地を揺らす。 始めは地震かと思った。だが、揺れはすぐに止まり……再び音がする。数秒おきに、周期的に刻まれる振動は次第に大きくなっていく。何かがまるで、こちらに近づいているように。 音の主を探して振り返ると、それはクレーターのある方角だった。 警戒していると、建物の陰から息を切らしたメラモンが姿を覗かせる。……何があったのだろうか、その身はひどく傷ついているようだった。 「すまん、止められなかった!あいつが動き出した!」 あいつ? 「もうそこまで来てる!早く逃げ……」 ……メラモンが言い終わる前に、激しい破裂音がペーブメントを砕き、立ち上る硝煙がその姿をかき消した。 「メラモン!?」 千尋が叫ぶ。煙が晴れると、割れた路面の中に退化したキャンドモンが転がっていた。 「ご、ごめん。オイラはここでギブ……」 再び、建物の陰からキャンドモンを追うように何かが現れる。巨大な腕のように見えたそれは、うずくまる小さな身体をおもむろに掬い上げた。 ……音の主、そして腕の正体。それは、巨大な鋼鉄のデジモンだった。 不自然に肥大化した上半身、細い獣脚は人型と形容するにはアンバランスで、優に十メートルを超える身体は、ビルの谷間に悠然と顔を覗かせる。 そして全身には、機関銃、散弾銃、プラズマトーチ、その他もろもろ……冬矢には、武器庫に手足が生えているように見えていた。 左腕には、先程掬われたキャンドモンがケーブルに覆われ、磔にされているのが見える。 「……なんだよ、これ」 現れた何者かに反応したのか、アークが音を立てる。が、適示された情報はノイズにまみれてほとんど判別できない。 長いロードを経てアークが出した結論は……メカノリモンだった。 「メカノリ……モン?」 「……」 「全然……違うじゃないか」 ふと、頭部に目をやる。目を凝らせば、見覚えのある銀色が鎮座しているのが見える。 これこそがアンドロモンの求めていたモノ。試作メカノリモン-209。アンドロモンは開発中だったこれを奪い、第二の身体として利用したのだ。アークは改造されたデジコアから、どうにか近い情報と照合したに過ぎなかった。 恐らく、彼らは何らかの障害により別々にリアライズしていたのだろう。積み重なった残骸も、こいつを求めてアンドロモンが徘徊した結果に違いない。 ……スケールが違う。呆然としていると、アンドロモンの首が鈍い音を立てこちらを睨む。 「……ッ!?離れろ!!」 逃げられないと悟ったのか、咄嗟に千尋が冬矢を突き飛ばす。常人の枠を超えた腕力に、冬矢の身体は数メートル吹き飛ばされた。 衝撃で痛む身体をさすりつつ、閉じた瞼を開けば、全身をケーブルで絡め取られていく千尋が見える。 「ち……千尋!?」 無意識のうちに伸ばした手は虚しく宙を切った。巻き取られたケーブルは、キャンドモンと同じように左腕に千尋の身を張り付ける。 腰が抜けた冬矢を見下ろすアンドロモンは、捕らえた千尋を見せつけるように左腕をかざし、そのまま背中を向けた。 その時の冬矢は、アンドロモンの不可解な行動にあっけに取られ、ただ口を開けて眺めていた。が、時が経ちそれを理解した瞬間、全身から血の気が引いた。   ・・ ……人質? 「が……が、が……」 「ガードロモン……ガードロモン!何やってるんだ!?早く千尋を助けるんだ!」 「……」              ・・・・・・ 「黙ってないで何か言えよ!!これじゃあの時と同じじゃないか!?」 脂汗を流しながら冬矢がまくしたてる。 彼女を助けたいのはガードロモンも同じだった。しかし、既に自分の力では歯が立たないと知っている。何より……。 「くそっ、クソッ、糞ッ……!言うこと聞けよ!聞けってんだよ……!」 業を煮やした冬矢が取り出したカード、それは超進化プラグインS。成熟期がダメなら完全体の力で挑むしかない。……だが、身体は思い通りに動かない。 震える両腕と逸る気持ちは、アークの狭い挿入口を捉えさせてくれず、何度やってもカードが引っかかる。 失敗を重ねる度に拳が力み、握られたカードは歪み、潰れ、折れ曲がっていく。 「今やらなきゃダメなんだよ!!なあ!?今じゃなきゃ……!こんなんじゃ、またアイツが……!!」 ……今の彼を放って飛び込むことなどできない。パートナーたるもの、テイマーを見放す選択肢はない。それがガードロモンの下した判断。 「……冬矢、聞こえるか!?」 不意に、アークから千尋の声が流れ出す。 「さっきまでメラモンが炎を浴びせてただろ?あれで可能な限り奴の回路を加熱した!」 「いくら強大だろうと相手は所詮は機械だ、冷却には限界がある!奴の頭はパンク寸前のはずだ!」 ……何かを悟った冬矢の掌から、潰れたカードがずり落ちた。 「あ、あのさ……オイラの方から言おうか……」 「ダメだ、ボクに言わせてくれ!」 痛みをこらえ力の限り叫ぶ。見かねたキャンドモンが気を遣うが、これは自分自身の言葉で告げねばならないことだ。 「……フロゾモンのグラシエイトミサイルを撃つんだ。熱衝撃で奴にダメージを与えられるかもしれない!」 「保障はないけど……もうこれ以外に取れる手段がないんだ!頼む、ボクたちごとコイツを撃ってくれ!!」 最悪の選択。なんと思われても仕方がない。正気を疑われて当然だし、素直に受け入れてくれるとは思わない。何より、そんな選択を強いる自分が情けない。 それは痛いほど分かっている。しかし、彼女にはこれ以外の解を出すことはできなかった。 どのような罵声も、泣き言も、恨みつらみも受け止める。そのつもりだった。 「……冬矢?」 彼の反応は、そのいずれでもなかった。 目に映るのは、頭を抱え、乳飲み子のごとく丸まり、力なく横たわる少年の姿。戦火に抱かれるその身は、吹雪に晒されたかのように震えている。 デジヴァイスを通じて響くのは、絶え間ない嗚咽。微かに混じるのはか細い声。 嫌だ。 やめてくれ。 助けて。 荒い息の中で、少年はその三つだけを繰り返している。何かに救いを求めるように。 「……ガードロモン」 やがて何かが吐き出される音を聞いた時、千尋は一つの問いを投げかけた。 「正直に答えてくれ。ボクと彼の間に何があった?」 「ボクは……彼に何をしたんだ?」 「……前にも一度同じことがあった」 「彼は君を殺した。君に命じられて。」 正確に言えば、私に攻撃命令を出した。……そうガードロモンは付け加えた。 あの時も同じだった。 誰からも身を隠し、たった二人だけでリアライズしたデジモンと戦っていた頃。事情を知らず冬矢の身を案じていた千尋が戦場に迷い込み……敵の人質にされた。 友の命か、人々の命か。天秤の重さに立ちすくむ冬矢に向け、彼女は叫んだ。自分ごと倒せと。 冬矢が意を決した瞬間、ガードロモンはフロゾモンへと姿を変えていた。 後に知るところによると、一般的にフロゾモンは救助のためなら幼年期のデジモンすら容赦なく排除する性質があるという。何故彼がこの姿になったのか?答えは明白だった。 その後は断片的にしか覚えていない。冷え切った朝礼の空気。何も知らずに自分を案ずる彼女の両親。現れたデジ対の使者にぶつけたやり場のない慟哭。 公的には彼女は行方不明と扱われた。その最期を知るのは、冬矢ただ一人。 自分は親友を殺した。自分の心も、彼女の死さえも殺した。そして、理由をつけて友を殺してしまえる男だった。 そして今、殺した筈の彼女が目の前にいる。 何も知らず、恨み言の一つも吐かず、天真爛漫なままの彼女が、英雄然とした力を身につけ……あの悲劇を再演しようとしている。 乗り越えたつもりで、蓋をしただけの過去が、今まさに冬矢の首に鎌をかける。 彼は、抗う術を持たなかった。 「……そうか」 冬矢の不自然な態度、不可解な問い。その意味がようやく分かった。 彼はただ怖かったのだ。自分の犯した所業と、それを成した自分さえも。荒くなった語気だって、潰されないためにはそうするしかなかったのだと。 「そう、だよね……」 友を殺すとは、そういうことだ。 「……冬矢。聞こえるか?」 返事はない。 「全部聞いたよ。何があったのか、ボクが何をしたのか、させたのか。君が……何を思っていたのかも」 「……すまなかった。頭がいっぱいで、君の気持ちなんて……何も考えてなかった。"正義の味方"が笑わせるよね」 大義のために、自分ごと友の心を殺した。自分も、彼の抱えた重荷と同じことをしていたのかもしれない。 例え記憶から抜け落ちていようと、この状況がそれを裏付けている。 「だから、もういいんだ。わざわざ……君が手を下す必要はないんだ。今すぐこの場を離れてくれ」 いずれは誰かがやらなくてはならないのだろう。 だが、断頭台に立たされたかのように震え続ける少年に、これ以上背負わせることはできなかった。 「……許してくれとは言わない。許されることじゃない。でも……これだけは言わせてくれ」 「……本当に、ごめんね」 ……通信を切る。アンドロモンは、既に冬矢への関心を失っていた。殺す価値もないと言わんばかりに、重い足音が彼から遠ざかっていく。 何も見えない。何も聞こえない。閉ざされた暗闇の中で、冬矢はひたすらに千尋の言葉を反芻していた。 『全部聞いたよ。何があったのか、ボクが何をしたのか、させたのか。君が……何を思っていたのかも』 ……やめろ。 『……すまなかった。頭がいっぱいで、君の気持ちなんて……何も考えてなかった。"正義の味方"が笑わせるよね』 そんな言葉は聞きたくない。 『だから、もういいんだ。わざわざ……君が手を下す必要はないんだ。今すぐこの場を離れてくれ』 ふざけるな。結局死んで片を付ける気じゃないか。何も変わってない。 『……許してくれとは言わない。許されることじゃない』 違う。違う。違う。選んだのは僕自身だ。許されないのは僕の方だ。僕が……君を殺したんだ。 『でも……これだけ言わせてくれ』 『……本当に、ごめんね』 …………………………。 「なんでお前は、そう眩しいんだ……」      《4.》 「……」 鉄の巨人に揺られながら、千尋は告げられた事実を噛みしめていた。 恐らく、あの時冬矢に倒されたデジモンがデータに霧散し還元される際、自分のデータも混線し半人、半デジモンとして再構成された。そんなところだろう。 人間にしては不自然な身体能力も、傷口も、それで全て説明がつく。現に、腹の傷さえも既に塞がりかけている。無論戦える状態ではないが、常人ではここまで早くない。 抜け落ちた記憶だって、再構成の過程で異常が生じたと考えればいい。 全く突拍子もない、雲をつかむような話だ。実感など感じられやしない。 もっとも、この身体が異常だなんて今更確認する方が馬鹿らしい。そんなことはずっと前に分かっている。 それ以上に気にかかるのは冬矢、そして…… ダダダダダッ、と乾いた騒音が耳を裂き、支える腕が揺れる。 ビルの谷間をアンドロモンは我が物顔で歩き回り、時折思い出したように武器を撃ち放っている。今もまた、左腕の機関銃の前に遠くの建物が三棟ほど砂のように崩れ落ちた。 その有様は性能を確かめているというより、玩具を振り回して遊ぶ子供にも見えた。 「……千尋」 「これで……本当にいいの?キミのことも、あの子のことも。それに……」 様子を案じたのか、キャンドモンが声をかける。彼にとって、ここまで思いつめた千尋を見るのは初めてだった。 「いいんだよ。気を遣わなくなって」 「……起きちゃったものは、どうしようもないさ」 そう言って微笑んでみせるが、それは普段の自信に溢れた笑顔ではなく、弱々しい諦観の笑み。 今の自分には、アンドロモンの暴虐を特等席……いや、死刑台で眺めていることしかできない。いずれ誰かがこの鉄の悪魔を砕く時まで、座して死を待つのみ。 どうしようもない無力感に苛まれ、千尋はたまらず瞳を閉じた。 視覚を封じた暗闇の中、鋭敏になった聴覚はより確かに戦場の音を捉える。銃声、振動、吹き付ける夜風……。 ……その中に、千尋は一つ不審な音があることに気づいた。そのジェット機の噴射のような音は、次第に音量を増していく。 「……まさか!?」 予感と共に双眸を開く。そこにいたのは紛れもなく、あの少年だった。 風吹冬矢。 ガードロモンに抱きかかえられて、彼が降り立つ。内股で弱々しいその身は、今にも折れてしまいそうに震えていた。 「……ガードロモン」 合図とともに、ガードロモンがアークを構えた左腕を掴み上げる。 手加減しているとは言え、デジモンと人間。少年の細い腕に鈍い痛みがのしかかる。しかし、こうすればアークが震えることはなかった。 「……カードスラッシュ」 取り出したカード。それは、先程のくしゃくしゃになった一枚だった。 「超進化プラグイン……」 歪んだそれを、強引にリーダーへと捻じ込んでいく。素直に通るわけもない。半分まで入ったところで、強く引っかかってしまった。 「……超進化プラグイン!Sッッ!!」 呼吸を整え、握り直したカードを力任せに引き抜く。バラバラになった紙片が宙を舞うと同時に……アークが光を放つ。 ─────ガードロモン、進化。 フロゾモン。完全体。除雪機を思わせる赤いマシーン型デジモン。寒冷地に特化した身体は剛力を誇る。 そして、冬矢にとっても千尋にとっても因縁の姿。 フロゾモンの右腕が冬矢の身体を掴み、上部の穴へと載せる。 彼は、いよいよ覚悟を決めたのだろうか。D-3を通じ、千尋が再び呼びかける。 「……冬矢」 「……」 「やるんだな?」 「……」 「本当に……本当にやるんだな!?」 「……けるな」 「……えっ?」 「……ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!」 ……急速発進。フロゾモンの車体はアンドロモンが向き直るより早く迫り、その脚へと激突した。 肢体がよろめき、同時に縛られた二人の身体も大きく揺さぶられる。 「と……冬矢!?」 「……」 「なんのつもりだ!?正攻法じゃこいつに勝てないのは分かってるだろ!?早くグラシエイトミサイルを……」 「黙れ!ふざけるなと言ったはずだ!!」 「!?」 一撃を加えたフロゾモンはビルの谷間へと消えた。周囲には、キャタピラの駆動音がけたたましく鳴り響いている。 「……聞いてくれ。俺はずっと君に憧れてたんだ。いつも笑顔で、真っ先に飛び込んで、分け隔てなく手を差し伸べて……」 「そんな君はずっと俺のヒーローだった。君みたいな……ヒーローになりたかったんだ!」 横滑りしながら再び現れたフロゾモンが、アンドロモンめがけ二回目の突撃をかける。が、既に見切っていたアンドロモンは、冷静に散弾銃を撃ち放つ。 「でもなれなかった!俺は君みたいに強くなれないし、戦いは怖いし、大事な決断を下すこともできない!」 「しかめっ面で……言われるままに君を殺して、己を殺して……まして自分を殺した相手を労わるなんて……そんなこと……」 手ごたえはなかった。砕けるのは路面ばかりで、フロゾモンの姿は歪んで消えた。 「挙句の果てに一人で全部背負って、死んで片をつけるだなんて、そんなこと絶対に嫌だ!」 「なんでだよ!正義の味方は死ぬもんなのか!?そんなの……悲しすぎるじゃないか!!」 「……!」 カードスラッシュ「エイリアス!」。作り出した分身が注意を引いた隙に、アンドロモンの背後から、勢いを付けてフロゾモンが飛び掛かる。 「それなら……ヒーローなんかもうどうでもいい!」 「やっと思い出したんだ。俺が欲しかったのは称号じゃない。戦うのは、責任でも、罪科でも、劣等感でもない!」 「自分も君みたいに誰かを助けたい。守りたい。だから君に憧れたんだ!それが始まりだったはずなんだ!」 振りかざすのは赤熱化した左腕の刃、デフロストブレード。首筋近くに振り下ろされた剣は、アンドロモンの外装を赤く染め火花を立てる。 「だから!!!」 車体の下に潜った右腕が、ちゃぶ台を返すようにフロゾモンの車体を持ち上げ引き離す。が、気迫で水平に着地したフロゾモンは、再びアンドロモンへと向かっていく。 「俺が……いや、僕が君を必ず守る!今度こそ守ってみせる!そのために僕はここに立ったんだ!!」 右腕を振りかぶり、リムーバルブロウの態勢に入る。だが、差し出された千尋を前に寸前で停止する。 彼女を傷つけることはできない。アンドロモンの左腕は、そんなフロゾモンをあざ笑うかのように伸縮し、その身を弾き飛ばした。 ブレードを突き立て強引に踏みとどまるフロゾモン。しかし、機上の冬矢は勢いのままに滑り落ちていく。 その行く手に待つキャタピラは、今まさに少年の身を噛み砕かんと悍ましく蠢いていた。 「冬矢ッ!!」 「があッ……!?」 鈍い衝撃音。そして何かの砕ける音。間一髪、フロゾモンの片腕が冬矢の体を抑えつける。 「すまない、力の加減が……」 「……大丈夫、大丈夫だとも!」」 這い上がる冬矢。既に下半身の感覚はない。しかし、おかげで再び目が冴えた。アンドロモンに目線をやれば、開いた胸のレンズに膨大な熱量が集束していく。 あの一撃を受ければ、間違いなくひとたまりもない。泣いても笑ってもこれが最後。次で全てが決まる。 「……なあ」 「お前、その姿になって後悔したか?」 「僕と出会って……後悔してるか?」 土俵際を悟り、これまで押さえつけていた疑問を切り出す。 「否定」 ……即答だった。 「君は力を求めた。私はただそれに応えただけだ。友を殺す決意ではなく、血に塗れても何かを守る覚悟に」 「あの時は止めた癖に」 「実行すれば消えない傷を負う。そう判断したまでだ」 違いない。 「二つ目の質問に回答する。あの日、君は異邦の地で惑う私を迷わず助けてくれた。君が危険を顧みずデジモンと対峙した時、アークは現れた」 「そして今なおアークは君の手元にある。それが答えだろう」 「……そうか」 予想外の答えだった。しかし、嘘は感じられない。最初に出会ったあの日から、彼は常に隣にいた。重責に押し潰され、何も見えなくなっていた間も。 何かを守る、その意思の下に既に彼は命を預けていた。彼にとってパートナーとはそういうものだった。それが分かった以上、もはや言葉は必要ない。最期まで戦い抜くのみ。 「……行こう」 「了解」 火花を散らし、煙を巻き上げ、フロゾモンが見据えた地獄の釜へと一直線に駆ける。 恐れも、迷いも、全てを受け入れこの一瞬に賭ける。その先の希望を、今度こそ掴み取るために。 「もういい、もうやめるんだ!このままだと二人とも死ぬ!早く逃げろ!」 「……このまま逃げたって、死んでるのと変わらないだろ」 「!」 「僕は、嫌だ」 不思議と、冬矢の顔には笑みが浮かんでいた。 「……馬鹿野郎」 顔を伏せた千尋が吐き捨てると同時に、二人の姿は光の奔流に霞んで消えた。 MATRIX EVOLUTION_      《5.》 ─────フロゾモン、進化。 「……えっ?」 エナジーキャノンの光を裂き現れた……"手"。 それは千尋とキャンドモンの身を掴むと、拘束を引きちぎり弾丸のように飛び上がった。 「ちょっと、どうなってんのさ〜!?」 「そんなことボクが聞きたいよ!」 困惑する二人を他所に、"手"は静かに地上に彼らの身を下ろし、再び飛び去った。千尋が目で追った先には、アンドロモンともう一つの影。 「冬矢……なのか?」 ─────セイバーフロゾモン。 真紅のボディ、巨大な角、足のキャタピラ、黄金色に輝く単眼。立ちはだかるその巨人は、倒れた筈のフロゾモンの面影を残している。 必殺の一撃の中から顔を出した未知の存在に、初めてアンドロモンが震えたように見えた。 巨人はゆっくりと歩を進める。……危険。バイオ・シナプス回路がそう結論付けた瞬間には、反射的に機関銃が火を噴いていた。 が、無傷。セイバーフロゾモンは銃撃をものともせず迫り、零れ落ちる薬莢が虚しく音を立てる。 続けて放った右肩の散弾銃も、火花を散らすだけでその行く手を阻むことはできない。仮に相手が普通のビルなら、既にスポンジのように穴だらけになっているはずだった。 実弾兵器は効かない。ならば近接戦闘ではどうか。右腕のプラズマトーチを点火し、狙うは首の付け根。 巨体に見合わぬ軽快さで駆けるアンドロモンにとって鈍重なセイバーフロゾモンを捉えるのは容易かった。右腕を振りかぶり、再び致命の一打を加えんとする。だが……。 『レイザァァァ……サァァイトッ!』 セイバーフロゾモンの視線が灼熱の帯へと変わった。単眼からの熱線を正面から受けたプラズマトーチは、飴細工のように融けていく。 攻撃失敗。リカバリーに焦る回路が次の一手を弾き出すより早く、セイバーフロゾモンの左拳が炸裂した。 「クロス、カウンター……」 頭部が凹み、うめき声のようにスパークする。想定以上に重い一撃に慄いたアンドロモンの隙を、セイバーフロゾモンは逃がしはしなかった。 続けて放たれた右拳……打ち上げるように放たれたボディーブローは、アンドロモンの芯を抉りその身を大きく吹き飛ばす。そして……。 『グラシエイトミサイルッッ!!』 両肩のハッチが開き、せり出した氷の弾丸が宙に張り付けられたアンドロモン目掛け一斉に食らいつく。 ……急速冷却。果たして千尋の判断は正しかったのか、アンドロモンの身体は力なく墜ちていった。 「……すごい」 マトリックスエボリューション。一部のテイマーとデジモンは一つに融合し究極体となり、一騎当千の力を発揮するという。 あれほど自分たちを苦しめたアンドロモンが流れるように沈んでいく。千尋はその力の一端を固唾を呑んで見守っていた。 戦いはまだ終わったわけではない。薄れていく白煙の中から、瓦礫をかき分け、アンドロモンがよろめきながら立ち上がる様が見えた。 既にその身は軋み、立ちあがるのが精一杯にも見える。しかしその目に宿った戦意……否、殺意は未だ健在だった。 装甲の剥がれ落ちた胸が再び熱と光を帯びていく。これ以上太刀打ちできないと判断したアンドロモンは、次の一発に全てを賭けるつもりなのだろう。 「ねえちょっと!あいつまたアレを撃つ気だよ!大丈夫なの!?」 「……問題ないよ」 不意に風向きが変わった。戦場を包む灼熱の大気はある一点……セイバーフロゾモンの背に向け急速に集中していく。 その開いた胸には巨大なブロワーが顔を出していた。高速で回転するそれは、獲物を威嚇するかのように声を上げている。 「彼が……」 「……いや、彼らが勝つさ」 口火を切ったのはアンドロモンだった。エナジーキャノンが、再度彼らの全てを灼き尽くさんと迫る。 『ガウスブリザァァァァァドッ!!』 一呼吸遅く、セイバーフロゾモンの胸から風が溢れだした。冷気と電磁、二つの力を帯びた旋風はエナジーキャノンの光を容易く巻き込み、そのままアンドロモンまでも飲み込んでいく。 吹き付ける絶対零度の嵐に、咄嗟に千尋はキャンドモンを抱え込みビルの陰に飛び込んだ。 『デフロストセイバァァッ!!』 大剣を取り出し、上段に構える。……霞の構え。その刃が捉えた先には、竜巻の中でもがき苦しむアンドロモン。 ……これで終わらせる。デフロストセイバーが燃え上がると同時に、再びブロワーが回り始めた。 方向は逆。迸る大気はセイバーフロゾモンの胸に流れ込み、先程までそれを食らっていた背中は、今度は激しい炎を吐いている。 橙。赤。紫。カウントダウンを刻む炎が、青白い光となった瞬間…… 『スパイラル……………ブレイザァァァァァッ!!!!!』 流星が竜巻を射貫き、未明の街は眩しく光輝いた。 「……生きてる?」 「……無理。最後にお肉食べたい」 「よし、大丈夫そうだね」 グロッキー状態のキャンドモンを抱え、ビルの陰から千尋が顔を出した。 先程の爆風が全て吹き飛ばしたのだろうか。空を染め上げていた戦火は失せ、薄暗い帳が再び都市に下ろされた。 周囲に動くものの気配はなく、静寂の中、足音と風だけが音を奏でている。 辿るのは、セイバーフロゾモンが駆け抜けた轍。舗装路は引き剥がれ、大蛇が張ったように痕を残している。 彼は勝ったのだろうか。今の彼女の頭は、冬矢の安否だけで埋め尽くされていた。 轍はひたすらに続いていく。どれくらい歩いただろうか。一歩、また一歩と進むたびに、不安は強く胸を締め付ける。 あれだけ大口を叩いたんだ。死ぬなんて許さない。許してたまるものか。彼女の瞳から、一筋の雫が通った時……。 「……夜明けか」 切れた空の隙間から、ようやく光が差してきた。 柔らかな日差しは大都市に刻まれた傷跡を優しく映し出してゆく。そして……彼女の目指した轍の先も。 「……ははっ」 緊張の糸が切れ、その場にへなへなとへたり込む。千尋の見たものは……。 「強いんだな、君は」 暁に染められ、静かにそびえたつセイバーフロゾモンの背中だった。      《終幕》 「よっ、調子どう?」 「うおっ!?」 ──都内某所。大病院。病室の窓から千尋が顔を出す。 「調子どうって……何処に立ってるのさ?ここ五階だよ?ベランダとかなかったと思うけど……」 「うーん、腕力」 「意味わかんないよ……」 〇〇市の大規模リアライズ事件。多数の物的損害を生じたそれは、奇跡的に死亡者ゼロに終わった。 激闘から数日。TVではすでに復旧作業の模様が映し出され、デジ対の面々は連日記者に追われているという。 一方、病床に横たわる奇跡の立役者の下には誰一人として取材に現れない。少し寂しく思う反面……誰にも語られぬ無冠の栄誉、というのが誇らしくもあった。 担当医師の話では、普通に考えればこの怪我では一生歩けないらしい。 それが数日の入院で済み、もう脚がある程度動くのは……マトリックスエボリューションの副次作用だろうか。 「……むしろ、君が腹刺されたのにもうピンピンしてる方が不思議なんだけど」 「ははっ、言えてる」 千尋は笑って誤魔化す一方、冬矢の顔にはやや陰りが見える。 「その……本当にいいの?その身体」 「いいんだよ。むしろ、"正義の味方"にとってはこっちの方が好都合なんだから」 「……まあ、たまにちょっと気になるけどさ。それもこれも、君に責任を押し付けたツケだと思うことにするよ」 「そ、それに関しては僕の方が……」 「はいはい、それは言わないこと!全くすぐネガティブに考えちゃうんだから。あの時は一皮むけたと思ったんだけどなー」 暗くなりそうなところを強引に静止する。だが、千尋の見つめる瞳は、以前のようにやつれたものではなかった。 「……でも、落ち着いたよね」 「落ち着いたというか……何も分かってないだけ。君が生きてる理由も……僕がやったことにどう向き合えばいいのかも」 「でも、それはきっと簡単に答えを出しちゃいけないことなんだと思う。……命のやり取りをしてる以上、ずっと付き合っていくべきなのかなって」 「それに……こうしてまた君と話ができる。そう思えば、立ち向かう気にもなれる。それだけで……僕はいいんだ」 「ふーん……」 正直な思いの丈とは言え、少し気取った台詞だっただろうか。頬に色をつけ目を逸らす彼を、千尋はニヤニヤしながら見つめていた。 「……やっぱり、強くなったね」 「へっ?」 「じゃ、ハグルモンによろしく!」 それだけ言うと、千尋の姿は窓から滑り落ちていった。 ……嵐のような人だなあ。ため息と共にボヤくその表情は、不思議と穏やかであった。 「もういいの?もっとあの子と話すことがあるんじゃないの?」 キャンドモンの声に、つい病室の窓に向き直る。数秒の沈黙。 「……大丈夫、十分だよ」 思惟の顔を笑みに変え、病院を背にする。首を傾げるキャンドモンだったが、そのうちとことこと足跡を追いはじめた。 「それよりも……せっかくリアルに来たんだからさ、何かこっちで食べてかない? 「いいの!?ねえねえ、何食べる?」 「そうだなあ……食べ放題にでも行くかい」 「食べ放題?」 「読んで字の如く。肉でも寿司でも好きなだけ食べていいの」 「何それ!天国みたいじゃん!」 せっかくのリアル、か。……一度親に顔見せに行くかな。いったいどんな顔をされるだろうか。 そういえば、あのドラマの続きはどうなっただろう。借りた本返してなかったな。日本円持ってたっけ……。 意図せずこぼした一言。そこから、この数か月間考えもしなかったことが溢れだしてくる。 ……せっかくだから、遥希とヤエになにか土産でも持っていくか。 「……ねえ千尋」 物思いにふけっていると、不意に呼び止められる。 「あれさ、絶対何かあったよね」 キャンドモンの指差す先には、ガードロモンに無理やり自分を担がせ病室から飛び去る冬矢がいた。 「……あったね。間違いなく」 「あーあ、食べ放題はお預けかあ……まあいいけど」 「どうせお店は逃げないよ、さあ行こう!」 気持ちを切り替え、キャンドモンを背負い走り出す。事件があったら首を突っ込まずにはいられないのが性分。 それに、アイツが真っ先に飛び出すのなら、その憧れだったボクが止まるわけには行かないだろう。 小さくなっていくガードロモンの背中を追いながら、千尋は静かに呟いた。 「……頑張れよ、ヒーロー」 _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/   はじめに、設定を引用させていただいた方々に謹んで感謝を申し上げます。 Q.なんでフロゾモンをスーパーロボットにしようと思ったんだよ A.やりたくなっちゃった。フロゾモン要素を含んだいい感じにヒロイックなマシーン型究極体が思いつかなかったというか……。   ガ〇ヘッドみたいなスタンディングモードにするアイデアもあったけどやめた。意味なさそうだし……。 Q.トループモン殺しまくってるけどいいの? A.公式で戦闘員だし身体はガワに過ぎない設定だから……。 Q.千尋ちゃんテイマーにしては強すぎない? A.設定上ガチ人外なので許して。多分成熟期程度。 Q.室長は二人の関係知ってるの? A.知ってます。というか直接出向いて冬矢に当たられたのが本人です。色々あってデジ対預かりになりましたが、この事実は他の職員には伏せてます。   じっくり応対してある程度は持ち直しましたが、明らかに荒んでるので気がかりでした。   「キョーイチローさ、そりゃ心配なのは分かるケドよー?こういうのはアイツ自身で解決しないと意味ねーだろ。まあじっくり見守ろうじゃん」バシバシ Q.なんで相手がロ〇コップなんだよ   なんで209と合体して2号機になるんだよ   なんでこんなにでけえんだよ A.俺だって分かんねえよ気づいたらこうなってたんだよ   むしろ俺が聞きてえよなんでドラッグカルテルで接続できるんだよ   真面目な話すると雑談スレで手ごろな中ボスがいないか相談したらロボ……アンドロモンの名前が挙がった。   考えてみると設定的に2号機が成立しちゃうことに気づいて止まらなくなった。いやなんでデジモン世界にドラッグマフィアがいるの?????便乗してキャラ描いたけど……。   まともな人格を取り戻すとハイアンドロモンになって良心が抜けるとこっちになるんだと思いますはい   ごめんなさぁい!本当にごめんなさぁい! Q.このアンドロモンって何者だよ A.レジストリシティに投入されたアンドロモンには欠陥があった。   ハードウェア面では想定を上回る成果をあげたものの、戦闘中の誤作動が頻発し素体人格の一部復帰まで認められた。   デジモンイレイザーは別被験者による後継機の開発を図るがそのことごとくが失敗。   その原因が素体の人格にあると判断したイレイザーは従来型と比較しより戦闘、ひいては残虐行為に慣れており生存欲求の強い人物を選別。   抗争で死亡した薬物中毒のマフィア幹部を回収し新たなバイオ・シナプス回路としてアンドロモンに組み込んだ。   果たしてアンドロモンは起動。予定では麻薬の投与により制御するはずだったが、   常軌を逸した破壊衝動と戦闘の快楽に取りつかれた素体人格は暴走。凍結されていた試作メカノリモン-209の奪取とリアルワールドへの逃走を図った。   シティの一件から危険性を知っていた千尋は先んじてリアライズし、一方のイレイザー側は回収のため大量のトループモンを送り込んだ。   なお、アンドロモンの系列機としてメカノリモンにバイオ・シナプス回路を組み込む計画も持ち上がっていたが、   人間離れした体躯による素体の拒否反応と隠密性、機動性などの問題を考慮し凍結された模様である。 Q.試作メカノリモン-209ってなんだ A.アンドロモンと並行して進められていた機動戦力開発プロジェクトにより製作された試作機の一つ。   当初はメカノリモンにAIを搭載、無人機として活用する計画だったがAIの処理にハードウェアが追いつかずオーバーヒートが多発。   改善のために試行錯誤が重ねられたが、そのうちの一つとして新システムではなく既存システムによる安定化を目指し開発されたものがメカノリモン-209である。   ハードウェアの性能そのものには向上が見られたが、優に10mを超える肥大化と同時に費用対効果も見合わないものとなり、   また当初の思惑とは逆に現行のAIでは機体を制御できず階段を昇降できない、穴から出られない、挙句の果てには誤射などの問題が発生。結果凍結された。   完成していれば完全体〜究極体相当の能力を発揮したと思われる。   その性能に目を付けたアンドロモンはAIユニットを撤去し自らを接続。バイオ・シナプス回路の性能により機体を制御し戦力として利用した。   素体人格が拒否反応を起こさなかったのは元から人格が破綻気味だったこと、別の身体になるのではなくマシンを操縦する感覚だったことなどが理由と推測される。 Q.〇ボコップって面白い? A.面白いよ